渋ールになりたい!
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:12人
サポート参加人数:6人
冒険期間:07月23日〜07月28日
リプレイ公開日:2006年08月01日
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●オープニング
迫り来る山鬼の巨体。
逃げ回るのはシフールのちっちゃな身体。
「うがああぁっ!! うがっ! うがっ!」
「きゃあああっ!! きゃっ! きゃっ!」
山鬼の振るう棍棒が唸りをあげるが、そこはシフールの身軽さが棍棒の速さに勝る。
「み、みんなはまだなの〜〜!?」
逃げるシフールは高い回避能力を見込まれた囮役である。一口サイズ(?)の美味しそうな食事を見つけた山鬼は、見事に釣られてシフールを追いかけまわしている。
「待たせたな‥‥」
ゆらりと木陰から、中年の浪人者が現れる。シフールの仲間の冒険者である。
総髪の髪を無造作に束ね、濃い髭の奥には微かな笑みを浮かべた口元、山鬼を射抜く鋭い眼光。彼のゆったりとしながら隙のない立ち居振る舞いで、着流しに草履という軽装が涼やかな男ぶりを見せている。
腰に差したままの刀の柄に手をかけて低く構えた。
「うわああ、待ってたよ〜〜!!」
「騒ぐな‥‥すぐに終わる」
光が閃いて目蓋の裏に焼きつき、澄んだつば鳴りの音が耳に深く響いた。
シフールが我に返った時には、首と胴が斬り離された山鬼の巨体がその場に倒れ付していたのである。
「夢想流‥‥居合い術」
何の照れも衒いもなく、浪人者は言うのであった。
「とにかく、その様子がとってもかっこよかったのですよ〜〜!!」
冒険が一段落して、江戸に帰ってきたシフールのメリー・プリルは、先の浪人者に夢中になってしまったようだ。
「冒険者になったからには、あんな風に渋くてかっこいい人を目指したいのです!!」
熱く語るメリーであるほどに、その落ち着きのない様子は渋くてかっこいいから離れていくような気もしないではない。
「渋くてかっこいいシフール‥‥‥‥そう、渋ールなのですよっ!!」
で、渋ールになるためにメリーが何をしたかといえば、向かったのは冒険者ギルドであった。
「手代さん、その依頼、張り出すのちょっと待ってくださいです!」
折りよく、手代が張り出そうとしていたのは山鬼退治の依頼である。ややこしい裏の事情が存在しないのはありがたい。
「その依頼に私のお願いを付け足して欲しいのです!」
メリーは一部の冒険者がそうであるように、そこそこの小金持ちであった。山鬼退治の依頼に報酬を上乗せすることを簡単にやってしまえた。加えて吟遊詩人を一人雇いいれる。
「これで渋ールになる準備は整ったのです!」
上記の用を整理すると、ただの山鬼退治は妙ちくりんなものに変じていた。
・目的
1.山鬼×6を撃退する
2.メリー・プリルを渋ールにする。
「1はともかく、2はなんなんです?」
「一緒に来てもらう吟遊詩人さんに見てもらう為の、あたしの渋くかっこいい活躍を。お膳立てして欲しいのです」
何ともふざけた注文であった。
上記に加えて、吟遊詩人の護衛にも気を使わねばならないだろう。
「まあ‥‥あなたが依頼を受けて、その中でどのように振舞うのも自己責任ではありますが‥‥」
手代は言いながら、張り紙に書いてある募集する冒険者の人数に修正を加えた。
メリーの願いを叶えるにせよ、わがままを嗜めるにせよ、単純な山鬼退治の依頼よりは難しいものになるに違いなかったから。
●リプレイ本文
●渋ールとは?
山鬼が住み着いたという村へと向かう途上でのこと。
渋ールとはなにか? という議題で冒険者達は盛り上がっていた。
「渋いシフールさん‥‥ですかぁ? そう言うのは見たことも聞いたことありませんが‥‥」
「渋ール‥‥ひ、ひょっとしてコレは、山鬼よりも強敵でござるか!?」
メリーの我侭とも言えるような追加の依頼に、首を傾げるレラ(eb5002)、戦慄を覚えるファブニール・グラビル(ea4217)など、反応は様々であったが‥‥。
「メリーさんを活躍させれば良いんですのね?お任せですの♪」
柚月由唯乃(eb1662)は軽く請け負ってみせたように、メリーの依頼そのものを拒絶する者はいなかった。皆、それぞれに困難を自覚しつつもメリーの願いを叶えようと必死に頭を捻っていた。
「う〜んとね〜、ちょっと違うの〜」
「そうだな、メリー殿がなりたいのは渋ールであって、ただただ活躍するというだけであるなら、メリー殿本来の持ち味を活かした活躍はきっとしていたことであろう」
上杉藤政(eb3701)が指摘する。
「ああ、活躍そのものもさることながら、ご自分自身を変えたいということですのね。そういう時は形から入ってみるのも一つの手ですわ。姿というのは自分自身をイメージする重要な要素ですし、また周囲の見る目、接する態度が変ることで自身の意識も移ろいゆくものですわ」
さすがに説法は得意というわけか、僧侶であり巫女である由唯乃が言う。
「なら、そのアドバイスに従って、メリーさんの衣装を渋い感じにコーディネートしましょうか。やっぱり派手な装飾の無い落ち着いた格好が渋さを引き立たせると思うんですよ」
そういってシャリオラ・ハイアット(eb5076)が用意したものは、渋茶色の小さな着物とまっさらの布であった。
「こちらは「渋い」色を選んでもらって誂えたもので、こちらはサラシです。これを胸にまきつけた上で、胸元をはだける感じにしてはいかがでしょう?」
(「似合う似合わないは別として‥‥」)
心の中でそっと付け加えたのは秘密であった。
「爪楊枝か葉っぱを咥えているのって、渋いかもしれないわね。いい小道具だわ」
というや、酒月彩羽(eb5469)は道端の木の梢の先端を薙刀で切り払った。
「ほら、咥えてなさい」
先端に少しだけ葉っぱのついた小枝をメリーに渡す。
「これ以上は、体力的にきついでしょうか」
「そうね。あんまり飾りに拘って活躍できないのは渋くないわよね」
かくて、シャリオラと彩羽の見立てによって、外見上は渋ールと呼んでもいい程度のものには仕上がる。
「うわ〜うわ〜、これはかっこいいですよ〜☆」
外見上渋ールはきゃっきゃと嬉しそうに飛び回る。中身はまだ、普通のシフールのようであった。
「きゃーきゃー五月蝿いよ。もっと静かにできんもんかね」
「あっ、ごめんなさい〜〜」
鎖堂一(eb4634)がたしなめるのを聞いて、目の見えない鎖堂にはメリーの騒がしさが余計に気に障るのかもしれない、と考えたメリーは謝る。
「嬢ちゃん、俺のことはことはどうでもいいさ。だがね、渋くなりたいと思っているなら、その無駄口を減らしな」
鎖堂はこっそりと薄目を開け、メリーの位置を把握すると、手にしていた杖の先端をメリーのサラシを巻いた胸元に突きつけた。
「は、はわわっ‥‥」
メリーの表情が面白いことになっているを想像しながら、鎖堂は再び目を固く閉じる。本当は目が見えることを気取られない為である。
「その語尾を伸ばすのは、渋さとはかけ離れているんじゃないかしら?渋い人なら語尾は『‥‥』って寡黙さをアピールすべきと思うわよ?」
彩羽が言う。
「結局、メリーは件の浪人の何に憧れたわけだ? その辺りははっきりさせておきたいな」
シンハ・アルティノ(eb4922)がメリーに問いかけると、それまで鎖堂に杖を突きつけられて「はわわ」となっていたメリーは瞳を輝かさせて答えた。
「はわわ‥‥鎖堂さんも渋くてかっこいいのぉ〜〜☆」
「よし、わかった。渋ールとは鎖堂殿のようになることなのだな? 参考にさせてもらおう」
鎖堂を見ながら、小野志津(eb5647)が言う。
「おいおい、勘弁してくれ」
呆れたように鎖堂が返した。
「話を聞いた感じだと、やっぱり渋く〜って言ったら、口数少なくで敵を一撃で屠ることだよね」
シャロン・リーンハルト(ea0387)が最初にメリーが憧れたイメージからそういう答えを出す。
「でも、ここぞと言う時には見事な台詞、それも渋い台詞で決めたいものですね」
「う〜ん、そうだねぇ。こういうのはどうかな?」
シャリオラの意見を入れて、ゴニョゴニョとメリーに耳打ちをするシャロン。
「‥‥昨日なんて、昔の事は覚えてない…明日なんて、未来のことはわからない‥‥」
シャロンの考えた台詞をメリーな精一杯のニヒルな笑みと共に言ってみせる。
「そりゃ、シフールだからの」
ファブニールが即答する。
「あ〜あ〜、酷いこといったぁっ!」
「ちょ、ちょっと、台詞を考えたあたしの立場はどうなるかな?」
メリーとシャロンが抗議の声をあげる。
「やれやれ、私のような吟遊詩人は、昨日よりも古い過去の出来事を記憶て、語り継いでいくものなのに。シフール全てをそのように括られるのは心外ですね」
ウィルフィン・シェルアーチェ(eb1300)が年齢の割り、シフールの割りに落ち着いた態度で頭を振った。
●実践‥‥もとい、実戦
「メリー、渋さとは不言実行の精神だ。無駄口を叩かずに行動で示すんだ」
そう言って、穴を掘っている姿は渋く決まっているのだろうか? エアニ(eb5014)の示した渋さ像である。
「なに、アレが出来るなら、後は不言実行あるのみ。渋いかどうかは知らんが、武辺者の生き様を見せてやれ」
シンハが指し示した先には太めの樹が一本。その中ほどにある少し多き目の樹の洞。その中にメリーの投げた手裏剣がすっぽりと突き立っていた。
「やはり上からの捜索は難しいようです」
シンハが張ったロープを伝って樹上からレラが降りてくると、残念そうに言った。レラはシンハのサポートを受けて、高い樹の上から遠くの物を見る魔法を使って山鬼を探索していたのである。が、季節柄、深い緑に覆われた森の中を探索するのは難しかった。
「こちらから森に入っていくしかないか」
エアニは言うと、身体をほぐしはじめる。
「脚、移動に自身がある自信がある奴が探索と囮を兼ねる。上手く罠がある、この辺りまで誘き出すぞ」
シンハが言うと、志願する冒険者達が前に出てくる。
「メリー達はこの辺りで待っててね。ここぞっ、って一瞬を作ってみせるから」
「では、互いの姿を見失わない距離を保ちつつ、不振な痕跡がないか目を凝らしていきましょう」
ウィルフィンの言葉で冒険者達は森の奥へと踏み出していった。
「ぐああぁっ!」
「ぐあ♪ ぐあ♪」
山鬼が咆哮する、またある山鬼はシャロンの超越的な演奏に釣られるように不器用な旋律を口にしていた。
前者はシンハ達を追いかける山鬼で、後者はシャロンの魅了する魔法が効果を発揮した結果であった。
「無理はするな。今は戦うばかりが仕事じゃあないぞ」
「‥‥ああ、そうだったな。だが、もう少し血の匂いもいるだろう!」
エアニの掛け声を聞きつつも、シンハは山鬼にむけて蹴りを放つ。上手い具合いに蹴りが山鬼の顔に命中し、鼻から血が噴出す。
「この血の臭いに‥‥釣られてくるものだろうか?」
痛みに猛る山鬼の棍棒を受け流すとすばやく向きを変て、山鬼との距離を広げる。
「ほらほら、こっちこっち♪」
シフールの竪琴から美しい旋律を奏でつつ、木立の隙間を飛びぬけていく。魅了の魔法により山鬼はシャロンに友好的な態度になっていた。故に楽しげな音を発するシフールの招きに応じているのであった。
「すべておびき寄せられていないですが‥‥各個撃破も戦術‥‥ですね」
ウィルフィンが多くない数の山鬼に誘導がすべて成功したわけでないことを悔しく思った。
「来た‥‥!」
茂みを掻き分ける音と山鬼が吼える声が聞こえてくる。メリーの手裏剣を握る手に力が篭もる。
「落ち着け。真打は後から皆の窮地を救うものと相場は決まっている。鎖堂殿やファブニール殿が先だ。よいな?」
「うん‥‥っじゃくて、『ああ、わかってる、嬢ちゃん』‥‥」
うっかり普段どおりの言葉使いになるのを、懸命に練習した台詞に変える。
「来ました」
魔法で視力を増幅させていたレラが声をあげる。
「いくでござるよっ!」
「ボク達よりも、メリーの戦いぶりをちゃんと見ててよねっ」
「やれやれ、いくとするかね」
ファブニール、彩羽、鎖堂が前へ進む。
「敵はとりあえず、三匹だ! 入れ替わりで囮役は一息つくといい!」
藤政の指示が飛び、囮役と前進した戦士達が入れ替わる。どこかで山鬼が一匹合流したものらしい。
「ぐあああぁぁっ!!」
一際大きな山鬼の叫び声が上がる。
「よし、罠にかかったでござる!」
「敵を切り崩せっ! その漆黒の牙で! 牙狼ォー!!」
罠にかかり、悲鳴をあげる山鬼達に冒険者達が踊りかかった。
「何匹相手にしても構わんと思っていたが‥‥一匹だけとは少しばかり寂しいね」
鎖堂が握った杖が煌く。次の瞬間には、またただの杖に戻っている。抜く手も見せぬ、鮮やかな居合い術であった。
「ぐぎゃああっ!?」
山鬼は自分に何が起きたのかもよくわからず、痛みに身をよじらせる。
「くっ! 攻撃が重いっ!」
一方で苦戦していたのは彩羽である。山鬼の攻撃に鋭さはないが、その膂力に任せて振り回される棍棒は存外に速い。そして、単純ゆえに暴力的な破壊力を秘めている。
山鬼が彩羽を狙って、棍棒を大きく振り上げる。
「うわわっ!」
だが、その瞬間、太陽の光を収束したかのような閃光が山鬼と彩羽の隙間をなぎ払った。
「嬢ちゃん‥‥待たせたな」
ゆらりとメリーが飛んでくる。
「ぐあああぁぁっ!!」
山鬼が向きを変え、メリーに向かって咆哮する。だが、それはメリーにとっての好機であった。
「みえたッ! 水の一滴!」
全身の筋肉を使って、手裏剣を振り回すように投擲する! ファブニールの鍛冶の腕前によってバランス調整された手裏剣は、メリーの意思が乗り移ったかの如く、正確に山鬼の口の中に滑り込んでいった。
咽喉の奥を掻き切られて山鬼はどうっと地にひれ伏した。
「きゃあああぁぁぁっ!!!」
その時、背後から悲鳴が上がった。シャリオラの声である。
「しまった、残りの三匹が向こう側にっ!」
ウィルフィンは残る山鬼が予想外の方角から出現したことに歯噛みずる。
「メリー様っ! 次の手裏剣です」
戦闘能力に乏しいレラが預かっていたメリーの手裏剣を手渡す。
「あんた、落ち着けっ! まず、俺達が相手をする!」
シャリオラに声をかけるシンハが山鬼へ向かっていく。それに続くのはエアニである。
シンハの呼びかけで正気を取り戻したシャリオラは急いで後退する。背後からの一撃を受ける恐怖を感じながらも、とにかく全力疾走である。
「‥‥べ、別に悲鳴を上げたのは、怖いからではなくて‥‥メリーさんを盛り上げる為の‥‥」
「どっちでもいい」
無表情に答えたエアニは握った二刀を巧みに操り、山鬼の硬い筋肉の隙間へと滑り込ませる。だが、山鬼の生命力は強力な部類である。必死に反撃の棍棒を繰り出そうとしたところを、
「させません!」
由唯乃の放った一矢が山鬼の動きを制する。
「下品な大口を開けるな、怪物‥‥」
そこへメリーの止めの一撃が、やはり山鬼の口の中に投げ込まれたのであった。
●渋ールへの道
山鬼6匹中、二匹の止めをさしたメリー。
シフールのレンジャーの戦果としては、かなり大きなものであろう。
「きゃ〜っ、やったよ〜♪ 『みえたっ、水の一滴‥‥』‥‥うわぁ、かっこよかった〜☆」
見事渋ールとして活躍したのも束の間。メリーははしゃぎまわっていたのであった。
メリーはまだ、渋ールへの道を駆け上がり始めたばかりである。