【上州騒乱】密使を殲滅せよ
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 57 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月09日〜11月17日
リプレイ公開日:2005年11月21日
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●オープニング
源徳家臣・吉見蒲太郎範頼は凡庸ではあるが、決して無能な領主ではなかった。
自分の才をわきまえているので、有能な者と組ませれば補佐役を十分に務めえるし、単独で仕事をさせても手堅い仕事であれば丹念にこなすこともできた。
ただ、悪い癖があった。
とかく、愚痴や泣き言が多いのである。
「こんなの出来ませんよ」
「まいっちゃいますね、本当にやらなくては駄目ですか?」
「いやねぇ、私だって家系は立派なものなんですよ? 古さだけなら源徳公よりも古い源氏の家系ですからね」
それらは本心から出てくる言葉ではない。口ではああだこうだと言いつつも、仕事が手堅く丹念であることは先に述べた。愚痴や泣き言は、自分を叱咤する為のまじないのような物だ。蒲太郎を知っている者ならば、また彼の愚痴や泣き言が始まった‥‥と苦笑いをするものである。
だが、そんな蒲太郎個人の癖を知らない人間が、人伝えに彼の発言を聞いたならばどう思うであろうか?
その為に蒲太郎は人生最大の難局を迎えることになる。
「我が主君、景春様は吉見様の奮起挙兵を待っておられます。吉見様が起たれたならば、比企、畠山の後背を脅かし、河越、勝呂、浅羽の軍勢の補給線を断つ事も適います。さすれば、北武蔵における源徳の勢力は大きく後退することになりましょう」
山伏に扮した長尾四郎左景春の配下がいきなりそう切り出した。
「まてまて、いきなりそれは何の話ですか?」
ただの山伏と思って、屋敷に招き入れた者が突然、謀反人の名前を出して自分の挙兵をそそのかせば、蒲太郎ならずとも戸惑うものであろう。
「‥‥おぬし、かの謀反人の手の者ですか。なぜ、私などに声をかけます?」
「御意。長尾家臣、溝呂木と申します。吉見様が常々、源徳家に不満を抱いているのは聞き及んでおりますれば、今こそが絶好の好機であると決起のお誘いにあがった次第であります」
源徳家に不満を抱いているつもりなど、蒲太郎にはとんとない。だが、
「そのように噂されているのですか?」
誤解をされることの心当たりはあった。例の愚痴を言う癖である。
関東一円の様々な不安な情勢が、何気ない発言をも大袈裟に膨らませているのであろうか? 最近にも江戸において「九尾の狐に匹敵する妖怪が復活する」などの風聞が流れたという。それと同様に小さな発言が吉見氏の反乱などというレベルの噂になっているとすれば、蒲太郎にとって由々しき事態であった。
「なにより、吉見様は源徳よりも古い源氏の家系。それがいつまでも源徳如き成り上がり者の下風に立つこともありますまい」
蒲太郎は苦い顔をした。自分の愚痴がずいぶんと厄介な状況を引き込んでしまったようである。
「そちらがどのように解釈されようとも勝手ですが、私は源徳公に弓引くつもりは一切ありません。さっさと立ち去り、二度と顔を見せないでいただきたい」
だが、状況に流されるわけにもいかない。きっぱりすっぱり断って、この問題に尾を引かせるわけにはいかないのだ。
「‥‥‥‥吉見様がどう思われていようとも、普段の言動は覆せません。一度嫌疑をかけられましたならば、咎なくして処断を受ける‥‥などということもあるかやもしれませぬな?」
溝呂木は笑みを浮かべてそう言った。
「っ!」
この男を屋敷に入れてしまった時点で、すでに蒲太郎は謀略に絡めとられていたのである。
「‥‥その者らを早急に討ち取る必要があるのです。討ちもらす訳にはいきません。報酬に糸目はつけませんので、江戸でも屈指の冒険者を集めて欲しい」
密かに江戸に赴いた蒲太郎は冒険者ギルドの手代を呼び寄せて、冒険者の斡旋を依頼していた。
溝呂木ら、景春の部下を討ち取り、景春との接触があった事実を葬り去ろうという思惑であった。
「あの者達はもう一度やってきて、返事を聞かせてもらうと言っていました。その時に一気に討ち取ってしまう所存です」
「わかりました。冒険者を斡旋させていただきましょう。ただし、江戸屈指の冒険者とはいきませんな」
冒険者ギルドから来た清吉という手代はそう答えた。
「報酬に糸目はつけませんよ? 可能な限りの腕利きをお願いしたい」
蒲太郎は清吉の返答に首を傾げつつ答える。
「秘密裏にその相手を討つというのでしたら、実力のありすぎる冒険者では問題がありましょう。目立ちますから」
「その危険は承知のうえで、しかし確実に討ち取れることを優先させたい。敵地に堂々と乗り込んでくる者達だ。強敵であろう」
「冒険者の斡旋については、手前どものほうが玄人でございます。ここは素直に薦めを聞いていただきたく存じますが」
「私が危険を承知の上でと言っているのにも関わらず、か?」
「吉見様の言った条件では、手前どもとしては冒険者を斡旋いたしかねますな」
清吉という名の手代はうすら悪い笑みを浮かべるのであった。
「そういう訳で、もしも失敗すれば、北武蔵までもを騒乱の巷にしかねない重要な依頼であると、心してかかってくださいませ。吉見様は著名な冒険者達を雇うつもりはないとおっしゃっており、あなた方にやや荷は重いかもしれませんが、よろしくお願いします」
清吉という名のギルドの手代が、依頼を受けた冒険者達に頭を下げた。
「敵は十名の山伏に扮した謀反人の手の者達。一人は侍で間違いなさそうですが、他は得体の知れません。討つのは敵を屋敷の中庭にまで誘き寄せてからになりますが、誘き寄せる役目は吉見様のご家中がなさります。あなた方は遮二無二、敵を殲滅することだけをお考え下さいませ」
●リプレイ本文
景春の密使が予告よりも一日早く来たことは、心理的揺さぶりの一端であろう。
だが、音無藤丸(ea7755)が事前に屋敷周囲の警戒していたことが功を奏した。藤丸は山伏の集団を見つけると、疾走の術を用いて速やかに屋敷に戻ると仲間達に密使の訪れを告げたのである。
「まず、武器を預けていただきたい」
取次ぎの武士は密使達にそう言った。機会をとらえて敵の戦闘力をそぎ落すようにと、かねてよりエレオノール・ブラキリア(ea0221)とモードレッド・サージェイ(ea7310)とが提案していたことである。
だが、それは言うほど簡単な作業ではない。モードレッドは任につく吉見家臣に言った。
「やっぱアレだ。日頃の行いって奴は重要だっつーことだよな‥‥。ま、これもジーザスの与える試練ってやつで、常日頃の主君の悪い癖を直せなかった償いと思うんだな」
その言葉に奮起したものだろうか?
「近頃は何かと物騒な世相である故な」
「物騒な世相‥‥な。それは我らにとっても同じこと。はい、そうですかと応じられる物ではない」
溝呂木はそう答える。
「仮にも領主である人間に対し、また源氏の名門である我らが主君に対して礼をとれないというのか?」
モードレッドとの打ち合わせ通りに牽制する家臣だが、景春の密使にしても簡単に無防備になるほど愚かではない。
結局、密使のうちの数名が母屋の外で待機し、母屋の中に入って蒲太郎と面会する人間の武器を預かるということで落ち着いた。敵を分散したが、一方の戦闘力は削れている。
これが結果的に吉とでるか凶とでるか?
屋根裏に潜み、対面の様子を窺うのは天藤月乃(ea5011)である。
(「まったく面倒な話ね。自業自得といえばそれまでなんだろうけど、放っておくと戦争がおっきくなるんだっていうんだから」)
心の中でぼやく月乃は、自らが仕掛けた大掛かりな罠を使うタイミングを計っている。
下の部屋からは蒲太郎と溝呂木の話し声がかすかに聞こえてくる。声の潜め具合から、二人がかなり近寄っていることが窺える。
(「お供達はもう少し離れたところに控えているとして‥‥」)
それは月乃が仕掛けた罠に巻き込むことが出来る範囲である。
(「‥‥時間をかけても、今以上の機会はなさそうね」)
自分の罠の発動が攻撃を仕掛ける合図となる。その見極めは軽率であってもならないが、時機を逸するのも愚策である。
天井裏に運び込まれた大量の土砂、岩石は今や数本の縄だけで支えられている状態である。むろん、運び込む作業中には何本もの棒で支えていた。が、臨戦態勢に入った時に棒は引き抜かれている。あとは月乃が縄を解けば、支えを失った土砂、岩石は密使達の頭上に降り注ぐ。これが月乃が用意した罠である。
「はじめるわ」
小さく呟くと、月乃は縄を引いて、罠を発動させた。
「!?」
大きな音が響いて、外に待機していた密使達が母屋に視線を向けた。
その刹那、郭の中をさっと駆け抜ける巨大な二つの影。
密使の一人が気づいた時には分身した藤丸の巨体二つが壁のように眼前をふさいでいた。
「これ以上、争いの火種を増やしてほしくないですからね」
ぴったりと寄り添われては武器を振るう余地がない。それは藤丸も同じことである‥‥とはならない。藤丸の修行した陸奥流の技にはこの距離でこそ威力を発揮する剣がある。
藤丸は器用に忍者刀を操り、密使の急所に一突きにする。
「ちぃっ!」
崩れ落ちる仲間を見て、密使の一人は母屋の中に入った者達の武器を抱えあげると母屋に入ろうとする。だが、いつの間にか内側から用心棒がかけられている。強引に蹴り破るまでに若干の時間を要した。
一人は棒を構えて中へ駆け込もうといしている者の背後を守るように、一人は刀を抜いて藤丸を牽制し、一人は深手を負った仲間を助けようとする。藤丸もすでに与えた確かな手応えにあえて深追いはしない。その代わり、側面から真空の刃が密使を襲う。
「飛燕剣のケイン‥‥行きます!」
ケイン・クロード(eb0062)のソニックブームである。加えてモードレッドが駆けつける。
対峙するのは3対3、いや深手を負った一人もポーションを手渡されている。
「一気に畳み掛けるぞ!」
モードレッドがクルスソードを振り下ろす。
「くっ!」
相手にたった密使はその剣を受け流すが、その隙をついて藤丸がその密使に肉薄する。
味方の危機を察して、母屋の入り口に立つ密使が魔法の詠唱を唱え始めている。
「参式‥‥翔けろ、飛燕!」
ケインのマントの影に隠した日本刀から再び真空の刃が飛び出す。密使は詠唱を続けることが出来ない。
藤丸の攻撃は邪魔されることなく、刀を構えた密使の急所を貫いた。
「‥‥面白い、貴様の相手はこの俺だ!」
ポーションを渡し終えた密使が刀を抜かないままにケインの前に立ちはだかる。誰かが防がねば、自分達が連携を組めないという判断であろう。
「夢想流を知っているか?」
「うわああぁっ!」
気づいた時にはケインは斬られており、密使はすでに刀を鞘におさめている。夢想流の真骨頂とでも言うべき戦い方である。
「くっ! 壱式‥‥舞え、飛燕!」
マントで刀身を隠すと、その後ろから上段から振り下ろす一撃を繰り出すケイン。だが、それはあっさりと避けられてしまう。
「甘いぞ、俺には見えている」
(「打ち込みのタイミング、間合い、方向‥‥飛燕剣一式が見切られてる?!」)
自分と同じタイプの剣士を相手にすることも考えていたのだろう。密使の鋭い眼差しはケインの挙動を的確に捉えていた。型に違いはあれども、同じ原理に基づく技を使う者同士。剣の技に加えて、その先をどれだけ剣に尽くしたが実戦の場において差を作り上げた。
藤丸が一人を屠る間に、モードレッドはポーションで回復したばかりの相手目掛けて攻撃を仕掛ける。
「‥‥ちっ、余計な手間かけさせねえで、さっさと沈んでくれよ」
立て続けに振るう剣は、初撃のダメージが多きかったこともがあり、確実に密使の体力を奪っていく。もう少しダメージが薄かったならばリカバーポーションで回復しきっていたのだが‥‥。回復しきれていない傷口にモードレッドの剣が響く。
苦痛に歪む密使の表情にモードレッドのサディスティックな嗜好が刺激される。
「だが、これで終わりだっ!」
残念と思ったものかどうか、名残惜しむ暇はなかったのは事実である。モードレッドの一撃は密使を斬り倒した.
「‥‥旗色が悪い、か」
ケインと対峙していた夢想流の使い手は背後の二人が倒されたのを見て、じりじりと後ずさる。
「母屋の中へはいれっ!」
広い場所で自分達が少数になった不利を感じ、母屋の中で駆け込む。
「あっ‥‥!」
ケインは背後からの追い討ちを思わず躊躇してしまった。
「割り切らなきゃ‥‥沢山の人が不幸になっちゃう」
ケインは飛燕と名づけている愛刀を握り締める。
一方の母屋の中での戦いである。
月乃の罠が発動すると同時に、風斬乱(ea7394)とレイナス・フォルスティン(ea9885)が飛びこんでくる。
蒲太郎の至近にいる溝呂木に突きを放つ乱。だが、溝呂木の反応は思ったよりも早かった。避ける、というよりも先に攻撃の届かないところまですばやく飛びのいていた。敵地同然の場所にいるのである。最悪の事態も想定していたということか。
「蒲太郎殿、本当に討ち取りでいいのかな?‥‥一人消せば、また一人‥‥貴殿が選ぶこの道に終わりはないぞ?」
そう言って乱はにやりと笑った。
「無論です。この者達は山伏を騙った。それは今後山伏全てが疑いを受けるということです。良民を苦しめる行為です」
蒲太郎は答える
「見事な詭弁だな。だが、それも道を踏み外した俺には相応しい仕事か」
「黙って聞いていれば、もう我らを倒したつもりでいるのか?」
溝呂木が言う。
「そうだ、ただただ刻め、そして儚く散っていけ」
「おけ、この剣、受けられるか?」
溝呂木の掌中から光の刃が生み出される。淡い桃色は西洋では騎士の、ジャパンでは侍のステータスたるオーラの輝きである。
「てりゃああぁっ!」
溝呂木が乱に斬りかかる。咄嗟に受け止めようとする乱だが、光剣は乱の愛刀をすり抜けて乱の体を傷つける。実体を持たない闘気の刃は生命体や魔法の物品以外と干渉することはない。ひたすら剣を振るうばかりであった乱にとっては厄介な相手であった。
「関係ない。俺は刀を振るうことでしか、己を表現できぬ」
朦朧とした意識の中で詠唱の声が聞こえた。突然、振ってきた土砂岩石によるダメージはまだ全身に鈍い痛みを響かせていた。そんな中で聞こえてくる詠唱である。どんな魔法が飛んでくるのかと密使は戦慄した。
だが、詠唱が途切れた時、不意に強烈な睡魔が密使を襲ったのである。密使の意識は急速に闇の中へ沈んでいった。
「どうもこのところ慌しくなってきたわね‥‥騒ぎの種は出来る限り摘んでおきたい所だわ」
エレオノールのスリープの魔法であった。繰り返し魔法を使っていく。
「悪いが一人も帰せんよ」
レイナスはそのスリープの魔法で眠らなかった相手を狙って攻撃を仕掛ける。魔法の素質がある者は魔法への抵抗力があるので、魔法が利かなかった者が魔法使いである可能性は高いのである。新たに使い始めた太刀はレイナスの要求に応えてくれる。確かな手応えが刀身から伝わってきた。
だが、突出してきたレイナスに対して、別の密使が蹴りを浴びせてくる。それをレイナスは身をよじって避ける。
「そこ、あたしが相手になるわ! 同じ流派の誼でね」
無手の技の使いように同流であることを察した月乃は、その密使に挑戦する。
「やぁっ!」
分身した状態からの流れるような連続攻撃。
「っ!」
密使は第一撃はどちらが分身かを見切ることができず顔面に拳を受ける。次の一撃はかろうじて受け止めたが、最後の追い討ちに月乃の強力な蹴りが密使の腹にめり込んだ。
刀の存在に気づくのが遅れたのは、、結城夕貴(ea9916)の姿を非戦闘員の奉公人と誤認したからである。非戦闘員であれば殺す必要はない。突き飛ばして先を急ぐべきと判断した。
「ぐっ!? ぬかった‥‥」
熱さにも似た痛みが体に走った時、それがただの奉公人でないことを悟った。思えば、襲撃を受けた時点でこの場にいる人間全てが敵であることを認識するべきだったのである。
「こういう局面こそ僕の技が発揮されるんだよね〜♪」
夕貴は着付けや理容に関する腕前は達人級の領域に踏み入れている。それがあったればこその見せ掛けを女性のように見せることができたのである。この姿でさりげなく母屋の中を移動し、あちこちの戸締りをしている。
密使は自分の傷の深さを悟ると覚悟を決めた。夕貴の攻撃を無視してさらに置くに駆ける。
「あっ!」
夕貴が後を追うが、その密使は辿り着いた。
「待たせたっ! 武器をとれ!」
味方の為に持って来た武器を放ると、密使は夕貴のほうに向き直る。杖に偽装した仕込み刀を抜き放った。夕貴には後ろから斬り倒すチャンスもあった。だが、あえてそれをせずに向き直るのを待っていたのは、そのお人よしな性格の為であろう。
「勝負っ!」
夕貴が鋭い突きを放つが、密使はその動きを見切る。夕貴の刀を受け流そうとするが‥‥直前で夕貴が剣を一瞬だけ止めた。密使の刀が目標を見失った刹那、刀が突き入れられた。
オーラの刃に苦戦を強いられていた乱を助けたのは、蒲太郎であった。
「これを使いなさい! 私の闘気を付してある!」
差し出された刀を受け取る乱。
「受け取った! この戦い、俺は蒲太郎殿に忠義を尽くして戦おう!」
その挙動を見逃さず、溝呂木の剣が唸る。が、乱の卓越した技術と蒲太郎の闘気をまとった刀身は、溝呂木の闘気の剣を軽く受け止めた。
「条件が同じならば、負けん」
鋭く繰り出される乱の剣に、今度は溝呂木が押されることとなる。
「‥‥だが、まだ終わりには出来ぬ!」
溝呂木は大きく後退して乱との間合いを取る。
すでに残る味方は少ないと察した溝呂木はエレオノールに目をつけた。
「きゃっ!」
さっと飛びつくとエレオノールを絞めあげ、その首筋に剣を突きつけた。
「卑怯な。それでも名誉を重んじるこの国の戦士か?」
レイナスがそのあからさまな行為を非難する。
「尋常の戦場であれば名誉も重んじよう。だが、今は影働き。名誉も誇りもなく、ただ生きて目的を達することこそ至上! 恥じて腹を切るのは後でも出来る! さあ、道を空けよ!」
「ううっ‥‥」
溝呂木のエレオノールを絞める腕に力がこもり、エレオノールは苦しげな声を漏らす。
そこに表から駆け込んできた密使の二人が合流する。
状況は膠着した。残りの密使達が密集して人質を盾にすれば、まだまだ逃げ切れる余地はある。
じりじりと両者の緊張が高まる。
「‥‥なんだ!?」
唐突に溝呂木が真っ黒い影に取り込まれた。
「いまだっ!」
モードレッドのダークネスにより溝呂木が状況把握を困難にしたのを見て、夕貴が柊の小柄を抜いて真っ黒い塊に見える溝呂木に突き立てた。
その一撃により膠着状態は一気に崩れ去った。
冒険者達は関東の騒乱のさらなる拡大を未然に阻止した、はずである。
だが、あまり後味のよい仕事でなかったのは、
「口は災いの元だね。こんなに面倒な仕事をしなきゃいけなかったなんて本当に災いだわ」
という月乃の言葉に集約されていたのかもしれない。
それは暗闘という、まだしも華やかさのある表の合戦以上に、凄惨な戦いの場から生じるやり切れなさであったのかもしれない。