偽志士を追え!

■ショートシナリオ


担当:恋思川幹

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月14日〜08月19日

リプレイ公開日:2005年08月20日

●オープニング


 京都の街中を完全武装した一隊の武士達が走りぬけていく。
 京都決戦から既に一ヶ月以上が過ぎ去っている。各所で黄泉人達の策動はあるものの、概ね平和を取り戻しつつある街並みには相応しくない光景のように思われた。
 立派な口髭をはやした、厳めしい頑固一徹といった顔の騎馬武者を先頭に、騎馬武者二騎と足軽十人程がそれに続く。
 その一隊の向かった先は、平織家の管轄である京都見廻り組の屯所であった。
 京都見廻り組の屯所の真正面で、部隊を散開させる。少数とはいえ、戦支度の一隊が押し掛けてきたことに門番は困惑し、屯所内は俄かに騒々しくなる。
「我こそは武蔵国は岩田の住人にして、源徳家臣の岩田七郎政広なり! 京都見廻り組の者どもに物申ぉす!!」
 武者、岩田七郎は大音声で屯所に向けて叫ぶ。
「過日の戦の折、見廻り組所属の志士、渓江十郎左殿の一隊にお貸しした、馬十頭の返却を求めに参った! お取次ぎ願いたい!!」
 七郎が口上を述べる。
 先の京都決戦において、志士の渓江を名乗る者が源徳麾下の岩田氏の陣を訪れ、緊急の物資輸送がある為、予備の馬を貸して欲しいと申し出てきたのだと言う。
 岩田氏の領内には馬を育成する牧があり、軍需物資としての馬は大目に持ってきていた為、七郎はこれを承諾した。政治的に様々な思惑があろうとも、黄泉人と戦う仲間としての信頼であった。
 が、その後、一ヶ月以上が過ぎた今日まで、何の音沙汰もなかったのである。信頼を裏切られたことに七郎の怒りは激しいものであった。
「しばし、待たれよ! ただいま、確認して参る!」
 七郎の口上を聞いた門番はそう言って奥へ引き返していった。

 それから一刻程の時間が過ぎ去り、屯所から一人の武士が出てくる。陣羽織を着ているところからすると、志士なのであろう。
「お待たせいたした。岩田殿のお問い合わせの件、組内にて確認いたし申したが、かような事実は一切存在しておりませぬ。なにより、渓江某なる者は我が見廻り組はもとより、近在の志士の中にもおりませぬ。どうか、お引取り下され」
 穏やかな口調ながら、七郎らを迷惑極まりない田舎者と見る表情を隠さずに志士は言う。
「何を申しされるか!? よもや坂東の良馬を手放すのが惜しくなって、神皇様の直臣たる志士の方々が盗人の真似事をなさるおつもりか?」
 七郎も一歩も譲ることなく、志士に対して挑発的な言葉を投げつける。
「何を言うか、この田舎者め! おおかた、まんまと偽志士に騙されたのであろう!」
 志士のほうも売り言葉に買い言葉である。七郎に向かって怒鳴り返す。
「偽志士であると言うのなら、その下手人を捕らえて差し出されよ! それが出来ぬのであるならば‥‥」
 七郎はじろりと見廻り組の屯所を見据える。
「恐れ多くも神皇様の御旗を掲げる身でありながら、盗みを行う不届きな輩を成敗してくれようぞ!」
 七郎は軍馬をあおって、志士を威圧してみせる。
 本当に戦いになれば、ごく少数の岩田勢に勝ち目などあろうはずもないが、七郎の様子にはそんなことに構う事無く、言ったことを実行する一徹さが感じられるのであった。



「そういう訳で冒険者にも手を借りたい、というわけだ。事情からすれば、志士が望ましいが‥‥まあ、絶対条件ではない」
 京都見廻り組の志士が要望を伝える。
「冒険者には見廻り組の手の回らない、こちら方面の探索を頼みたい。交通の便のあるところとは言い難いが、それ故に賊が利用した可能性も考えられる」
 地図上で指し示されたのは、京都の街の端、そしてそこから利用の少ない細い抜け道へと続く辺りである。京都の街の端、小さな農村を挟んで、峠への道と捜査範囲内はバリエーションに富んでいる。
「では、よしなに」

 同時刻、新撰組の屯所でのこと。
「先輩、例の渓江という偽志士の捜査ですが、なにやら揉め事があったらしく京都見廻り組が動き始めたそうです」
 新撰組の見習い隊士が面倒を見てくれている平隊士に報告する。余罪もあったのだろう。新撰組はすでにこの偽志士の捜査をしていたようである。
「なんだって? ヤツの捜査は俺達が先に手をつけていたんだ。横取りされて堪るか!」
 平隊士は報告を聞いていきり立つ。
「‥‥だが、見廻り組と張り合うのも悪くないな。こっちが先に捕縛すれば、奴らの面子も潰せるってものだ。見習い、捜査の進展はどうだ?」
 平隊士は見習い隊士に問いかける。
「はい、おおよその活動範囲は絞れています。この辺りに捜査の網を張れば、十中八九は‥‥」
 見習い隊士が指差した場所は、奇しくも冒険者達に割り当てられた地域と重なっていたのである。
「よおし、手柄を立てて、斉藤組長に褒めてもらうぞ! お前達も『見習い』から正規の隊士だ!」
「おおっ!!」
 新撰組三番隊の一部が京都の街へ向けて、屯所を出発したのであった。

●今回の参加者

 ea4236 神楽 龍影(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9276 綿津 零湖(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9850 緋神 一閥(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9971 御影 塔磨(37歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

佐上 瑞紀(ea2001)/ 雪峰 蓮花(eb3083

●リプレイ本文


「神楽殿は別方面の手伝いですか」
 綿津零湖(ea9276)は集まった仲間達を見てそう言った。
「まあ、見廻り組はこちら方面を重要視していないってことだな」
 御影塔磨(ea9971)が答える。見廻り組がもっと別方面に犯人がいると踏んでいるようだ。こちらの方面への冒険者三名という配置がそれを物語っている。
「まずは情報収集からですね。人相書きが欲しいところですが、見廻り組も手にいれていないようで」
 緋神一閥(ea9850)が行動を考える。
「岩田さんはやはり協力的ではないようだな?」
 塔磨はやれやれといった具合である。
「事情が事情だけに仕方ありません。けれど、私達は見廻り組の依頼で動いていても見廻り組そのものではありません」
「どうするつもりで?」
 零湖がなにやら考えているのを、一閥が問いかけた。



「偽志士の情報を集めている?」
 岩田七郎は訪問してきた冒険者の目的を聞いて苦りきった顔をした。
「はい、ギルドの依頼で偽志士事件の一覧のようなものを作ろうという趣向でございます」
 零湖は礼儀ただしい所作で、七郎と向かい合っている。
「先日、岩田殿の京都見廻り組を相手取った堂々たる偉容はすでに京雀の噂にのぼっております。その折に、志士か、偽志士かという押し問答があったと聞きつけまして、参考までにお話を聞きたいと思い、押し掛けた次第でございます」
 零湖が詳しい訪問理由を述べるが、これは方便である。志士の目印である陣羽織も今は纏っておらず、志士という身分も隠している。
志士でない者が偽志士となるように、逆に志士である者が志士でないふりをしている。そうしてやっているのが、偽志士の捜索であるというのは面白い話である。
「私が偽志士に騙されていたと言いたいのか?」
「いえ、そうではありません。私達の目的は偽志士に関わる事件の調査でありますが、それは必ずしも実際に偽志士による犯行だけに留まるものではないのです」
 七郎の言葉に、今度は一閥が答えた。
「岩田殿の先日のご活躍に敬意を表し、偽志士という言葉が出てきたのを出汁にして、そのご活躍を記録したいと思った次第です」
「‥‥まあ、よかろう。あの渓江某という輩が本物だろうと偽物だろうと、我々から馬を騙し取った犯罪者には変わりがない」
 一閥の言い訳を聞いていた七郎は、煩わしいと言った様子で答えた。
「それで、私は何から話せばよいのだ?」



「最近、こういった人相の人間が馬を売りにきたとかはないか?」
「さてねえ? 都も広いしね。あたしはみてないね〜」
 塔磨は京の街での聞き込みをしていた。
「誰かが大量の馬を売りにきたって言う話もないか?」
「さてね、どうだろうねぇ? ないことはないだろうけど、そういう大口の取引は個人じゃ、聞かないね」
 思った以上に成果は上がらなかった。
「佐上君や雪峰君もあちこち調べてくれたようだが‥‥」
 塔磨は残念そうに言う。
「いえ、お二人の情報も役に立っています。これだけ聞き込んで情報を得られないのですから、岩田殿があったと言う偽志士以外にも仲間がいるのでしょう。馬を売り払う役割や詐欺を行う役割などを分けているでしょう」
 一閥が推理する。
「それに岩田殿が直接言葉を交わした渓江という者はともかく、同行していた者達については印象が薄いとも言っておりましたしね」
 零湖は思ったより出来のいい人相書きは、七郎が雇った絵師の手によるものである。京都決戦での勲功をより主張する為に絵巻物を作成していたのである。この絵師が七郎からの伝聞で作成している。当然ながら七郎の記憶に薄い人物は詳細さに欠けている。
「馬を大量に売却したという話も聞かないのでしたら、まだ偽志士どものところに馬が残っている可能性は高いですね。そちらから聞き込みを重ねてみましょう」
 一閥が言う。
「そうですね。こちら方面に犯人がいない可能性も高いようですけれど、担当地域に犯人がいるという考え方で頑張りましょう」
 零湖は言うと、馬上の人になる。
「地道に足の捜査だな」
 冒険者達は割り当てられた地域に向かって進みだしたのである。



「この先のどこかに隠れ家を持っているとすれば、この辺りで食事だのなんだのを賄っていると思うのだが‥‥」
 京の街の端に当たる辺りで聞き込みをする一閥。
「ええ、酒を樽で買っていくお客さんがおりますな。どこに住んでるのか、その辺りのことはとんとわからなくてね。ふらりと顔を見せちゃあ、って感じでね‥‥」
 聞き込みを続けるうちに、そのような有力な情報を掴むことができた。
「その客というのは‥‥」
「そうそう、そんな感じですな」
 一閥が語った渓江達の人相に酒屋の主人はそう答えた。
「どうやら、ここが正解だったようですね」
 一閥は具体的な情報を得るには至らなかったが、犯人の所在を絞り込めたことを大きな成果であると感じた。後は京都見廻り組に連絡して増援を‥‥と考えた時、酒屋の主人が言った。
「同じようなことを新撰組の方々が尋ねてきましたが、何かあったのでしょうか?」
「新撰組が?」
 一閥は見廻り組への連絡について再考を余儀なくされた。

「あれは新撰組か?」
 『誠』の旗をはためかせた一団が村にいるのを塔磨は見つけた。聞き込みを行うつもりであったが、それは一度中止して新撰組の様子を探ってみることにする。
「この村で飼葉を大量に仕入れた者がいるのではないか?」
 新撰組のこの一隊の長らしい侍が村長らしい人物に問い質している。見習い隊士達を率いる平隊士である。
「へえ、確かにそういったことがごぜえましたが、何か‥‥」
 年老いた村長のほうは突然やってきた新撰組におどおどとしている。
(「なるほど、飼葉か。馬泥棒で手元に馬を置いているなら必要なものだな。新撰組も目の付け所がよいものだ」)
 塔磨は感心する。
「おぬし等に咎があるというのではない。その者ら志士を騙る不届き者なれば、我等新撰組が討伐せねばならぬ」
 平隊士が村長と話をしているのを少し距離を置いて見ていると、見習い隊士がそれを見咎めて近寄ってきた。
「おい、貴様! 何をじろじろと見ている!」
 浪人と言えども武士に違いなく、この状況で偽志士の嫌疑をかけられるのは仕方のないことであろう。
「通りすがりの冒険者だ。俺も村の者に話を聞こうと思ってな」
 塔磨は極力友好的な態度で応対する。
「何用あってのことだ?」
「コソ泥を追いかけてきたんだが、見失ってしまってな。とにかく進み続けてきたんだが、どこで引き返したものかとな。この村で話を聞いて決めようと思った次第だ」
 見習い隊士は逆にじろじろと塔磨を睨んでいたが、
「構うな、放っておけ!」
 平隊士が見習い隊士に声をかけた。見習い隊士は怪訝な顔をしたが、
「行っていいぞ! あまりウロチョロするんじゃないぞ」
 ジャイアントの塔磨にウロチョロという形容が似合うのかは微妙であるが、塔磨はその場を離れることにした。

「ご苦労様、渚」
 あらかじめ決めていた何度目かの集合地点に到着すると、その首筋を撫でて愛馬を労わる零湖。
 一閥や塔磨がこの周辺にいると確信を得た彼らはこの周囲の捜索を重点的に行っていた。特に騎乗動物の扱いと知識に長けた零湖はこの探索行の中心となった。
「お疲れだ。何かわかったか?」
 先に到着していた塔磨が零湖に声をかけた。
「はい、まずは近くにおりますダンダラ模様」
「まだ、いるか。顔をあわせてから、ずっとだな。俺達を疑っているようだ」
 逆に塔磨はあまり動いていない。新撰組を自分に張り付かせておく為である。
「どうします?」
 一閥が二人を見回す。
「私達は人数が少ないです。新撰組を利用できないでしょうか?」
「揉め事は避けたいですが‥‥彼らの恨みを買う事無く、我々志士の面目を立てる思案が必要ですね。兵法で言うところの七分勝ちで」
 零湖の言葉に、一閥が言う。若干、意味合いは異なるが、新撰組相手に十分勝ちをして誇っても、無駄な諍いを生むばかりだという判断である。
「では、塔磨さんには『仲間』のもとへ帰っていただきましょうか?」
 零湖はにこりと微笑んだ。



「新撰組、御用改めである!!」
 新撰組の隊士達が渓江らのアジトに踏み込んだ時、さすがに情報を掴んでいた偽志士達は応戦の構えを見せた。
「やってやるぜぇっ!!」
 だが、見習いと言えども新撰組隊士。腕に覚えのある者ばかりである。まして、かの斉藤一の三番隊隊士である。
 見掛け倒しの偽志士でまともに斬り合える実力があったのは、渓江と他二人ほどに過ぎなかった。
 が、その分、逃げ足は速い。形勢割るしとみるや、岩田七郎から騙し取った馬に飛び乗り、あらかじめ用意していた脱出路に向けて一目散である。その際、連れて行けない馬の尻を刺し、暴れさせたのである。
「くっ、に、逃がすなぁっ!」
 馬達が暴れまわる中、平隊士が命じるが馬達の狂奔はそれどころではなかった。
 新撰組隊士達は偽志士の一団の過半数以上を捕縛したが、渓江ともう一人の首魁を逃してしまった。

「命が惜しくばとまれぇ! 俺は武闘大会優勝六回の経歴がある御影塔磨だぁ!」
 逃げる渓江らの前に立ちはだかったのは塔磨である。
 馬の世話という観点から零湖は偽志士のアジトを突き止めた。そして、先に新撰組をそこに誘導することで、渓江らが逃げ出してくるタイミングを狙っていたのである。
「そんな名前聞いたこともないわぁっ!!」
 だが、京都での出場経験がないだけに、塔磨の恫喝はさしたる効果を生み出さなかった。
「やるってんなら‥‥覚悟するんだな!」
 塔磨の2mを越える巨体は騎乗の敵にさえ負けるものではない。馬が駆け抜ける一瞬の交錯!
 偽志士の一人が落馬した。

「志士の名を汚す輩‥‥許しません!」
「志士を騙るばかりか、其にあるまじき行為を繰り返すとは‥‥捕らえて、その死に値する罪を償わせて見せよう!」
 待機していた一閥と零湖が、残る偽志士・渓江を追走にかかる。一閥と零湖の馬は戦闘用の訓練は施していない。何とかして馬から引き摺り落す必要がある。
「当てて見せます!」
 零湖が予め用意していた氷の円盤を偽志士の手綱を握る腕に向けて放つ。
「ぐわっ!」
 痛みに手を離した拍子に落馬する渓江。
「我が怒りは焔の意志。‥‥業火は汝の罪の重さと知れ」
 馬から降りた一閥は倒れている渓江に炎を纏った刃を突きつけた。



 数の上では新撰組。質の面では京都見廻り組。
 この結果により、元からの微妙な空気は拭いされないものの、両者の面目が立つ形で事件は終結を見た。
 冒険者達の気配りは功を奏したのであった。