断片から物語を復元しようね
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:恋思川幹
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月10日〜01月15日
リプレイ公開日:2005年01月18日
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●オープニング
「うちの芝居小屋で古い外国の文献から復元した物語を演目にすることになっていたのですが‥‥」
冒険者ギルドにやってきた男はそのように切り出した。
「冒険者が必要になるような不都合ができたのですか?」
手代は問い返した。
「はい、翻訳担当、兼脚本家の男が、原本を持ったまま逃亡しました」
原本は蒐集家の書庫に眠っていたもので、まだフランクとの月道が繋がっていた頃にジャパンに流れてきたものである‥‥と伝えられている。
「なるほど、その男の行方を捜して、原本を取り戻せばいいのですね?」
物分りのいい風な手代は、そこまで聞いて依頼の内容を先読みした。
印刷技術の発達していないジ・アースにおいて、書物はそれそのものが貴重品である。一つ一つ手書きで写し取って作られるもので、量産がきくものではないからである。
まして、外国の文献ともなれば、その稀少価値は跳ね上がるであろう。
脚本家の男がそれに目に眩んだ‥‥というのが手代の読みである。
「いえ、そちらについては既に手を打ってあります。うちの脚本家が締め切り間近に逃げ出すのは、日常茶飯事ですので‥‥」
だが、手代の読みは外れていた。
「では、いったいどういうわけで?」
「実は脚本家連れ戻しても芝居に間に合いそうになく‥‥」
一息おいて依頼人が切り出した。
「脚本家が翻訳中にとっていた走り書きから物語を復元して、冒険者の手によって芝居を代りに行ってもらいたいのです」
「冒険者としての資質や経験は問いません。欲しいのは芝居を成功させる為の能力です。どうか、よろしくお願いします」
男が手代に深々と頭を下げた。
さて、脚本家の男が残していった走り書き(メモ)には、次のような言葉が書き散らされていた。
「母親の墓の上に植えられた木」
「継母と継姉」
「若殿様の花嫁探し」
「鳩」
「子の刻」
「金の靴」
冒険者達はこれらの言葉が如何なる物語の断片であるのか、あれこれ頭を捻りつつ、芝居を行う準備に追われることになるのであった。
●リプレイ本文
●楽しい稽古風景
さて、芝居を成功させるという依頼に集った冒険者達はそれぞれに個性的な面々であった。
「どこかで聞いた覚えがあるような‥‥ないような‥‥」
頭を悩ませながらも、脚本の執筆を行っているのは野乃宮霞月(ea6388)である。走り書きに残された単語から原作となる物語を推測するが‥‥残念ながら「霞月」の知識の範囲ではわからなかった。
「そう悩みなさんな。依頼人もこの際、元の話にはこだわらねえっていうしな。‥‥でだ、主人公の少年はその後‥‥」
バーク・ダンロック(ea7871)は物語の原案をひねり出した、いわば原案者だ。
「結末をこうした方が、受けがよくないぢゃろうか?」
枡楓(ea0696)もバークの示した原案に自分の提案を加える。
「僕に芝居なんてできんのかな? えーと‥‥『ヒィッ、助けれてくんろ〜』‥‥なんかしっくりこないな」
演技という行為に頭を捻っているのは、御崎零羽(ea9465)である。気まぐれな彼の熱心さがいつまで続くのかは不明である。
「なんや、透もおやじの妾の子か。よろしゅうな、兄ちゃん」
一方、この場でなにやら感動の再会も会ったらしい。
実は大宗院沙羅(eb0094)と大宗院透(ea0050)は異母兄妹なのだそうだ。
「あの‥‥大宗院さん。沙羅さんはハーフエルフですから幼く見えますけれど、暦で数えると透さんよりもお姉さんだと思うのですが?」
うんちく話を好むアイーダ・ノースフィールド(ea6264)が鬘や化粧を試しながら横から話に加わる。
「“あね”、まあ‥‥。妹ではなく、お姉さんだったですか‥‥」
「駄洒落姫(偽)」の異名を持つ透、会話の端にも駄洒落がのぼる。
「母上と師匠から逃れる為に、ギルドの依頼を隠れ蓑にしていたのだが、よりによって、『継母と継姉』にいじめられる少年役とは‥‥」
こちらもなにやら複雑な家庭事情を抱えているらしい、凪里麟太朗(ea2406)。なにやら、役に自分の身の上を重ねている。迫真の演技が期待できそうである?
さて、準備は着々と整っていった。
●舞台「ふるきことしるす物語 〜神酒鬼殺し〜」
・第一幕
おどろおどろしい音楽が演奏される中、緞帳がゆっくりと捲り上げられていく。
「助けてくんろ〜!」
逃げ回る村人役の霞月と零羽が舞台を縦横に逃げ回る。特に浪人である零羽は身のこなしを活かして舞台上を派手に転げてみせる。
いきなりの緊迫した場面に観客は一体何事かと注目する。
「大人しくしろ、人間ども! さもなくば、一人残らず食ってしまうぞ!」
舞台に大音声が轟くと、霞月と零羽は途端にその場に平伏してしまう。観客達もビクリとして声の主に注目する。
「我らが鬼の一族の若君であらせられる、鬼若丸様がおなりである! 伏して出迎えよ!」
現れた鬼役のバークが重々しく宣言した。
ジャイアントの巨躯、異国人の顔立ち、騎士であるゆえの堂々たる態度、それらを兼ね揃えたバークの鬼役は迫力に満ちている。
「俺が鬼若丸だ。俺の名前を覚えておいて、損はないぜ」
鬼・バークの宣言によって登場してきたのは、悪漢の若頭といった風情の身なりのいい若者である。頭には鬼であることを示す角がついている。
この鬼若丸を演じるのは透である。が、知人が見てもそれが透であると気づく者は限られるであろう。忍術『人遁の術』の効果によって、まったくの別人と化している。
「よいか! 此度、鬼若丸様は花嫁を所望である。この村から一人、若君に花嫁を献上せよ」
「ヒィッ! 分かりました! 生贄を差し出しますから、オラの命だけはお助けを!」
平伏して命乞いをする村人・零羽。普段から姿勢が悪く猫背の彼なので、そういった卑屈さが似合わないでもなく、こちらも役にはまっている。
「村を滅ぼされたくなければ若くていい女を献上するんだな」
鬼若丸・透は印を組むと集中することしばし。
煙とともにその姿が掻き消えた。
『おおおっ!?』
観客席からどよめきが上がった。これは舞台に予め土を盛っておき、その中に『土遁の術』で隠れたのである。
「よいか、花嫁には目印として、錦の着物を着せ、金色の靴を履かせて若君の元へ来させるのだ。従わぬ場合は村を焼き払う」
鬼・バークもそう言い残して、舞台をはける。
後に残されたのは村人・霞月と零羽の二人だけである。
「若い女と言っても、誰がいるかな?」
「うむ、そうだ! あの家の娘などよいだろう?」
「そうか、あの家の娘か、それは良案だね」
村人・霞月と零羽が納得しあったところで、緞帳が下りてくる。
・第二幕
「麟太朗! 麟太朗はいないのかい!」
緞帳が巻き上げられると、舞台の真ん中に立つアイーダが甲高い声で叫んでいる。
役名を思いつかなかったので、麟太朗の名前をそのまま使ってしまっている。
「何か御用でありますか? 『母上』」
貧しい身なりの少年が舞台袖から現れる。
「『母上』だなんて厚かましいわね。私はあんたを産んだ覚えなんてないよ! それより、朝のうちに掃除しておくよう、言っておいたでしょう。遅いわよ、このグズ!」
継母役のアイーダは厳しく麟太朗を叱責する。
「掃除はすべて済ませてありますが‥‥」
「麟太朗、あんたの掃除には愛が足らんのぢゃーっ! どんなに見た目が綺麗になろうとも、愛なくして何の掃除じゃろうか?」
ドタドタと賑やかしく舞台に上ってきたのは、継姉役の楓である。
当初、9歳しか歳の離れていないアイーダとの娘役に不安があったが、『童顔』で『胸のない』楓はごく普通に娘役で何の差し障りがなかったようである。
「掃除なんだから、見た目が綺麗になってれば問題ないと思うのだけど‥‥」
「口答えするでないのぢゃ! 上辺の綺麗さなど、心の目、心眼を開けば‥‥」
継姉・楓が目を閉じて心眼を開く(?)と、
「‥‥うわっ! 汚いのじゃ!」
と言って身を仰け反らして卒倒した。
「おやおや、大丈夫かい。お前は我が家の、そしてこの村の宝なんだよ。気をつけないとね」
継母・アイーダが卒倒した継姉・楓を労わる。
「心眼って‥‥? あの、僕には心眼は開けそうにないから、掃除は『姉上』に任せようか?」
「何を言ってるんだい、すっとこどっこい! 掃除はあんたの仕事よ! やるべき仕事もできないのかい?」
麟太朗の提案は継母・アイーダに一蹴される。
「けど、僕は炊事もやってるし‥‥」
「それもあんたの仕事だろ?」
「洗濯も‥‥」
「それもあんたの仕事」
「‥‥」
「あんたの仕事」
「まだ、何も言ってなかったのに‥‥」
がっくりとうな垂れる麟太朗。どうにも、この手のシチュエーションには素で弱いようだ。
その時であった。村人・霞月と零羽が彼らの家を訪れたのは。
・第三幕
緞帳があがると、舞台には一本の樹が生えている。
その根元でうな垂れる麟太朗。
回想を演出しているのか、舞台の両袖に継母・アイーダと継姉・楓が登場する。
『うちやおっかさんが生け贄になるのは嫌なのじゃ。そうだ、麟太朗を代わりに差し出すのぢゃ。どうせ、目印がなきゃ人間の顔も区別できない鬼、麟太朗でもわかりゃしないじゃろう』
『なるほど、いい所に目をつけてたねえ。さすが私の娘だね。それに以前生け贄になったのはあの子の母親なんだから、生け贄向きの血筋って事でしょ』
明かされる過去。悲劇は繰り返されていたのである。
「ああ‥‥どうして僕はこう‥‥身内から苛められる体質なんだろう‥‥じゃないっ! 僕は母上の仇も討てない情けない息子だ‥‥」
墓場の中心で哀しみを叫ぶ少年。樹の根元には麟太朗の実母の亡骸が眠っている。
「なんやかわいそうやなぁ。ほな、うちがいい情報、教えたろか?」
不意に樹の上から降ってくる声。
鳩に扮した沙羅が樹の上に現れて、麟太朗に声をかける。
「情報くれるなら、金もくれ!」
「何をいっとるんや、情報を提供するのはうちやで。金を貰うんはうちのほうや」
二人の視線がぶつかり合って火花を散らす。互いにアドリブで用意していた、このセリフ。うまく噛みあったと言うべきか、真っ向から対立したというべきか?
「‥‥ええやろ、あんた、なかなか見所があるさかい、出世払いにしといたる」
先に譲歩したのは鳩・沙羅のほうである。
「子の刻にここに来くるんや。そうすればごつい物が手にはいるで」
鳩・沙羅は麟太朗にそう言い残すと樹の中に再び潜り込んでしまった。
「‥‥僕はまだ払うって言っていない‥‥」
落ち込む麟太朗を覆い隠すように緞帳が下りてくる。
・第四幕
緞帳があがると、錦の着物に身を包み、金色の靴を履いた麟太朗が、両手で抱えるほどの木の実を持って歩いてくる。
「子の刻に行ってみたら、母上の眠る樹についていた実。鳩が言っていたのはコレだろうか?」
結局、鬼の花嫁となるべく麟太朗は女装させられてしまい、トボトボと鬼達のもとへと向かっている。
「ガァッハッハ! 約束に違わずやってきたな!」
村人、転じて鬼役・零羽が現れる。
「鬼若丸さまっ、花嫁が参りました! ん? その大切そうに抱えているのはなんだ?」
「あっ、それは!」
同じく村人、転じて鬼役・霞月が麟太朗の腕から木の実を取上げてしまう。
「どうした? 花嫁に何をしている?」
後からやってきた鬼若丸・透が騒ぎ聞きつけたようだ。
「花嫁がこんなものを持っていました」
取り上げた木の実を鬼・霞月が献上する。
「ほぉ、中身は酒か‥‥よい心がけだな」
受け取った鬼・バークが中身をあらためると、木の実の中からは酒の入った甕が出てきた。
「よし、花嫁よ、せっかくだ。近うよって酌をせい! おぉ、中々の娘だ」
鬼若丸・透が麟太朗が近くへ引き寄せると、鬼達の宴会が始まる。
「なんとも強烈な酒だね。さすがの鬼の僕達もすっかり酔っ払ってしまった‥‥」
鬼・零羽がバタンと倒れ伏したのを皮切りに、鬼達は全員酔いつぶれてしまった。
「鬼も酔い潰すとは‥‥もしや、これが銘酒・鬼殺しだったのか? ああ、母上が賜って下されたに違いない」
ただ一人、その場で意識を保っていた麟太朗は、懐に隠し持っていた懐剣を取り出すと、鬼達を、母親の仇を、見事に討ち果たしたのである。
麟太朗は鬼達の金銀財宝も手にいれて、めでたしめでたし‥‥には早かった。
「大変や、大変や!」
そう言って舞台に飛び込んできたのは、鳩・沙羅である。
「あんたの継母と継姉が、うちの金銀財宝を狙ってるで!」
「あなたに譲るつもりはない!」
「情報料は出世払い言うたやん!」
「‥‥けど、面白い。せっかく、鬼の金銀財宝手に入れたから、今までの逆襲をしようと思っていところだ! 返り討ちにしてやるぞっ!」
世の中には鬼よりも恐ろしいものは、人間であるのかもしれない。
くわばら、くわばら‥‥。