茶鬼退治・盾を取り戻して
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月08日〜07月13日
リプレイ公開日:2007年07月17日
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●オープニング
●その者、ナイトにして、冒険者に非ず
姿を現したのは立派な身なりの欧州のナイトであった。
もっとも立派なのは身なりばかりで、中身のほうは何とも頼りなげな、それでいて憎めない愛嬌のある男であった。もっとも、冒険者は見た目だけでは判断できない。愛らしい少女が実は凄腕などということはよくある話だ。
冒険者ギルドに姿を現したのも、冒険の依頼を探してのことであろう。
そう思えば、別段、注目を集めるような人物でもなかった。
「茶鬼に奪われた盾を奪い返して貰いたいんだ」
ナイトはギルドの受付にいる手代にそう切り出した。
「あの‥‥依頼‥‥ですか?」
「そうそ、依頼人だよ。でな、その盾は家伝のお宝なんでね、できれば傷をつけずに持ち帰って欲しいんだ」
冒険者が仕事を探しに来たものとばかり考えていた手代は、思いがけない話につい聞き返した。ナイトはそれにヘラヘラとした様子で答えている。
「では、助太刀ということでよろしいのですね?」
仮にも冒険者の端くれならば、と手代は考えている。だがしかし。
「いやいやいやっ。俺は冒険者じゃないから、助太刀ってのは正しくない。というか、あんな恐ろしい目にあうのは懲り懲りだ」
ナイトはぶんぶんと首を振り、パタパタと手をふって否定を全身で表現する。
「あの‥‥順を追って、分かりやすく話してもらえないでしょうか?」
手代はナイトの話が要領をえないのを見て、そう懇願するより他なかった。
●ディレッタント
好事家。このナイトを表現するのであれば、そうなるであろう。
騎士の家に生まれながら、剣の腕を磨くこともなく、美術や学問を愛好し、それに耽ってきた男である。
それを見かねた家族が「冒険者になって騎士としての武者修行をしてこい」と言って家を出したのである。
だが、このナイトは根っからの放蕩者である。冒険者ギルドの登録料を払うのを厭うて放蕩の旅に変えてしまったのであった。
教養と愛嬌だけはあったので、のらりくらりと世の中を泳ぎ渡ってしまう。この手の教養人は富裕な商人や農民に好かれるものである。そのうちにジャパンにまでやってきてしまった。
ジャパンに来てからも、外国からきた珍しいお客として裕福な商人や農家の家を渡り歩いてきたのである。
一昨日まで客分として逗留していた農家でのことである。
「近くの山に茶鬼が出たので退治してもらえませんでしょうか?」
「いや、俺は剣のほうはからきしで‥‥」
「いや、ご謙遜をなさいますな。あなた様ほどの見識のあるお方ならば、文武両道は士分の本分でございましょう」
「む、無理だ。それは無理だ‥‥」
教養と愛嬌で生きてきたナイトにしてみれば、茶鬼退治など思いもよらないことであった。
が、結局、押し切られて茶鬼のいる山に追いやられてしまった。
●村人の為にも、一つお願いします
「いやはや、後はもうほうほうの態で逃げ出したという有様でしてな。参った参った」
かんらかんらと笑うナイト。
「その時に盾を奪い取られてしまったという次第で」
頭を掻いて照れてはいるが、恥じている様子はない。元来、能天気そのものが性分なのであろう。
「というわけで、あの村の者達の為にも、俺の盾の為にも冒険者にお願いをしたいわけだな」
茶鬼退治はどちらにせよ、罪のない村人が犠牲にならない為に必要なことである。
「で、盾の話に戻るとな。盾の正面に色々な装飾が施されているんだ。だから、剣や槌で殴られると困るというわけだ。うまく盾に攻撃を当てないように倒して欲しい。頼む」
ナイトはそう言う。
「茶鬼の数は十匹。山の中腹にある使われなくなった山小屋に棲みついている」
そのうち、一匹の茶鬼が盾を持っている。
●リプレイ本文
●黎明攻撃
夏至を過ぎたとはいえ、まだまだ夜明けは早い。
朝焼けに燃える空を一羽の隼が旋回飛行している。
山の稜線から太陽が今にも顔を出しそうで、なかなか出さないでいる。
山鬼が棲みついた山小屋にむけて、二つの黒い影が音もなく忍び寄っていく。山鬼が棲みつくだけのことはあり、山小屋の周囲は背の高い草むらに覆われており、一式猛(eb3463)と室斐鷹蔵(ec2786)はその草むらに身を隠し、あるいは音を立てないように避けながら山小屋へ近づいていく。
忍者の少年である猛は忍者としての心得を一人前一歩手前辺りまで身につけているが、鷹蔵も存外小慣れた様子で気配や物音を消している。
「小僧、様子はどうだ?」
「‥‥子供だからって、なめんなよ〜。品性の欠片もない寝息が‥‥ひ〜、ふ〜‥‥」
小屋の近くまで達した時、鷹蔵が囁いて訪ねる。相手の外見の特徴で勝手に呼び名をつけるのは、この男の刹那主義の為せるところであろう。
「‥‥とにかく寝息が多い。起きてる気配はない‥‥と思うのら〜」
「使えねえな。まあいい、羽虫達を呼んでやれ。先に入るぞ」
「‥‥あんたが仕切らないでくれよ‥‥ああ、もう」
鷹蔵が山小屋の中にさっさと山小屋の中に潜り込むので、猛は左手に持った風車を振って少し離れたところにいる仲間達に合図を送る。そして、猛も山小屋の中へと潜り込む。
山の稜線の輝きが増すほどに空の赤みが青みに変わっていく。
ロニー・ステュアート(eb1533)は、その朝の空気の中に血の臭いが混じったことを感じた。草むらの上を飛び越えて山小屋に飛び込めば、そこで見たものは猛と鷹蔵が茶鬼を次々に葬っている様子であった。
「私も退治するのです」
茶鬼達はすでに目を醒ましだしていたが、状況を把握できている鬼は少ない。ロニーは山小屋の中に降り立つと、混乱している茶鬼の急所にナイフを押し当てて押し切る。
まともに刃を交し合う状況では、相手の急所だけを狙う技を持ち合わせていない三人であったが、相手が寝ていたり抵抗できない状況であれば別である。
だが、ロニーに向けて力任せに斧が振り下ろされる状況になってくれば、そういう訳にもいかない。
「もう、目を醒ましてきましたね。ていっ!」
「ぎぃっ!」
ロニーは手にしてナイフを茶鬼に向けて投げ放つ。体が小さく非力なシフールにとっては格闘術よりも射撃術に適性がある。ロニーのナイフは狙い違わず茶鬼の目玉を貫いた。
「さあ、ついてくるのら〜」
猛が山小屋の外へと転がり出る。茶鬼が戦闘態勢を整えたのを察知して、事前の作戦通りに敵を外に誘き出したのである。
「外はすっかり明るくなってるか」
小屋に入る前はもう少しだけ薄暗かったように思うが、辺りはすっかり明るくなっていた。
この依頼が盾を取り戻して、茶鬼を追い散らすだけであれば、もっと暗い時間帯での攻撃になったことだろう。姿の見えない状態で茶鬼に冒険者側の数を誤認させれば、それだけで戦意を失わせることが出来る。
だが、この依頼は近くの村の人々の為にも、茶鬼の全滅が望ましかった。黎明攻撃は敵の眠りの深さでは夜襲にも近く、しかも時間と共に周囲が明るくなっていく為、敵を取り逃がしにくいという特性があった。
「がうっ! がうっ!」
猛を追いかけて、斧を振り上げた茶鬼数匹が山小屋から飛び出てくる。だが、そえは猛による誘導である。
「破壊の力をっ! はっ」
「束縛をっ! むんっ」
黒染めの装束を着た室川風太(eb3283)は金剛杵を右手に、左手に数珠を手に撒きつけ、印を組んだ両手を茶鬼に向けて突きつける。
対照的に真っ赤な装束の音羽響(eb6966)もまた、数珠を茶鬼に向けて突きつける。
二人の体が神の奇跡の片鱗を見せる黒と白の光に包まれて、一方の茶鬼は肉体の一部を破壊され、一方の茶鬼は金縛りにあったように硬直してしまう。
「ぴゅうぅいっ!」
猛が指笛を鳴らすと、上空を旋回していた隼が急降下してくる。
風太の放った破壊の神聖魔法によって傷ついた茶鬼を攻撃する隼は猛の飼ういったんもめんである。
「南無っ!」
一匹は金縛り、一匹はいったんもめんが相手をしているが、まだ山小屋の中に残っていた茶鬼がいる。それに備えて響は再び金縛りの神聖魔法の為に精神を統一する。
「むんっ!」
次に出てきた茶鬼はふらつく足取りで、首から大量の血を流していた。すでに魔法に対して抵抗する気力も萎えており、あっさりと金縛りにかかる。
「鬼に生まれたは前世の報い。来世の回向で救われんことを。南無」
響は数珠を握って、動けないまま血を失っていく茶鬼に手を合わせた。
「ぐがぁっ!」
さらに二匹の茶鬼が金縛りで動けない茶鬼を蹴散らして山小屋から飛び出してくる。一匹は無傷で一匹はわき腹を斬りつけられている。
「はっ!」
再び風太が破壊の力を解き放ち、傷ついた茶鬼に追い討ちをかける。
「お前の相手はこっちだよ〜」
猛が無傷の茶鬼に風車を投げつける。カスリ傷を負わせた程度の威力に過ぎなかったが、茶鬼の気を引き付けるには十分であった。
茶鬼が斧を振り下ろしてくるのを、猛は素早いサイドステップで避けていく。否、そうして大きな動きで避けなければ、茶鬼の攻撃を避けきれないのである。
(「力だけはありそうだから、斧を振る早さもあるね‥‥」)
今はただ避けることに集中する。
そこへ宙を舞う影が走る。
(「いったんもめん? 違うっ‥‥」)
「ぎゃああっ!」
猛と対峙する茶鬼の左目に矢が突き立った。
「僕も相手になるのですよ」
それはロニーの放った矢であった。ロニーは再び矢をつがえて狙いを定める。特別に軽く作られている短弓はロニーの腕力でも扱うことが出来るものである。 再び矢が放たれて、茶鬼の首に突き刺さる。即死に至らないのは威力の低さ故である。
「っ!」
ロニーがさっと軽やかに飛び上がると、それまでロニーがいた地面を茶鬼の斧が抉った。
「そんな程度の攻撃、多少の不意打ちでも避けられるのです」
それはいったんもめんが相手にしていた茶鬼であった。いったんもめんが一度上空に舞い上がって速力を回復しようとしていたのである。茶鬼は爪に引っ掻かれてあちこち傷だらけになっていた。
「さあ、もう一息なのら〜」
大勢が決まったところで、ガキ大将気質の猛は仲間を叱咤すると小柄を構えて矢の突き立った茶鬼に立ち向かっていく。ロニーの与えたダメージの分だけ、猛にもくみしやすい敵になっている。
「がああっ!」
「全力でいくのら〜」
茶鬼が最後の力を振り絞って抵抗するが、猛は素早い足捌きで茶鬼の死角になっている左側に回りこむと小柄を茶鬼に叩き込んだ。
血臭漂う山小屋の中で、盾を持った茶鬼と対峙する鷹蔵。
他の茶鬼達とは一味違う、その茶鬼はこの群れの長なのであろう。野卑な鬼なりに盾と斧を構えた姿には経験に支えられた油断の無さが感じられた。
「なかなか、堂にいった構えよのう。奇襲が効かなければ、ちと相手にするのは辛かったであろうの」
刀を鞘に納めた鷹蔵はそんなことを言いながら、間合いを計っている。不敵な笑顔は奇襲が成功して、最初に茶鬼の数をぐっと減らすことに成功したからであろう。
「‥‥しかし、思ったほど豪勢な盾でもないようだの」
鷹蔵は茶鬼が構えている盾の動きを注視している。これを傷つけては依頼は大成功とは言い難いので、当然のことであった。さほどに審美眼を磨いているわけではないが、依頼人の盾というのは鷹蔵の目から目から見てさほど豪華なようには見えなかった。
「だが、依頼は依頼よ。仕舞いじゃ」
山小屋の破れた壁から差し込んだ日の光で、きらりと刀身が煌いた。
刀をさっと一振りして、腰に納める。
どう、と茶鬼の体が崩れ落ちたのであった。
●受けつがれる物
「いやいや、皆、ご無事で何よりだ」
村まで戻ってくると、出迎えたのは依頼人の騎士であった。茶鬼と戦うのは恐ろしいと言っていたが、村まではひょっこり付いてきた。
「首尾はどうであったかな」
「‥‥茶鬼は確かにすべて退治いたしましたわ」
「そうかそうか、それはよかった。村の衆、俺は前にも言うたように剣はからきしなわけだが、この者達が茶鬼を退治してくれた。安心されよ」
騎士は響からの報告を聞くと、村人達に高らかと言ってみせた。
「この方は‥‥。まあ、人には、向きと不向きがございますから、争い事の苦手な方に強要するものではございませんわね」
調子のいい騎士の様子に響は苦笑いする他なかった。
「ところで、依頼の盾ってこれでいいのかな?」
盾を手にした風太が騎士に尋ねる。鷹蔵が豪華ではないと感じた盾は、美術品に造詣のある好事家の風太から見ても地味で高い値を付けられるようなものではなかった。
「おお、よかった。傷もついていないようで、本当によかった」
「僕も好事家だから、大切なもののよさはわかるよ。まあ、僕の場合は高価なものより、友人から貰った品のほうが大事だけどさ」
風太から盾を押し頂くように受け取った依頼人は盾の様子をまじまじと見つめている。その盾と持つ手つき、見つめる目つきから、風太には依頼人が盾を本当に大切にしている様子が窺える。
「すごく大切してるみたいだね。何か理由があるのかな?」
「理由?」
風太が尋ねると、騎士はきょとんとした顔になった。
「あなたは自分でも言ってたじゃあないか。高価なものより友人から貰った品のほうが、と。この盾はね、家伝のお宝なんだ」
「あっ」
「この盾は高値がつくような工芸品、美術品的な価値はないが、先祖代々が戦場に赴くのに使ってきた品だ。俺は知ってのとおりの放蕩者だが、それだけに先祖の想いが込められてきたこの盾がモンスターなどの身を護る役目を果たすのがどうしても我慢ならなかった」
「友人とご先祖様の違いはあるけど、僕にもよくわかるよ、その気持ちっ!」
風太と騎士がすっかり意気投合する。
「はっ! 武器なぞは使えるか使えないかじゃ。それ以外に何があるものか」
そんな様子を少し離れたところで見ていた鷹蔵がせせら笑うのであった。