【上州騒乱】山伏峠奪還

■ショートシナリオ


担当:恋思川幹

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 72 C

参加人数:12人

サポート参加人数:9人

冒険期間:10月27日〜11月03日

リプレイ公開日:2006年11月12日

●オープニング

 山伏峠は江戸と秩父を結ぶ主要な道筋の一つである。
 距離でいえば、正丸峠、妻坂峠の方が短いのであるが、山伏峠は比較的標高が低くて通りやすい道となっている。
 その為、中村千代丸はこの街道の奪還を最優先事項と定めた。この峠の安全を確保できれば、源徳軍の輸送はもちろん、滞り始めている民間の往来も回復することが出来る。
「峠道を通過し、罠や柵の類を一つずつ潰していく。障害となる者がいれば、これをすべて撃退する。朝に名郷の村を出発し、芦ヶ久保まで向かう。二、三度、峠を往復して確実にこれを確保する。これが依頼の趣旨だ」


 秩父に兵站の一翼を担わせる。
 対上州戦が意識され始めた頃から考えられていた案である。
 鉢形城という交通の要所を源徳に叛旗を翻した長尾四郎左景春に占拠されたことで、秩父が上州へ向かう迂回路の一つとして見なされているのである。
 平地を走る中山道が最重要の進軍路であることは間違いなく、山中の曲がりくねった道を通る秩父経由の進軍路はあくまで補助的な役割に過ぎない。
 だが、兵站線を一本の道だけに頼ってしまう危険も考慮すれば、やはり秩父経由の兵站線確保は上州戦の重要要素の一つであるといえる。

「だが、当然ながら敵もそのことには気付いているようだ」
 秩父地方の領主達の武士団である丹党。その惣領家当主の中村千代丸は言う。
 秩父地方は、千代丸がまだ若い女性であり、相続に際してもゴタゴタがあったという不安な要素はありながらも、混乱する北武蔵の中では比較的落ち着いた情勢を保っている。
 これは千代丸の力量‥‥ではなく、丹党の第二勢力である岩田七郎が硬骨漢であり、丹党をよく支えていることが一つ。仮に謀反を企む者がいたとしても、山に囲まれた秩父地方は他の勢力との合流が難しく、反抗勢力が挙兵の機会を得られないのが一つである。
「長尾の息がかかった者達が江戸と秩父との間を分断しようと画策しているようなのだ。山賊や野武士の類を雇い、峠の道に柵を作り、あるいは罠を作り、あるいはそやつら自身が出没する」
 山中のこと、敵が長尾の正規の兵でないこともあり、 実態の把握しづらい敵である。
「それが越後勢の到来で、にわかに数を増している気配がある。ここのところ、峠を往来する馬子や商人、土地の人間が罠などの被害にあるという話も上がってきている」
 千代丸は苦い顔をする。長尾が直接に手を下していることであれば外聞も気にかけるところであろうが、ばら撒かれた金にたかる輩には分別などない。
「峠道の確保は上州征伐の為にも、領民の為にも急務だ。どうか、力を貸してもらいたい」
 それが前述の山伏峠奪還の依頼となったのである。

●今回の参加者

 ea0221 エレオノール・ブラキリア(22歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea0563 久遠院 雪夜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2832 マクファーソン・パトリシア(24歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea6415 紅闇 幻朧(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9913 楊 飛瓏(33歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0216 物部 楓(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3843 月下 真鶴(31歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb5106 柚衛 秋人(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5421 猪神 乱雪(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb7840 葛木 五十六(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ミフティア・カレンズ(ea0214)/ ケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)/ 浦部 椿(ea2011)/ イレイズ・アーレイノース(ea5934)/ 霧島 小夜(ea8703)/ リアナ・レジーネス(eb1421)/ リリーチェ・ディエゴ(eb5976)/ アナトール・オイエ(eb6094)/ ラディオス・カーター(eb8346

●リプレイ本文


 紅闇幻朧(ea6415)は一人、峠道を往く。慎重に、かつ大胆に。
 秋に至った山の景色は紅や黄色に色づき始めている。
 幻朧の役割は斥候である。美しい自然の景色ばかりを楽しんでいるわけにはいかない。その中に息を潜めている、醜い「人間の悪意」を見つけ出すのが彼の役割である。
 紅い瞳、黒い瞳が視線を走らせている。
 既に今までの道筋で柵や罠を解体している。
「!‥‥」
 人の気配を感じて幻朧は身を伏せた。
「山賊どもの気配か?」
 這いつくばって低木の陰に身を潜ませながら移動する。
 そっと道の前方を覗き込むと、今まで幾つかあったような柵が築かれている。加えて垣盾も並べられて、簡易な防御陣地を構成していた。
 罠と違い、柵には直接他者を害する力はない。だが、そこに人がいることで、柵は敵対者に対する悪意を剥き出し、味方に対する慈悲を顕す。
「厄介だな。あの柵を使って守りに入られたら」
 幻朧はそっとその場を離れて、後方からやってくる商人の一行に合流し、状況を説明した。
「困ったね。敵がいる目の前じゃ、解体は難しいね」
 商人一行の中心と思わしき女商人が口に出した通りに困ったという表情を作っている。これは実は変装した久遠院雪夜(ea0563)である。
「秋人が集めていた情報によれば、商人であれば通行料を払えば通すということもあるらしい」
 猪神乱雪(eb5421)が柚衛秋人(eb5106)が集めていた情報をこの場にいる冒険者達に伝える。
「勝手に関所を作るなんて迷惑です」
 葛木五十六(eb7840)が山賊達の理不尽な行動に対する怒りを顕わにする。
「なら、せっかくこの衣装を用意したんだから、使わない手はないよね」
 雪夜がそのように提案する。
「通行料を払って、柵の向こう側へいったところで、奇襲すれば‥‥」
「いえ、難しいかもしれません」
 反対意見を出したのは依頼同伴許可証で参加した物部楓(eb0216)であった。冒険者としては未熟な彼女であるが、武士に必要な作法や教養は人前に出しても恥ずかしくないものである。その中には兵法の心得も含まれる。彼女の地道な努力の結実である。
「この峠道に山賊や野武士が出ることは既に知られています。そこに私と雪夜さん、女二人の商人がのこのこと歩いているのは不自然です。冒険者を連れていれば、なお警戒して柵を通してはくれないでしょう」
 それが楓の意見である。
「襲撃を誘うという分には適切でしたが、あの柵に対する策略にするには難しいかと」
 楓の意見に一同は納得する。
「身の軽い人を使った迂回戦術、あるいは力攻めで柵を打ち壊してなだれ込む。私が思いつくのはそんなところです‥‥が」
 さすがに太守から三度の訪問を受けるほどの神算鬼謀は持ち合わせてはいないので、楓が思いついた作戦はありふれたものである。


「とまれ! ここを通りたけりゃ、出すもの出して‥‥」
 山賊の台詞としてはとても月並みな口上と思いきや、
「と、言いたいところだが、物騒な連中を引き連れてやがるな。残念だが、痛い目を見ないうちにとっと引き返せ」
 少し変わった口上も心得ていたようである。柵越しに槍を構え、弓に矢をつがえている。何もなければ簡単に取り除ける柵に敵意が宿った。
「もとより、話し合うつもりもないわ」
 クールな口調であったが、内容は熱い。マクファーソン・パトリシア(ea2832)の言葉で冒険者達は飛びのく。次の瞬間、マクファーソンの魔法が発動していた。
 冷気と氷の粒が吹き荒れ、山賊達を襲った。咄嗟に垣盾の影に隠れた者、幸いにして効果範囲から免れた者もいたが、多くの山賊達は氷の粒に肌を引き裂かれ、あるいは冷気にあてられて凍えた。
「今よ!」
 魔法がおさまると同時にマクファーソンが声をかけ、冒険者達は柵へ向かって殺到する。柵越しの射撃攻撃が懸念の一つであったが、マクファーソンの魔法の威力から立ち直れず、飛んでくるものはない。
「迎え撃て!」
「山賊の類に容赦はしません!」
 五十六が柵越しに山賊と対峙し、他の冒険者もそれにならう。山賊達は明らかに格下の相手であるが、柵越しに槍を繰り出すという適切な戦法に、その実力差が埋められている。
「新陰流、物部楓、いざああっ!!」
 そこへ刀に炎を纏わせた楓が吶喊してくる。本来なら新米には危険だと制されていたかもしれない。本人も最前列に立つとは思っていなかったかもしれな。
 だが、新陰流の使い手である彼女にしかできないことがあった。
「てええ〜〜いい!」
 柵そのものの破壊。楓に与えられた役割である。柵を破壊するのに適した槌や斧などの武器を持ち合わせなかった冒険者。新陰流の修行は「物」を斬ることから始まる。その技を柵の破壊に役立てようと言うのだ。
 数度目の斬撃で断ち切られる柵の一部。綻びが出来れば、後はそこからなだれ込めばよい。十人分の敵にも相当する柵を破壊したことは楓の殊勲であった。
「くそう! 取り囲んで押しつぶせ!」
「山賊、野武士、鬼面獣心の輩に手加減はいらないね!」
 山賊の一人が叫んだのも空しく、雪夜の言う手加減なしの冒険者に山賊達は本来の実力差を見せ付けられることになる。
「苦戦しているようだな」
 山賊達が一人二人と逃げ出し始めた頃、浪人らしい風体の一団が現れる。
「せ、先生方!!」
 山賊の一人がそう呼んだところを見ると、どうやら用心棒の一団であるようだ。
「少しは骨のある奴もいたようだな」
「ん? 女か? 大層な口をきくじゃないか」
「‥‥っ!」
 下卑た笑いを浮かべた浪人を乱雪は即座に斬撃を繰り出していた。だが、浪人は切先を見切っている。
(「互角‥‥。ただの斬り合いならば‥‥だ」)
 乱雪は刀右腰に刀をおさめて、低く身構えた。
「面白い、左利きか」
 浪人が左腰に刀を差したまま、やはり低く構えた。自然、皆がこの一騎打ちを見守る形となった。こういった一騎打ちの結末が全体の戦いの勢いを決することは、合戦の場においてしばしば見られることである。それは武士の誇りや美徳が為すところであろう。
 じりじりと間合いを詰めていく二人。一足一刀の間合いまで、あと半歩もない。
「ぎゃっ!?」
 その時あがった断末魔は決闘の結果によるものではない。皆が一騎打ちに注視している隙を穿ち、幻朧が別の浪人に仕掛けたのである。目的の為ならば手段を選ばない彼らしい選択といえた。
「ちぃっ!!」
「え? ‥‥あっ!」
 不逞の浪人の方が幻朧に近い思考を持つ。故に事態を理解して焦りを覚えた。一足一刀の間合いに踏み込め切れぬままに抜き放たれる刀。何が起こったのか、理解できなかった乱雪は一瞬の虚の後、浪人の腰のきらめきに気付く。
 半歩の間合いが乱雪を救った。
 乱雪と浪人が交錯し、倒れたのは浪人のほうであった。
「幻朧殿、拙者は今のような振る舞い、納得できません」
 曲がったことを嫌う五十六はそう苦言を呈した。敵を倒しながら、そうする余裕があったのは既に敵の士気が崩壊していたからである。
「‥‥」
 だが、幻朧はあえて何も答えなかった。



 先行班が山賊達を撃破した頃、後続班もそれにあわせて動き出している。
 山中での追跡に長けた楊飛瓏(ea9913)、隠密行動全般を得意とする磯城弥魁厳(eb5249)、二人に及ばないが足を引っ張ることもないと判断された秋人。
 先行班に撃退されて逃げ行く山賊をしずかに追跡していく。
「散発的にではなく、あのように堅固に守りを固めていたとはな。ある程度は組織立てて動いていると見ていいか」
 飛瓏は山岳にも森林にも造詣があり、残りの二人が歩きやすいように適確に道を選んでいる。周囲の様子から山賊達の逃亡ルートもある程度の予想が出来た。山中で選べる道はある程度限定されるものだ。
「まて。あそこを往くのは何者じゃろう?」
 忍びの心得として、視覚に敏感な魁厳が山の稜線近くを指差した。見れば、数人の人影が歩いている。
「‥‥むぅ、山伏のように見えるのじゃが‥‥」
 視力に優れた魁厳だけがその人影の詳しい姿かたちを見て取れた。
「山伏か。ならば、心配ないだろう。山伏峠の名前の通り、近くに修験の修行が出来る山があると土地の人間が言っていた」
 事前情報をよく集めていた秋人がそのように言う。
「こんな時期にか?」
 飛瓏が疑問を口にする。
「山にずっと篭もっていたのかもしれんし、あるいは自力でどうにか出来るという自負があるのかもしれん。山伏は諸国を往来して修行している。護身術の心得もあって不思議はない」
 そうして、三人は山賊の追跡を再開した。小太刀で木々に小さな切り傷をつけながら。

 後続班のそのまた後続は、九竜鋼斗(ea2127)が誘導していく。彼の並外れた視力は先行する飛瓏達が残した樹木への小さな目印を見逃すことなく見つけていく。
「先にいった皆さんは頑張っているようね。よく道を選んでくれてるわ」
 飛瓏が辿った道は後続の人間にも歩きやすいものであった。その心遣いに気付いたのはエレオノール・ブラキリア(ea0221)である。彼女も森林地帯を歩く基礎的な知識があったればこそ、感じることであった。
「終点だ。皆、気を引き締めろ」
 鋼斗が声をかけた。見れば、樹に刻まれた印が今までの一本線だけではなく、交差したものになっていた。
「えっと、飛瓏さん達はどこにいるのかな?」
 月下真鶴(eb3843)が辺りを見回すが、秋人達の姿は見えない。
「向こうに隠れているようだ。いるとわかっていなければ、見逃していただろうな」
「‥‥ん〜?」
 鋼斗が指差した先、真鶴には何も見えなかった。
「逃げ道を塞いでいるんですか?」
「そうだろうな。そして、山賊達の根城は‥‥」
 エレオノールの言葉に答えた鋼斗の視線の先にそれはあった。ちょうど、冒険者達が挟み込んだ形になっている。
「行こう! こちらが攻撃を始めれば、あちらでも連携してくれるよ」
 真鶴がそう断じたので、行動を開始する。終点の位置は先行する側が指定した位置である。到着した時点で相手も気付いているはずだった。

「鬼道衆が一人‥‥『抜刀孤狼』、九竜鋼斗‥‥参る!」
 猟師や樵の休憩小屋を増築したものであろうか? 山賊達の根城は意外に広く作られている。もっとも、大人数で厳つい男達が狭い小屋にひしめき合っているのも気持ちのいいものではないだろう。
 真っ先に飛び込んだのは鋼斗である。狭い空間にあわせて選んだ小太刀が鞘と宙を往復する度に山賊の悲鳴と鮮血が飛び散った。
 外に見張りを置かないほど山賊も愚かではなかったが、
「夜の帳よ心に落ちよ、彼をひと時休ませたまえ」
 その見張りは既にエレオノールの魔法により眠らされてしまった。
「‥‥あっ、反対側にも出口が!!」
 真鶴は鋼斗の背中を守り戦っていたが、山賊達が外に逃げるのを見た。
「目の前の敵に集中すればいい!」
 そう、外には心強い味方がいるのだから。

 逃げ出した山賊達の前に立ちはだかったのは、飛瓏、魁厳、秋人の三人である。
 それもただ立ちはだかったのではない。魁厳の罠にかかり、無様に先頭が転んでいた。
「思うとったよりもあっさり引っかかったのう。せいぜい、足止めと考えておったのじゃが」
 魁厳の現実主義は自分の実力を決して過大評価しない。であれば、魁厳の思う以上にエレオノール達が頑張ったということであろう。
「‥‥ぐえっ!」
 身のこなしの軽い飛瓏が、罠にかかって転倒している山賊の身体の上に飛び乗る。
「民を安んじず非道を振るうは許せぬ行為。その報い、ここで受けさそう」
 山賊の身体という不安定な足場で、その後続を相手に身構える。
「くそぉっ!!」
 対峙した山賊が上段からの大降りに刀を振り下ろす。飛瓏があっさりと避けた為、刃は倒れていた山賊に深く食い込んだ。山賊はそれを引き抜けずにまごついた。
「ふっ!」
 短い気合いとともに、神の腕を模した武器が山賊の顔面にめり込んでいた。
 残る山賊は一人。もう道も何も関係なしに逃げ出したのを秋人が追った。
「もう諦めて縛につけ! 裁きの間くらいは生きていられるだろう」
 降伏を呼びかけるのに、余計な一言を加えてしまった。それでやけくそになったのだろうか、山賊が刀を振り上げて襲い掛かってくる。
「この上もなく、憐れな様だが‥‥今日は槍ではないのでな、手加減は出来ん」
 秋人の得手は槍である。だが、山中という戦場の条件を考えて今日は十手と小太刀を得物に持ってきていた。
 憐れな山賊の最期の一撃は十手で受け流され、小太刀の一撃でその恐慌に終わりを迎えたのであった。



 芦ヶ久保まで無事に辿り着き、名郷に戻る往路でも再び山賊との戦闘が起こった。どうやら別の集団であったようで、最初ほどには態勢も整えられておらず撃破に時間はかからなかった。
 名郷に戻ると、出迎えたのは中村千代丸と足留めを受けて冒険者に期待をかけていた商人達であった。
「千代丸さんのお役に立てたかな?」
「うむ、こうして無事に戻ってきてくれた。それが何よりだ」
 雪夜が千代丸の元に駆けつけて言う。千代丸が最初の往復に加わらなかったのは、秩父領主ということで顔を知られていては、正体を隠しての囮作戦に支障がでると思われたからだ。依頼している期間中、あと数往復することになるが、それには千代丸も同伴することになる。冒険者が峠道の奪還に動いていることは敵にも遠からず知られることにはずであるからだ。
「ともあれ。村の者達に頼んでささやかながら宴席を設けさせた。今日のところはゆっくり英気を養ってくれ。明日は商人達を秩父へ送り届けなくてはならん」
 その夜、エレオノールの歌声が山間の小さな歌に響き渡った。

 翌日以降の峠道でも山賊達の襲撃は散発的ながら続いた。それらの撃破に成功したものの、冒険者達に峠道奪還を阻止せんとする意図が見え隠れしている。それが意図を結ぶものが何者であるかまで辿り着くことが出来ずに終わったことは、後からしてみれば依頼の成功に唯一影を落とすものであったのかもしれなかった。