山村の防衛
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 60 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:08月03日〜08月13日
リプレイ公開日:2005年08月11日
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●オープニング
「山鬼と小鬼の群れがいくつも、村の周りのうろうろしているだ!」
駆け込んできた男の姿は全身ボロボロであった。おそらく、その山鬼達の出現してから休むことなく、冒険者ギルドを目指して走ってきたのであろう。
「まだ、村は見つけてない様子だけんども、いつ襲いかかられっか恐ろしくて恐ろしくて。ご領主様は討伐隊さ出してくれるらしいけんども、山鬼と戦えるお侍集めるのに時間がかかると」
小鬼程度ならば足軽でも戦えるが、山鬼相手となると相応に訓練を積んだ者でなくては難しいものがある。小領主の即応戦力にそれだけの実力者がゴロゴロしているというのは、あまりある話ではないだろう。
「ご領主様が山鬼を退治してくれるまでの間、村を守って欲しいだよ。今は村の男衆が斧や鉈、竹槍持ちだしてるだども‥‥」
それだけでは心許ない、のである。
「だもんで、できるだけ早く村まで言ってもらいたいだよ!」
「その依頼、私に引き受けさせてくれ」
言ったのは若い女、いや少女の声であった。
「中村千代丸という。よろしく頼む」
中村千代丸。最近、江戸にやってきたばかりだという侍の冒険者である。
ギルドの手代が依頼人の話を聞いているのを、たまたま隣で聞いていたのである。そこで一足飛びに依頼を引き受けてしまった。
「まあ、よいですけれどね。他に十人ほど人を集めましょう。報酬のほうは?」
「なんとか、相場分まではお渡しできますだ」
手代は依頼人に確認すると、
「では、急いで人を集めてきますので、しばしお待ち下さい」
と言って奥へ下がっていった。
「さて、人が集まるまで、少し話を聞かせてもらおうか?」
千代丸は依頼人にそう言った。
冒険者達が集まるまでに千代丸が聞き出した村に関する情報は次のとおりである。
・村まではおおよそ歩いて3日の距離である。
・村にはボロボロであるが、大きな寺がある。補修すれば要害となりうるが、大きすぎて逆に11人の冒険者だけでは防衛しづらい。
・村の近くに天然の大きな洞窟が存在する。窮屈ではあるが村人全員を収納することも可能で、入り口は二人の戦士が並んで戦える程度の広さである。ただし、移動するのに山中を半日ほど移動する必要がある。
「さて、初めての依頼か。これが名を成す為の第一歩だ。バリッ」
そう言ってせんべいを齧った千代丸の瞳は野心に燃えているのであった。
●リプレイ本文
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先発の冒険者達が村に到着した時、
「うわああぁぁっ!!」
「うがああぁっ!」
と、悲鳴とも雄叫びともとれる大声が響き渡っていた。
「襲撃に間に合わなかったか!」
浦部椿(ea2011)は声を聞くと、馬を降りずにそのまま村へと押し進む。
他の冒険者達もそれに倣う。
「いひゃああぁっ!」
「ぎゃあぁぁっ!」
村の中心辺りにたどり着くと、そこでは村の男衆十人程と小鬼の四匹程がにらみ合っていた。お互いに奇声を発して相手を威嚇しているが、お互いに相手を恐れて手を出せないという状態である。
化け物退治の経験などない村人と、竹槍や鉈を持った男衆の数に気圧されそうな小鬼。
「浦部椿、参る!!」
椿は馬から飛び降りざま、地面に向かって剣を振り下ろした。
衝撃波が大地を割り、土煙を巻き上げ、小鬼達を吹き飛ばした。
その様子に冒険者達の馬が驚き、嘶きをあげる中で、ただ一頭だけ怖じる事無く突進を続ける馬がいる。
天風誠志郎(ea8191)の軍馬である。倒れている小鬼は馬蹄に踏み潰され、逃げ出そうとしている小鬼は大柄な馬体に吹き飛ばされる。
「‥‥俺のほうまで投げ出されそうな勢いだ」
武士の嗜み程度にしか乗馬の心得のない誠志郎は、自分でけしかけたものの軍馬の勇猛果敢さに振り回されてしまう。本格的に愛馬を乗りこなすというなら、もう少し訓練が必要になるだろう。
「待たせたな、俺達が村を救いにきた者だ」
馬を宥めすかした風斬乱(ea7394)が声をかけると、村人達はその場にへたり込んで安堵したのであった。
●
村に先行した面々はさっそく村人達を洞窟まで避難させる準備に取り掛かる。後続の冒険者達が到着したら速やかに移動を開始できるようにである。
村人はとりあえず寺に集めて、一箇所に纏まってもらい、個々の荷物の整理は六道寺鋼丸(ea2794)が護衛を兼ねて手伝っている。すでに一度、小鬼の襲撃を受けている以上は村の中であっても安全ではない。
「こっちの食料はこの上に隠しておけばいいかな?」
にこにこと村人に問いかける鋼丸。村人の家々では、鬼による蹂躙に備えて持っていけない食料や貴重品を梁の上や床下などに隠している。無人になった村が鬼達に荒らされる可能性は十分に考えられる事態である。
ジャイアントである鋼丸の巨体と怪力は、家財や食料を動かすのに大いに役に立った。何よりニコニコと気のいいジャイアントの青年は村人からも大いに好感を寄せられたようだ。
「はい、次は何を手伝えばいいかな?」
「村の人達に竹槍なんて持たせて戦わせようなんて、それは無茶よ」
後続の冒険者達がくるまでの間、そして何より洞窟へ向かう移動中の護衛の不足を補う為に村人達、男衆を中心に武器の扱い方を教えようと提案した中村千代丸(ez1042)に異を唱えたのは、レオーネ・アズリアエル(ea3741)である。
「戦わせるとは言うておらん! だが、人手が足りぬ故に洞窟へ移動するというても、その道中の最も人手が足りなくなるのは目に見えておろう」
千代丸も反論する。数の多い小鬼に対する威嚇を行えれば十分。山鬼は最優先で冒険者が潰し、その後足止めされた小鬼を撃退すればよい。それが千代丸の考えである。
千代丸の表情は必死であり、もうこれしかない、と思いつめてしまっている表情である。このままでは、レオーネとの水掛け論になるのは必至であろう。
「千代スケ、そんな怖い顔はやめろ。かわいい顔が台無しだぞ?」
と、その時。乱が千代丸の頭を撫でて諌める。
「千代スケ? か、かわいい!?」
千代丸は思いがけない乱の横槍に顔を紅潮させる。
「へ、変な呼び方をするでないわ、この戯け者! 大体、一角の武士がかわいいなどと言われて‥‥」
「そうか? 俺は親愛をこめて『千代スケ』と呼ぶことにしたのだがな」
わたわたと抗議する千代丸と、それを軽くあしらうように乱。
「くす、千代丸ちゃんはかわいいわねー」
そんな二人の様子に毒気を抜かれたレオーネは思わず千代丸を抱き締めずにはいられなくなってしまった。
「なっ!? なっ!? なっ!? 何をするのだ、たわけ! たわけ!! たわけもの〜〜!!」
千代丸の必至の抗議など耳を貸されることはなく、レオーネに抱き締められて、乱に撫でられ、どうにもならない千代丸なのであった。
●
歩いて三日の道のりを二日で踏破できたのは、後発組の数人が所有する馬に全員の荷物をすべて積み込み、可能な限り身軽な状態で道を急いだからである。
「皆さんの荷物の整理は終わっているんですか?」
レヴィン・グリーン(eb0939)が精力的に働いている鋼丸に問いかける。
「うん、大丈夫だよ。みんな、後は出発すると決めれば、最後の身支度をするだけだからね」
鋼丸が答える。
「そうですか、一刻も早く村の人達を安心させてあげたいですね」
レヴィンが語った時、馬の嘶きが響いた。
「先発する。洞窟はしっかり確保するから、村人達を頼んだぞ」
誠志郎が馬上から仲間達に声をかける。同じく馬に乗った椿と、セブンリーグブーツを履いたレオーネとが誠志郎に続いて村を出発していった。
「誠に申し訳ありませんが荷物は最小限、保存の効く食料、水、寝具を個人でもてる位に留めて頂けると幸いです」
大きな鍋釜と食材を持っていた女性にそう声をかけるステラ・シアフィールド(ea9191)。
「いかんかねえ? 長丁場になりそうなら、向こうでもみんなのご飯を炊けるようにと思ったんだけどねえ」
言われてみれば、持っている鍋釜は普通に使うものよりも大きめで、炊き出しなどで使われるようなものであった。
「申し訳ありません。今はとにかく、いち早く皆様を洞窟に避難させることが重要なのです。誠に申し訳ありません」
慇懃に深々と頭を下げるステラ。
「わかったから、頭を上げとくれよ。そんなに下手になられちゃ、こっちが気恥ずかしいってば」
女性はそう言ってステラを優しく声をかけるのであった。
●
「よし、準備は整ったみたいだな。そろそろ出発しようか」
星神紫苑(ea7030)が村人達の仕度が整ったのを見て声をかける。
「ふむ? あれは何だ?」
「ああ、あれは千代スケの発案だな」
村の男衆が竹槍や斧などを持っているのを見咎めた南天陣(eb2719)の疑問に、乱が答えた。
「‥‥そうか。だが、使わせはしない。今度こそ、必ず守りきってみせる」
焼いた握り飯を口に放り込みながら、九竜鋼斗(ea2127)の胸のうちには強い想いがあった。江戸を立つ前に急いで作らせたもので、ある程度日持ちするのである。
「腹が減っては戦は出来ぬ、か?」
鋼斗が食べているのを見て、陣が声をかける。
「いや、願掛けだ。鬼を相手にするからおにぎり(鬼斬り)をな‥‥」
一瞬、呆気にとられ仲間達であったが、駄洒落そのものよりも真面目な顔でいった鋼斗の様子がおかしくて、僅かに和やかな空気が流れる。
「さあ、行こうか」
村人達と冒険者達は洞窟へ向かい、移動し始めたのである。
だが、洞窟までの道程は、結果として困難を極めたと言える。
「何か群れが近づいてきます!! 小柄な二足歩行の中に大柄なものが混じっています! 方向は前方やや右の山側! 距離はもう詰まっています!」
バイブレーションセンサーで周囲を警戒していたステラが声をあげた。
センサー系の魔法は持続時間が短く、受動的で継続的な警戒に使うにはやや不向きである。故に今回はタイミング的に後手をとった。
「俺が出来るだけ引き寄せる! 後は頼む!」
鋼斗が鬼達のいるほうへ向けて駆け出した。
「俺の刀は守らぬ。一緒に行こう」
乱が続いた。
他の冒険者達も村人達を守るように散開する。
「固まって動かずに! あなた方は私達が守ります!」
「村長殿、しっかりと皆を纏めてくだされよ!」
レヴィンと陣が村人に声をかける。
「うおおおぉぉっ!!」
鬼達へ向かって駆け出した鋼斗と乱は、鬼達の注意を少しでもひきつけようと声をあげて突っ込んでいく。
「うがっ!?」
鬼達が気づいた時には、二人とも既に肉薄していた。
「抜刀術‥‥一閃!!」
抜く手も見せない一撃は小鬼の首を一撃で斬り飛ばす。
「俺がお前の死となろう‥‥」
取り巻きの小鬼を気にせずに、ただ一目散に山鬼を目指す。巧緻な技巧など身につけてはいない。ただただ刀を振り下ろす速さ、刀を突き出す速さだけを磨きぬいてきた。
山鬼が受けることも避けることもままならぬ速さで立て続けに斬りつける。瞬く間に山鬼の巨体が大地に沈む。
「俺もお前も血べたを這いずるのがお似合いだ」
『地べた』を『血べた』と読み換えた言葉に、乱はどんな思いを込めているのか?
「ぎゃ! ぎゃ! ぎゃっ!」
斬りこんできた二人の勢いに怯えた小鬼達はバラバラに散らばる。が、その拍子に村人達を見つけられてしまう。
「行かせはせんぞ!」
盾を構えた陣が小鬼達の前に立ちはだかる。だが、屈強な武士である陣を避けるようにして村人達へと向かっていく。
「くぅっ!!」
すり抜けていく小鬼を腕を伸ばして斬りつける。小鬼が一匹もんどりうつが、それだけである。
「ここは通さないからね!」
立ちはだかる鋼丸の巨体も壁も柵もない開けた空間では壁となりきるものではなかった。大槌が振るわれ、小鬼を粉砕するものの、小鬼は村人を目指す。
別段、小鬼達が高度な戦術を考えていた訳ではない。わざわざ強そうな冒険者を相手にするよりも、弱そうな女子どもを狙うほうが楽。ただそれだけのことである。ただそれだけのことが、冒険者達にとって自分達が傷つくよりも辛い結果を招こうとしていたのである。
「武器を構えろ! 全員で鬨の声をあげろ! 小鬼は臆病だ! 威圧せよ!」
「わあああぁぁっ!!」
千代丸の号令で村人達が竹槍や斧を構えて、鬨の声をあげる。人数が多いだけに低く響く迫力があった。小鬼達は一番弱そうであると見定めていた村人達の意外な様子にたたらを踏んだ。
「今だっ!」
紫苑が飛び出して、動きを鈍くした小鬼に切りかかっていく。
「火傷じゃすまねぇぞ! さっさと逝け!!」
炎を纏わせた刀と短刀を縦横無尽に振るって、小鬼を次々に討ち取っていく。
陣と鋼丸も小鬼を追いかけ、斬り伏せ、叩き潰していく。
単純な戦闘力の差では、冒険者が圧倒的であるのは歴然であった。
間もなく、小鬼は全滅し、数体混じっていた山鬼も鋼斗と乱の手によって全滅したのあった。
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その後、洞窟についた後の護衛は、言ってしまえば退屈な程に簡単なものであった。
出入り口が一つしかない洞窟の入り口に陣取ってしまえば、村人達の守りはまさに鉄壁である。一度に対峙する敵の数を限定することができ、敵は煙攻めや陽動などの計略を使ってはこない鬼の集団である。
一部の冒険者が積極的に打って出て鬼達を退治することさえ可能なのであった。
レオーネを初めとする達人級の腕前の持ち主達が剣を振るえば、たちまちの鬼達は洞窟の入り口に折り重なって倒れ伏すのである。
「告死天使は、未来ある女の子達の味方」
山鬼戦士を鋭い切先で切り裂いたレオーネは優雅にポーズを決めると、並んで戦う千代丸に微笑みかけるのであった。
「まだ、言うか、たわけものが!!」
千代丸の抗議の声は洞窟の中に響き渡るのであった。