【華の乱】琥珀色の憂鬱
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月30日〜05月05日
リプレイ公開日:2007年05月05日
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●オープニング
●華の乱
源徳家の本拠地である江戸城。
同盟軍として入城した伊達政宗率いる仙台軍であったが‥‥。
伊達政宗は突如として反旗を翻すと、江戸城の占領に取り掛かった。
戦闘が始まったのが江戸城内であったことで、江戸の街が戦場になっていない。
が、それでも混乱は街中に波及していた。
●琥珀色の憂鬱
こうした合戦により庶民の味わう苦しみも大きな物である。
だが、そうした苦しみとは別に大きな浮沈の運命に晒されるのが武家の一族である。
ある女二人連れの主従もまた、そのような浮沈の運命に晒されていた。
北武蔵領主の一人である勝呂兵衛太郎恒高の一人娘、琥珀である。付き従うのは侍女の明日奈である。
「なんとか、冒険者を雇い入れて江戸から脱出しましょう」
仙台軍襲来の報が、琥珀の屋敷にまで届くと明日奈は琥珀にそのように告げた。
「‥‥うん。琥珀が捕まっちゃったら、父さまに迷惑かけちゃうしね」
明日奈はてきぱきと琥珀の為の旅装を調える。仙台軍にどれほどの余裕があるかは不明であったが、源徳家に与する武士の家族を人質にしようとすることは十分に考えられることである。
実際、そうした武士の家族達には民衆に紛れて落ち延びようとする者もいた。
しかし、琥珀がそうすることが出来ずに、冒険者の力を必要としたのは、彼女の出生に関係していた。
イギリス人の母親から受け継いだ琥珀色の髪と瑠璃色の瞳である。琥珀の容姿は民衆に紛れて落ち延びるには人目につきすぎる。
「冒険者にはお嬢様と同じように、黒目黒髪ではない者達も多くいます。樹を隠すには森の中と申します」
冒険者に紛れて江戸を脱出しようというのが、明日奈の目論見であった。
市女笠を出来るだけ深く被って、避難する民衆の合間を縫うようにして、冒険者ギルドの近くまでやってきたのである。
「お嬢様、しばらくここで隠れていて下さい」
「‥‥うん。気をつけてね」
明日奈は冒険者を雇う為に、琥珀を人目のつかないところに隠して、ギルドへと入っていった。
冒険者ギルドは中立とはいえ、重要な存在である。見張りがいることを警戒したのだ。
●恐怖
琥珀は人目を避けるように、消防用の天水桶の陰にうずくまっていた。
「‥‥」
時に逃げ惑う町人達の集団が通り過ぎる。
時に鎧の擦れる音を立てながら足軽の集団が通り過ぎていく。
江戸城から脱した「五」の旗指物をつけた使番の騎馬武者が走り抜けていく。
そうした物音が聞く度に、琥珀は恐怖に身を震わせる。
心が深く沈んでいく。
「明日奈‥‥まだ来ないかなぁ‥‥」
冒険者ギルドへ向かった明日奈はなかなか戻ってこない。
「見捨てられちゃったかなぁ‥‥。琥珀」
実際にはどれほどの時間が経過しているのかわからなかったが、恐怖に震えながら過ごす時間は本人にとっては永遠にも等しい長さである。
「琥珀、明日奈に迷惑かけてばっかりで‥‥よその他の人から見たら‥‥自分じゃ何も出来ない‥‥威張ってるだけのお嬢様で‥‥」
騎馬武者の集団が馬蹄を響かせて駆けていく。使番を逃がすな、と叫んでいるのを聞くと先程の使番を追いかける仙台軍の武者達であることが伺える。
「琥珀自身‥‥嫌な子って思える‥‥。迷惑かけたくないって‥‥思ってても、結局、迷惑かけてるし‥‥こいゆう子だし‥‥」
しかし、琥珀は周囲の様子には構わず、自己嫌悪の渦に飲まれていた。
そんな琥珀を目聡く見つけた男がいた。
「ほほう、これは身分ありげな女子ではないか」
野太い男の声に、ようやく琥珀は我に返って顔を上げた。
「‥‥あっ」
見上げれば、土蜘蛛を模った前立飾りをつけた兜を被り、三日月の形を旗指物を背負った鎧武者が、琥珀の前に立ちはだかっていた。
●リプレイ本文
●土蜘蛛の武者
冒険者達は明日奈の話を聞くと、琥珀と面識のあるローガン・カーティス(eb3087)がいることもあり、彼女を残して冒険者ギルドから出ていった。
「防火用天水桶の近くって言ってましたね。って、それらしきところに‥‥」
飛麗華(eb2545)は明日奈に聞いた琥珀の居場所はそれほど遠い場所ではない。だが、それらしき場所に立ちはだかるのは鎧武者であった。
土蜘蛛の前立をつけた武者は手槍を琥珀に突きつけている。
「琥珀さんが襲われてるんじゃないですか?」
「ああ、天水桶の陰にいるのが琥珀さんだ」
麗華が聞くと、ローガンは優れた視力で見知った顔であることを認める。
「騒がれて人を呼ばれると厄介だ。こちらに気を逸らして一気に仕留めるぜ!」
「任されよっ!」
モードレッド・サージェイ(ea7310)がクルスソードを抜きながら仲間に呼びかけると、それに真っ先に応じたのが上杉藤政(eb3701)である。
藤政が土蜘蛛の武者に向けた指先に、陽光が屈折収束し、光線が春の空気を焼いた。
「ぐぁっ! 何奴!」
藤政の陽の魔法に焼かれた土蜘蛛の武者が振り返り、槍を構える。そこへ冒険者達が殺到する。
「わしを伊達家中の者と知っての狼藉か!」
「ほーお、お武家様が、女子供相手に随分セコイ稼ぎを考えてるじゃねーか!」
「小賢しや! うらなりひょうたんめ!」
モードレッドと武者の互いを挑発しあう舌と、二人の剣と槍が交錯する。
「琥珀殿、こちらへ!」
「あっ‥‥」
うずくまって脅えていた琥珀の腕を誰かが掴んだ‥‥と思う間もなく、琥珀の体はしっかりと抱きあげられていた。
「その娘が目的か!」
土蜘蛛の武者が振り返ろうとした時には、ローガンの愛犬アスターが琥珀との間に立ち塞がっている。
そこへ大蔵南洋(ec0244)が斬りかかる。土蜘蛛の武者は槍の柄で受け止め、そのまま鍔迫り合いになる。
「悪いが、その娘に先に目をつけたのはこっちが先だ」
南洋はそう言うと、刀と槍で組み合った状態から土蜘蛛の武者を突き飛ばした。
「これ以上痛い目見たくなければ、大人しくすることだ」
天水桶に派手に転がり込んだ土蜘蛛の武者を踏みつけて動きを封じ、凄みを利かせる。
「武士に言う言葉では‥‥うっ」
強がろうとする土蜘蛛の武者に青白く光る腕が触れると、武者は正気を失った。モードレッドの魔法である。
「今、鎧装束の者達との騒動は面倒の元だ。暫く動けない状態でいてもらおう」
コバルト・ランスフォールド(eb0161)の提案で、正気を土蜘蛛の武者は縛り上げられ、猿轡をかまされ、住民が避難しても抜けの空になった民家に放り込まれた。
「‥‥もう心配ありません。我らが貴方をお守りします」
「‥‥明日奈が呼んだ冒険者の人?」
土蜘蛛の武者との決着がついたのを見て、腕の中にいる琥珀にやさしく言って聞かせたのは一条院壬紗姫(eb2018)であった。
●琥珀の変装
冒険者達と琥珀は人目を避けながら冒険者ギルドへと引き返した。
江戸脱出の為には当然ながら事前準備が必要であった。
「ごめんね〜、しふしふ便は今、目一杯動いちゃってるんだよ〜」
「この混乱の最中では無理もないな。上州の戦でも伝令役を買って出たシフールが射落とされたという話もあったしな」
シフール飛脚を使って事前に勝呂館に連絡をつけようとした南洋であるが、混乱する江戸の情勢の為、思うようにはならない。
「みんな、終わりましたよ」
ギルドで貸してもらった奥の部屋から、麗華が出てくる。その麗華に手を引かれるように少女が出てくる。
「うん?」
「‥‥琥珀、やっぱり変なのかな‥‥」
藤政が訝しげな表情をすると、少女は顔を伏せて悲しそうな顔をする。
「おお、琥珀殿なのか! 見知らぬ欧州の冒険者がいきなり現れたように見えたので驚いたのだ」
琥珀に変装が確かなものであると思わせて、安心と自信を持ってもらおうと藤政は気遣った。
「俺らと行動するなら、やっぱり同じ冒険者の格好だね。クレリックの格好なら体力の無さも目立たないし、いい感じだよ」
河童の黒淵緑丸(eb5304)が同調する。
「‥‥うん」
頷いた琥珀はローガンの用意した欧州から持ち込んだ品々に身を包んでいた。
頭に輝く妖精のトルク、琥珀色の髪をふんわりと包むマリアヴェール、小柄な体に絹で綿を包んだ丈夫で上品な装束、小さな胸元に輝く十字架、指に万一に備えてのプロテクションリング、最後に手にフライングブルームを持たせている。
自己主張の強い者が多い冒険者にあっては、まずまずの服装と言えるだろう。
「とても可愛らしく出来ましたね。ジャパンの服装も素敵ですが、こうした服装もお似合いでござますよ」
そう言いながら出てきた壬紗姫は対照的に、上品ではあるが、ごくありふれた姿である。袴を脱ぎ、髪を結いあげた姿に女剣士の凛々しさはなく、たおやかな商家のお嬢様という具合である。
「‥‥うん、ありがとぉ。壬紗姫さんも素敵だよ」
琥珀が少し照れた風に答えていると、最後に僧侶に扮した明日奈がやってきて偽装は整った。
「いいですか、琥珀さん。あなたには今からイギリス人クレリックのサファイアさんになって貰います」
「さふぁいあ?」
「あなたの瞳のように真っ青な宝石の名前です。後は何か問われても、話さずに微笑んでいて下さい」
ローガンは琥珀の瞳をじっと見ながら言い聞かせる。
「大丈夫です、必ずお守りします。あの時の子猫を助けたように」
「‥‥うん‥‥依頼だからね‥‥。でも、危なくなったら琥珀のこと見捨ててもいいからね‥‥琥珀は‥‥」
ローガンの言葉に、しかし、琥珀はネガティヴな反応を返す。自分が何も出来ないお嬢様であることを気に病み、冒険者達に面倒な仕事を押し付けてしまっているのではと不安な気持ちを抱いていた。
「何を言い出すんだ、お嬢ちゃんは」
モードレッドがそんな琥珀の頭をぐりぐりと撫で回す。
「みゃぁ」
「いいか、お嬢ちゃんが少しでも何かを変えたいと思うなら、いろんな事を知ることだ。沢山の人に触れて、世の中には様々な考え方と生き方があるってことをな。その頃には、お嬢ちゃんは家柄だけのお嬢様じゃなくなってると思うぜ」
最後に琥珀のオデコをピンと弾いた。
「ふぇ‥‥」
涙目でオデコを抑えている琥珀の様子はモードレッドの反骨とサディストな部分を満足させるものであった。
「さて、ここからは依頼人は壬紗姫だ。琥珀と明日奈は俺達の冒険者仲間だ」
コバルトが言う。彼の考えた江戸脱出の案は壬紗姫を依頼人ということにして、琥珀と明日奈を冒険者の中に紛れ込ませてしまうというものであった。
●混乱の街
「江戸に一万の鬼が押し寄せるらしい」
「家康の家族がどこかに潜んでいるはずだ! 探せぇ!」
「てやんでぇ! 奥州の田舎大名に江戸っ子が負けて堪るかってんだ!」
「義朝公の遺児が、源氏の嫡流が戻られたぞ!」
様々な噂や流言が江戸中に飛び交い、江戸の街は混乱の極みにあった。
中でも一万の鬼が押し寄せるという噂は、人々の恐慌を呼び、江戸から逃げ出そうという人々が各地に通じる街道に押し寄せていた。
そして、川越に通じる脇街道にも人が押し寄せていた。勝呂館へ至る道でもある。
「シフール飛脚もそうだったが、江戸の混乱は相当なものだな」
「仙台軍も江戸市中を見回っているようだな。よく取れば不穏な情勢を鎮めようというのだろうが、源徳陣営の江戸詰め武士やその家族の流出を阻むのも狙いのうちか」
路地裏から大通りの様子を眺めている南洋とコバルト。
「大丈夫ですよ、私が傍にいますから」
そんな江戸の恐ろしい様子に震えている琥珀に、麗華は優しく声をかける。
藤政と緑丸は適当な取っ掛かりだけを使って身軽に町家の屋根の上に登っていた。
「鎧武者の姿は見えるか?」
「俺のほうは見えないだよ」
下からでは人波が見えるばかりで、身軽な二人がこうして屋根の上から偵察しているのである。
「この人波で伊達の侍達も思うように動けないようであるな」
人波を上から見下ろしながら藤政は言う。
「さすがにこれだけの人達を無闇に刺激したら、何が起こるかわからないだよ」
「そうだな。コバルト殿の言うように、この人の流れに乗って江戸から出るのがいいだろう」
緑丸の見立てに、藤政はコバルトの言葉を思い返しながら言う。
「そうと決まれば、皆のところに戻るだよ」
緑丸と藤政は屋根から下りて仲間のところに戻る。上から見た様子でコバルトの案がよいだろうことを告げた。
冒険者一行は、先頭にモードレッドと麗華、左右を藤政と緑丸が警戒し、殿は南洋が務める。その内側で琥珀を含める『後衛職の冒険者達』と『依頼人』が隊列を組んでいる。
「そこな冒険者! いずこに参るか!」
「っ!」
突如の誰何の声に冒険者達ははっと息を呑む。
見れば、人波の向こうに騎馬武者が数騎、姿を現した。
「冒険者ギルドからの依頼により、この方を在所に連れていくところだ」
人の流れに乗ったまま脚を止めずにコバルトが答えて、護衛対象を装う壬紗姫の姿を示した。
冒険者達はさりげなく移動して琥珀の姿を隠す。この緊張状態に琥珀は愛想笑いだけでも難しい様子が見て取れたからである。
鎧武者達は人波によって近寄ることも出来ないので思案にしていたが、
「源徳のはぐれ武者じゃあ! 出会え!」
「江戸城のほうへ向かっているぞ!」
その声に反応して馬首を返して離れていった。。
「どうやらうまくいったようだな」
「下手に混乱を招くより、優先する仕事があったってことだな」
鎧武者達を引き上げさせた声は藤政と緑丸であった。身長の低さを活かして人波に紛れ、声音を使ったのである。状況が状況であるだけに効果的であったようだ。
「このたくさんの人達のおかげで無用の危険を避けることができました」
ローガンが琥珀の耳元で囁く。
「‥‥うん」
「それが例え偶然であろうとも、誰かの手で守られたことに感謝と希望を見出して下さい。それはきっと琥珀さんの自信になります」
ミステリー好きのローガンは運命論めいた言葉で琥珀を励ました。
●北武蔵へ
「‥‥すごくおいしいよぉ」
琥珀は素直に感嘆の声をあげた。
江戸からの脱出に成功した冒険者の一行は、避難民の列とともに街道を北上していた。道筋にある小さな宿場などは避難民が溢れかえっており、結果として野営が多くなった。
「こんな時ですから、どんどん食べて下さいとは言えませんが‥‥味については腕を振るったのでご賞味下さいね」
麗華は掲げた右腕を左手でぽんぽんと叩いてみせた。野営にあたっては、麗華の料理の腕が冴えを見せた。
「保存食から、これほど美味い料理を作るとは‥‥。麗華の料理の腕前には感服する」
人に心を開かないコバルトの口の端に微かに笑みが浮かぶ。
保存用に加工されているので、そのまま食べても味気ないのが保存食である。しかし、それ自体を食材と見なせば、麗華には料理の工夫の仕方はいくらでもあった。
「見回りから戻ったぞ」
周辺を警戒していた南洋が戻ってくる。
「一緒に行った緑丸さんは?」
「ああ、黒淵さんなら。ほら、こっちへ来い」
南洋が促すと少し離れた暗がりから緑丸が姿を表す。彼の後ろに人間の子供が一人いる。
「申し訳ないけど、この子にも少し食事をあげて欲しいだよ」
緑丸は鼻を擦りながら、恐る恐る仲間達に申し出る。
「親とはぐれちまったみたいで、腹を空かしてるだよ」
お人よしな緑丸は困っている子供を見捨てることが出来なかったのである。
それは他の冒険者達にしても同じことであった。
「琥珀の分をあげるよ。これ、すっごく美味しいから」
琥珀もそう言って微笑んだ。それを見て冒険者達も子供の為に協力してくれた。
ただ、南洋やコバルトは子供だからというだけで警戒をしなかったわけではない。緑丸がお人よしであれば、物事を現実的に捉えるのが南洋という男であった。
どちらも個人の資質であり、美徳にもなれば弱点にもなるものである。
街道を進むにつれて、避難民の数もまばらになっていく。避難先を見つけ落ち着く者、違う道を選んだ者、冷静さを取り戻して江戸に引き返す者もいた。
やがて、冒険者達は勝呂館に到着する。
「こりゃまた、物々しい様子だな」
「以前に来た時とはお屋敷の様子が大分違っています」
モードレッドが勝呂館について感想を漏らすと、明日奈はそのように言った。
堀がより深く広く掘られ、その掘った土を積み上げて土塁としている。外側からは見えないが土塁の中にはこれまでと同じような板塀が埋められている。
しっかりと突き固められた土塁は頑丈で防火性にも優れている。土塁の内側に段差をつけ、守備兵を配置できる足場もある。堀の前後、土塁の上などには柵や逆茂木が三重四重に備えられていた。
「しかし、変わった形しているな。堀と塀がジグザグになっている」
コバルトが指摘したように、堀と塀が突き出したり、引っ込んだりしている。
「開門! 開門! 私達は江戸の冒険者ギルドの者である! 勝呂兵衛太郎殿がご息女、琥珀殿をお連れいたした!」
藤政が大きな声で訪いを入れると、館の中がにわかに騒がしくなった。
●別れと約束
合戦が迫っていることもあり、冒険者一行は琥珀をしっかりと父・兵衛太郎に引き渡すと早々に退去することになった。
「琥珀殿は覚えていらっしゃいますか。絵師の‥‥」
別れ際、壬紗姫が知人の話をすると、はたして
「‥‥うん、覚えてるよ」
「江戸が平穏を取り戻した時、彼はまた貴方の絵を書きたいと申しておりました」
「琥珀は嬉しいけどね‥‥思い出とか想像上のお話とか、色んな絵にして貰えるの‥‥でも、琥珀なんか描いて面白いのかな‥‥。もっと綺麗な人とか素敵な人とかいるとおもおし‥‥壬紗姫さんとか、麗華さんとかね」
「私、ですか? うーん‥‥琥珀殿っ」
「みゃぁ!?」
「女の私でも抱き締めたい衝動に駆られるほど、琥珀殿は可愛らしいですよ」
壬紗姫は琥珀を抱き締めながらそう言った。
「もし宜しければ、これを受け取って頂けますか。その絵師殿からの約束の印でございます」
ひとしきり琥珀をかわいがると、壬紗姫は預かってきた螺鈿の櫛と猫の根付を渡した。
「では、琥珀さん。これからの厳しい生活にも決して挫けぬよう、困ったことがあればいつでも私達冒険者を呼んで下さい」
「しっかり生きな、お嬢ちゃん」
ローガンとモードレッドの言葉で、冒険者達は伊達の手に落ちた江戸へと戻っていくのであった。