テレパシーを辿れ!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:糀谷みそ

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月23日〜10月28日

リプレイ公開日:2006年10月31日

●オープニング

 港は多くの人でごったがえしている。
 船に乗ろうと並ぶ人、異国へ向かう船へ荷物を積み込む人、採れたての魚介類を売りさばく人、人、人‥‥。あたりは活気に満ち溢れ、気の弱い人間であればあっという間に押しつぶされそうだ。
 シフールの少年がすいーっと人々の頭上を飛んでいく。
 片手に食料品が詰まった紙袋を持ち、片手でスコーンをほおばる。
「あとは貝を買えば終わり〜! ‥‥うぅ、でも地面に下りたくないなぁ。ジャイアントの船乗りたちに踏み潰されそうだ‥‥」
 少年は比較的すいている店を探してしばらくうろうろしていた。
 港から程近い店はみな繁盛していて、とてもではないがシフールの彼では買い物を出来そうにもない。‥‥干物のようにぺたんこになってもいいのであれば、話は別だが。
 少し港から遠ざかり、表通りではなく裏道にある店を覗いてみた。
 ――よし、すいてる。 あんまり新鮮じゃなさそうだけど、体の安全のほうが大事だもんね。
 目的のものが売っているのを確認し、少年は地面に下りようとした。
『オラック! 助けて!』
 突然テレパシーが届き、少年――オラックは驚いてスコーンを落としてしまった。
 本来なら悪態の一つでもつくところだが、相手の様子が切迫しているように感じたので、慌てて問い返した。
『誰?』
『私よ、ケットよ! ドワーフに捕まって、監禁されているの! お願い、助けて‥‥!』
 ケットはオラックの幼馴染で、貿易を営む富豪を両親にもつ、愛らしいシフールの少女だ。
 人身売買目的かもしれないし、身代金目的かもしれない。
『現在地は?』
『分からないわ‥‥すぐに暗い檻に放り込まれて、気がついたら狭い小屋にいたの。ずっと二人のドワーフと鷹に見張られてて、やっとテレパシーを使えたのよ‥‥』
『じゃあ‥‥じゃあ、窓の外に何かが見えるとか、何かが聞こえるとかは?』
『‥‥‥‥外から、かすかに弾き語りが聞こえるわ。それ以外は‥‥‥‥うっ』
 会話が、途絶えた。
 感づかれ、気絶させられたのだろうか。
「た、大変だっ!」
 非力な彼一人では、とてもではないが助け出せそうにない。ケットを無事助け出すには、頼りになる者の手助けが必要だ。
 オラックは荷物を投げ捨てると、慌てて冒険者ギルドに向かった。

●今回の参加者

 eb5509 ジョゼフ・ロシュフォール(64歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb7109 李 黎鳳(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb7706 リア・エンデ(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 オラックは冒険者四人を前にして緊張しているのか、ぎこちなく頭を下げた。
「‥‥よろしくお願いします」
 比較的オラックと年齢の近い李黎鳳(eb7109)が、にこやかに話しかける。
「突然こんな事になって不安だろうから、早くケットちゃんを探さないとね」
「では、早々に始めるとするかのう」
 ジョゼフ・ロシュフォール(eb5509)の言葉に一同は頷き、港付近はどんな様子なのかとオラックに質問した。
 五人は冒険者ギルドにある一つのテーブルに陣取り、オラックは小物を使って道の様子や酒場、広場、倉庫の場所を説明し始める。
「最近シフールが捕まる話が多いけど、なんか流行ってるのかしら? ‥‥まぁそれはいいとして、ケットが監禁されているのは倉庫という可能性もあるわね。」
 オラックから聞いた港周辺の様子を頭に描きながらクァイ・エーフォメンス(eb7692)が言うと、リア・エンデ(eb7706)が困り顔で頷く。
「いい情報がなかったら、ひとつひとつ調査するしかないですね〜」
「調査するといっても、勝手に倉庫を開けて泥棒に間違えられては困ったことになるからのう。それぞれ所有者に確認をとらねばならん」
 その手間を考え、五人は沈黙した。
「い、今から暗くなってもしょうがないよ! 聞き込みで有力情報が入ることを祈ってさ、役割分担を決めよう?」
 黎鳳が努めて明るい声を出すと、クァイがすっと立ち上がった。
「私はケットの家に行って、身代金要求の手紙か何かが届いてないか確認してくるわね。オラック、ケットの家を教えてくれるかしら?」
 オラックは港周辺の様子を表していた小物を一度全部どけると、改めて配置し始めた。
「‥‥うーん、思ったより遠いのね。行き帰りで半日ぐらいかかりそうだし、もう行くわね」
 現在昼過ぎなので、帰ってくるのは夜になるだろう。宿泊場所であるオラックの家の場所を聞くと、クァイは早速出発した。
「えーっと、まずは酒場と広場で聞き込みすればいいよね」
「うむ。わしはオラックを連れて酒場へ行ってくるとしようかの」
「私と黎鳳さまは広場の聞き込みをします〜」
「じゃあ、ひとまず港へ行こっか」
 足元に置いてあった荷物を拾うと、早足で港へ向かった。オラックが透明な羽をせわしなくはためかせながら、三人を先導する。
 潮の香りが鼻孔をくすぐり始めたのと同じ頃、港特有の喧騒が四人を包み始めた。
 オラックは人ごみに押しつぶされまいとさらに高度を上げる。
「うわわっ、これは‥‥」
「ぎゅーってしないでくださ〜い、つぶされちゃいますぅ〜〜」
 ちょっと小柄な黎鳳、そしてさらに小柄なリアは、まるで荒波にもまれているかのような錯覚を覚えた。
 あたりには船乗りと思しき逞しい男がひしめき合っており、その間を地元の主婦が慣れた様子で押し進んで行く。
「おおっと。お嬢ちゃん、子供がこんなとこをうろついてたら踏まれちまうぜ?」
 若いジャイアントの船乗りにそう言われ、リアは可愛らしく頬を膨らませて言い返した。
「私は子供でもなければパラさんでもないですぅ〜立派なオトナのエルフですよ〜」
 四人はやっとの思いで調査対象の広場に到着した。
 店が集中している道よりは幾分か人の密度は低いが、ときたま魚を満載してある荷台を引いた男が道を突進してくるので、油断しているとひき潰されそうだ。
「わしはオラックと共に酒場へ向かうぞい。‥‥リア。無理そうなら調査場所を変わるが、どうじゃ?」
 さりげなくリアを守るように立ちながら、ジョゼフが心配そうに尋ねる。
「だ、大丈夫です〜。いってらっしゃい、お二人とも〜」
「そうか。では、また後ほど会おう」


 その日の夜、オラックの家で再び五人が顔をそろえた。
 帰ってきたばかりのクァイは荷物を下ろし、体の凝りをほぐしながら報告を始める。
「ケットの家に身代金要求の手紙がきてたわ。それには、『27日の昼間まで待つが、それを過ぎても支払いの意思表示がなければ娘を売り払う』と書いてあったわ」
「支払いの意思表示? それってどうやるのかな」
「犯人の一人もテレパシーが使えるみたいで、ケットの父親に対して定期的に確認のテレパシーを送ってくるの。で、ケットの居場所は分かったかしら?」
 散々押しつぶされそうになって疲れたのだろう、眠そうな目つきのリアの横で、ジョゼフが自慢の白い顎鬚を引っ張りながら言う。
「何人か港付近で歌っていたという吟遊詩人を見つけることができたから、明日はオラックとリアに活躍してもらうことになるじゃろう」
 そして、五人は明日に備えて床につく。


 翌朝。
 清々しい空気を胸いっぱいに吸い込み、竪琴を鳴らしながらリアが発声練習を始めた。
 昨日の聞き込みで何箇所か吟遊詩人が歌っていたという場所を知ったので、五人は早速その場所へ向かった。
 まずは船着場。ジョゼフのローブに隠れたオラックがテレパシーを発した。‥‥が、返事はない。
 明らかにしゅんとした様子のオラックを励まし、五人は次の場所に向かった。
 次は、倉庫群に程近い噴水の脇。今度は比較的望みが高いと思われた。
 というのも、数日前からその付近では鷹をつれて歩く二人のドワーフが目撃されていたからだ。
 オラックが再びテレパシーを使うと、少しの間のあと、オラックが顔を輝かせた。
「繋がったよ、ケットだ!」
「じゃあ、今度はリアの出番ね」
「はい、今度こそ私の本領発揮ですよ〜」
 リアも嬉しそうに竪琴をかき鳴らすと、軽く発声練習をして、歌い始めた。
「〜〜ぼくの〜愛する〜君に〜この歌は届いて〜いるだろうか〜〜」
 歌詞の内容を聞いて、オラックはわずかに顔を赤らめた。
『ケット、歌が聞こえる?』
『えぇ、かすかだけど‥‥』
『今からその歌い手さんに移動してもらうから、近くに来たと思ったら言って?』
『分かったわ』
 オラックは視線でリアに合図すると、リアは倉庫周辺の細い道を歩き始めた。
 オラックが立っている場所から15mほど離れた場所まで歩くと、左に曲がって一つ隣の道を戻り始めた。
 そうして、オラックを中心とした半径15mの範囲にある道を満遍なく歩くという計画だ。
『すごく近いわ。まるで窓の前を通ったみたい』
 オラックは慌てて倉庫の上に飛翔すると、リアの現在地を確かめた。そして残っていた三人の冒険者を導く。
 それは他のものと特に変わったところの見受けられない、変哲のない倉庫だった。
 確認のため、オラックはケットに咳をするように頼んだ。
 近くでけほけほと咳こむ音が聞こえたのでリアがサウンドワードを使うと、
『シフールが咳き込む音で、西2mのところだよ』
 という答えが返ってきた。リアはその倉庫にケットがいると確信し、四人に向かって頷いてみせる。
 それから、かねてより計画してあったとおり、奇襲のために夜まで待機することになった。


 空が蒼と赤紫のグラデーションで彩られ、間もなく夜の帳がおりてきた。
 十分暗くなったことを確認し、ジョゼフとクァイは倉庫の入り口へ歩み寄る。
 二人は頷き合うと、助走をつけて扉に当身を入れた。
 蝶番が壊れ、扉は吹き飛ぶ。
「――ちぃッ!?」
 薄暗い室内で、二人のドワーフが立ち上がった。扉の前に陣取っていた一人は不意をつかれ、ジョゼフとクァイのスマッシュに貫かれる。
「う、動くなッ!」
 もう一人のドワーフはケットを荒々しく引っ張り、その首に短刀を押し付けた。そのままじりじりと後退り、裏口の取っ手に手をかける。
 ‥‥彼が背後で聞こえた物音に気づいたときには、既に遅かった。
「これは天罰! 自らの愚行を反省しなさい!」
「――拳圧が軽いのが気になるが、それを補って余りある技とスピード。そろそろ老兵は消える時期なのかもしれぬのぅ」
 換気口から進入した黎鳳に足を払われ、ドワーフは見事にひっくり返った。その胸に踵落としを入れると、ケットを庇いながらジョゼフとクァイの方へ駆け寄った。
「クソッ――!」
 身を起こしたドワーフが、やぶれかぶれで短刀を投射した。それは黎鳳の背中を浅く切り裂いたが、彼女は怯むことなく入り口まで駆け抜けた。
 残ったドワーフをジョゼフとクァイの二人が昏倒させたとき、部屋の隅から黒い物体が急襲してきた。
 ジョゼフはとっさに盾で攻撃を受ける。
 それは、倉庫の端に身を潜めていた鷹だった。
 放っておいたらしつこく追ってくるかもしれない。だが倒そうにも、鷹は倉庫の高い天井へ舞い上がってしまった。
「ムーンアロー!」
 三人が手をこまねいているとリアの声が響き、淡く光る光の矢が鷹を撃ち落とした。
「大丈夫ですかぁ〜? ――くしゅんっ!」
 換気口から顔を出すリアは埃を吸ってしまったのか、可愛らしいくしゃみをした。


 二人のドワーフを黎鳳のロープで縛って役所に突き出すと、ケットを含めた六人はオラックの家に戻った。
 よほど心細かったのだろう、ケットは青い顔で震えている。
 それを見たジョゼフが、そっとオラックの背中を押した。
「尋常でない恐怖に晒されたのであろう。暫く側についていてやるが良い。それが男の務めというものじゃよ」
「う、うん‥‥」
 オラックがそっとケットの手を握ると、ケットの表情は明らかに和らぐ。
 その様子はとても可愛らしくて、女性三人は思わず微笑んだ。
「黎鳳、怪我は大丈夫?」
「私は慣れてるから大丈夫。オラック君のお母さんが応急処置をしてくれたし。‥‥それよりさ、ケットの気持ちを和らげるような歌を歌ってくれないかな、リア?」
「はい、喜んで〜」
 リアは竪琴を抱え直し、しばらく何やら考えているようだった。
 歌う曲が決まったのか、部屋の真ん中に移動するとちょこんとお辞儀をした。
「でわでわ皆様、最後にわたくしから一曲プレゼントさせてもらいます〜、これは悪者に捕らわれたお姫様を助け出した小さな騎士様のお話です‥‥」
 小さなエルフが紡ぎだす優しい歌は、夜のしじまにゆっくりと響いた。