蓮包 VS 紫苑

■ショートシナリオ&プロモート


担当:恋思川幹

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月22日〜12月27日

リプレイ公開日:2004年12月30日

●オープニング

 華国の武闘家・蓮包(レンポウ)と、ジャパンの浪人・紫苑(しおん)は、最初の依頼で知り合ってから、よく酒場でお茶を飲み交わしている、ごくありふれた冒険者仲間である。
「今年ももう押し迫ってきたね」
「そうですね〜。いろいろありましたけれど、基本的にはちょろちょろと冒険の依頼を受けながら、酒場で騒いで生業で口に糊していた感じですね〜」
「そうそう、ちょっと変ったところで、武神祭なんてのもあったよね」
「私達、ちょうど依頼で参加できませんでしたけれどね」
「あれは残念だったな〜。あたしが参加してたら、優勝間違いなし! だったのにさ」
「あら? では、参加していても残念な結果だったに違いないですね」
「なんでさ?」
「だって、私がいるんじゃないですか」
「ほっほ〜、言うね〜。でも、あたしは紫苑如きに負けるつもりはないよ!」
「では、試しに一つ仕合ってみますか、連包? 返り討ちにしてあげましょう」
 酒場の片隅で始まろうとした戦いに口を挟んだのは、近くにいた酔っ払いの僧侶である。
「ぉお〜い、お前ら、二人だけで喧嘩しててもおもしろかねーだろ? どうだ? 冒険者は一人で戦うもんじゃあない。チームワークも大切だ。他にも人を集めて、集団戦を模してみたらどうだ?」
「あっ、それ面白そうだね」
「ええ、面白そうです」
「よし決まりだ! 俺が立会人になってやるから、派手にやれ! 派手に!」
 福袋で手にいれたのであろうか、天晴れ扇子を広げて、煽り立てる酔っ払い僧侶。


 かくして、冒険者ギルドに張り出された参加者募集の張り紙。


●決闘に参加する人募集
概要:二組に分かれての真剣勝負
   蓮包の青組と紫苑の赤組に分かれての集団戦です。
場所:武神祭の会場になった神社付近の海岸
時間:正午
取り決め
 ・中傷を負う、戦闘不能になる、もしくは降伏を宣言した時点でその参加者は脱落します。
 ・怪我については自己責任。回復しきれない傷を負っても相手を責めないように。一応、初級リカバーの使える人はいます。
 ・魔法の使用は認めます。戦闘中の回復も認めますが、一度中傷を負って脱落した者の再戦は認めません。
 ・武器類は本物を使用します。
 ・報酬は残念ながら、ご用意できません。名誉と腕試しの場だけで満足だ、という人、どうかお願いします。

「人、来てくれるといいね」
「蓮包には負けないですよ」
「あたしだって、紫苑に負けてなるものか!」
 そう言って連包と紫苑は微笑みあうのであった。

●今回の参加者

 ea6158 槙原 愛(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8428 雪守 明(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8470 久凪 薙耶(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8703 霧島 小夜(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8794 水鳥 八雲(26歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea8896 鈴 苺華(24歳・♀・志士・シフール・華仙教大国)
 ea8979 千手 寿王丸(26歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9181 巽 咲夜(41歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 12月24日は、欧州では聖夜祭で大いに盛り上がる日であるが、欧州より遠く離れたジャパンでは、あまり関係のない話である。
 この日に決闘が行われることはまったくの偶然でしかない。
 武神祭の行われた神社近くの海岸に集まった十人の冒険者達。
 緊急を要する依頼というわけでもなく、自主的に集まって決闘をしようという。
 しかも、そのうち九名が年頃(?)の女性であるというのは、およそ欧州では考えづらい話であろう。
 そういえば、今回の決闘に欧州出身者は参加していない。


「はじめぇっ!」
 立会人の僧侶の大きな声が砂浜に響き渡り、決闘が始まった。
「行くぞ。打ち合わせた通りだ。後は各個の判断に任せる。」
 青組・霧島小夜(ea8703)の掛け声で、蓮包の青組の面々が一斉に駆け出す。
 小夜は青組の作戦立案の中心となって活躍した。
 青組は武道家四人、軽装の浪人が一人という編制で、一撃の威力の低さが気になるものの、手数の多さが最大の武器である。
 残念ながら飛び道具や攻撃魔法を持つ者がいない。とにかく走って敵に肉薄しなければならない。
 一方、紫苑の赤組はその場に留まって動かない。
 赤組は浪人四人に侍が一人。全員が女性ということもあり、日本刀を軽々と扱えるだけの膂力を持つ者はいない。その分、手数では青組に劣るものの、一撃の攻撃力には優れている。
 そして、こちらには一人だけであるが、遠距離攻撃の出来る人間がいる。それを最大限に活かすため、接敵までの時間を稼ぐ目論見である。
「人2、混り物2‥‥。‥‥? 羽根付の姿が見えないわね」
 走り来る青組を迎撃するのは赤組・巽咲夜(ea9181)である。青組・鈴苺華(ea8896)が見えなことが、ちらりと気にかかる。
「けど、まずは千手さんから!」
 が、優先すべき目標は定まっている。
 咲夜が目にも止まらぬ速さで刀を振り下ろすと、剣風がそのまま刃となって青組・千手寿王丸(ea8979)に襲い掛かる。流派によって呼び名や細部は変るものであるが、『ソニックブーム』に分類される技である。
「やれやすか?」
 寿王丸は飛来する風の刃の軌道を見極めて、タイミングをあわせて左手の小柄でかき散らす。
「もう一撃‥‥」
 咲夜は日本刀を構えなおすが、その時には軽装の青組はすでに赤組の目前にまで迫っていた。
「しまった! 十手を忘れた!」
 腰に帯びていたつもりの十手がないことに、青組・水鳥八雲(ea8794)に自分の迂闊さを呪った。十手は彼女のバックパックの中で眠っている。
「あはは〜、おっちょこちょいですね〜」
 好機を逃すまいと、赤組・槙原愛(ea6158)が大きく上段から振り下ろす『スマッシュ』を仕掛ける。
「代わる!」
 小夜が八雲のフォローに入って、愛の攻撃を受け止めようとする。動きの大きな『スマッシュ』は、小夜と愛の実力差であれば、見切ることは容易い‥‥はずであった。十本に一本だけ取れる状況‥‥‥‥愛の一撃はその一本となった。
「うぐぅ‥‥っ! 砂に足をとられて‥‥精進が足りないな‥‥」
 砂浜という場所への慣れと不慣れの差もあった。赤組は事前に連携と砂地へ慣れる為の練習を積んでいたのである。
 むろん致命傷ではないが、取り決めにより、小夜が戦闘より脱落する。
「まずは一人目です〜!」
「いっくよー!」
 愛が一人目を倒した快哉を上げた時、不意に八雲の背後から赤組・鈴苺華(ea8896)が飛び出して蹴りを放つ。
「うわっ!?」
 だが、シフールの体格上の不利から苺華の格闘技術はさしたる脅威にはならない‥‥はずなのであるが‥‥。
 こういった気紛れな運命を司る存在がいるのだとすれば、それは賽の目のようなものではないだろうか? イカサマ賽のような決まりきった結果は存在しない。
 いずれにせよ、不意打ちの効果もあったとはいえ、冴えわたるような苺華の蹴りが愛の首筋を襲った。相手の気絶を狙った『スタンアタック』である。
「っ! どこです?」
 幸い、愛は意識を失うことはなく、反撃に移ろうとする。だが、苺華の姿が見えない。
「私を踏み台にした〜!?」
 愛の首筋を蹴った反動を利用して苺華は空高く舞い上がっていた。
「選り取りみどりだね♪」
 上空から戦場をすべて見下ろせる視点を手に入れた苺華は好きなタイミングで攻撃を仕掛けることが出来、誰かの背後に回りこむことも容易である。
「嫌な位置を取られた‥‥が! シフールに気をとられるな! 私が見張っている! 気にかけるのは私の警告した時だけで足りる!」
 後方に位置して、『チャージング』のタイミングを計っていた赤組・雪守明(ea8428)は自慢の視力で苺華の挙動に注意を払う。明はこの決闘の為に、事前に練習会を設けるなど赤組の中で精力的に活動していただけに仲間達にとって、心強いことであった。
『攻撃に降りてきたところを狙う!』
『明さん、厄介だな』
 苺華と明の静かな戦いが始まった一方で、前線の戦いは混戦の模様を見せつつあった。
 青組の蓮包、八雲、寿王丸の三人、赤組の紫苑、愛の二人が入り乱れて戦っている。
 赤組・久凪薙耶(ea8470)は強力だが重すぎる武装の為に、動きが鈍く、鎧も身につけていない。乱戦には不向きなトップヘビーの戦闘スタイルであり、一歩距離を置いてタイミングを計っている。咲夜も一歩距離を置いて『ソニックブーム』を狙う構えを見せている。
「‥‥こっちから仕掛ける! 蓮包さん、お願い!」
「任せてっ!」
 十手を忘れてしまったことで算段の狂った八雲が、作戦を変更する決断を下す。攻撃後の隙を狙われないように蓮包に牽制を頼む。
「一撃を食らわせてあげるわ!」
 八雲が狙うのは紫苑。
 八雲が繰り出した拳を、紫苑は一つは受け流したものの、もう一つは受けてしまう‥‥が、軽い。
「まだカスリ傷です!」
 だが、紫苑には武器を振るう余裕がなくなっている。
「これが本命よ! 鳥爪撃!!」
 目にも止まらない素早い蹴りが紫苑を襲う。紫苑の身のこなしだけでは避けきれない。
「‥‥‥‥ごめんなさい、後を‥‥お願いします‥‥」
 これで紫苑が脱落となる。
 紫苑を倒したばかりの八雲に、他に気を回す余裕はない‥‥が、
「‥‥八雲様は狙えない‥‥」
 薙耶は蓮包に牽制されて手を出すことは難しい。
「なれば、蓮包さま、お覚悟を!」
 蓮包に牽制されているなら、蓮包を狙えばいい。
 寿王丸も愛にかかりきりの今がチャンスである。
 全長2m60cmにも及ぶ、薙耶の巨大な得物が唸りをあげる。
「当たったら洒落になんないよ!」
 蓮包はあえて前進して、薙耶の懐に飛び込んでいく。
 長柄の武器に対して、離れていても不利なだけだ。
 だが、先端部の刃の重みによって加速された攻撃は、その内側の柄の部分にも十分な破壊力を与えていた。
「あぅッ! ‥‥重いっ‥‥」
 柄による胴ばらいという格好になった薙耶の一撃は、蓮包を脱落させる。


 これで蓮包と紫苑、この決闘の言いだしっぺが脱落したことになる。
 だが、決闘はこれで終わったわけではない。
 青組には八雲、寿王丸、苺華。
 赤組には愛、薙耶、咲夜、明。
 数の上では赤組がやや有利。

「愛ちゃん、合わせるわよ」
 咲夜が声をかける。優勢を確実なものとすれば、決着はつく。
 連携攻撃で一気にまくし立てようという魂胆である。
「水鳥殿、鈴殿、頼むでやす!」
 青組にしても正念場である。寿王丸と八雲が愛に向かっていく。
「やぁっ!」
 まず、八雲が仕掛ける。右拳の攻撃が命中し、左拳は避けられてしまう。
 愛の傷は浅い。もう一撃が必要である。
「任せるでやす!」
 愛に止めを刺さんとする寿王丸だったが、攻撃を仕掛けるよりも早く咲夜が横合いから肉薄した。
「受けなさい!」
 不意打ちの上に技巧を凝らした一撃を寿王丸は受け流すことができない。だが、いかんせん『フェイントアタック』は攻撃が浅くなってしまう。
「この程度で負けないでやす!」
 寿王丸の反撃の一太刀が唸りをあげた。

 時、同じくして。
「そこだぁっ!」
 苺華が急降下して薙耶を狙う。
「久凪殿! 上から来るぞ!」
 明は叫ぶと同時に走り出している。降下してきた瞬間が攻撃のチャンスである。
 苺華の一撃目は明の警告もあり、薙耶の武器で簡単に受け流せた。
『問題はここからでございます』
 薙耶の武器は重い。続く攻撃は武器で受ける余裕はない。身のこなしで避けるしかないが、苺華の格闘能力と薙耶の回避能力は、やや薙耶が上回る程度。
「やらせてもらうよっ!」
 首筋目掛けた苺華の一撃‥‥薙耶が回避に成功する。
「そこ、もらったぁっ!」
 攻撃を避けられた直後、意識が薙耶に集中しているであろうタイミング。
 その隙を狙った、明の『チャージング』が炸裂した。
 だが、シフールの身軽さは明の技量を上回った。
 だが、苺華の続く一撃も外れてしまう。
「うう‥‥認めたくないモンだね、自分の技量の未熟さなんてものはさ」
 苺華はそういうと、明と薙耶の囲まれた状況から抜け出した。


 残るは、3対3。
 手数に勝る青組。威力に勝る赤組。
 その構図は変っていない。
 赤組が先手をうって、青組を鎧袖一触にするか?
 青組が攻撃を凌ぎきって、反撃を加えるか?
「両者、そこまで! この勝負、以上をもって引き分けとする!」
 立会人の僧侶が声をあげた。
 よい頃合‥‥と見たのであろう。
「ふぅ‥‥」
「はあぁ‥‥」
 冒険者達の緊張が一気に解けていくのが伝わってきた。
『わああああぁぁぁっ!!!』
 大きなものではないが、歓声があがった。
 冒険者ギルドで参加者募集をしていた為か、少なからず野次馬が集まっていたのだ。
 疲れ、傷ついた冒険者達の心に賞賛と慰労の言葉が温かく染みこむのであった。