それって刀鍛冶?

■ショートシナリオ


担当:糀谷みそ

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:6人

サポート参加人数:6人

冒険期間:02月20日〜02月25日

リプレイ公開日:2007年03月15日

●オープニング

「おぉ! お前さん、いい剣を持ってんな!」
「な、なんだぁ?」
 ギルドの外で依頼前の最終準備をしていた冒険者が、赤髭のドワーフに突然話しかけられた。
 小柄だががっしりとした体には防具をつけておらず、冒険者であるようには見えない。
 ドワーフが動くたびに背負ったバックパックがガチャガチャと音をたて、金属の類が詰め込まれていると主張している。
「ちょーっと剣を触らせてもらってもいいか?」
「えぇ?」
「頼む! 少しだけだ!」
「あー‥‥すぐに返してくれよ?」
 ドワーフにせがまれ、渋々剣を手渡す冒険者。
 剣がよほど好きなのだろうか、目を輝かせて刀身の材質から反り具合、全体の重さ、柄の握りやすさなど隅々まで観察しているようだった。
 満足したのか剣を返しながら、冒険者に訊ねる。
「この剣は使いやすいか?」
「まぁまぁな。‥‥欲をいえばもちっと刀身が反ってた方が使いやすいな。鎧の人間を相手にすることなんか少ないし、突きを使うことなんか少ないからな」
「ふむ。そんならもっと反ったのを買えばいいじゃねぇか?」
「もっと反ってる剣で重さと切れ味がちょうどいい剣を見つけられないんだ。武器屋で買わず刀鍛冶に直接頼めばいいんだろうけど、そこまで金がないしな」
「‥‥なるほど、参考になったぜ。仕事頑張れよ!」
 冒険者は去っていくドワーフの後姿を見て、彼がなぜそこまで熱心なのか合点がいった気がした。
 ドワーフの腰には戦闘用にしては小振りなハンマーが下がっている。
 それは、鍛冶屋が使う金槌だった。
 その柄には『グリン』と刻んであり、それがそのドワーフの名前と思われた。
「あなた、大丈夫だった!?」
「ん?」
 冒険者に声をかけてきたのは、ギルドから出てきたばかりの女性ジプシーだった。
 首をかしげる冒険者に、女性は先ほど見たという一幕を語り始める。


 ギールという名の騎士は貴族であるらしく、派手な装備に身を包んでいた。
「グリンというドワーフの刀鍛冶に剣の研削を依頼したら、そのまま盗まれたのだよ。取り返してくれないかね」
 自己紹介後の第一声がこれだった。
 冒険者ギルドの受付は思わず言葉に詰まってしまった。
 というのもこの騎士は遊び人で有名で、仕事をしているところなど見たことがないともっぱらの噂なのだ。
 騎士なのだから、暇なら自分で犯人を捕らえればいいだろうに、ということだ。
 無言の主張を感じ取ったのか、ギールは言い訳がましく付け足す。
「自分でグリンの奴を捕らえ懲らしめてやりたいところだけどねぇ、私はちょうど仕事が入ってしまってね。残念だ、実に残念でならなよ!」
 疑いの目で見る受付。
 だが、依頼人を頭から疑うというのもギルドとして問題があるだろう。
「そのグリンという男から剣を取り返せばいいのですね?」
「ああ。できればしっかり懲らしめてくれたまえ。これ以降悪事を働かないようにねぇ」
 どうも引っかかる依頼だが、受付は真面目に依頼書を書き上げた。
 依頼内容は冒険者に判断させよう、そう考えながら。

●今回の参加者

 eb6621 レット・バトラー(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb7152 鳴滝 風流斎(33歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb7708 陰守 清十郎(29歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb9605 クリスティーヌ・チェイニー(25歳・♀・バード・パラ・イギリス王国)
 ec0168 ロキ・ボルテン(14歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ec1250 アリア・ラグトニー(22歳・♀・レンジャー・シフール・エジプト)

●サポート参加者

飛葉 獅十郎(eb2008)/ 小 丹(eb2235)/ 日高 瑞雲(eb5295)/ マイユ・リジス・セディン(eb5500)/ シャノン・カスール(eb7700)/ サスケ・ヒノモリ(eb8646

●リプレイ本文

●それって考察?
「ギールってひと、かなり胡散くさーい。グリンもちょっと‥‥刃物マニアは怖いなー」
 噂の印象を素直に口に出すクリスティーヌ・チェイニー(eb9605)に鳴滝風流斎(eb7152)も見解を述べる。
「拙者の見るところ、ギールと言う貴族が怪しいでござるかな‥‥」
 ギールは日頃の行いからも、疑わしい部分はある。 
 レット・バトラー(eb6621)も自らの感じたことを告げる。
「グリンって奴は職人気質で自分の気の済むまで仕事を仕上げたいタイプじゃないかな」
「私もなんとなくまだ剣が出来上がっていないだけのような気もします」
「研削に失敗したか、盗んだか‥‥もしくは仕事が遅れているだけなのか‥‥」
 彼の言葉を受けて、陰守清十郎(eb7708)、アリア・ラグトニー(ec1250)の2人が続ける。
 レットの印象通りなら、失敗をしたなら完璧に直そうとするだろうし、完成度を上げる為に仕事を遅らせている可能性もある。
 ふと、アリアが1つの不安を紡ぎだす。
「背後関係の懸念もあるな。例えば‥‥短剣は元々その貴族の物ではなかったとかな」
 何れにせよ、一応はギールの物である以上、一度は返さねばならない。
「いや、調査前に先入観はいけないな‥‥ところで、後で2人を引き合わせたいのだけれど‥‥」
 話を聞いた上で真実を見極めよう、と考えたが、どこで会わせるかを決めかねているのだ。
 それまで様子を見ていたロキ・ボルテン(ec0168)が言葉を発する。
「同じドワーフとしてグリンと話をしてみたいのだがな‥‥酒でも飲みながらゆっくりとな」
 酒場なら、酒を話の間に挟む事によって会話を和ませる事も出来るかもしれない。
「ぐでんぐでんに酔わせちゃうのもいいかな? 本音聞けそう」
 クリスティーヌは「乱暴な手は後々めんどくさそーだし」と言葉を補う。
 ――引き合わせる場所は決まった。
「まずは聞き込みと行こうか」
 刀鍛冶なら武器に関わる者が多そうな場所にいけば話がきけるはず、とロキは手近な武器屋へと向かい、アリアとレットも彼に着いて行く。
「私はギルドや酒場をまわってきますね」
 陰守も笑顔で述べ、鳴滝、クリスティーヌがそれに続く。
 冒険者達は二手に分かれ、調査を始めた。

●それって調査?
 店に入ったロキは、早速店主や客へと話しかける。
「グリンという鍛冶屋を知っているか? 赤髭のドワーフで剣などに興味を持っている者のようなんだが」
「知ってはいるが、どうしたんだい?」
 突然の問いに店主はほんの少し身構えた。
「オレ、レンジャーやってるんだ。軽くて切れ味のいい剣は、いくつあっても欲しいし」
 すかさずレットがフォローを入れると、合点がいったとばかりに苦笑する。
「なんだ、また何かやらかしたのかと」
 本当に犯罪に手を染めていたのだろうか? と冒険者達の表情が僅かに強張る。
「何かあったのか? ‥‥いや、これから仕事の話をしたいと思っているのだが」
 私も鍛冶屋だからなとアリアが言うと、店主は笑った。
「たいした事じゃないよ。彼は凄く自分の仕事に矜持を持っていてねぇ」
 彼が言うところによれば、グリンは納得がいく出来になるまで武器を返してくれないという。更には、あまりに酷い使い方をしている場合は、依頼主を嗜める事もなくはないと。
「まあ、所謂職人気質というやつだね」
 店主のその言葉に納得し、一同が店を出ようとしたところ、ちょっとまって、と引き止められる。
「軽くて切れ味のいい剣、うちにもあるけどどうだい?」
 営業スマイルと共に、懇切丁寧に商品の解説をされる。逃げようにもレットの腕をしっかり掴まれていてどうにもならない。
 一通り聞かされた後、丁重にお断りするのには結構な時間がかかったらしい。

 一方その頃。
「グリンさんの事をご存知ないですか?」
 酔ってご機嫌よろしくなっている戦士らしき男に、陰守は笑顔で話しかける。
 陰守の所持する短刀をちらと見た男は、あんたも仕事を頼むつもりなのか? と答えた。
「確かに腕はいいぜ。ただ、うっかり口を滑らせると中々返って来ないがな」
「どういう事でござるか?」
 鳴滝が首を傾げると、男は豪快に笑う。
「いや、以前受け取るときに『重心が少しばかり前に行き過ぎる気がする』と言ったんだよ。そしたらな‥‥改善点を細かく聞かれた上に、剣を奪い取って走って行っちまった。慌てて追いかけたら、ヤツの工房についてな。しかも、着くなり凄い勢いで剣のバランスを直しはじめた」
 俺がいることなんて眼中になかったな、と彼は語る。後で謝罪と共に、想像以上に使い勝手のよくなった剣が戻ってきたという。
「‥‥刃物マニア?」
 クリスティーヌが尋ねると、男は「奇天烈な事は確かだな」と笑った。
「いい武器になったから俺は嬉しかったが、頼むなら気をつけろよ。返ってくるのが遅くなるからな」
「グリン殿の工房は何処でござるか?」
 鳴滝に問われ、男はおぼろげな記憶を辿りだした。

●それって真相?
 冒険者達は持ち寄った情報を照らし合わせはじめた。
 グリンについては、職人気質、ある意味変人、良い剣に目がない‥‥ただし腕は確か、というような話が聞け、ギールについては、皆が口を揃えて遊び人というのであった。しかも、無駄にプライドが高いらしい。
 まずは話をつけやすそうなグリンの元に冒険者達は向かう。
「工房はここのようでござる」
 鳴滝が先導し、1つの建物の前へとたどり着く。
 仲間の調べた情報と照らし合わせても、間違いないだろう。
 軽く戸を叩き屋内へと入ると、熱を帯びた空気が一行の頬を撫でた。
 そして、視界に慌しく作業をしている赤髭のドワーフが入る。一行の事は視界に入っていないらしい。
 彼が手にしているのは、柄に人魚の紋章が刻まれた短剣だ。
「それはギール氏のものか? 忙しそうだが、俺でよければ手伝うぞ?」
「ああ、その通りだしありがたいがまたにしてくれ」
 ロキの言葉にも上の空な答えが返るのみだ。
「たかが短剣だが、シンプル故に難しいよな」
 そっとアリアが囁きかけると、彼は動きを止め振り返った。
「お前さん、わかるのか? 短剣っては装飾性と実用性のバランスが――」
 マニアックな話が始まってしまったが、これで気を引くことはできた。
「仕事が遅れているならそう報告するべきですよ」
 話がある程度収まったのを見計らい、陰守が告げる。
「ああ、すまないな。だがこの剣‥‥華美に装飾されて、実用性がないんだ。使ったら怪我しちまう。俺にはそれが許せなくてな。それにあの貴族、騎士なのに遊び人で武器を腐らせてるそうじゃないか」
 必死で訴える彼へと、アリアは再び声をかける。
「ならば、後程酒場に来てくれないか? 飲みながらギールとその辺もよく話し合うといい。我々も同伴すれば、変な恨み辛みも出来づらいだろう」
「そうだな、頼む」
 存外に素直に彼は要請へと応じたのだった。

 その後、冒険者達は派手な意匠の施されたギールの館へと足を踏み入れた。
「なんだね? 君達は」
 館の主は胡乱げな視線を向ける。
「お前さんの依頼を引き受けたものだ。ちょっと一杯やらねぇか」
 レットがノルマン土産だというワインを取り出しちらつかせると、彼は上機嫌になる。
「折角だし、皆で飲みませんか? 1人で飲んでも味気ないものですよ?」
 普段より丁寧な口調で、クリスティーヌが貴族をおだてあげる。
「君のような愛らしい方が酌をしてくれるなら楽しく飲めそうだねぇ」
 機嫌は最上方へと修正され、酒場へと促すクリスティーヌの言葉に全く疑いも無くついてきたのであった。

●それって和解?
 喧騒渦巻く酒場の端で、派手な貴族と冒険者達、そして刀鍛冶は顔をあわせることとなった。
「お、お前は‥‥!」
 ギールの言葉を遮り、クリスティーヌが飲むように勧めると、彼は特上の笑みを向け酒を呷った。ある意味いい根性である。
 ほろ酔いになり、気分が高揚しているのを見計らい、鳴滝が「ところで例の短剣でござるが‥‥」と切り出す。
「あれは何処で手に入れたものでござるか? 纏わる話などあったら教えて欲しいのでござる」
 気分上々なギールは澱みなく喋る。聞く限り整合性のある内容で、彼のものである、というのは嘘ではないらしい。
 一通り話終わったところで、グリンが例の短剣を取り出した。
「これは私の‥‥! 今すぐ返してくれたまえ。きっちりと謝罪もしてもらおうかねぇ」
 短剣へと伸ばされた手を陰守が押し留める。
「少し話を聞いてあげてくれませんか?」
 グリンは勢いをつけ頭を下げた。
「遅れちまって申し訳ねぇ!」
 そんな彼をギールは尊大に嘲笑う。
「仕事はきちんと行い、物は持ち主に返すべきだ!」
「だが、お前さんにどうしても言いたいことがあるんだ‥‥」
 彼は想いのたけを語る。実用性皆無な短剣、戦わない騎士。本来の意味を持たず、ただ存在しているだけのそれら。
「‥‥それじゃあ剣が可愛そうだ。使ってこその武器だし、放っておけば錆びる。俺は武器は良い物をつくりたいが、それが何もせず朽ちていくのはあまりに‥‥」
 瞳にうっすらと涙が浮かぶ。
 その姿にさしもの遊び人騎士も思うところがあったらしい。
「‥‥私に見合うような仕事でもしてみようかねぇ」
 クリスティーヌが羊皮紙を取り出し、それぞれに誓約書を書かせる。
 内容は要約すれば「仕事をきちんと行う」というものだ。
 納期に間に合わせるのも、騎士としての勤めを果たすのも等しく仕事、という事らしい。
 漸く短剣を返された貴族が鞘から抜くと、曇りのない刀身が酒場の明かりを受け煌いた。
「おお、いいじゃないか。ギールにはもったいないな。オレにくれ‥‥いや、冗談だよ」
 レットの感想にギールが睨みつける。
 一方では、ロキが「どぶろくとか呑むか?」とグリンに語りかけ、友好を深めようとしている。

 短剣が彼らの生き方を少しだけ変えた‥‥かもしれない。
(代筆:小倉純一)