【箱庭・外伝】地下遺跡探索
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 94 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月23日〜03月31日
リプレイ公開日:2007年03月31日
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●オープニング
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琥珀色の髪と瑠璃色の瞳を持つ、愛らしい少女の似絵が飾られている。
勝呂兵衛太郎恒高が執務をとる部屋にあるそれは、兵衛太郎の娘の琥珀を描いたものである。
琥珀が普段は離れて暮らしている父の為に、絵を得意とする冒険者に頼んで描かせたものである。
何かと世情不安な昨今であるから、領主としての兵衛太郎の責務は重い。そんな時に贈られた娘からの気持ちは、兵衛太郎を優しく励ましてくれるものであった。
「兵衛太郎殿、よろしいか? お耳に入れたいことがあり申す」
兵衛太郎が執務をとっていると、障子の向こうの人影が立った。
「トゥームか。入るがいい。一体どうしたのだ?」
入ってきたのはイギリス人の屈強な戦士であるトゥーム・ストンである。しばらく前から食客として置いている男である。
「松山城の比企氏についてであります。近頃、領内に地下遺跡が発見し、その探索を行っております」
「ふむ。そこから死人が湧き出てきたという話だな。何か問題でもあるのか?」
「地下遺跡というものは、時に莫大な財宝を眠っているものであります。それを独占させてよろしいものか」
「財宝が眠っていたとして、それを掘り起こすにも資金は必要であるし、財宝が眠っていなかったなら投じた資金が無駄になるというものだ。そうした危険を冒した上での話であれば、比企殿が財宝を手にするのに、何の不当があろうか?」
兵衛太郎は問題にはならないと考えた。地下遺跡の財宝で一攫千金というのは、少々浮ついた話に思えたからである。
「確かに財宝などそうそう出てくるものではありますまいし、労力に見合った見返りがあることに不当とは言えぬでしょう。しかし、地下遺跡の類というものは時に戦略すら覆しかねない物が出てくる可能性も否定しきれないのが恐ろしいところで。江戸城地下の月道などはまさにその一例でありましょう」
トゥーム・ストンは実際に地下遺跡から得られた利益の実例を示す。
「特に今回の事に関しては、比企氏が祀る姫巫女なるものが関与しており、なにやら妖しげな様子でもあります。理由をつけて、査察するべきであると愚考いたします」
「ふぅむ」
「もう一点気にかかるのは、何も出なかったとして、それによる比企氏の散財でありましょう。松山城は堅牢な城であり、この辺り一帯の要衝でもあります。まして、鉢形城の長尾を見据えるならば、比企氏に無駄な力を使わせるのは得策とは言いがたいかと」
「なるほど。それでこちらからも協力を申しでよ、という訳か? しかし、おぬしもすでにわかっておろうが、わが勝呂家は大きな資金を出す余裕はないぞ?」
「私を差し向ければよろしいかと。遺跡探索となれば、冒険者の類が必要になりもうす。私が勝呂家の食客として、その役目を果たしましょう」
トゥームは両の拳を床について、頭を下げた。
「わかった。江戸城に建白書をだし、その旨を伝えよう」
兵衛太郎は筆を取った。
●
「姫巫女とは会わせないことを絶対条件とせよ。‥‥協力、という名の横槍は受け入れざるをえまい」
比企藤四郎能和は頭を抱えていた。
もともと地下遺跡そのものがどうこうというつもりはなかった。領内に不安要素があれば、それを取り除いておきたいというのは領主として当然の欲求である。姫巫女の評判を高めたいという思惑もあった。
「それで、調査にくるのはどういった者達なのだ?」
「はっ。勝呂兵衛太郎様の食客のイギリス人の戦士。秩父丹党の中村千代丸様は直々に参られるとの由でございます。加えて周辺領主の方々が連名で冒険者を募られると」
家臣が答える。
「千代丸殿が自ら? 何を考えているのだ?」
「地位のある者が立ち会わせたいということのようです。あのお方は先代がご存命の頃、冒険者として修行をしていたと聞きます」
「‥‥わかった、受け入れの準備をせよ。歓待をする必要はないが、失礼のない程度にはしておけよ」
藤四郎の不安は姫巫女の正体が露見することである。
「繰り返すが、姫巫女の鎮めの儀式には関与させない。その方向で話を纏めよう」
●リプレイ本文
松山城隣の山にある地下空間の調査について、過去に行われた探索については秘密にされている部分も多い。
特に姫巫女と呼ばれる存在、そしてそれに関わる事象について、冒険者ギルドの報告書も暈して記されている。
それ故に今回の勝呂氏の申し立てについて、「もっともである」と同意した領主達が資金を出し合い、また秩父丹党の中村千代丸が自らやってきたのである。
自分達、源徳家の陣営に不自然な不安要素を残したくはないのは当然であろう。
「それでも‥‥姫巫女には会わない方向で行ったほうがいいかもしれませんね」
過去に間接的にではあるが、姫巫女に関わったことのある飛麗華(eb2545)は、領主達の事情を踏まえても、不必要に姫巫女に関わる人間を増やすことは避けたいと考えていた。
「御陰桜よ、よろしくね♪」
御陰桜(eb4757)は千代丸ににこやかに挨拶をする。
「‥‥中村千代丸だ。頼りにしておるぞ」
集まった四人の冒険者の中で、一際目立つ桜の姿に千代丸は一瞬見惚れてしまった。
深い紅の魅惑的なドレスが豊満な肉体を包み、耳元で澄んだ音を立てるピアス、古びた布を肩掛けにし、聖母を彫りこんだ純白の盾を手にしている。
言葉にして羅列してもちぐはぐな印象しか受けないであろう、それらの服飾を危うい均衡の上に調和させている。女としての自分を魅せる技術は達人級であろう。
「ん〜、頼りになるのはあたしより、この子達かしら? 瑠璃、桃!」
桜に呼ばれて近寄ってくる二匹の柴犬。
「この子達は桃と瑠璃、可愛いだけじゃなくて結構強いのよ♪」
桜はそう言いながら二匹を撫でてやる。二匹は気持ちよさそうに目を細めている。
「よく懐いて、躾も行き届いておるな」
その後、千代丸は麗華、天堂蒼紫(eb5401)、加賀美祐基(eb5402)が挨拶をしたところで、最後の男が遅れてやってきた。
「よぉ、また会ったな」
不機嫌な様子を隠すこともなく、祐基はトゥーム・ストンに挨拶をする。
「そうだな。また、手助けしてもらえると嬉しい」
「ぬけぬけと言いやがって、この野郎」
すました態度のストンに、祐基は頬を引きつらせて怒りを顕わにしている。
「‥‥なにやら確執があるようですが、今回は仲間同士です。戦闘はあまりなさそうですが、油断はできません」
「そうだな、仲間内に諍いがあるのはよくなかろう」
麗華と千代丸が祐基を宥めに入る。ストンのほうは我関せずという態度で、それ以上祐基を挑発することもないので、状況は自然とそういうことになる。
「そうそ、ここは一つ堪えて。ねぇ?」
桜が大きな胸を押し当てるようにして、祐基の腕にすがりつく。
「くっ‥‥」)
期せずして三人の女性を敵に回してしまった祐基は口をへの字に曲げて引き下がるしかなかった。
(「巧いな。第三者にとっては当たり障りのない、それでいて当事者の加賀美を挑発するには十分な言い回し‥‥。それだけで第三者を味方につけてしまった。ここで前の依頼のことを訴えても、逆に誹謗と取られかねない」)
互いに自己紹介をしているストンと麗華達を眺めながら、蒼紫はストンが祐基をひっかける様子に感心していた。
(「それだけに油断が出来ん。長尾の密偵ということも考えられるが‥‥いずれにせよ、信用はできないな」)
「そっちのあんたも初対面だったな」
ストンが蒼紫にも声をかける。
「俺の知り合いで‥‥浪人の天堂だ」
横から祐基が紹介した。蒼紫と事前に打ち合わせていたように、忍者であることは伏せた。
一行が、いざ出発と慌しくなった時、蒼紫が祐基に囁いた。
「ストンをそれとなく看視してくれ。頼むぞ」
「言われなくても、前回騙されたんだ。信用なんてするもんか」
祐基は力強く請け負った。
先ほどのいざこざがあったばかりである。多少、祐基がストンを見る目が厳しくても気にはされないだろうというのが蒼紫の読みであった。
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「次の分岐を左に」
「わかった」
今回の一行よりも先にこの地下遺跡を探索した姫巫女の従者が書き記した地図を手にした桜が、先頭を行く蒼紫に指示を出している。
隊列は蒼紫を先頭に、麗華、千代丸、桜、ストン、祐基である。それに桃と瑠璃の二匹の柴犬が従っている。
「死人が出たという話だが、大方片付けられているようだの」
千代丸が言う。時折、先に探索した面々が倒したであろう、すでに動くことのない骸ばかりである。
「それでも油断せずに行きましょう。いきなり出てこられると困りますから」
麗華が千代丸に一言釘を刺す。
「次の分岐を右から二番目。そこから少し眺めの通路があって、前の探索隊の辿り着いた『城門』があるわ」
桜が地図を確認して指示を出す。
「とりあえずは目立つ物がある最深部だな。そこを見て、詳細な報告が出来れば一つの成果になるだろう」
まず最深部を目指す方針は蒼紫が立てたものである。
「そういや、あんたの得意分野は陣取りや城取りだって言ってな」
最後尾の祐基が蒼紫の言葉を聞いて、思い出したように目の前を歩くストンに話しかける。
「‥‥それに加えて軍配の道を志している」
「ふん、俺はその軍配のなんちゃらで腹を立ててんだ」
祐基が気に食わないように言い捨てる。
「ならば、御陰を手伝って、その知識を報告書に役立てて欲しいものだな」
蒼紫がストンに極力冷静に要請する。
「言われるまでもないさ」
ストンが答えた後、しばらく進んでいくと、やがて広い空間に出た。
「ここで大量の死人と遭遇したそうよ。みんな、油断しないでね。桃、瑠璃、臭いし汚いから腐ったのは噛んじゃ駄目よ」
桜が一行に警戒を促す。応じて、それぞれが武器を構える。この空間は広いこともあって大型の武器も扱える。
しかし、辺りに動く屍の気配はない。
「城門、というのはこの奥だったはずですね。行きましょう」
麗華は辺りに気を配りながら、そう促した。
「こんな地下に、ここまで大掛かりな遺跡が造られてるなんてなー」
「これだけ立派な門の向こう側になら、お宝が眠っていても不思議じゃない気がしてくるわね♪」
地下遺跡に聳え立つ「城門」の威容を見て桜は感心している。
「堀も土塁も何もなければ、乗り越えるのは簡単だが‥‥」
城門の手前にある堀や土塁を乗り越えながら蒼紫は感想を漏らしたのを、
「あの城門の狭間から矢や礫が雨あられ‥‥そう考えるとぞっとしますね。地下ですから正面から攻める以外の方法はありませんし」
麗華が言葉を引き継いだ。
「お城みたいなものだという話は、前の探索隊の人達の報告にもありましたけれど‥‥誰が誰と戦う為に用意したものなんでしょうね?」
「そうだな、地下に死人っていうと黄泉比良坂なんて単語を思い出したりするけど」
「黄泉比良坂、か。京都や水戸を騒がせた死人の群れという話があった気がする」
麗華、祐基、蒼紫が推測を話し合っているのを、
「さしあたり死人の心配はなさそうだから、一塊になって動いても時間の無駄だろう。誰が誰と‥‥何時のものか‥‥現代の我々に役に立つものであるのか‥‥手分けして手掛かりを探せばいい」
ストンがそのように遮った。
「俺は、よほど嫌われていると見える」
「あれで好かれると思っているなら、あんたはおかしいよ」
「ふん」
一人で探索をしようとするストンを祐基はしつこく追いかけていた。自然、他の四人も、千代丸と桜、麗華と蒼紫と言った具合に二手に分かれて探索をしている。
二人は土塁や堀にあった朽ちた逆茂木、鎧や兜、直刀など戦闘の痕跡を見てまわる。
「‥‥こりゃ確かに年代物だけど、宝って感じじゃないね」
錆び付いてボロボロになった古い直刀を取り上げて、祐基は言う。
「じゃあ、その辺りの探索は頼んだぞ。俺は向こう側を‥‥」
ストンが祐基を厄介払いできるとばかりに言ったが、祐基はすぐさまストンの隣にやってくる。
「一人歩きは危ないだろ」
笑いながら言う祐基に、ストンはようやくあからさまに嫌な顔をした。
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「死人の残党だ!」
怪骨の繰り出す直刀をかわしつつ、蒼紫は叫んだ。そうしながら、小太刀で怪骨を牽制することも忘れない。
「城門」周辺の探索を終えた一行は、前回までの探索で取りこぼした小さな脇道の探索をしているところであった。
「少し時間を下さい!」
麗華が応じて気を集中させる。闘気が麗華の体を覆うのに少し時間が必要である。
「瑠璃、桃、お願い!」
桜が二匹をけしかける。特殊な戦闘を訓練を受けた二匹は矢のような勢いで怪骨に向かっていく。口に咥えたクナイが骨を削っていく。
「まだ、奥から二、三体くるな」
桃、瑠璃の二等と共に戦いながら、その奥からくる怪骨に気付く。
「この狭い通路では互いに戦える数は同じだ。気にせず、一体ずつ倒せばよい!」
腰に差した大小のうち、念の為に脇差を抜いた千代丸が声をかける。後ろにいるストンも手斧を構えている。彼の愛用のジャイアントソードは背中にかけたままだ。共に狭い通路での戦闘を想定した予備武器を携帯していた。
「替わってください! 前に出ます!」
「任せる」
闘気を纏い終えた麗華が、蒼紫と入れ替わりに、前列へと進む。
「瑠璃、桃!」
蒼紫が下がる隙を狙われないように瑠璃と桃が桜の指示で飛び掛る。
「鳥爪撃!」
目にも留まらぬ素早い蹴りが怪骨の肋骨を粉砕した。
この探索により地下迷宮は隈なく探索されたが、目新しい発見はなく終わった。
細かく分かれた迷宮の道は「城門」を除き、行き止まりであり、城門を守る為に敵兵を消耗させるものであろうという推測はたった。
ただ、比企氏が現在までの探索で、特別な隠し事をしていないことも証明され、当面の目的は達せられたとも言えた。
城門の内側の調査が待たれることになる。