酔っ払いがご先祖様自慢しています

■ショートシナリオ


担当:恋思川幹

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:07月12日〜07月15日

リプレイ公開日:2005年07月19日

●オープニング

「ふっふっふ〜、わたしをにゃめてもらっちゃあ、困るのですにゃ〜!」
 呂律も回らないほどに酔っ払った少女は、唐突に酒場全体に響きわたるような大声を出しました。
「ちょっと、誰よ、紫苑にお酒飲ませたの」
「あたしは知らないよ〜。ずっとお茶碗で飲んでたから、てっきりお茶だとばっかり〜」
 酔っ払い少女こと浪人の紫苑を横目に、蓮包(レンポウ)とエリ・プリルはひそひそと紫苑に酒を飲ませた責任の所在について話し合っています。
「ちょっとそこのお二人! ひそひそ話なんてしてないでお聞きなしゃい!」
 紫苑が二人に指を突きつけて語ります。
「私は浪人身分ではありましゅが、ご先祖しゃまはそれはそれは高名な方なのであります!」
「へ、へえ。それってどんな人かな?」
 紫苑が宣言したので、とりあえずの合槌にエリが聞き返してみました。
「それはぁでしゅね〜! たいりゃのましゃかど公でごじゃります!」
 紫苑が大声でソレを言うと、辺りからは失笑が漏れ聞こえます。
「おいおい、いくら何でもそれは吹きすぎだろう」
 外国人の蓮包やエリにはピンときませんでしたが、ジャパンの歴史上では相当な有名人です。酒場の酔っ払い浪人が、突然その子孫を自称しても信じてもらえるはずもありません。
「紫苑〜、みんな笑ってるから、そろそろ座ろ。ね?」
 蓮包が紫苑を宥めようとしますが、紫苑は応じようとはしません。

「なかなか面白そうな話だね。ご先祖様の自慢ならボクだって負けないよ!」
 と、立ち上がるナイトの少女が一人。
「なんたって、ボクのご先祖さまは、かのカール・マルテルだもんね!」
 欧州史にその名を刻む偉人の名前を出した素っ頓狂な少女。
「ば、バジル、嘘をつくにしても、もう少し説得力のあるものがよろしいかと思います」
「‥‥そ、それに‥‥嘘つくの‥‥聖なる母‥‥の教えに背き‥‥ます」
 バジルという少女の連れ合いらしい、二人の少女がバジルを諌めます。それぞれクレリックのローチと神聖騎士のクリスピーと言います。
「嘘じゃないよ〜。だって、十年前の四月にお父様が言ってたんだよ」
「四月? それはお祭りの時の話だったりしますか?」
 バジルが言い募るのに、ローチは思い当たる節を聞いてみる。
「そうだよ〜。あの時はお父様が道化の役をやってたの〜」
 西洋には4月に主従関係を入れ替える祭りがあるそうです。道化の役をしていたならば、ありもしない家系図を示すという「滑稽劇」をしていたのかもしれません。当時、幼かったバジルには、その虚実が判然としていなかったのでしょう。
 バジルの手に握られてるお銚子も、このご先祖様発言の原因の一つではあるでしょうし。
「‥‥お酒‥‥に溺れ‥‥るのも‥‥よくない‥‥です」
 クリスピーが控え目に言いました。

 紫苑とバジルの発言が端緒となって、興にのった酔客達は好き勝手に自分のご先祖様を捏造し始めました。
「俺は聖徳太子の子孫だー!」
「ワタシのご先祖、秦の始皇帝アルヨ」
「ミーはウーゼル王の落胤ざます」
 酒の席での悪ふざけですので、荒唐無稽もよいところです。まあ、悪ふざけなので、皆、荒唐無稽を楽しんでいるのです。
「ふっふっふ、どいつもこいつも説得力のない法螺話。俺の話は一味違うぜ?」
 と一人の男が不敵な笑いを浮かべます。
「俺のご先祖はな、かつてのフランク=バルバロッサ政変に出陣した‥‥」

●今回の参加者

 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3546 風御 凪(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3619 赤霧 連(28歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea4223 竜堂 姫子(40歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8535 ハロウ・ウィン(14歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb1870 土川 遮那(32歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)

●サポート参加者

壬生 桜耶(ea0517)/ ミリランシェル・ガブリエル(ea1782)/ 柳 月風(ea3128)/ 伊達 拳(ea7036)/ 所所楽 林檎(eb1555

●リプレイ本文

「バルバロッサ政変なら、俺の父方の先祖も参加したよ」
 カイ・ローン(ea3054)はフランク=バルバロッサ政変の話題が出たのを聞いて、自分も語り始めました。
「俺の先祖は槍術とオーラに秀でた人だったらしくてね。俺もこの通り、槍を使ってるよ」
 冷酒の枡を置くと、カイは自分のトライデントを皆に見せます。
「へえ、ご先祖様とおそろいなんですね。俺のご先祖は俺とはまた違うかな? 忍者の中の忍者だったとかで、影働きでイザベラという方のもとに仕えていたらしいです」
 風御凪(ea3546)がカイの話に応じます。
 フランク=バルバロッサ政変にはジャパンの侍達も少なくない数が参戦していたそうです。欧州全体を巻き込んだ規模も含めて、共通の話題になりやすいという意味で、その時代のご先祖様の話をする人は多くいました。
「けひゃひゃ、イザベラというと奸物一人御することができなかった女か〜」
 気だるげに言ったのはトマス・ウェスト(ea8714)です。
「そういう言い方はよくないですよ、ドクター」
 凪が眉をひそめます。友人とはいえ、トマスのこういう人を見下したような印象は凪の嫌いなものの一つです。凪は山葵の効いた寿司を口に放り込んで、表情を誤魔化します。
 けれど、トマスは続けます。辺りに転がっているお銚子の数を数えれば、止まらない勢いの理由は明白でしょう。
「船をたくさん持っていて湖の覇者を気取っていたらしいのだがね〜。あの時、本当に湖の支配権を握っていたのは先祖のいたザクセンなのだよ〜」
「ああ、ドクターのご先祖もザクセンか」
 カイが言います。
「俺の先祖もザクセンに助勢していた。やはりカール大帝の正統な継承権を持っていたしな。次男だから自分で手柄を立てて身を立てなくちゃならん、という事情もあっただろうな」
 そこまで言ってカイは懐から勲章を取り出しました。
「それでマウロントスでの覇王剣を巡る戦いで功績をたててね。その時はバンパイアが戦いに乱入してきたらしい。先祖はオーラの力を使い、仲間と力をあわせてバンパイアと戦い抜き、最後にはバンパイアの武将を討ち取ったって話だ。ほら、証拠はこの勲章。バンパイア撃退の勲功で先祖が貰ったものを、お守り代わりにジャパンに来る時に渡されたんだ」
 歴史に名を刻むというほどではありませんが、実際に勲章があるならば資料に名前が残っている可能性はあります。が、それはまた別の話ですので、ここでカイの話を裏づけするものとは限りません。
「あ〜、我が輩のご先祖様はそういう大活躍はしていないようだがね〜」
 カイが話をしている間、新たに注文した冷酒の枡を傾けていたトマスはカイの話が一段落したところで自分の先祖の話を始める。
「名前はマクシミリアン・ウェスト。通称マクスとかドクターウェストと呼ばれていたようだね〜」
「さっき、湖の支配がどうとか言ってましたけど、それはそのマクスさんの?」
 凪が問いかけます。
「何でも海の神と契約を交わした優れた魔道士であったようだよ〜。バルバロッサ政変、最後の激戦では海神とその下僕を率いてザクセンの勝利の要となったようだね〜」
「海は戦場になったってのは聞いたことないけど?」
 カイが大真面目に疑問を挟みます。
「海神と言っても、水の神と言い換えてもいいものでね〜。湖から現れた無数の下僕達は、そりゃあ、圧巻だったろうね〜。そんなご先祖のいたザクセンが真の湖の支配者であったのは当然の成り行きだね〜|
「とっても凄いご先祖様なのですね!」
「そうなんですか。大活躍だったのですね」
 トマスの、途中からかなり胡散臭くなっていたご先祖様自慢に、これ以上ない程、素直に感嘆を顕わにしたのは麦湯を冷まそうと息を吹いている赤霧連(ea3619)と、焼味噌の味を噛み締めている大宗院鳴(ea1569)でした。
「うむ、カイ君のご先祖のように勲章を貰ったわけではないので、活躍したわけではないようだがな〜」
「すごいっていうか、不思議なご先祖様なら、僕のご先祖様はふか〜い森の奥にそびえる大きな樹から生まれたみたい」
 トマスに触発されたのか、ハロウ・ウィン(ea8535)のはじめたご先祖様自慢はよく言えば幻想的、悪く言えば非現実的な話でした。本人はニコニコとお茶を啜ります。
「文字通り、木の股から産まれたってことかな?」
 土川遮那(eb1870)が愉快げに言います。
「人情の薄い方だったのでしょうか?」
 コリコリとおつまみの漬物を食べる合間に、鳴がおっとりと言います。
「えっ? なんで?」
 ジャパン語の言い回しを知らなかったハロウは、鳴達の反応に疑問を挟みます。ジャパンでは人情を解さない人物を評するのに「木の股から生まれたよう」という言い回しをするのです。
「とにかく、その樹はは僕やご先祖様の生まれた集落では神聖なものだったんだ。だから、神様の御使いだって当時の人は騒いだみたい」
 ハロウはすぐに気を取り直し、ニコニコと笑って話を続けます。
「作物の実りが少ない時は植物に語りかけて収穫を増やしたりとか、集落が敵に襲われそうになった時は森を迷宮に変えてしまったこともあるらしいよ」
「凄い力の持ち主さんだったのですね」
 トマスの話に続いて、ハロウの話にも感心しきりの連です。
「神様と言えば、日本の国は神様がお作りになったものです。ある意味では私達全員のご先祖様ですね。天地初めて発れし時‥‥」
 手元に置いてあったおつまみを食べ尽くしてしまったからでしょうか。鳴は話をすることに専念することを決めたようです。
 ご先祖様自慢を飛び越えて、ジャパンの神話を語り始めてしまいました。
 少々飛躍した感はありますが、ご先祖様自慢と神話とは根底に流れる意識が同一のものであることを考えれば、あながち的外れとも言い切れません。
 神話とは、個人や集団の存在の根拠を証明する為の手段となるものです。それは必ずしも神々の物語でなく、例えば父親が同じ人間である、そんなことも『神話』足りえるのです。そうであればこそ、互いの存在すら知らなかった異母兄妹が、短期間で兄妹という集団を構築することもできるのですから。
「‥‥この神々の恩恵を忘れずに日々を大切に過すことが大切なことだと思います」
 鳴は、そう言って話を締め括りました。ちょうど、追加注文した生春巻き『春眼福』が届いたところでした。
「ちょっと大雑把過ぎて、キミのご先祖様って感じじゃなくて、キミもあたしも含めた、あたし達のご先祖様って感じかな?」
 遮那は鳴の話をそのように評します。
 鳴の語った神話に根ざす神皇家を中心とするジャパンという国家のあり様を考える時、遮那が「あたし達の」と広範にジャパン全般に範囲を拡大したのは、的確な認識といえるでしょうか。
「ウチの御先祖様は、パラで初めて陰陽師になった人なんだ」
 遮那は自分のご先祖様の話をふりました。
「‥‥って言ったら信じる? まあ、それだけだから有名じゃないんだけど、やっぱり最初ってことで、それだけで名誉かなって」
 遮那の冗談めかした口振りに内容の真偽はよくわかりません。
「元々、ウチの御先祖様は忍者みたいなことしてて、歴代の神皇様の警護をしてたんだ。秘密裏にね。あるとき、当時の神皇様を暗殺しようと賊が入って来て、其れをウチの御先祖様が返り討ちにした。だけど、その時の怪我が元で、武器を持てなくなったんだ。だけど、当時の神皇様は、その時の功に報いる、って形で、陰陽の術を与えてくれた、と。めでたしめでたし」
 お伽話をするように遮那はお話を区切りました。
「はぁ、みんな大したもんだな。私のご先祖は父方は普通のフランク人で、母方のほうはキレてたらしいんだけどねぇ」
 竜堂姫子(ea4223)が言いました。ただ、遠く離れたフランクとジャパンの人間が結ばれたというのは、それだけで両親は人並み以上の人生ではあるのでしょうが。
「なあ、キミのご先祖様はどうだったんだい?」
「ほぇ? 私のご先祖様ですか?」
 連は突然の指名に一瞬戸惑いますが、すぐに気を取り直すと、
「私のご先祖様は初戦にいきなり遅刻したほどのうっかりやさんのですよ♪ えっへん!」
 と言って、胸を張りました。
「それって自慢なのかい?」
 素直に思ったことを言う遮那。
「私の祖先さんは取り柄がないのが取り柄なのです☆」
 目をキラーンと輝かせる連。
「戦で大活躍したわけでも、世界に轟く名声を残したわけでも、すべてを牛耳るほどの権力を手にしたわけでもありません。私は私のご先祖様が、みんなに自慢できるようなことをしていなくても、ただ素敵な人だったならいいなって思うのです。ただそれだけで私の自慢のご先祖様」
 連は何か大切なものを包み込むように、そっと胸に手を当てます。お酒は一滴も飲んでいませんが、場の雰囲気に酔ったのか、少しトロンとして心地よさげにしています。
「ご先祖様が立派でも、問題は自分自身がどれだけ素晴らしい者になれるかですよね」
 鳴がそんなことを言います。今の酒場の盛り上がりに水を差すような発言ですが、確かに先祖や血筋に奢り、自己の研鑽を怠るのは利口な者とは言えません。
「そうだね、だから私は自分を磨くのに色々気を使ってるしね。そうだ、キミもこのお姉さんがかわいくしてあげようかねぇ〜?」
 姫子が鳴の艶やかな黒髪を目をつけます。
「お姉さん、なんて歳じゃ‥‥」
「殴ってあげようか?」
 誰かが不用意に言った一言に姫子はにこやかに応えます。
 姫子自身は金髪碧眼に褐色の肌というジャパン人離れした容姿です。あるいは自分自身だけで自分の存在価値を作り上げなければならなかったのかもしれません。
「はぁ〜、やっぱり若い子はいいねぇ。髪の毛の瑞々しさが違うわ」
「ありがとうございます」
 姫子は鳴の髪を弄り始めました。
「ご先祖様に恥じない人物になるとか、立派なご先祖様は自分が立派になる為の動機付けにもなりますけれどね」
 凪がそんなことを言います。
「子どもの頃はワクワクしながら、ご先祖様の話を聞いていましたよ。ドラゴンとかいう怪物の卵を手にいれて、自分のしもべとして従えていたなんて話とかね。そして思うのです、自分もそんな風になりたい、とですね」
「けひゃひゃ、人は自分自身だけを根拠に生きていけるほど強くはないからね〜。だから半エルフに道を踏み外すやつが多いのさ〜」
 トマスが言います。常に迫害に晒され、時に親からも疎んじられるハーフエルフ。周囲から与えられるレゾンデートルが極めて希薄であれば、自分で自分を認める他にありません。
「半エルフというのはともかく、人は完璧ではありませんし、人間関係というものも流れうつろうものですから。時に自分自身の存在に思い悩むこともあると思います。ご先祖様を正しく誇りに思える人はきっと、しなやかで強靭であると思いますよ」
 凪はそう言って微笑むのでした。

 虚実入り交えて語られた様々なご先祖様達。
 どこからどこまでが事実であったものなのか? ただ、本人達だけが知っています。