しふしふはペットじゃありません

■ショートシナリオ


担当:恋思川幹

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月08日〜12月13日

リプレイ公開日:2006年12月12日

●オープニング

 五条宮の起こした反乱もさしあたり、収束をむかえることとなったジャパンの神都。
 少しずつではあるが、京の街並みも落ち着きを取り戻しつつあった。

「公家の屋敷を襲撃して欲しいっ!?」
 その驚くべき依頼内容に、冒険者ギルドの手代は声を上擦らせた。が、声の大きさ自体は控え目であったのはさすがというべきか。
「どうしてまた、そんな大それたことを?」
 声を潜めて、手代は依頼人の志士に尋ねる。
「簡単に申さば、綱紀粛正である。先の騒乱を見るまでもなく、政情不安の昨今、公家の御方々にも身を慎んでもらわねばならぬ」
 志士は重々しく答える。神皇家を頂点とする権力構造に連なる公家達の評判が悪くなれば、神皇の威信にも関わるということなのだろう。
「その公家の御方は、少々ハメを外しておられるのだ。これを懲らしめる必要があるのだが、公の裁きにかけることで、その不祥事を公式に認めることは避けたい」
 公家の恥となるような出来事を、公式な記録に残すのは避けたいということだ。大事件ならまだしも、個人の性癖に由来する話である。
「そこで冒険者を使って、非公式に懲らしめ、また他の公家の御方々にも、気を引き締めてもらおうというのが、目論みである」
 志士はそう言った。
「非公式に、かつ派手にその公家の御方を懲らしめてもらいたい。この件によって、冒険者が追捕を受けることはない」
「懲らしめる‥‥とは具体的にどの程度まで?」
「人死には望んでいない。つまり、それなりの実力者でなければ務まらない」
 人死にを出さないということは、手加減をする余力のある実力者でなければできないことだ。
「そのお公家様のハメを外したというのは?」
 手代は依頼人に尋ねる。
「シフールの少女を手篭めにしている。といって、異種族とどうこうという話ではない。なんと言うか‥‥そう、冒険者達が言うところのペットのような扱いなのだ」
「シフールを‥‥ペット‥‥ですか?」


 依頼人の志士が話したところによると、その公家はあまり家格の高い家ではないらしく、せめてもの箔付けに珍獣の一匹でも飼いたいと思い立ったそうな。
 しかし、一部の冒険者達が飼うようなフェアリーであるとか、グリフォンであるとか、そんな怪物にも列せられるペットが簡単に手に入るはずもなかった。
 失意にくれていた公家が、目をつけてしまったのが、シフールなのであった。
 シフールにはその器用さ身軽さ、なにより陽気な性格により、芸事を生業とする者も多い。芸を披露させるとおいう名目で呼び寄せた者をそのまま手篭めにしてしまったといのだ。
 表向きは「芸事がひどく気にいった故、無理を言って逗留してもらっておるのでおじゃる」ということであるが、実態は撫でたり、芸をさせたり、美味しいものを食べさせたり、自分好みの服を着せたり、虫籠の中に入れていたり、とシフールを人と扱わない悪鬼の所業であった。
 そんなこんなが京雀達の噂にのぼれば、たちまち尾鰭がついても不思議はなかった。公家の評判にとって芳しいものであるはずがない。
 しかし、公式に処罰するには犯罪性が低く、きっちりと懲らしめる程の刑罰は期待できない。それが非公式に、かつ派手にやって欲しい理由の一つであった。
 
 屋敷内には志士が数人が警護にあたり、陰陽師が一人、その他に荒っぽい流れ中間あがりの奉公人がいる。
 神皇家に仕える志士や陰陽師が貴族の屋敷にいるのは、志士や陰陽師のすべてが公式の役職を得ているわけではないからである。無位無官無役の志士や陰陽師は自身で生計を立てねばならない。冒険者をやっている志士や陰陽師と同じことである。
 志士や陰陽師にとって生業として公家に雇われるのは、侍や町人に雇われるよりは、面目の立つ奉公先であろう。
 
 屋敷内の警護を打ち倒し、公家を懲らしめ、シフールの少女を救出してもらいたい。

●今回の参加者

 eb1630 神木 祥風(32歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2018 一条院 壬紗姫(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb5363 天津風 美沙樹(38歳・♀・ナイト・人間・ジャパン)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文


「でりゃあっ!!」
 加賀美祐基(eb5402)の気合一閃。
 公家の館の勝手口の扉の一部が斬りおとされる。
「はい、ごくろうさま。ちょっと待ってもらえるかしら?」
 天津風美沙樹(eb5363)はそう言って、その斬りおとされた部分から手を差し込み、中の閂を外す。
「ああ、なんか湿気てるよね」
 派手に扉を破壊して雪崩れ込むつもりだった祐基は、この地味な作業に愚痴をこぼした。
「物を派手に壊すのには、刀は適さないわ。あなたの技があればこそ、ここまでスパっと斬れてるのよ。派手にってことなら、刀の重さを斬撃にうまく乗せるとか、破壊向きの武器を持ってくるとか、もう少し考えるといいわね」
 祐基の新陰流の剣技は十二分に見事なものであるが、それでも状況に応じた向き不向きがあるということだ。
「さあ、行きましょうか。扉を蹴り開けるくらいは出来ますよ」
 神木祥風(eb1630)が二人を促すと、祐基が勢いよく扉を蹴り開ける。
「人を家畜扱い、人面獣心の悪徳公家に告げるっ!」
「我ら、義に従いて懲罰せん!」
 祐基と美沙樹が派手に名乗りをあげた。



「なにやら、騒がしいでおじゃるな。まあよい、食事の時間でおじゃるよ」
 盆に乗せた少量だが、豪華な食事を公家が手ずから運んでくる。
「ほんにそちはかわいいでおじゃるなぁ。ほれ、食べさせてやるでおじゃるよ」
「おじさん、あたし一人で食べられるからさぁ」
 にこやかな笑顔の公家に対して、なかば諦め、呆れた表情のシフールの少女。
「よいよい。こうして、そちの世話を焼くのも楽しみの一つでおじゃるよ」
 そういう問題ではない、とシフールの少女は思った。
「はぁ‥‥あたし、いつになったら帰れるんだろ?」
 シフールの少女は溜息をついた。差し迫った危機感はなかったが、気分は憂鬱にもなるというものだ。



 と、シフールの少女の溜息が呼び寄せたのかのように、彼らはやってきた。
「空に輝くお天道様がすべてを照らしだすように、俺はすべての悪を見つけ出す」
 現れたのは天堂蒼紫(eb5401)である。
「な、何者でおじゃるかっ!?」
 公家は突如、現れた蒼紫に狼狽する。
「地位や権力を傘に着て、一人の人を玩具のように扱うなど‥‥許せません」
 静かに、しかし確かに熱く燃えている怒りの炎を見せるのは、一条院壬紗姫(eb2018)である。
「な、ナニを言うとるのでおじゃるか!? 麿は人一人を玩具にするなどしてはおじゃらぬっ」
「なら、その娘の憂鬱な表情はなんですか? あなたが無理やり閉じ込めているからではありませんか?」
 壬紗姫が公家を糾弾する。
「だまりゃっ! 麿はこの子を愛を持って飼っているでおじゃる。本当に本当に可愛がって‥‥」
「飼っている、なんて言葉が出る時点で救われないな。シフールは動物じゃない、人間だ」
「ひいぃぃっ!」
 公家が気付いた時、すでに蒼紫はその眼前に立ちはだかっていた。公家に武術の心得がない上に、忍術で身体能力を向上させている。身のこなしの鮮やかさもあって、まさに目にもとまらぬ神速を体現してみせた。
(「一発殴ってやってもいいが‥‥加賀美に譲ってやるか」)
 引き攣った公家の顔を見て、蒼紫はちらりとそんなことを考えた。
「さあ、帰ろう。お前にも帰りを待っている人がいるんだろう?」
 蒼紫が差し出した手、シフールの少女はそっと自分の手を重ねた。



「ま、麿の大切な物を奪ってゆこうとは不届き者っ! ええい、であえいっ、であえいっ! 狼藉者でおじゃるっ!」
 公家が大きな声で人を呼ぶ。
 奥の部屋の襖が開け放たれて志士が数名と陰陽師が、庭の端々からはゴロツキ同然の奉公人達が手に手に得物を持って集まってきた。
「こちらにも、曲者が入り込んでいたとはっ! 我らの不覚、申し訳ありませぬっ!」
 入ってきた志士の一人が壬紗姫と蒼紫という二人の狼藉者を見て、歯噛みする。
「‥‥なんじゃ、こちらにもどういう意味でおじゃるか?」
「それは私達のことのようですね」
 祥風のよく通る声が響いた。僧侶として説法を行う時の話術の一部としての発声であろう。
 庭を仕切っていた垣根が斬り落とされる。倒れた垣根の後ろから祥風、祐基、美沙樹の三人が現れた。
「お、おのれ〜! この狼藉者どもめっ! 麿をなんと心得るのじゃ! 恐れ多くも帝にお仕えする‥‥」
「高貴の身分と言うんなら」
 祐基が公家の言葉を遮った。
「それに相応しい品格ってものを持つべきだろ!」
「そうね、あなたのような人に騙られては、天子さまがお可哀想だわ!」
 美沙樹が公家に厳しい言葉を突きつける。姿勢がよく背筋のピンと伸びた美沙樹は公家相手でも臆したところを感じさせず、公家をたじろがせた。
「おい、そこの志士どももだ! 神皇様にお仕えする志士の志を忘れ、馬鹿貴族の悪行を見逃している奴らを俺は絶対に許さない!」
 祐基の正義の怒りは、公家に雇われた志士達に向けられた。
「ええい、ええい、先ほどから言いたい放題言いおってからに‥‥」
「ですから、昨日の外出は方角が悪いので、方違えするべきと進言申し上げたのです」
 怒りに震える公家に、陰陽師がそんなことを言っている。公家の護衛というよりは、占い師として雇われているのだろう。
「ええい、こやつらを斬って捨てるでおじゃる!」
 公家は興奮して裏返った声で命令を出した。



 志士達が抜刀し、奉公人達が短刀や棍棒を持って冒険者達を取り囲み始めた。
「あなた方の所業に天も怒れることを知りなさいっ!」
 祥風が懐から経巻を取り出し、そこに記された真言を唱え始める。
「まずいっ、その坊主を止めよッ!」
 陰陽師が祥風の意図に気付いて叫んだ。奉公人が数人、祥風に向けて動くが、それを遮ったのは壬紗姫である。
「怪我をしたくなくば下がりなさい‥‥手加減は出来ませんよ?」
「‥‥っ!」
 それで祥風が詠唱を終わらせるには十分であった。
 稲光が天から駆け下り、庭においてある景石をうった。雷鳴が辺りに轟き響く。
「ほ、ほんとに雷が落ちたぞっ!?」
 奉公人達に動揺が走る。
「うろたえるなっ! 今の雷、我が掴まえてみせたぞっ!」
 志士の一人が精霊魔法によって雷の剣を手の中に生み出した。それを雷を掴まえたと称したのは中々の演技派である。動揺を最低限に押さえ込んだが、なくなったわけではなかった。
「加賀美、いけっ。前ばかり見ているお前の背後、俺が面倒を見てやる」
「なんかお前に馬鹿にされてる気がするけど」
「気にするな」
 蒼紫は祐基を促すと、公家や志士達がいる屋敷内へ向かって駆け出す。その手前には奉公人達がいる。喧嘩なれしていそうな感じはあったが、所詮はゴロツキ程度の相手である。「はっ!」
 奉公人の繰り出す短刀をあざやかに見切り、拳を鳩尾に叩き込む蒼紫。呼吸ができない苦しさに奉公人が昏倒する。振り向きざまの後ろ回し蹴りは、偶然にこめかみに当たって奉公人を昏倒させる。
 そうして、道が開かれる。陽動もかねて勝手口から侵入してここに来るまでに敵の数を減らしていたこと、祥風の雷で及び腰になっていたことにより、二人倒せば十分であった。
 
 そこへ祐基と壬紗姫が飛び込んでいく。その先に立ちはだかるのは志士達と陰陽師。
 奉公人達に煩わされることのないよう、二人を援護する美沙樹と蒼紫、そして祥風。
「仏罰を受けなさいっ!」
 祥風の体が淡く白い光に包まれ、狙っていた志士もまた同様の光に包まれた。
「ぐっ」
 仏罰覿面、志士の顔が苦痛に歪んだ。
「このクソ坊主がぁっ!」
 果敢にも奉公人の一人が祥風に向かっていく。が、美沙樹が立ちはだかり、奉公人の得物を持つ手を斬りつけた。
「天の使いが使ったという剣、切れ味はどうかしら?」
 波状の刃を持つ魔剣ラハト・ケレブは夢想流の居合い術には不向きであるが、美沙樹は自身の体を壁にして死角から鋭い斬撃を繰り出す。武器を持つ手をだけを狙っているのは、命をとらずに戦意喪失させるためである。

 雷を掴まえた志士と対峙する壬紗姫。
 日本刀と雷の剣の二刀を巧みに操る志士の、その手強さを実感したのは、その独特の剣術を見てからである。
 左腕の雷で志士は変幻自在な攻撃を仕掛けてくる。唐竹に斬り下ろしてきた雷がかわされると、手首も返すことなく即座に胴を薙ぎにくる。雷で出来た剣は刃を持たない為、刃を立てることに苦心する必要がないのだ。
 そうして変幻自在に雷を使い壬紗姫を牽制し、右腕に持つ必殺の日本刀が隙を探して待ち構えているのである。
「‥‥面白いですね。一度斬りあってみたいとは思っていましたが、これが志士の強みという訳ですか」
 小太刀を構えて牽制しながら、志士ならではの剣技に感心し、それを如何に破るかを必死に考える。そして、それを思いついた壬紗姫は外套の結び紐をそっと解く。
 壬紗姫が地を蹴り、疾走する。迎え撃つ志士。
「‥‥はっ!」
 外套を宙で広げるようにして志士に投げつける。両者の視界を外套が遮った。
(「どっちだっ!?」)
 外套で幻惑して攻撃を仕掛けてくると察した志士は外套の左右に目を懲らした。
 その時、低く地を這う姿勢から伸び上がるような逆袈裟が志士を捉えた。
「下、か‥‥」
「父様直伝の技、そう易々と見切れるとでも?」
 壬紗姫は深手を負って倒れた志士を冷ややかに見つめた。

 手ごわいのは雷を掴んだ志士ばかりで、他はまだ経験の浅いものが多かったようだ。
 祐基が相手にした数人の志士達は一人一人、確実に峰打ちで叩き伏せられる。
「くっ!」
 劣勢と見た陰陽師が懐から巻物を取り出す。
「させるかっ!」
 それを見た祐基は陰陽師に向けて駆ける。
 陰陽師がそれを広げるより先に巻物を真っ二つにしていた。陰陽師は鼻先を掠めた刃に戦意を喪失して震えていた。
「後はあんたにお仕置きだな。公家だからこそ、神皇様の御名を汚すことは許さない!」 祐基が公家に詰め寄る。
「ひ、ひいいぃぃぃっ!」
 公家の上げたみっともない悲鳴は、祐基の拳で沈黙にかわった。


 こうして、公家は懲らしめられ、シフールは助けられたのである。
 その時、公家は囚われの小鳥の気分を味わったとかなんとか‥‥。