横穴の小鬼達

■ショートシナリオ


担当:恋思川幹

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:5人

サポート参加人数:5人

冒険期間:09月02日〜09月09日

リプレイ公開日:2006年09月16日

●オープニング

 北武蔵では長尾四郎左景春が再び兵を挙げて、源徳家との交戦状態に陥った。
 景春に味方する武蔵武士も現れて、情勢は混沌としている。

 だが、怪物達には人間社会の情勢など関係のないことであった。
 北武蔵の領主達が合戦に動員されて、治安能力が低下すると小鬼や犬鬼といった簡単に駆逐されてきた怪物達による被害さえも多くなってきたのである。
 小鬼や犬鬼といった怪物の退治であれば、駆り出されるのは駆け出しの冒険者達である。

「あの小鬼達は横穴に篭もっちまって、でてこねぇんだ」
 そう語ったのは小鬼に被害に悩まされる村人である。
 武蔵国北部の比企氏の領内にある大谷村。この地域には古くから謎の横穴が多く存在する。山の岩肌をくりぬいたもので、誰が、いつ頃、何の為に掘ったものであるかは不明のままである。
 穴そのものの来歴はともかく、その小鬼が住み着いてしまったことが問題であった。
 入り口の直径が1m少々、中はもう少し広くなっているが、奥行きは2〜4mほどである。これは小鬼やパラでギリギリ戦闘行動が可能な広さであり、ドワーフや人間、ましてやジャイアントには狭すぎる。シフールに限定空間での格闘戦を強いるのは酷であろう。
 そういった意味でゴブリンが立て篭もるには、格好の要害なのである。従って、冒険者も小鬼相手と侮ることは出来ず、戦術的工夫なしには多いに苦戦を強いられることになる。

 今現在、大谷村の村人達は横穴の近くにある寺に避難している。寺の住職と僧兵を志す修行僧が協力して小鬼達を追い払っているのであるが、事態を打開する決定打とはなりえない。
「一匹だけ、飛びぬけて強い鬼がおる。あれはわしらにはどうにもならん」
 住職はそのように語っていた。
 このまま、避難生活が長引くと生活に困窮する恐れがある。
 ―――早急なる冒険者の救援を請う。

●今回の参加者

 eb0216 物部 楓(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5014 エアニ(25歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb6466 スムレラ(29歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb6468 霧賀 寧助(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb6471 武 蔵(29歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

アド・フィックス(eb1085)/ 柚月 由唯乃(eb1662)/ 楠井 翔平(eb2896)/ 緋宇美 桜(eb3064)/ 酒月 彩羽(eb5469

●リプレイ本文

「参ったな、途中ではぐれたままか‥‥」
「仕方ありません、今の北武蔵ではああいった小競り合いが頻発しています。危険を避けることを考えれば‥‥」
 エアニ(eb5014)が言うのは江戸を発つ時には5人いた冒険者が、大谷村についた時には3人になってしまっていたことである。原因は物部楓(eb0216)が言う頻発している小競り合いである。
 移動中に小さな小競り合いに遭遇し、巻き込まれるのを避ける為に二手に分かれたのであるが、合流に失敗してしまったのである。
「あの二人も心配ですけれど、仮にも冒険者ですから何とかすると思います。それよりも、今も困っている村の方々を救うのが先決です。三人だけでもやるべきことはやるべきです」
スムレラ(eb6466)が決意を口にする。上品に見える風貌からか、その様子には迫力が篭もっている。それは粗野で暴力的なものとは違って見えた。


「楓さん! 他の穴から小鬼が!」
 スムレラの声が楓の耳に届く。
 エアニの提案で、山肌、岩肌を迂回して横穴に取り付いたエアニと楓。コロポックルのエアニが横穴に突入し、人間の楓が外で警戒、戦闘能力に乏しいスムレラが麓から全体を眺めていた。
「腹背に敵がいるのは、正直苦しいですね」
 神皇より賜りし術によって炎を待とう刀を握り締めて、緊張の面持ちを隠せない楓。相手は小鬼といえども、複数の敵に囲まれては対応しきれない。
「‥‥んっ! 小鬼くらい凌げなくてどうしますか!」
 自分を叱咤すると、より手近な一匹に炎を待とう刃を向けた。
「小鬼は臆病な性質‥‥先んじて怪我を負わせれば、それで足ります」
 まだ駆け出しの楓の実力ではあるが、小鬼は人間よりもはるかに身体能力が劣っている。木刀で立ち木に打ち込み稽古をする如く、楓の斬撃は綺麗に小鬼の体を捉えた。
 肉を斬る確かな手応え、炎によって肉が漕げる異臭が楓の感覚器官を刺激する。
「よし!」
 怪物に詳しい楓はこの深手を負った小鬼がこれ以上、雄雄しく戦いを続けることはないことを知っている。
「次ぃ!」
 振り返って反対側の小鬼に対する。待ち構えて小鬼が間合いに入ってきた瞬間を迎えうつ。
「ギッ!」
 だが、小鬼はろくに手入れもされていない、錆のういた斧で容易く受け流す。
「こいつっ! 実戦慣れしてる!?」
 狭い足場で広く間合いは取れないが、打ち込みの間合いから一歩引いて呼吸を正す。もう一度、小鬼に向かって踏み込む。だが、小鬼はその動きを読んでいる。今度は小鬼が楓の先手を取った。
「‥‥! 駄目、かわせないっ!」
「楓さんっ!!」
 スムレラが悲鳴をあげ、楓がそれでも避けようと後ずさりした時、
「あっ?!」
 何かが楓の足に絡まって、楓がその場に転がった。
「ギギッ!!」
 転がった拍子に宙に弧を描いた刀は、小鬼の鼻先をかすめてみせた。
「大丈夫か?」
 横穴から飛び出してくるエアニ。楓の足に絡まったのはエアニが投げた刀の鞘であった。中にいた小鬼はそそつなく倒してたようだ。
「痛いですが‥‥を打っただけです」
 うった場所をさすりながら、楓が言う。
「背中を任せる。俺はこの手強い奴をやる」
「承知しました!」
 間近の穴の小鬼は撃退済みであれば、逆に開けていない地形が有利に働く。エアニと楓が互いの背中を庇いあう戦法は悪くないものである。
「他の穴からも小鬼達がっ!」
 スムレラが警戒を促した時には、既に小鬼の狙いがどこにあるのか、明らかになっていた。組みし易しと見たのであろう。小鬼達が殺到したのは山の麓にいるスムレラであった。小鬼にしては適確な作戦ではあるが、動きが見え見えであった点で所詮は小鬼であった。
「いかんっ!」
「一時撤退です! この状況は分がよくありません!」
 戦闘技術のないスムレラが複数の小鬼に囲まれるのは危険である。
「そのようだ、先にいけ。チュプオンカミクルを頼む」
 エアニは目の前の手強い小鬼を牽制する。
「楓が先に岩肌を駆け下り、エアニがそれに続く。
 スムレラに殺到する小鬼を追い払って、ひとまずその場を脱出したのであった。


「いえ、意外にいけると思います」
 対策を練り直す話し合いの最中、スムレラの突拍子もないと思えた提案を肯定したのは楓であった。
「小鬼は論理的に物事を考える性質を持ち合わせていません。目の前の出来事の一つ一つにその都度ごとに反応し、その都度ごとに見えているものだけで動きます」
「人には見えている罠でも、小鬼には見えないということか」
 楓の怪物に関する知識を聞き、エアニは小鬼というものを考えていた。
「小鬼も反復して経験すれば、学ぶということもあるでしょう。けれど‥‥」
「一度目の経験、その好機を逃す冒険者はいない」
「はい」
「では、私の案で改めて小鬼退治と参りましょう」
 スムレラは笑って言った。


 スムレラは味噌を少しと小鬼に襲われて死んだ牛の肉を村人から譲り受ける。
「シサムの皆さんはお肉を食べないそうですし、小鬼を誘う文字通りの餌にはちょうどよいと思いますから」
 村人達が恐る恐る遠巻きに見守る中、スムレラとエアニの二人で牛の肉を切り分けていく。
「そういう不躾な視線で見るものではありません。これは小鬼を誘き出す為の工夫です」
 冒険者として異文化に触れる機会の多い楓が村人達を嗜める。
「私もエアニさんもお料理は出来ませんから、そもそも食べ物にならないですけれどね」
 スムレラは苦く笑う。正直なところ、今やっている作業は文字通りに餌を作る為の作業に過ぎなかった。
「お味噌とお肉で美味しそうと思わせる匂いだけでもだせればよいのですけれど」
 人々の糧となることもできなかった憐れな牛の為にも、この作戦が上手くいくことをスムレラは祈っていた。


『この作戦の為に血肉を分けて与えてくれた牛に宿り下りし神霊に感謝を捧げ、天に送り帰さん』
 楓にはコロポックル語は理解出来ない。だが、神妙なる儀式は、単に小鬼を誘き出すという目的を超えたスムレラの心情は伝わってくる。
「正式な儀式ではない、即興のものですけれど」
 スムレラは少し照れたように言う。
スムレラがよい風の吹く頃合を見測り、楓が味噌を塗りつけた肉を火にくべ始める。
 そして、小鬼の気を引く為に、スムレラは歌を歌い、舞を舞い始める。
「これは‥‥原初の力強さを感じます」
 楓は異文化に属するスムレラの舞に、しかし欧州ほどの距離感を感じなかった。
 楓がスムレラの歌舞に聞き惚れ、見惚れている間に、火にあぶられた牛の肉からは肉汁が滴り落ちはじめ、塗られた味噌の香ばしい匂いとがあわさり、風に乗って小鬼達の篭もる穴へと向かって漂い始めた。スムレラの歌う楽しげな旋律とともに。
「さあ、きなさい。ここに餌があります」
 楓は小鬼達の穴を見据えて言った。
 果たして、スムレラの歌に興味を持ったのか、小鬼が一匹ひょっこりと穴から顔を出した。風に乗って届いたものであろうか、小鬼は鼻をヒクヒクとさせて、やがて歓声のようなものを上げ始める。
「こちらに気付いたようですね」
 楓は遠くに小鬼の様子を眺めて言う。小鬼が集団になって岩肌を駆け下りてくる。数で攻めればどうとでもなるという風であった。
「潮時ですね」
 スムレラは踊りに一区切りをつけると、楓とともに迫る小鬼から逃げるようにその場を退散した。その様子を見て、小鬼は図に乗ったようで、わらわらと終結して牛の肉にありつき始めた。
「あなたの犠牲は無駄にはしません」
 少し離れた場所に隠れて様子を窺っているスムレラが呟いた。
 やがて、小鬼達が十分な時間を食事に費やしたのを見計らって、楓は己が刀に炎を纏わせて、群れの端にいる小鬼を狙って斬り込んでいく。
「やぁっ!!」
 不意をついたことで効果的な一撃を加えられた楓。一匹の小鬼がのけぞって倒れる。
「わあああっ!!」
 スムエラも声をあげ、近くの樹を打ち鳴らして小鬼を威嚇する。元来が臆病な小鬼達のことである。我先にと元の横穴へと向かっていく。
「この道は通行止めだ」
 だが、小鬼達が逃げる先には、エアニが罠を仕掛けて待ち構えていた。小鬼達が餌に貪りついている間に小鬼達の通り道に縄を張っていたのである。単純ではあったが、足をとられた小鬼達は次々と転げまわった。
「すまんが、手早く終わらせてもらうぞ」
 エアニと楓が転倒して動けない小鬼達を退治していく。何匹かは立ち上がって戦闘可能な状態までに立ち直るも、その時には既に数による優位は失われていた。

 村人達は小鬼が相手ながら、圧倒的に少ない人数で勝利を収めた冒険者達に惜しみない感謝の気持ちを送ったのであった。