雨の止まない村

■ショートシナリオ


担当:糀谷みそ

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:10人

冒険期間:02月11日〜02月16日

リプレイ公開日:2007年02月21日

●オープニング

 俺たちの村は山間にある。
 農業を主な収入源とする、静かな村だ。
 人々は素朴で、都会で流行ってるっていう陰謀なんぞとは無関係――。
 ――のはずだったんだ。
 だが最近、俺たちの村では引切り無しに雨が降ってる。
 こりゃあ尋常じゃないと村長に進言しても、なぜか村長は黙ったまま。
 このままじゃあ作物を植えられないし、地滑りだって起きるってのにだ。
 最悪自分たちの命に関わる、居ても立ってもいられなくなってこうして来たんだが‥‥。


 ギルド受付の前には、十人からの男たちが集まっていた。
 全員仕事着のような薄汚れた格好で、近くへ寄ると土の匂いが感ぜられる。
「その雨は、魔法によるものかもしれませんね」
 ウィザードは天候操作の魔法を使うことができる。
 受付の言葉に、男たちも頷く。
「あぁ、知っている。‥‥とにかく、雨が降り続く原因の究明と、その解消を頼みたい。受けてもらえるか?」
「もちろんです。ですが、円滑な依頼遂行にはもう少し情報が欲しいところですね。他にお気づきの点はありませんか?」
「わたし、見たことのないおばさんが山小屋の方へ行くのを見たわ」
 そう言ったのは、ある男の娘と思しき少女だった。
 視線が一気に少女へと集まり、少女は思わず身を縮める。
「それはいつですか?」
「えぇと‥‥ここにくる一週間前‥‥ぐらいかなぁ」
 山間の農村で目撃された、山小屋へ向かう見知らぬ女――。
 調べてみる価値はあるだろう。
 受付は女の情報も羊皮紙に書き込むと、早速壁に貼り付けた。

●今回の参加者

 ea8121 クル・リリン(27歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb6842 ルル・ルフェ(20歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb7706 リア・エンデ(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb8703 ディディエ・ベルナール(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb8972 アイオン・ボリシェヴィク(32歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb9482 アガルス・バロール(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb9534 マルティナ・フリートラント(26歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ティアラ・フォーリスト(ea7222)/ 若宮 天鐘(eb2156)/ ダナ・コーンウェル(eb5491)/ 留菜 流笛(eb7122)/ カイト・マクミラン(eb7721)/ ミッシェル・バリアルド(eb7814)/ シュネー・エーデルハイト(eb8175)/ レア・クラウス(eb8226)/ 猫 小雪(eb8896)/ 柊 静夜(eb8942

●リプレイ本文

「村の方向‥‥あなたたちが到着する頃にもまだ雨が降っていると思うわ」
「そうですか‥‥防寒対策をせねばなりませんね」
 風読みを終えたレアの言葉に、サクラ・フリューゲル(eb8317)は真面目な表情で頷く。
 その横で銀髪碧眼のシュネーとお団子頭の小雪が、バックパックにアイテムをしまっていた。
「村長さんが事情を知っているんじゃないかしら。堂々と聞いても答えてくれないだろうし、こっそりと内緒で聞いてみたら?」
「私は応援するしかないなぁ。サクラ、頑張って!」
 リア・エンデ(eb7706)がカチカチという音に振り返ってみると、静夜が切り火をしてくれているところだった。
「リアさん道中お気をつけ下さいませ、ご無理をなさりませぬ様‥‥」
「ありがとうなのです〜♪」
 ティアラと流笛からそれぞれの調査結果が記された羊皮紙を受け取ると、冒険者一行は雨の止まない村へ向けて出発した。


 村に到着すると、一行はそれぞれ調査を開始した。
 クル・リリン(ea8121)とルル・ルフェ(eb6842)は村長の調査だ。
 村長宅近くの茂みに隠れつつ、ティアラと流笛から受け取った羊皮紙を読んでいた。
 ティアラの手紙には『地形のせいで雨が降り続けるわけではないみたいだよ』、そして流笛の手紙には 『その村に関する伝承などを調べましたが、過去に雨が長期間降り続いて困った、ということはありませんでした』と書いてある。
 やはりこの雨は、最近になって人為的に起こされた可能性が濃厚ということか。
「雨が降り続いたら、農作物がダメになってしまいますね」
「晴れてないと困りますよねぇ」
 ルルの言葉にクルも頷く。
 雲ひとつないような空を眺めるのが好きなクルとしては、作物のことがなくても晴れを切望しただろう。
「作物がダメになったら、お野菜の値段が上がって‥‥」
 真剣な表情で指折り何かを数えていたルルは、目を丸くして自分を見つめるクルに気付き、にっこりと極上の笑顔をこしらえる。
「いえ、村民の皆さんの生活がなりたたなくなってしまいますっ」
 クルはいまいちしっくりしないようで首を傾げていたが、村長の家に誰かが来たのに気付いて口をつぐんだ。
 村長が家の中に招き入れたのは、各地を行脚する商人だった。
 昨晩村にやってきた商人のもとに村長が訪れ、何やら頼んでいたようだとの情報を、ルルが村人から仕入れていた。
 二人が何を話しているのかよく聞こえなかったので、クルは静かに窓の下に移動した。
「――では、この首飾りは金貨10枚で引取らせていただきます。他の物は後日馬車で窺った時に」
「‥‥はい、よろしくお願いします‥‥」
 チャリチャリという硬貨の音。
 そして、苦しみが滲む村長の声。
 二人の気配が扉の方へ移動するのを感じ、クルはルルが蹲る茂みに戻った。
「村長さんは商人さんに首飾りと何かを売ったみたいです。本当は売りたくない、って感じがしました」
「‥‥この雨と関係があるのでしょうか?」
「さぁ、調べてみないと何とも言えませんね」
 家から出てくる村長と商人。
 商人は宿に戻ったのだろうが、商人を見送った村長もいずこへか向かうようだった。
「では私は村長さんを追います」
 ルルは村長を追うことになっていたので、ここでクルと別れた。
 残ったクルは辺りを見回すと、そっと村長の家に侵入する。
 パラであるクルはごく小柄なので、隠れながら調査するのはお手の物だった。
 だが、机や棚の上にあるものを見るにはなかなか難儀する。
 苦労してよじ登った机の上にあったもの、それは――。
 一枚のメモだった。
「『薬代の50G、ヨムに借金』‥‥?」
 それを記憶に留めつつ、他に手がかりはないかと再び調査を開始した。


 同じ頃、山小屋と謎の女を調査する冒険者たちは、山小屋付近の茂みに身を隠していた。
「まさか、バレンタインデーを一緒に過ごす男の人がいないからそのはらいせ、ってことはないですよね〜?」
 リアはそう言いながら体を震わせた。
 毛糸の靴下は暖かいが、冷雨があたるので体がしんしんと冷える。
「もしそうであれば容赦は不要ですね。‥‥それにしても」
 アイオン・ボリシェヴィク(eb8972)が隣にいるアガルス・バロール(eb9482)を見やる。
 二人は茂みの中で密着して、かなり狭そうだった。
「アガルス、あなたが隠密行動をするのは少々無理があると思うのですか?」
 そう言うアイオンは微笑んでいたが、目が笑っていない。
「む、それはすまん。いざというときには剣にも盾にもなろう、それで許してくれ」
 そうこうしているうちにディディエ・ベルナール(eb8703)が作戦を開始した。
 小声でサイコキネシスを唱え、魔法で山小屋の扉を開ける。
 突然扉が開いたので不審に思ったのだろう、ウィザードの身なりをした女が山小屋の中から出てきた。
 あらかじめアイオンが調べてあった『見知らぬ女』の人相と一致すると確認し、さらに作戦を進めることにした。
 女の死角に移動していたマルティナ・フリートラント(eb9534)とリアが、大胆にも女に話しかける。
「こんにちは。しばらく山小屋で雨宿りさせていただけませんか?」
「風邪ひいちゃいます〜いれて下さい〜」
 育ちが良さそうで落ち着いた神聖騎士と、今にも泣き出しそうな小柄なバード。
 女はわずかに身構えたが、リアが本当に寒そうなのを見て取ると少し警戒を解いたようだった。
「一体どこへ行こうというのです、こんな村を通って」
 冷たい口調で問われるが、それにもめげず訴える二人である。
「はう〜、ですから〜雨が降ってたので道に迷ってしまったのです〜」
「しばらくでいいんです、彼女の指先が温まるまででも」
 二人が女を外へ引き止めている隙にディディエとサクラが小さな裏口へ回り、調査を開始した。
 アイオンとアガルスは相変わらず茂みの中から女を観察している。
 山小屋の中では当然火が焚かれていたが、申し訳程度なのは煙が目立たないようにという思惑があるのだろうか。
「おや、これは‥‥」
 ディディエが発見したのは地名、人名、日付、金額が記された羊皮紙だった。
 その紙の半ばに、この村の名前と村長の名前、そして金額が記されていた。
「『50G未徴収。至急取り立てるべし』――これはもしや‥‥」
「ディディエさん、そろそろ退きましょう」
 裏口付近を調査していたサクラがディディエを呼びにきたので、見つからないうちに退くことにした。


 すでに三日目の夕方になっており、冒険者一行は村長に話を聞きに行くことになった。
 村長宅と山小屋で発見したメモ、そして二人の言動。
 それらを合わせて考えると、一つの可能性が見えてきたのだ。
 冒険者たちは頷き合い、サクラが率先して戸口を叩いた。
「こんばんは、少々お話をお聞きしたいのですが」
「‥‥誰だ?」
 中から怯えを含んだ男の声が聞こえてくる。
「この異常な長雨について何かご存知のことがないでしょうか?」
 ルルの率直な問いに、村長は黙り込む。
 そして、アイオンが追い討ちをかけた。
「金貨50枚、ですよね?」
 ゆっくりと開く扉。
 そこには、やつれた初老の男が立っていた。
「どうしてそれを」
「村の皆さんから私たち冒険者に依頼がありましてね〜。色々と調べさせてもらいました」
「ヨムという奴に借金したのはいいが、金が払えなくなった。そしてあの女が派遣され、金を払わねば雨を降らせ続ける‥‥そう脅されているのだろう?」
 アガルスは家の横に置いてあった手桶に腰掛けながら言う。
 というのも、ジャイアントである彼はかなりの巨体だったので、立って話せば村長を見下ろし威圧する形になるからだ。
 それが功を奏したのか、村長はぽつぽつと話し始めた。
 孫が熱病を患い、その高い薬代が必要だったこと。
 手元に金がなく、ヨムという金貸しに金を借りたこと。
 その金貸しが理不尽な高利息をふっかけてきて、金が返せなくなったこと。
 アネットと名乗る女が村に訪れ、金を返すまで雨を降らせ続けると脅してきたこと。
 仕方なく、妻の遺品を売ることにしたこと。
 ――案外、誰かに話を聞いて欲しかったのかもしれない。
 自分の失態を村人たちに話す勇気もないが、村全体の生活に関わることを自分の胸に留めておくのも苦しかったのだろう。
「村長」
 全て吐き出して黙り込んでしまった村長に、マルティナが声をかけた。
「村の人たちがいらっしゃってます」
 日が落ちた闇の中に、ギルドに訪れた村人たちがたたずんでいた。
 先頭に立つ男の手には金色の首飾りが握られている。
「村長、大切な奥さんの遺品を売るなんて馬鹿のすることだ」
「どうしてその首飾りを‥‥商人に売ったのに‥‥」
「取り返してきた。‥‥どうして俺たちに言ってくれなかったんだ? 一言でも相談してくれるべきだった、あんたが悪いことをしたんじゃないんだから」
 男は懐から出した革の袋と首飾りを村長に握らせる。
 革の小袋――それはずっしりと重く、振るとチャリチャリと音がした。
「これは‥‥」
「50Gある。みんな金貨なんてほとんど持ってなかったからな、ずいぶんと重くなっちまったけど」
「いや、でも‥‥」
「受け取ってくれ。でないと雨が止まず、村の皆が困るんだ」
「‥‥すまない」
 そこまで見届けると、冒険者たちは自分たちの宿へ戻っていった。


 翌朝、村長の家にアネットと名乗るウィザードの女が訪れていた。
 村人が見ている前で50G分の硬貨が入った皮袋を渡され、中身を数える。
 確かに50Gあると分かると、アネットは「それでは」と言って踵を返した。
 慌ててサクラが問う。
「金を受けられたのですから、雨を上がらせてくださいますね?」
「残念ながら、私の力ではできませんね」
「えっ」
「しかし、あと2日もすれば勝手に止むでしょう」
 今度こそアネットは去っていった。
 こうして雨を巡る事件は、終末を迎えたのであった。