愛しき人よ
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:糀谷みそ
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月02日〜01月07日
リプレイ公開日:2007年01月09日
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●オープニング
11月下旬、スカーレットとインディゴは、とある寒村に訪れていた。
その村では、珍しいことに10人近くのハーフエルフが暮らしていた。同じ境遇の者同士、自然と集まったのだろう。
だが彼らは村の中でも迫害され、うっそうとした森の中に追いやられていた。
その森の中には、ハーフエルフのみが集う小さな酒場がある。インディゴはそこに入り込むが、当然歓迎されるわけがない。
人間である二人にハーフエルフたちは冷たく接したが、インディゴは全く気にしていなかった。それどころか、ハーフエルフたちの心を和らげようと奮闘した。
話しかけながら酒を飲み、その後は自慢の歌を披露したりもした――好きなだけで、上手くはなかったが。
「インディゴは、誰にでも優しいんだね‥‥」
酒場から宿に戻り、その部屋で眠る支度をしているときのこと。左右色の違う瞳を伏せながらスカーレットが呟く。
インディゴはそんなスカーレットを後ろから抱きしめ、優しく囁いた。
「怖いか?」
「早くキャメロットに帰ろうよ。母さんたちも、聖夜祭の準備で人手が欲しい頃だろうし」
「いや。こういうときでも、神聖騎士である俺たちが率先して溝を埋めなければ駄目だ。そうは思わないか?」
「‥‥そう‥‥だね」
インディゴの腕に頬を当て、弱々しく笑う。
スカーレットは、ハーフエルフたちの冷たい態度や視線が怖かった。
ハーフエルフがその他の種族を迫害しているのではなく、その他の種族がハーフエルフを迫害しているということは重々分かっている。
それでも、怖かった。
二人が酒場にいるとき彼らのうち一人でも一線を越えれば、連鎖反応で全員が立ち上がり、逃げ場はなくなるだろう。
そう考えると、夜もゆっくり眠れなかったのだ。
夜中に目が覚めたのは、村の犬が激しく吠えていたからだろう。
スカーレットが身を起こしたとき、インディゴは身支度を整えていた。――完全武装だった。
「森の酒場が賊に囲まれている。30人はいるようだ」
十字架を胸元にしまいながら言う。
デティクトライフフォースを使い、賊が何人いるか探ったらしい。
「‥‥インディゴ、もしかして戦うつもり?」
「正面きって戦うつもりはないさ。村人を全員逃がしたら俺たちも逃げよう」
二人は急いで宿主をたたき起こし、逃げるように言った。
宿の外に出る頃には、森の方で激しい物音が響き始めている。だが、村の方へ賊が来る様子はない。
二人は出来うる限りの大声で危険を叫びつつ、森の酒場へ向かう。
女性の甲高い悲鳴が響く。
声がした方を見ると、ハーフエルフの女性が賊に捕らえられ、今にも剣が振り下ろされようとしている。
インディゴは短剣を投げて賊の気を逸らし、体当たりをかけた。
「――ッの野郎!」
逃げていく女性を見て賊は剣を振り上げたが、インディゴの顔を見るとぴたりと止めた。
「人間か‥‥。ハーフエルフ以外にゃ用はねぇ。こっちに手出ししなきゃ、見逃してやるぜ」
「彼らが襲われるのを黙ってみていろと?」
「そうだ。別にいいだろ、あんなヤツらが死んだって」
逃げ惑うハーフエルフを見て賊が嘲笑すると、インディゴは重い拳を鳩尾に叩き込んだ。
賊はたまらずくずおれる。
「インディゴ、逃げよう」
「‥‥いや、気が変わった。頭領だけでも潰していく」
「インディゴ!」
激しい怒りに駆られたインディゴはスカーレットの制止も聞かず、頭領を探して走り回った。ハーフエルフが賊に襲われているのを見れば助け出し、再び頭領を探した。
物陰から様子を窺っているとき、家の一つから馬鹿笑いと話し声が聞こえた。賊たちが略奪しているのだろう。
「あー、たまんねぇな! これだから盗賊はやめられねぇよ!」
「ハハッ、全くだ! ‥‥でもよ、頭目はもっといいもん手に入れてんだろうなぁ」
「そりゃ頭目だからしょうがねぇよ。頭目を置いて、俺たち下っ端が別嬪を我が物に、なんてできねぇだろ?」
「まぁな。後が怖ぇもんな」
「まったくだ」
別嬪。酒場で働いていた看板娘のことだろうか。
素早く駆け出したインディゴに続き、スカーレットも酒場に飛び込む。
酒場の扉を開けた瞬間、きつい血の臭いが鼻についた。
店の中は荒らされており、厨房に大きな血溜りが広がっている。じわじわと広がる血の主は、二人におずおずと微笑みかけてくれた、酒場の看板娘だった。
背後で物音がしたのに気付き、インディゴはスカーレットを庇って振り返る。
そこにいたのは、男のハーフエルフだった。男は髪を逆立たせ、血塗れたように赤い瞳で二人を睨みつける。
狂化していた。
「やはり、貴様の差し金だったのか」
男は十字架を掲げ、詠唱を始めていた。
スカーレットがその呪文に気付いたときには遅く。
魔法は、発動された。
「ディストロイ」
――インディゴはスカーレットに手を伸ばし、そのまま砕け散った。
インディゴはハーフエルフを救おうとした。
なのになぜ、救おうとした相手に殺されねばならないの‥‥!
冒険者ギルドのカウンターに、暗い表情の青年が座っていた。
‥‥明るい表情の依頼人はそういないが。
「今月の頭には帰ってくるはずだった友人が、帰って来ないんだ。インディゴとスカーレットっていう神聖騎士二人組なんだけど‥‥」
受付が話を聞くと、インディゴが送って寄越した最後の手紙には、『折角だからハーフエルフの村に寄って帰る』と書いてあったらしい。
「12月頭に戻ってくるって言ったのに、まだ帰って来ないなんておかしいだろ?」
しばしためらった後、それに、と付け足す。
「最近、オッドアイの女神聖騎士がハーフエルフを殺戮してるって噂を聞くんだ。スカーレットは左右の目の色が違う。もしやと思ったけど‥‥インディゴが一緒ならそんな行為を許すはずがない。だから、彼らに何かあったんじゃないかと思って‥‥」
その噂によると、その神聖騎士はキャメロットに潜んでいるらしい。
「お願いだ、スカーレットを止めてやってくれ!」
●リプレイ本文
宿屋の主人が乱雪華(eb5818)とグラン・ルフェ(eb6596)を見るなり嫌そうな顔をしたのは、気のせいではないだろう。
スカーレットとインディゴが訪れていたという寒村に冒険者三人が訪れていた。冒険者ギルドで依頼を請け負ったオルロック・サンズヒート(eb2020)と、雪華、グランである。
「まさか、この宿に泊まる気じゃないだろうな?」
「いや、そうではない。インディゴとスカーレットという二人の神聖騎士について訊ねたいだけじゃ」
宿屋の主人は面倒くさそうに当時のことを語る。
賊からハーフエルフを助けようとしてインディゴが命を落としたこと。残ったスカーレットは尋常ではない様子で宿を引き払ったこと。それ以来、ハーフエルフの姿を見かけなくなったこと。
「やっぱり、この村に住んでいたハーフエルフたちは殺されてしまったのでしょうか」
宿屋を出ると、三人は人気のない村はずれに移動した。村人の目に付く場所にいると視線が痛かったのだ。
「それが賊の仕業かスカーレット殿の仕業かは分からんがのぅ。どちらにしろ、悲しいことじゃ」
「‥‥ハーフエルフの酒場付近も探索してみよう。生き残りがいるかもしれない」
迫害らしい迫害を受けたことがないグランは、胃が縮むような感覚に襲われていた。
その存在を禁忌とされ、差別、そして迫害に苦しむハーフエルフが確かにいる。今まではどことなく遠い世界の出来事のように感じていたが、こうしてその片鱗に触れてみると、それは自分とて例外ではないと思い知らされる。
薄暗い森の中を進む三人は、切り開かれた広場に建ついくつかの家を発見した。それと、野晒しにされたハーフエルフの死体を。
「この残酷さ、まるで狂化したハーフエルフがやったみたいだ」
グランは家の中や物陰を覗いてみるが、生きているハーフエルフは見つからなかった。
「む? あれは‥‥」
インフラビジョンを使用していたオルロックが、森の中に人型の熱源を発見した。
それを向こうも察したのか、慌てて逃げていく音がする。
「ちょっと待ってください! 俺たちはキャメロットから来たハーフエルフです! この惨状について教えてくれませんか!」
グランが叫ぶと、遠くの木陰から二つの顔が顔を覗かせた。十代半ばの少年と、まだ幼い少女――共にハーフエルフだ。
少女はグランに抱きつくと大きな声で泣き出した。子供二人だけが生き残り、今まで極度の緊張に耐えてきたのだろう。
そして、苦しさを紛らわすかのように賊が襲ってきた夜のことを話し始めた。
シャンピニオン・エウレカ(ea7984)と衣笠陽子(eb3333)はキャメロットの酒場にいた。スカーレットの居場所や、ハーフエルフを殺戮しているという噂の真偽を確かめるのだ。
「左右目の色が違う女神聖騎士だぁ?」
「そうそう。ここでは見てないかな?」
酔いの回った男の隣に座り、シャンピニオンは話を聞いていた。酔っ払いを恐れる様子がないのは、さすが生業として酒場店員をしているだけあるというところか。
「‥‥見たぜ、一昨日の夜だ。あんな奴はなかなか忘れられるもんじゃねぇ」
左右色の違う瞳。それだけでも記憶に残りやすいが、その神聖騎士は目をぎらぎらさせてハーフエルフを睨んでいたという。仲間と談笑する、ごく普通のハーフエルフを。
その時点で嫌な予感がしたが、ハーフエルフを追うように神聖騎士も酒場を出て、その翌朝。嫌な予感は現実のものとなった。
「スカーレットさんがハーフエルフを殺しているというのは間違いなさそうですね」
「うん。でも、積極的にハーフエルフの居場所を訊ねてるってわけでもないみたいだね。見つけたら後をつけて――みたいな」
シャンピニオンと陽子は宿で落ち合い、今日の収穫を話し合っていた。
そこにルナ・ルフェと具卵流布餌も合流し、各々が入手した情報を報告する。
「――私たちはこれで失礼しますが、今の情報をグランにも伝えてやってください」
「はい、確かに」
流布餌と陽子がジャパン流の辞儀をすると、今日で依頼を外れる二人は去っていった。
「スカーレットさんがこのあたりにいるっていうのは分かったけど‥‥もう少し範囲を絞らないと囮作戦も上手くいきそうにないよねぇ」
「明日は別の場所に行ってみましょう」
翌日の昼、寒村へ行っていた三人がキャメロットに帰ってきた。そこでシャンピニオンと陽子は事の発端を知る。
「それで、スカーレットさんはハーフエルフを憎むようになったのですね‥‥」
話を聞き終えた陽子が悲しそうに言う。
「じゃが、助けようとしたにも関わらず間違えて殺されたからと言って、関係ないハーフエルフを殺していい理由にはならん」
「そうだよ! だから‥‥スカーレットさんを一刻も早く探し出して、止めてあげなきゃ!」
だがその意気込みも虚しく、しばらく有力な情報を得ることができなかった。
瞬く間に時は過ぎ、四日目の夜。
ハーフエルフたちは警戒して家から出ないらしく、冒険者以外でハーフエルフを見かけるのはまれになっていた。
一行は酒場や食堂では情報を得られないだろうと、調査の方法を変えた。町人にも話を聞くのである。
だがそれもはかばかしくいかず、スカーレットの居場所を絞れずにいた。
焦りを感じた一行は宿屋から遠く離れた地域まで調査に行った、その帰りのことである。
空は無数の星に彩られ、仲間の顔をかろうじて確認できる程度には明るかったが、そっと近付いてきた人影に気付くことができなかった。
雪華とグランの腕が強く引かれる。
「――ッ!?」
――スカーレットか!?
慌てて振り払い、武器を突きつける。
‥‥そこにいたのは、大柄なハーフエルフだった。硬い表情で辺りを見回している。
「さっき、このあたりにハーフエルフキラーが出たんだ。急いで俺の家に入れ、殺されちまうぞ」
冒険者たちは顔を見合わせる。出たばかりということは、スカーレットはまだこの辺りにいる可能性が高い。
「――俺たちはそのハーフエルフキラーを止めなきゃならない。情報をありがとう」
「お、おい!」
礼もそこそこに一行は囮作戦の準備を始めた。
ちょうど良さそうな袋小路を見つけ、グランは万が一のために捕縛用の罠を張る。
オルロックは自分と雪華、グランにフレイムエリベイションをかけ、それを見たシャンピニオンがグットラックを重ねがけた。これで負傷する確率を少し減らせたはずだ。
セブンリーグブーツを履いた雪華が、早速道という道を走り回り始めた。その後をグランが静かにつける。雪華が狂化したときの保険だ。
ほどなく、暗い細道から人影が躍り出た。金髪と左右色の違う瞳が月明かりを妖しく反射する――スカーレットだ。
雪華はちらりと後ろを見て確認すると、魔法がかかっても困るが、かといって見失われては大変と微妙な距離を置いて走る。皆が待つ袋小路に向かって。
道の奥から走ってくる人影を確認したシャンピニオンと陽子は、スカーレットを止めるべく詠唱を開始した――コアギュレイトとスリープを。
雪華とスカーレットが袋小路に飛び込んできた直後詠唱を終えたが、スカーレットが止まる様子はない。‥‥シャンピニオンは魔法の発動に失敗し、発動した陽子の魔法は上手くかからなかったようだ。
グランが急いで罠を発動させるも、それさえスカーレットは避けてしまった。
スカーレットが雪華に切りかかる――!
雪華はかろうじて右手にオーラシールドを発動させ、それで攻撃を受け流す。重くはないが、手数が多い。すかさず二撃目が雪華を襲う。
左腕、続いて脇腹に鋭い痛みを感じるが、視線は前を向いたまま。
――今自分の状態を見たら、狂化してしまう。そう思ったのだ。
「コアギュレイト!」
シャンピニオンの高い声が夜の街に響き渡る。同時に、ようやくスカーレットの動きが止まった。その隙にオルロックが十字架を取り上げる。
「俺たちは、インディゴさんの友達――グレイさんから依頼を受けたんだ。スカーレットさんを止めて欲しいって」
グランの言葉に、スカーレットの瞳が揺れた。
シャンピニオンがスカーレットの目の前に止まり、真摯に語り始める。
「スカーレットさんがハーフエルフを許せない理由も、ハーフエルフの人がインディゴさんを攻撃した理由もきっと同じ‥‥その人自身が悪いんじゃないんだ」
世界に根付いている理不尽な差別が、社会のあちこちを狂わせている。
大切な人を奪われた悲しみを、忘れろとは言えない。許せとは言えない。けど――。
「けど、インディゴさんがやろうとしてた事を少しでも尊いと思えるなら、これ以上その手を血で汚さないで‥‥お願いだよ」
コアギュレイトの効果が切れ、スカーレットは体の自由を取り戻した。手にはいまだ剣を持ち、雪華とグランを睨んでいる。
「ここにいる私達は、インディゴさんを殺したハーフエルフですか?」
雪花の言葉に、スカーレットは頭を振る。
振り払っても振り払っても、ハーフエルフを見るとインディゴを――彼の死に際を思い出すのだ。
「わかりました。ではこうしましょう。私を殺したいと思うのでしたら、そうしなさい。ですが、殺すのは私を最後になさい。それが約束できるのでしたら私の命を差し上げましょう」
目を閉じ、ゆっくりと腕を広げる雪華。
スカーレットは震える手で剣を持ち直し、切先を雪華の腹部にあてがう。
切先が、ゆっくりと腹部に吸い込まれていく――。
だが、それ以上押し進むことはなかった。
ガランと剣を落とすと、スカーレットは泣き出した。
――腕を広げた雪華と、自分を庇ったインディゴの姿が重なったのだった――。
「ごめんなさい‥‥」
それは、誰に対する謝罪だったのか。
「雪華さんにリカバーを!」
陽子の声に、シャンピニオンは慌てて詠唱する。
雪華が重傷を負ったものの、こうしてスカーレットを止めることに成功したのだった。