【凄腕の剣士】雨の日、とある洞窟にて
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:糀谷みそ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月13日〜11月18日
リプレイ公開日:2006年11月21日
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●オープニング
――颯爽と森に現れては優麗な剣捌きで人々の窮地を救い、名も告げずに森へ消える凄腕の剣士。
その噂はキャメロットまで広がり囁かれるようになっていた。
どうやらキャメロットから2日程度の広大な森に凄腕の剣士は現れるらしい。
しかし、光輝の噂に彩られる剣士には不穏な噂も流れるものである。
――その人物とは何者だろう?
凄腕剣士の正体を突き止めるべく、数名の騎士が王宮から派遣され、ギルドに姿を見せる事となる――――。
騎士が冒険者ギルドを訪れた頃、受付は依頼人で埋め尽くされていた。
王宮からの使命を携えているとはいえ、やはり順番は守らねばならないだろう。
――空きができるまでしばらく待っていようと、騎士が椅子の一つに腰を下ろしたとき、興味深い話が聞こえてきた。
騎士にあるまじきこととは思いつつ、聞き耳をたてる。
「――そして、私は森の洞窟へ湧き水を汲みに行くことになったんです。あそこの湧き水は安全で美味しいと有名なので」
真剣な顔で話しているのは、パラと思しき小柄な少女だった。
「でも‥‥いざ洞窟の中に入ってみたら、中には毒蛙と大きい磯巾着がいたんです。気付くのが遅れた私は、磯巾着に飲み込まれそうになりました。その時‥‥」
「立派な騎士が助けてくれた、と」
「はい。立派な鎧と剣を持つ、金髪の騎士様でした。騎士様は私を助けてくださるなり、逃げるようにどこかへ向かわれてしまいました‥‥」
その少女は洞窟内のモンスターを退治してくれるようにと依頼すると、近くにいた騎士にお辞儀をして去っていった。
立ち上がった騎士に、パラの少女から依頼内容を聞いた受付が話しかける。
その顔にはニヤニヤとした笑みが浮かんでいる。
「騎士ともあろうお方が盗み聞きとは、趣味が悪いですねぇ」
思わず口を開くが、反論できないことに気付いてゆっくりと口を閉じる。
「‥‥今の少女が言っていた『立派な騎士』とやらは‥‥最近噂になっている『凄腕の剣士』と同一人物だと思うか?」
「可能性はあるでしょうね。外見の特徴は大体一致するようですし」
「では、その依頼に参加する冒険者をこちらに回して欲しい。洞窟内に巣食うモンスターの討伐をしつつ、共に『凄腕の剣士』を探して欲しいのだ」
こうして、ギルドの掲示板に新たな依頼が貼り出された。
●リプレイ本文
依頼人が住まう村で情報収集を終えた四人の冒険者と一人の騎士は、問題の洞窟へ向かっていた。
曇り空の道中、冒険者たちは騎士をどうにかモンスター退治に参加させようと、必至に説得する。
「あなたも騎士なら困ってる人を見捨てておけないはずです」
興津鏡を用いて身なりを整えた剣真(eb7311)は、そう言いながら一人道を外れようとしていた。その襟をラディオス・カーター(eb8346)がひっつかむ。‥‥真はとんでもない方向音痴らしく、彼を先頭にした日には、永遠に依頼を達成させられそうにない。
「普段であれば、放っておきなどしない。だが今日は王命でここに来ているのだ。それを怠けることなどできない」
「あんた、か弱い詩人さんの陰に隠れてるっていうの? それに街の人達の生活を守るのも騎士の務めでしょう。陛下だって、人助けをしない騎士なんて使いたくないと思うけどねえ」
「それはそうかもしれないが‥‥」
カイト・マクミラン(eb7721)の言葉に、騎士は小さく唸る。
王に忠誠を誓った者であれば、王から信頼されたいと思うのは当然だろう。
王命をとるか、それとも融通をきかせて村人を助けるか。
「ではせめて、照明を持ってはもらえないか?」
ラディオスにそう言われると、騎士はとうとう折れた。
「‥‥分かった。照明持ちなどという中途半端な仕事なら、モンスター退治を手伝うとしよう。早く討伐できれば、その分『凄腕の剣士』捜索に時間をあてられるからな」
問題の洞窟に到着した五人は、ひとまず洞窟前で集まると、カイトが記した地図を覗き込んだ。
それは村人の話を元に洞窟内の様子を描いたもので、完璧ではないにせよ、モンスターの位置を確認することが出来た。
「村人が遭遇したローバーの数は一匹。ローバーは自力で移動できないモンスターだから、過去目撃された地点にいるだろう」
スモールアイアンゴーレムのテツを連れた陰守森写歩朗(eb7208)が、地図に記された×マークを指差す。
「そうだな。とりあえず湧き水がある場所まで道を進んで、モンスターを排除していけばいいと思う。その後、他にモンスターがいないか、そして俺たち以外に洞窟を出入りしたものがいないかを探したらどうだろうか?」
「うんうん。それでいいんじゃない?」
ラディオスの提案に、カイトを始め他のメンバーも賛同した。
ひとまず、油をたくさん持っている真がランタンに火を灯す。
入ってすぐの頃は森がざわめく音が聞こえたが、しばらく進むとその音さえも聞こえなくなる。靴が岩を踏む音、鎧と武器がぶつかる音、そして――蛙の鳴き声。
先頭を歩く真とラディオスが足を止める。
二人が指差す岩陰には、毒々しい極彩色の蛙が三匹。――探していたポイゾン・トードだ。
五人が頷き合うと、森写歩朗はテツに命令を下す。
「モンスターを攻撃しろ」
テツは迷うことなく進むと、ポイゾン・トードを攻撃し始めた。五人もそれに続く。
すぐに一匹を倒し、反撃してきた二匹の毒は、テツとラディオスの盾が受け止める。
カイトのスリープが一匹にかかると、あっという間に討伐を終えた。
「ポイゾン・トードは毒さえ防げば怖くないな」
少しつまらなそうにラディオスが言うと、最後尾からついてくる騎士が真剣な顔でかぶりを振る。
「その毒が脅威なのだ。その毒に侵されてから一時間以内に解毒せねば死に至る」
「そんなに危ないのか‥‥」
一行は気を引き締めなおすと、再び湧き水へ向かって歩き出した。
が、ほどなくして腹の虫が存在を主張し始めたので、昼食をとることになった。
天井に穴が開き、光が差し込んでいる場所に五人で座った。
「曇り空がこんなに明るく感じるなんて不思議。暗い洞窟に差し込む光‥‥うーん、歌いたくなるわね〜」
ポケットで暴れる亀のクールマを撫でながら、カイトは即興の歌を口ずさみはじめた。
――背後に蠢くものに気づかぬまま。
「カイト、後ろだ!」
叫びながら、森写歩朗が手裏剣を素早く投げる。それは見事にポイゾン・トードを貫いたが、ポイゾン・トードもすでに毒を吐いた後だった――カイトに向かって。
不意を襲ってきたポイゾン・トードは一匹のみで、それもすぐに討伐された。
「なんって無粋な蛙なのかしら!」
食事を邪魔されたカイトは憤然と毒の消化液を拭いていた。毒は防具に付着したので大事には至らなかったが、依頼を終えたら綺麗に洗わねばならないだろう。
食事を終えた一行は、さらに洞窟の奥へと進む。
地図によるとそろそろ湧き水と――ローバーが近い。
ほどなくして、ポイゾン・トードの集団に遭遇した。
森写歩朗はテツに攻撃命令を出すが、どうやら失敗したようだった。舌打ちし、もう一度命令しつつポイゾン・トードに襲い掛かる。
前衛四人の後ろで、カイトは上方から飛んでくる毒を避けていた。
隆起した岩壁にポイゾン・トードが潜んでいるのが見えたが、かなり高い位置にいるので剣では手が届きそうにない。
ひとまずスリープをかけ、前方で戦う四人を援護する。
「くっ」
三匹のポイゾン・トードを倒したとき、真がまともに毒を受けてしまった。少し下がり、戦闘から遠ざけてあった馬から、解毒剤を取り出す。
「大丈夫か?」
五匹全てのポイゾン・トードを倒すと、ラディオスが真に声をかける。
「解毒できたから問題ない。‥‥寝袋を持ってきてないから、風邪でもひいて動きがにぶったかな」
「そろそろ毛布でも寒さを凌ぎにくくなってきたからな。テントだけでは到底寒さを防げないさ」
「次は気をつけるさ」
あたりからポイゾン・トードの鳴き声が消えていた。ということは、残るモンスターはローバーだけだろうか。
「‥‥あれ、ローバーじゃないか?」
森写歩朗が、写本「海の魔物」を参照しながら前方の岩場を指し示す。
口をすぼめているので分かりにくかったが、たしかにローバーのようだ。村人に教えられた位置とも一致する。
ローバーの触手が届かない場所にバックパックを下ろし、真が掲げるランタンの火が弱くなってきたので森写歩朗もランタンに火を灯す。
――戦う準備は整った。
森写歩朗がこれまで通りテツに突撃命令を下す。
テツが重い足音を響かせつつローバーに接近すると、それまですぼんでいたローバーがあっという間に開き、数十本の触手をあらわにした。
本能のままに、近くで動く物体――テツを触手で絡めとる。
「よし、行くぞ!」
回避力の高い森写歩朗が先頭を行く。
ローバーの触手はほとんどテツに絡められていたが、一部の触手は接近する人間たちを出迎えた。
今まで戦ってきたポイゾン・トードとは体力が段違いだったが、敵は一匹、こちらは五人なのだ。万全の体勢で挑んだ五人の敵ではなかった。
「終わった‥‥か?」
ぐったりと動かなくなったローバーをラディオスが剣先で突くが、ぴくりとも動かない。
「‥‥では、これから『凄腕の剣士』探索に移る」
騎士の言葉に、依頼を受けた直後「悪ぃが俺には『王命』とやらは関係ないんでね、民の飲み水の方が重要だ。『凄腕の剣士』とやらはついでだな」と言っていたラディオスも頷く。洞窟内の安全をほぼ確認できたので、異存はないようだ。
一行はとりあえず、湧き水がある場所まで進むことにした。
「噂の方も湧き水を汲みに来てたのかな? 洞窟に身を潜めてるとも思えないし」
というカイトの言葉があったからだ。
ラーンス・ロットは皮袋を手に、湧き水のそばに身をかがめていた。
一行に緊張が走るが、ラーンスは特に気にした様子もない。
「私を捕らえに来たのか?」
ラーンスが静かに口を開く。皮袋に水を満たすと、それを腰に括りつけて立ち上がった。
「依頼されたのは捜索であって捕縛ではございません。私の望みは卿のなさることを見届け、それを歌うことのみにございます」
カイトがそう言いながら優雅に礼をすれば、ラディオスは目を爛々と輝かせて一歩踏み出す。
「あんたが噂の『凄腕の剣士』? お初にお目にかかる、俺は傭兵のラディオス・カーター。‥‥一緒に来てもらえるとありがたいんだが、どうかな?」
「それはできない、と言ったら?」
ラーンスは身構える様子はなく、だが油断なくラディオスを見返す。
「あんたが『あの人』なら俺は逆立ちしても勝てないだろうが、これも仕事だ。それに、強い奴と戦うのは嫌いじゃないんでね、お手合わせ願おうか」
「‥‥私の疑いが晴れた後であれば、手合わせをするのももやぶさかではない。だが、今は――」
ラーンスは身を引くと、背後に広がる闇に身を沈めた。あわてて真が声を上げる。
「一つ教えてくれませんか。‥‥あなたは本当に、騎士道を汚すような行為をされたのですか?」
「していない。――断じて」
即答。
その言葉に安心して、森写歩朗も声を上げる。
「貴殿を捕らえようとする者が多数いると思います。どうぞお気をつけて」
「あぁ。ありがとう」
その言葉を最後に、ラーンスの足音は遠ざかっていった。
「街の人達が今まで通りに湧き水を汲みに行けるようになると良いな」
依頼の帰り道。馬を引く真は、相変わらずの笑顔だった。
「汲みに行けるわよ、モンスターはちゃんと掃討したんだから」
言いつつ、ちらりと騎士を窺う。
騎士はなにやら複雑そうな表情をしていた。
「どうかしたのか?」
森写歩朗が声をかけると、騎士は唸るように答える。
「‥‥洞窟へ行く前、ラーンス卿に会ったら命はないだろうと思っていた。彼が罪を犯して逃亡しているのなら、追っ手を撒くために殺人も辞さないと思ったのだ」
「だけど違ったな。‥‥上手く逃げられちまった」
ラディオスが肩をすくめる。手合わせできなかったのが不満らしい。
「いいじゃない、どうせ歌うなら、立派な人物についてのほうが楽しいわ」
五人はラーンス・ロットに対する様々な思いを胸に、冒険者ギルドへと戻っていった。