男装の麗人? 美形の男子?
|
■ショートシナリオ&プロモート
担当:糀谷みそ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月14日〜12月18日
リプレイ公開日:2006年12月22日
|
●オープニング
レガッタは、栗色の巻き毛とそばかすが愛らしい、宿で働く娘だ。
彼女は手を頬にあて、うっとりとした様子で話す。
「ロノンは本当に優しいのよ。宿の地下にモンスターが侵入したとき、彼は襲われそうになった私を助けてくれたの。私を腕の中に庇いながら、『レガッタさん、一人でさぞ怖かったでしょう? でも安心してください。私が必ず退治します』と微笑みながら言ってくれたの」
レノルドは、金の短髪と太い眉が男らしい、宿で働く青年だ。
彼は腕を組み、今にもとろけそうな笑顔で話す。
「ロノンは本当に優しいんだ。俺が手を怪我しているとき、代わりに掃除をしてくれた。雑巾と手桶を手に、『レノルドさんは掃除がお上手ですよね。お陰様で、毎日気持ちよく泊まらせていただいています』と微笑みながら言ってくれたんだ」
ロノンは、艶やかな黒髪と切れ長の目が凛々しい、黒の全身鎧を着た神聖騎士だ。武に長け、黒の神聖魔法を操る。
現在はレガッタとレノルドが働く宿で寝泊りしており、昼間は近くの教会に勤務するという毎日を送っている。
礼儀正しく、仁義を尊ぶ。
そんなロノンは多くの人に好かれ、ロノンも多くの人を大切にした。
レガッタとレノルドの話を聞き、冒険者ギルドの受付は首をひねった。
「‥‥で、そのロノンさんは男性なんですか、それとも女性なんですか?」
レガッタはロノンを『彼』と呼び、レノルドはロノンを『彼女』と呼ぶ。
これでは訳が分からない。
「それが‥‥」
「分からないんだ」
深刻そうな二人の言葉に、受付は思わず目を丸くする。
「分からないって‥‥体つきとか声とかで、分からないんですか?」
「分からないのよ。彼はいつも鎧を着ているか、ゆったりした服を着ているかのどちらかだし‥‥」
「声は女性にしては低くて、男性にしては高いんだ」
二人は一度、宿の主人に頼み込んでロノンに性別を聞いてもらったらしい。――性別を知ったとき、ロノンに対して恋心を抱く二人では、どういう行動に出るか不安だったのだ。
宿の主人に対して、ロノンは「その方が望むのであれば、男女どちらにでもなりましょう。ミミクリーを使えば簡単なことです」と答えたという。
だが、その答えで二人が満足するはずもない。
生来の性別というものは、魔法の力には代えられないのだ。
「でも‥‥あと数日で彼は遠くの教会へ行ってしまうの。できるなら、彼が男性なら駄目でもともとでも告白したいし、女性なら友達として別れを告げたい」
「彼女が男なのか女なのか分からないままじゃあ、ずっとムズムズしたまま生きることになるだろうし、後悔すると思うんだ」
それで、ロノンが男なのか女なのか、冒険者に調査してもらいたいのだという。
依頼を受けた冒険者たちは二人が働く宿で寝泊りすることになるので、ロノンと接触する機会は必ずある。
「分かりました。受けさせていただきましょう」
受付は依頼内容を確認しつつ、ロノンの性別が分かった後は恋のキューピットをするのも悪くないだろうと密かに考えた。
●リプレイ本文
「往復一日であればご一緒できましたが‥‥残念です」
「ま、頑張ってこいや」
ソラム・ビッテンフェルトと日高 瑞雲に見送られ、冒険者一行はロノンが宿泊する宿へ出発した。
宿はなかなかに大きかった。そのほとんどが教会の関係者で占められているので、全体的に物静かで穏やかな空気が漂っていた。
「全員女性でよかったわ。今、四人部屋が二部屋しか空いてないのよね」
明るいレガッタの言葉に、カシム・ヴォルフィード(ea0424)が平静を装って訂正する。
「‥‥男ですから、僕は」
「えっ‥‥そうなの? ごめんなさい、女性と相部屋でもいいかしら」
「では、僕は他の宿に――」
「だーいじょうぶ! カシムちゃんと相部屋で気にする女の人なんて、ほとんどいないから♪」
「世の中、どっちか分からない人っているってカンジィ。愛しのダーリンもそうだしぃ」
リュミエール・ヴィラ(ea3115)と大宗院亞莉子(ea8484)が笑ってそう言ったが、それはそれで悲しいと思ったカシムである。
部屋に案内されると、翌日教会へ聞き込みに行くカシムとシルヴィア・クロスロード(eb3671)は早々に休むことにした。
パラーリア・ゲラー(eb2257)、ヴェニー・ブリッド(eb5868)、リオ・オレアリス(eb7741)の三人は宿の手伝いをしつつロノンに迫ることにしたので、仕事内容を軽く教えてもらうことにした。
そして――。
「ささ、私たちは酒場に行きましょう?」
ロノンが足しげく通っているという酒場に向かうことになったのは、シーナ・オレアリス(eb7143)、亞莉子、リュミエールの三人である。
酒場は宿から程近いところにあり、扉を開けた途端、ワインの香りと喧騒が三人を包み込む。
リュミエールは近くの男に頼んで、カウンターのスツールに木箱を置いてもらった。その上に座るとちょうどカウンターに身を乗り出せる。
色っぽい美人三人がマスターと話していると、その周りに自然と男たちが集まってきた。
「ご婦人方、どうしてこんな片田舎にお越しで?」
「仕事で少々。‥‥ところで皆さん、ロノンさんという方をご存知ですか?」
シーナの言葉に、男だけではなく女たちも身を乗り出してくる。
「あの色男でしょ? 知ってるも何も、この酒場に来るモンで彼を知らないのはいないわよぉ!」
「なーにが色男だ! そりゃロノンは鎧をきちゃいるが、紛うことない女だろ。それもかなりの美人だ!」
‥‥という具合に、客の間で議論が勃発した。
「――今晩は随分と賑やかですね」
「う‥‥お、ロノン、よく来たな」
噂をすれば影がさすとはこのことだ。議論が最高潮に達したとき、黒い鎧姿のロノンが酒場に顔を出した。
それまで熱く意見を戦わせていた客たちは慌てて散り、それに混じって亞莉子もさりげなく席を離れる。
「ん〜‥‥にゅ〜‥‥」
「? 何か御用でしょうか?」
リュミエールの視線に気付いたロノンが、二人の方に近付いてくる。
リュミエールはなおも熱心に見つめていたが、突然羽ばたくとロノンの肩に手を置き、頬に熱烈なキスをおとした。
「えっ!?」
さすがに驚いた様子のロノン。シーナが慌ててリュミエールを引き離すと、今度はキスの矛先がシーナに向かった。
恐るべき酒癖。
ロノンは平静を取り戻すといつもの特等席に座り、軽い食事を頼んだ。
「ちょっと隣いいかしら」
甘い声でそう言ったのは、絶世の美女――に変装した亞莉子だった。
「えぇ。もちろん」
亞莉子は豊かな胸元を強調しながらロノンと話していたが、ロノンは全く動じる様子がない。
と、急に亞莉子が地に戻った。
「私の話術と美貌になびかないなんてぇ、きっと女ってカンジィ。それじゃなかったらぁ、きっとオカマだねぇ。‥‥なんでぇ、どっちつかずの格好をしてるのぉ? ダーリンみたいに正体を隠すためじゃないよねぇ」
口と声を尖らせて亞莉子が言うと、ロノンは静かに笑った。
「私が男女どちらなのか、ご興味がおありなのですね」
自分の性別について触れられ、楽しそうというわけではなかったが、決して嫌ではないようだ。
シーナは静かに話を切り出す。
「私は、ロノンさんがどんなお人柄なのか興味があります。‥‥少しお話ししません?」
その夜、宿の一室でスクロールを広げるリオの姿があった。じっと天井を凝視しているのは、クレアボアシンスでロノンの部屋を覗いているからだろう。
「どう、ロノンさんがどっちか分かった?」
術が解けるのを待って、ヴェニーが後ろから声をかけてきた。
リオは肩をすくめて頭を振る。
「――残念ながら。ロノンさんは、着替えるとき用心深く部屋を暗くしているうえに、この宿は初めて来た場所だからぼんやりとしか見えないのよね。‥‥それにしても、この宿には何でお風呂がないのかしら?」
その時、パラーリアが鼻歌を歌いながら部屋に入ってくる。
「ここでロノンさんのお別れパーティーをやっていいって〜♪」
「よかった。‥‥でも、ロノンさんの性別が分からないままじゃあドレスを買ってこれないわ‥‥」
「ヴェニー、心配しなくても大丈夫だよ。まだ日数はあるものっ☆」
「‥‥そうね。キャメロットが誇るゴシップメーカーとして、この美味しいネタを諦めるわけにはいかないわ♪」
皆が寝静まった頃、二階から「にゅおおおぉぉぉぉ」というリュミエールの声が聞こえてきた。
オーガパワーリングを使用してロノンの部屋に侵入しようとしたらしいが‥‥シフールである彼女の極細腕では、部屋の扉を破ることは叶わなかった。
翌朝、カシムとシルヴィアの二人はロノンが勤める教会に訪れていた。
教会関係者に聞き込みをするものの、言葉を濁されるか、本人に直接問えと切り返された。
「しかしなんで性別を隠すのでしょう‥‥僕なんかは間違われたりするのはあまり好きではないですし‥‥」
「私は女として生まれましたが、女である以前に騎士でありたい思っています。ロノンさんも同じなのかもしれません」
「女である前に騎士でありたい、ですか。‥‥格好いいですね」
邪気のないカシムの笑顔に、シルヴィアはわずかに頬を赤くした。
二人があてなく教会内を歩いていると、礼拝堂から子供たちの声が聞こえてきた。
「あっ」
小さな悲鳴にカシムが視線を上げると、梯子を使って石柱を拭いていた少年が、大きくバランスを崩していた。
落ちる、と思ったその時。
シルヴィアの手が、少年の体をしっかりと抱きとめていた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう、お姉ちゃん」
シルヴィアは少年が落とした雑巾を拾うと、梯子をしっかりかけ直して掃除し始めた。
「シルヴィアさん‥‥?」
「子供たちに危ないことはさせられません。高い場所だけでも、私が」
シルヴィアが梯子に登り、カシムが梯子をしっかりと支える。
そのまま半日ほど掃除していただろうか。礼拝堂が一通り綺麗になり額の汗をぬぐい、ふと動きを止めた。
「何か忘れているような気が‥‥あっ、依頼!!」
シルヴィアとカシムは慌てて後片付けをすると、子供たちに尋ねた。
「僕たちはロノンさんのことを調べています。何か知っていたら教えてもらえませんか?」
「騎士のロノンさん? ‥‥えーとねぇ、子供の頃のお話をしてくれたよ」
子供たちは、自分たちの話を熱心に聞いてくれる二人に対して、実に嬉しそうに話し始めた。
そして翌日、いよいよロノンのお別れパーティーが開催される。
宿で開かれたパーティーは、なかなかに賑わっていた。宿外からも人が大勢来ているようだ。
入り口で来客をチェックしていたリオが、独りごちる。
「恋の病は難儀なものね。私は男女どちらでもいいと思うけれど」
だが、これからロノンの性別が明かされるというのは、仲間たちとの打ち合わせで分かっていた。全く興味がないといえば嘘になるだろう。
ロノンはレガッタとレノルドの近くで食事をしている。このようなパーティーが開催されて驚いているようだが、それより嬉しそうでもあった。
そこに、ワインを運ぶパラーリアが現れる。トレーにワインが入ったカップを載せ、急いでロノンに渡そうとするが――。
「あうっ」
回避超越の驚異的体術で盛大に転び、ロノンの服をワインまみれにしてしまう。白っぽい服を着ていたので、ワインの赤は恐ろしいほど目立った。
涙目で平謝りするパラーリアを落ち着かせようとするロノンだが、さすがに黒い全身鎧に着替えるわけにもいくまいと考えた。
そう思い悩んでいると、パラーリアがぐいぐいと一室に引っ張っていく。
「ロノンさん、これをどうぞ♪」
部屋で待機していたヴェニーが差し出したのは、紫の美しいドレスだった。昨日彼女が2Gで買ってきたものだ。
ロノンはドレスをじっと見つめながら、
「どうして私が女だと‥‥?」
「教会で会った子供たちが、ロノンさんの昔話をしてくれたんです。神聖騎士の父をもったロノンさんは、一人っ子だったがために男の子のように育てられたと」
カシムの言葉に、ロノンはしばしの沈黙の後、口を開く。
「私は‥‥自分が女として扱われるのに戸惑ってしまうのです。男として接してもらえれば気が楽ですが、『私は男です』と言えばそれは嘘になります。ですから、どうしても必要なとき以外は性別を明かさずにいました」
「では、今日だけでも。レガッタさんとレノルドさんのために、ドレスを着てはいただけませんか?」
シーナが優しく微笑んだ。
「ロノン‥‥とても綺麗だ」
「本当、綺麗だわ」
輝かしい笑顔を浮かべるレノルド。
少し悲しいような、しかし吹っ切れた微笑を浮かべるレガッタ。
二人の視線の先には、艶やかな美しさに包まれたロノンが立っていた。紫のドレスに、亞莉子が結い上げた黒髪。
「これまでありがとうございました、お二人とも。お元気で」
ロノンの声は、優しく女性的に響いた――気がした。