可愛いドレスを着せたくて

■ショートシナリオ&プロモート


担当:糀谷みそ

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 81 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月08日〜10月11日

リプレイ公開日:2006年10月16日

●オープニング

 明るい月夜のことである。
「おじいさん、うちに一泊してはいかがです。夜道を帰るのは危険ですよ」
 そう言ったのは、仕立て屋の女主人である。老人にピンクのドレスを手渡すその表情は、心底心配そうである。
「いや、孫の誕生日は明日なんでな。早々に家路につかねば、孫を泣かせることになりかねん」
「その前に、お爺さんが無事家に帰れなきゃ仕方ないでしょうに」
「なに、家まで大した距離はないんじゃ。心配することはありゃせんよ。世話になったのぅ」
 ドレスを入れた袋を抱え、老人は仕立て屋から外に出た。
 孫のために可愛らしいピンクのドレスをあつらえてもらったが、完成が予想外に遅くなり、こんな時間になってしまったのだった。
 老人は夜道に危機感を覚えなかった。そこは歩きなれた道であったのだからだ。
 ‥‥だが、悪いことというのは意外と簡単に起きるものである。
 家路を急ぐ老人の後ろをついていく影が、四つ。
 老人は、その影に気がついていない。
 いや、気がついていてもどうにもならなかっただろうが‥‥。


 しばらくの後。
 草むらに倒れ伏す老人と、それを見下ろすゴブリンの姿があった。
 ゴブリンのうち一匹はピンクの可愛らしいドレスを着ている。似合わないことはなはだしかったが、あいにくとサイズがぴったりで、ゴブリンはそのドレスを気に入ってしまったらしい。
 キーキーと嬉しそうな声を上げながら、奇怪なゴブリンの一行は森のほうへ去っていった。

●今回の参加者

 ea9480 ジュネイ・ラングフォルド(24歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb6596 グラン・ルフェ(24歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb7300 ラシェル・ベアール(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb7358 ブリード・クロス(30歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb7573 リズマン・パライ(24歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7574 ディード・リット(57歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

マグナ・アドミラル(ea4868)/ ウェンディ・ナイツ(eb1133

●リプレイ本文

 仕立て屋のすぐ近くにある森には細い木が多く生えており、見通しはなかなかによかった。
 ラシェル・ベアール(eb7300)が初日に老人から教えてもらったのは、そんな場所だった。
「ゴブリンたちはこの辺りでお爺さんからドレスを奪ったあと、この道をまっすぐに駆けていったそうです」
 その情報を参考にして、まずは老人がゴブリンに襲撃された辺りと、ゴブリンが逃げていったという道沿いを探索することになった。
 道に足跡が残っていないかを確認しながら、グラン・ルフェ(eb6596)が呟く。
「ゴブリンに襲われる直前まで、ご老人はきっとお孫さんの喜ぶ顔を想い浮かべてさぞかし幸福だったんだろうなあ‥‥。その気持ちを無にしたくはないなあ」
「そうですね。お孫さんを想うお爺さんの為にも、ドレスを必ず無事に取り戻して差し上げないといけませんね」
 数時間道沿いを探索したものの、特に変わったものを見つけることは出来なかった。もう少しで森の反対側に抜けてしまうかと思われたとき、陰守森写歩朗(eb7208)が他の冒険者を手招きした。
 森写歩朗が指し示す藪には獣道があり、そこを人間大のものが押し通ったような形跡がある。折られた枝はまだ青々としていて、何者かが通ってからさして時間が経っていないと訴えている。
「地元の猟師が通ったのかもしれないが、確かめてみる価値はある」
「自分は異存ありません。‥‥ジュネイさんは何か意見がありますか?」
 ブリード・クロス(eb7358)は付近にゴブリンの気配がしまいかと辺りに気を配りながら、背後にいるジュネイ・ラングフォルド(ea9480)に訊ねる。
 ゲルマン語しか使えないジュネイのために、ゲルマン語とイギリス語の両方を使えるブリードかラシェルが、可能な限り通訳することにしたのだ。
「俺も依存はない。静かにかつ速やかに、発見した手がかりを確かめよう」
「‥‥だそうです」
 冒険者たちは各々のペットを近くの木陰に待機させ、森の奥へと続く獣道を辿っていった。
 森に慣れているグランを先頭に立てて進んでいくと、遠くに半壊の山小屋が見えてきた。屋根がところどころ腐り、実際に使用するには少々難がありそうだ。
 身をかがめて山小屋の窓や扉が見える藪に移動すると、そのまましばらく様子を窺う。
 ‥‥見張り始めて一時間ほど経った頃だろうか。半分ほど開けられた雨戸の影に、下顎から牙が伸び上がっているあの独特な顔と、ピンク色の服が確かに見えた。
 実際自分の目で見てみるとよく分かったが‥‥やはり、ゴブリンにフリフリのピンクドレスは素晴らしく似合ってない。
 それらを確認すると、ジュネイを見張りに残して少し離れた場所に移動する。
「ドレスゴブリンの所在は割れた。グラン殿、早速罠の設置を頼めるか?」
 森写歩朗の言葉に、グランは猟師セットをバックパックから取り出しながら頷く。
「じゃ、山小屋の出入り口付近に仕掛ける。‥‥自分たちで罠を踏み抜いたら洒落になんないからな、しっかり見ていてくれよ」
 グランは仲間たちが見守るなか、静かに山小屋へと近づいていく。扉や窓の前に罠をいくつかしっかりと設置し、上にはそっと落ち葉をかぶせる。
 途中小屋の中からゴブリンたちが喧嘩をするような声が聞こえてきたので、驚いたグランが危うく罠を踏み抜くところだったが、なんとか無事に設置し終えることが出来た。
 グランは急いで藪の影に隠れ、森写歩朗は獣道の入り口近くで待たせてあったスモールアイアンゴーレムのテツをつれてくる。
 そうして、ドレスゴブリン捕獲の準備が整った。


 森写歩朗はテツの頭に保存食を載せると、ゴブリンたちによく見えるよう、窓の前を横断させることにした。もちろん、罠にかからないようある程度距離をとって。
「あの木まで移動しろ」
 その短い命令を聞くなり、テツはどすどすと音を立てながら歩き始めた。
 テツはうまく窓の前を横断したが、ゴブリンたちが外に出てくる様子はない。窓の奥でざわめく気配があるのでテツを見てはいるのだろうが、食料には興味がないのか、それとも小柄とはいえゴーレムであることに警戒したのか。
 理由は何であれ、保存食でゴブリンを小屋の外におびき出す作戦は失敗した。
「しょうがない、こうなったら‥‥」
 小屋の中に突入してもいいが、やはり罠にかけた方がドレスを安全に奪還できる。ゴブリンをおびき出すために、残された手段は‥‥。
 グランは離れた場所で待たせてあるドンキーのぽんたのところまで戻ると、持たせてある荷物から一枚のドレスを取り出した。
 羽根があしらわれた、純白のエンジェルドレス。
 それは念のために持ってきた、彼の母親のドレスである。
「これを傷つけるようなことがあれば、俺がオフクロに殺されるカモシレナイ‥‥」
 だが、これも仕事だ。グランは覚悟を決めると、次なる囮役にかって出た。
「ゴブリンが出てきたら俺の方に向かって走ってくれ。ドレスゴブリン罠にかからなかったときは、コアギュレイトを使う」
 ジュネイがそう言うと、ブリードが訳してグランに伝える。
 グランはドレスを小脇に抱えると大きく深呼吸し、罠を仕掛けた場所を再確認した。
「‥‥よしっ!」
 小声で気合を入れるなり、グランは藪から飛び出してゴブリンの視界に己を晒した。
 ゴブリンたちがグランを、強いてはドレスを凝視している気配をひしひしと感じる。
 しばしののち、雨戸がガタガタと開けられる音が響き、四匹のゴブリンを十分目視できるようになった。その時点で、ジュネイはコアギュレイトの詠唱を始める。
 ゴブリンたちは、窓からグランめがけて身を乗り出した。
 それを確認するなり、グランはジュネイが隠れている藪目指して走り始める。走りながら背後で罠が二つ発動する音を聞き、思わず笑いそうになったが、気を抜いていたらあっという間に残りのゴブリンに追いつかれてしまうと気を引き締めた。
 ドレスを着ていないゴブリンが二匹罠にかかっているので、その二匹はしばらく放っておくことにし、ラシェルは残りのゴブリンをドレスゴブリンから引き離そうと、足めがけて矢を射る。
「ギギッ!」
 ゴブリンは痛そうに大きく鳴くと、突然方向を変えて森の中へ逃げ去っていった。
 隙だらけの後頭部に向けて撃てばあるいは一撃で倒せたかもしれないが、ラシェルは殺生を好まないのだ。
 残り一匹でグランを追いかけるドレスゴブリンは、ひらひらするスカートの裾を邪魔そうにたくし上げ、いままさにグランが抱えるドレスに手を伸ばそうとしていた。
 その横から飛び掛った森写歩朗が忍者刀を構えて、ドレスゴブリンの首筋に峰打ちによるスタンアタックを叩き込む。だが、寸でのところで避けられてしまった。
 残る希望は――。
「コアギュレイト!」
 一瞬ジュネイが白く淡い光に包まれると、ドレスゴブリンの動きが見事に止まった。
 ‥‥動きが止まったとはいえ、それまでそのゴブリンは走っていたのである。勢いが殺せず、ドレスゴブリンはそのまま地面に倒れこみそうになった。
「わわっ!」
 危険を察知したグランが急いで身を翻し、ゴブリンを抱きとめる形でドレスが泥に汚れるのを防いだ。
「グランさん、グッジョブです!」
 罠から抜けようとしていたゴブリンを軽く痛めつけながら、ブリードが叫ぶ。
 褒められたグランといえば、かなり嫌そうな表情だった。どうやら、ゴブリンから異臭が漂ってくるらしい。
 何はともあれ、ドレスゴブリンを無事捕獲することが出来た。ラシェルが器用な手つきでドレスを脱がすと、しばらくは悪さをしないように少しばかり焼きを入れ、逃がしてやることになった。


 冒険者たちは半壊の山小屋で保存食を食べ、その日はそこで休むことにした。
 翌日、教えてもらっておいた老人の家に行き、奪還したピンクのドレスを手渡しした。
 それだけでも十分嬉しそうで心底ほっとした様子だったが、森写歩朗がバックパックからエンジェルドレスを出して老人にプレゼントすると、感極まって泣き出さんばかりだった。
「おぉ‥‥何とお礼を言ったらよいのか。冒険者様方は、まこと素晴らしい方々じゃ!」
 老人から何度も礼を言われ、昼食をご馳走になり、孫の誕生日会に出て欲しいと散々引き止められた。そして、やっとのことで冒険者ギルドへの帰路へつくことになる。


 後日。
 冒険者ギルドに、一通の手紙が届いた。
 ドレスを取り返してくれたことに対して丁重に礼を述べる手紙と、十歳ほどの少女と老人が描かれた簡単な絵が入っていた。
 少女は見覚えのあるピンクのドレスを着ている。
 少女も老人も、この上なく幸せそうな、満面の笑みを浮かべていたという。