【御馬揃え】源徳家のつぼみ

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:恋思川幹

対応レベル:6〜10lv

難易度:易しい

成功報酬:4 G 46 C

参加人数:5人

サポート参加人数:6人

冒険期間:03月06日〜03月13日

リプレイ公開日:2006年03月16日

●オープニング

1.
 綺麗に咲きだした梅の花が、春は一歩一歩確実に近づいていることを感じさせる。
 関東の騒乱により、長い長い冬の時期を迎えていた源徳家も、また新たに花を咲かせて春を迎えるべく着実に準備を進めていた。
 江戸の大火、上州の騒乱、鉢形城和睦、水戸藩の音信不通、九尾の狐の策謀‥‥。
 天は愛する者にこそ困難を与えるとも言うが、昨年から源徳家を取り巻く困難は並々ならぬものがあった。
 それだけに源徳家の武威の衰えを指摘する声も日に日に多くなっていった。
 家康は春の訪れとともに、源徳家の武威を盛り返そうと、馬揃えを催すことを決定した。
 「馬揃え」とは本来、軍馬を集めて、その優劣や訓練の状況などを検分することを言うが、軍事力を集合させての催し物として味方の士気の鼓舞、あるいは敵対勢力に対する示威の効果を狙っても行われる。
 源徳家の有力武将が一同に会して、勇壮な武者姿で江戸の大路を、馬の嘶き、馬蹄の音、武器甲冑の擦れあう音を響かせながら、行進するのである。
「源徳の武威、未だ健在なり」
という内外への喧伝となろう。

 その馬揃えの行進の中に、冒険者の為に参加枠が用意された。
 源徳家と冒険者達の良好な関係のアピールの為でもあるし、個性派揃いの冒険者は何か武将達とは違う面白みで馬揃えを盛り上げることを期待されている。
 参加を求める冒険者に若干の制限を設けているのは、あまりに実力のある冒険者が馬揃えの主役をさらわないように‥‥であるかもしれない。

●募集要項は以下
・馬揃えの行進に参加する軍装の冒険者を募集
・軍装が映える、武士、騎士、戦士等の前衛職が望ましい
・徒歩、騎乗、どちらでも構わない
・個性的で、洒脱のきいた、馬揃えを盛り上げるにたる軍装を披露して欲しい
・観客へのアピールも忘れずに
・一番、見事な軍装を披露した者には源徳家より褒美をとらす

●注意事項は以下
・あくまで軍装であること。実際の合戦に出陣し、戦闘に耐えられうる姿でなくてはならない。
・過剰なパフォーマンスの禁止。行進を乱したり、他の参加者の邪魔をしたりしてはならない。
・源徳家の一大行事に参加しているという自覚を持ち、その名誉に傷をつける行為は厳に慎むこと


2.
 この馬揃えには、秩父領主である中村千代丸も参加を命じられた。
「女領主が物珍しいということか」
 千代丸は自分を嘲るように言う。自分が大した勲功を立てていないのは、焦燥感を持つほどに自覚にしている。
「それがない、とは言いませぬ」
「‥‥」
 家臣が否定しなかったことに、千代丸は憮然として黙りこんでしまう。
 これが気心のしれた冒険者であれば、素直に怒り、そしてからかわれて、真っ赤になって恥らいながらも強情を張ってみせるといった微笑ましい光景が出現したことであろう。だが、主従関係である家臣との間では、そこまで素直になれないのが今の千代丸である。
「しかしながら、千代丸様が御馬揃えに招かれたのは、一つには我ら丹党の岩田殿の領地に石田牧があり、軍馬の調達が出来ることがありましょう。これは千代丸様が丹党の代表であると認められていることに他なりません」
「‥‥だとよいがな」
 千代丸は素っ気無い。
「加えて、もう一つ。この御馬揃えで千代丸様が堂々たる様子を披露すれば、鉢形での和平における源徳家が長尾に妥協したという印象を一変させることが出来申す」
 鉢形城の和睦は源徳家が折れる形であったという印象が強く、実際そうであろう。だが、使者にたった千代丸が毅然とした様子で馬揃えに望めば、その凛々しい様子が噂の方向を変える端緒にもなるだろう。
「そういうものかの?」
 千代丸はどこか焦れているようであった。

「冒険者を呼ぼう。今のままの千代丸様では印象を一変させるどころの話ではない」
「名目は?」
「千代丸様の軍装の見立てを行ってもらうというのはどうだろうか? 普段、使われている先祖重代の大鎧も悪くはないが、他にも身につけてくる諸将がいれば目立たなくなってしまう」
 中村家の家臣は密かに相談を行った。


●千代丸様の軍装の見立てが出来る冒険者を募集
・人よりも目立ち、しかし品位を下げない軍装を見立てて下さい
・なにより、千代丸様にそういった軍装をさせる事を納得、あるいは勢いで押し切れる冒険者を募集
・千代丸様には正規の家臣達が随伴して、馬揃えに参加します

●今回の参加者

 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea2011 浦部 椿(34歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3529 フィーネ・オレアリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)/ オルステッド・ブライオン(ea2449)/ 山本 建一(ea3891)/ フレイ・フォーゲル(eb3227)/ 鬼切 七十郎(eb3773)/ レオーネ・オレアリス(eb4668

●リプレイ本文

●準備・千代丸編
 御馬揃えをしばらく後に控えた、その日。来客があるというので、中村千代丸(ez1042)が江戸で逗留している宿で用意された一室に赴くと、そこには見知った顔の冒険者と始めて会う欧州人の冒険者がいた。
「久しいな、千代丸殿」
「おお、久しいの。江戸にいるのを聞きつけて、わざわざ訪ねてくれたのか? すまぬの、江戸におるというのに、酒場にも挨拶にも行かず‥‥」
 見知った顔である浦部椿(ea2011)に千代丸はにこやかに話しかける。
「御馬揃えに参加するのであろう? 名誉なことではないか。それで忙しいのであれば、皆も祝いこそすれ、怒りはすまい」
 椿は千代丸の言葉を遮り、逆に寿ぎの言葉を送る。
「そのことよ。私が女領主であるから、物珍しさに見世物になるばかりではないか。源徳の名だたる武将が集まる中で、たいして‥‥功をも立てていない私がどうして参加できようか?」
 千代丸は苦々しく答える。
「功が無きを焦るのは武家の身として当然のことだがな、勝敗は兵家の常。焦りから徒に将兵を損なうことこそ、恥と知れ」
 椿はずけずけと千代丸に手厳しい言葉を投げつける。これは家臣には出来かねることである。冒険者仲間、そして友人としての対等な立場にある者同士の会話である。
「‥‥と、どこかの兵法の大家が言っていた。まあ、今日来たのは他でもない。その御馬揃えのためだ」
 椿が本題を切り出した。
「御馬揃えの為に? では、そちらの者もその為にか? と、申し遅れたの。私は中村千代丸だ。よろしくな」
「いえ、私こそ申し遅れました。私はジークリンデ・ケリン(eb3225)、欧州のウィザードです。この度は千代丸様が御馬揃えに参加するにあたり、その為の軍装を見立てて欲しいとの要請がございまして参上させていただきました」
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)は恭しく頭を下げて来意を告げた。
「軍装を見立てる? そんな話は聞いていないぞ?」
「うむ、家臣方を通しての依頼であったからな」
 椿が答える。
「だいたい、先祖重代の大鎧もある。無駄に飾り立てる必要もあるまい」
「いえ、千代丸様。この晴れ舞台にいつも通りの鎧では、あまりに無策でしょう。軍装はお洒落であり、戦場にあっても優美さを誇る為のもの。まして、御馬揃えは人々に勇姿を魅せる為のものです」
「大鎧も勇壮華麗ではあるがな、それだけに他の諸将も着用するものは多かろう。どうせ、女武者で見世物になると思うなら、開き直って人々の度肝を抜くくらいのつもりで行け」
 ジークリンデと椿は渋る千代丸を焚きつけようとする。
「いったい、どんな格好をさせようと言うのだ?」
「多少、嫌だと思うことでも、エレガントに、涼やかにこなしてみせるのが、貴人たる者です」
「‥‥だから、どんな格好をさせるのか言うてみい! どんな格好でもやると言うておろう!」
 なおも挑発的なジークリンデの言葉に業を煮やした千代丸は声を荒げて床を叩いた。
「よし、言質をとったな」
「ええ、とりました。どんな格好でもなさって下さるようで、楽しみです」
「なっ!? あっ‥‥!」
 千代丸があくまでも拒否することを強引にやらせるのは気がひける。だが、勢いで言ってしまったこととはいえ、本人が承諾した以上は遠慮は無用である。武士に二言はなし。
「千代丸殿、もっと落ち着いて状況を読まねば、家臣も不安に思うぞ?」
「う、うっかりした訳ではない! 私はおぬしらの顔を立てただけであって‥‥」
 顔を真っ赤にして反論する千代丸。
「もっとも、その腰の刀、その紙縒りが残っているところを見ると、噂のほうは心配ないようだがな」
 源徳に対する謀略であろうか、近頃、源徳麾下の領主達によくない噂が広がるなどの事態が起きている。千代丸にも無闇に家臣や領民を斬りつけるなどといった噂も立った。だが、千代丸の友人がその佩刀の鍔にかけた紙縒りが残っていることが、噂のような短慮をしていない証拠であった。
「では、私達は一度お暇しまして、後日、準備を整えてから改めてお伺いします。どうぞ、楽しみにしていて下さいませ」
 ジークリンデはそう言って、椿とともに部屋を辞したのであった。


●準備・レイナス・フォルスティン(ea9885)編
「さて、どうしたものかな?」
 レイナスは御馬揃えに参加することとなったが、具体的にどのような軍装で参加するのかを考えていた。
 小船町のレイナスの長屋はすっきりしたものであるのは、あまり色々な武器を溜め込まない性質であるからだろう。長屋の中に、人の目を引けるような装飾品や珍しい武器の類などはなかったようである。
「‥‥六十一両か」
 ナンパが好き、すなわち女性の注目を集めることが嫌いではないレイナスにしてみれば、この六十一両の元手を使って江戸の女性達に注目を集めたいところである。
「いらっしゃい! 今日はどんな用だい?」
 とりあえず、やってきたのは越後屋である。
 店の中に並べられた鎧や兜を眺める。当然ながら、それは全てジャパンの風土に合わせて作られ、発展してきた武装である。
 武者鎧が三十五両、武者兜が十両、買って買えないことはない値段ではあった。もともと見た目にも鮮やかなジャパンの鎧はそれだけで見栄えがすることだろう。
(「だが、他の人間も使うだろうしな。この国の流儀はこの国の人間に任せるべきか」)
 レイナスは並べられた商品を見ながら考えていると、並べられた鎧の一部に黒塗りの革が使われていることに気がついた。
「ふむ」
 それを見たレイナスは何か思いついたようである。


●準備・フィーネ・オレアリス(eb3529)編
 生業が飛脚というのは、この怪獣のことではないのか?
 御馬揃えの情報を集めてきたフィーネの友人は、彼女の長屋に繋がれているグリフォンの偉容を見て、そう思った。驚くべきことに、この怪獣は人間を乗せて空を飛ぶことが出来ると言うのであるから。文字通り、飛ぶように手紙を運んでくれそうだ。
「暗い話題が多かったので、江戸の皆さんに明るい話題を提供して差し上げたいですね♪」
 レイナスとは対照的にフィーネの長屋は色々なアイテムが多く収納されていた。
「こう物が多いとどれにするか、困ってしまいますね」
 引っ張り出した様々な武具道具などをひっぱりだして、物色していく。
「今回の御馬揃えは軍装、合戦の時に使われる装備が好ましいのでしたね。戦場ではどこから流れ矢が飛んできたり、死角から繰り出された槍に気付かないということもありそうですよね」
 合戦と言う舞台を想定しながら、武器、防具を選んでいく。
「つまり、冒険者として身軽に動き回れる装備とは別種の装備が必要で‥‥。多少、重くなっても、堅牢さと‥‥その中にも女性らしいお洒落を忘れてはいけませんね」
 武器甲冑に加えて、装身具の物色を始めるフィーネであった。


●準備完了・千代丸編
 数日後、それぞれに調達を終えた椿とジークリンデが千代丸のもとへやってきた。
「では、用意してきた品をご覧下さいませ」
 千代丸の家臣に手伝ってもらい運び込まれた鎧櫃をジークリンデが示す。
「おや? ジークリンデ殿も鎧を?」
 そう言って椿が取り出したのも、鎧櫃であった。
「あっ、そういえば、お互いに相談するのを忘れていました!」
 ジークリンデと椿のうっかりは、互いに相談することを忘れていたことであった。
「とにかく、二人ともそれを並べてみよ」
 結果、二両の鎧が千代丸の前に並べられた。
「軍装を白色に統一した『白揃え』というのは如何か? 他の大概は黒や赤である中で、白一色の軍装はさぞかし目立つことであろう」
 椿の用意してきたのは武者鎧『白絹包』を基本に、『白鳥羽織』を陣羽織代わりとし、その他、武具馬具にいたるまですべて白尽くめである。
「しかし、白一色では死に装束を思い浮かべぬか?」
「いや、白は吉色でもあるぞ? 例えば、白無垢などがそうであるし、神職なども白を使っていることは多い」
「し、白無垢?! だ、だれが花嫁になるのか‥‥」
「花嫁はともかく、白無垢に付加される「白」の清らかな印象は千代丸殿の年頃の娘に相応しかろうと思ったのだがな」
 椿は笑って答えた。
「では、次はわたくしが用意いたしましたものを」
 ジークリンデが取り出したのは、烏帽子兜に西洋甲冑のナイトアーマーである。烏帽子は烏帽子状の形をした変り兜で、ナイトアーマーは欧州で上級の騎士が好んで使う装飾性と堅牢性を兼ね揃えた板金鎧である。
「ナイトアーマーの持つラインと装飾の美しさと、烏帽子兜による自己主張で他の武者を圧倒いたしましょう」
「欧州の鎧とは‥‥これはまた珍しいものを‥‥」
「こちらの騎士の鎧は献上させていただきます。それとこちらのダイヤモンド、ジャパンでは金剛石でしたか。この欠片を装飾に用います」
 ジークリンデは自らが持ち込んだ鎧を説明してみせた。
「それにしても‥‥どうしましょうか? 千代丸様はどちらの鎧をお使いになりたいと考えますか?」
 二種類の鎧を見て、困ったと言う風にジークリンデは腕を組んでみせる。
「‥‥そうだな、せっかくの二人の好意なればっ!」
 果たして、千代丸の出した結論とは?


●準備完了・レイナス編
 レイナスは仕立て屋を訪れていた。
「あっ、これはレイナス様。ようこそいらっしゃいました」
「頼んでおいた物は仕上がっているだろうか?」
 レイナスを恭しく出迎える仕立て屋の主人。御馬揃えにのぞむ為の衣装をレイナスから発注を受けていた。
「いかがでございますか? 遠い異国の衣服を仕立てるのは初めてでございましたが、限りなくご希望に添えたものと思います」
 主人が取り出したのは、レイナスの故郷の服を模したものであった。
「いや、よく出来ている。それによい黒色だ」
 レイナスが惚れ惚れとしたのは、彼独自のアイデアで、真っ黒に染め上げられた生地の色であった。その生地でレイナスの故郷の衣服を模した服を作ったのである。
「太刀の拵えの作り直し、革鎧のほうも進んでいるだろうか?」
「はい、進んでいると聞いています。刀身はともかく、ぱっと見にはお国の剣のように見える物を作り上げると張り切っております」
「そうか、仕上がりを楽しみだな」
 果たして、レイナスが考えている軍装とは?


●準備完了・フィーネ編
「これはこちらの方がよいでしょうか?」
 獅子の彫刻をあしらったマント留めの位置をああでもない、こうでもないと悩むフィーネ。
 フィーネは自分の所有物の中から御馬揃えに参加する為の装備を選びだした。彼女は東西を問わない珍品や貴重品を相当数保有しており、その選び出した装備品は非常に華やかなものであった。
 後はそれを如何に涼やかに着こなせるセンスがあるかどうかであった。
 果たして、どんな姿を披露してくれるのか?


 御馬揃えは目前と迫っていた。

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