●リプレイ本文
収穫祭の催しを数日後に控え、剣術大会の模擬戦に参加するメンバーが会場受付に集まり始めていた。が、会場の様子を見た参加者たちは一様にあきれ返ることになる。祭りの初日に合せて開催されるはずの模擬戦の闘技場が未だに工事中なのだ。
試合会場を階段状に取り囲む予定の観客席もようやく骨組みが出来上がったばかりのように見える。
「おやおや、こんなことで本当に祭りの初日に間に合うんですかね」
会場のほうを眺めながら音無藤丸(ea7755)は隣で黙々と口を動かしているウォ・ウー(ea6027)に言葉をかけた。30かそこらの割に立居振舞いだけは老人臭いウォが、口いっぱいに詰め込んだパンを飲み下す前に、代りにこの会話を耳にしたらしい通りすがりの作業員が陽に焼けた顔に白い歯を光らせながら返事を返す。
「なあにご心配にゃ及びませんや、当日までにゃちゃーんと仕上げてご覧に入れますよ」
横でそのやり取りを無言のまま眺めていたラマ・ダーナ(ea2082)も表情にこそ出さないが、内心ではいくらか疑わしげな感じは否めなかった。
少し離れた会場受付では今回の出場選手の中で異色な存在である皇蒼竜(ea0637)が大会主催者相手に慣れないゲルマン語で押し問答を続けていた。異色‥というか、どう贔屓目に見ても蒼竜の身長は最初に行われるこのクラスの参加資格に達しているとも思えない。どうやらあまりゲルマン語に慣れていない蒼竜が申込書を読み間違えたのに加えて、ギルドの職員も受付けのときにきちんと確認をしていなかったのが原因らしいのだが、いつの時代でもうっかりというのはそんなものなのだろう。
その脇で自らの受付を済ませながら、その会話を耳に挟んだアルファリイ・ウィング(ea2878)が横合いから助け舟を出す。
「闘う相手の一人として意見を言わせてもらえるなら、基本的には手合せする私達が了承済みなら問題は無いと思うわ。‥‥大事なのはやる気、よね?‥うっかりすると、ころっと此方が倒されそうだけど」
最後にそう一言付け加えると蒼竜と主催者双方に向って嫣然と微笑む。
集まってきたほかの3人も特に異論はない様子である。他の選手に比してかなり体格のハンディがあることから大丈夫なのかと心配する者もあったが、自分より大きな相手と戦う場合の修行にもなるので是非にという本人の希望もあり無事参加できることになった。
試合当日、どうやらこの街の工事関係者も根性を見せたらしく闘技場は立派に完成していた。見物人も満員御礼の状態で、昼前の早い時間だと言うのに試合の始まる前から既に出来上がっているものもいる。例によって試合の勝敗をネタにした賭け事も盛んに行われているようでだ。
闘技場の中央に司会の男が現れるとまず審判団の面々を紹介した後、入場ゲートをくぐって出場者が1人づつ中央に進み出る。
最初に紹介された蒼竜が姿を現すと会場内が一瞬どよめいた。司会者のほうから事情が説明される間も会場内のそこここに「小さいな」とか「大丈夫なのか」などのささやきが絶えないが、本人は周囲の雑音などまったく気に掛ける様子も無く淡々と東洋風の礼を四方に施すと少し下がって定位置に立つ。
次に紹介を受けたラマは会場中央に歩を進めると憮然とした表情で一礼だけしてさっさと自分の定位置に向かおうとする。一瞬唖然としてシンとしてしまった会場の様子に司会者がもう少しなんとかと声をかけたが、暫く考えた後やはりそのまま定位置についてしまう。
続いて紹介された出場者中紅一点のアルファリイが現れると会場は一転して歓声やら口笛やらが響き渡る。古代エジプト風の衣装を身に纏ったアルファリイの姿はノルマンの人々から見るといかにも艶っぽい印象を与えずにはおかないらしい。
(「‥‥ん。踊る事以外で注目されるのって、なんだか照れくさいものね」)
などと少し頬を赤らめながらも会場内に向ってひとしきり優雅な身振りで挨拶を終えると、先の2人の横へと並ぶ。
司会者の紹介と共になにやら入った布袋を担いで現れたウォは、おもむろに荷物を降ろすとゆったりとした動作で正拳に手刀を組み合わせた拳法家風の独特の礼を四方に向って施した後、再び荷物を拾って列に加わった。どうやら袋の中身は大量のパンであるらしい。
最後の出場選手の名前が呼ばれると、藤丸がなにやら呪文を唱えながらゲートから走り出して来た。中央の少し前まで来ると疾風の術を施しておいたらしい跳躍で派手に飛び上がる。跳躍の頂点でその姿が一瞬白い煙に包まれると共に二つ身に分かれて着地。会場からの大喝采を受けながらそのまま2人で手を振りつつ歯をキラリと光らせてアピールしていたが、司会がどちらを指して紹介しようかと迷っているのを見て、苦笑しながら元の一人に戻って列に並んだ。
いよいよ試合が開始され試合毎に会場は興奮に沸き立ったが、2試合目に行われたアルファリイと蒼竜の試合では審判から多少の物言いがついた。どうやら蒼竜が試合ルールのほうも読み違えたらしく、防御無視の強攻を連続して繰り出してきたのである。試合そのものは初太刀こそ互角に打ち合ったものの、さすがに体力負けしたのかアルファリイの圧勝であったため結果としては特に問題にならなかったのだが、以後の試合3回目からの使用時には防御なしで獲得ポイントは通常攻撃扱いにすることになった。
これらの判定の不利があったにもかかわらず、初戦の戦いである程度身長の高い相手との戦いのスタイルを分析できたのか最終的には2勝2敗の成績を残すことが出来た。
一方で忍法を使った戦いを得意とする藤丸は、術が使えない状況で正面から打撃戦を行わなくてはならないルールの格闘試合に思いもよらぬ苦戦を強いられることになったようだ。模擬戦のなかでの実戦感覚を披露しようと張り切っていたが、残念ながら1勝もあげることが出来なかった。
友人に勝手に申し込みをされて出場したと言っていたラマはウォの挑発等にも乗らず黙々と試合をこなしていった。結果的には1勝しかあげることが出来なかったがさして悔しがる様子もない。
大きな袋いっぱいにパンを持ち込んだウォは、試合の最中にもパンを咥えながら派手なパフォーマンスを織り込んで戦いを繰り広げ、負けそうになるとパンが喉に詰まった様な素振りをするなどして会場を爆笑の渦に巻き込んだ。
藤丸やラマに比べれば若いにもかかわらず、すっかり老人風の物腰がが板についた様子で、アルファリイに負けたときには。
「ふん。本気出しおって。老人はいたわるものじゃろが」
などと大声でぼやいてみせては対戦相手や会場の失笑を買う場面もあった。
全10試合が滞りなく‥いや多少ないでもなかったが‥終了し、いよいよ表彰式が始まる。
4位のラマ・ダーナと5位の音無藤丸には参加賞が手渡されたが、クラス外の蒼竜の参加を認めたことも考慮して、3位になっていたかもしれないラマの参加賞には多少の配慮が払われた。
3位には待機中もずっと他の選手の立ち居振る舞いや、巨人同士の格闘がどういったスタイルで臨むのかの分析を試みていた皇蒼竜が、体格のハンディを乗り越えて見事入賞した。
が、ここでまた入賞賞品の希望についてちょっとした誤解が発生。パリで特においしいといわれる酒を希望ということだったのだが、最寄の商店で販売されている物1品というと実は金額的に参加賞より安価になってしまうのだ。さすがにそれではあんまりではないかと言うことで、後で売り払って酒代にしてもらうなりすればいいと言うことでレザーマントが手渡された。
最初から波乱含みでもあり、終始礼節を失わない程度といった愛想の無い態度を崩しこそしなかったものの、巨人達相手の立回りには得るところも多く、心中それなりに試合を楽しんだ様子である。
準優勝は本来所属するコナン流を離れ、本人の言うところの「食剣」と称する華国拳法をもじったような剣術で対戦相手を翻弄しつつ、派手なパフォーマンスで場内を爆笑の渦に巻き込み続けたウォ・ウーが獲得した。
終始諧謔味を帯びた行動で会場全体や対戦相手を和ませていたようだが、戦いの要所要所はしっかりと締めていたものと見え、3勝1敗と言う戦績で見事希望商品のメタルロッドを獲得した。
そして栄えある優勝を獲得したのは、意外なことに並み居る男性出場者を全て下して全勝という見事な記録を達成した今大会の紅一点、アルファリイ・ウィング嬢であった。
1段高い表彰台に上り、礼を正して優勝賞品のミドルボウを受け取る‥ところまではいくらか緊張気味の様子だったが、会場からの盛大な拍手や歓声に気をよくしたのか、客席に向って投げキッスを送るなどしてさらに祭りの雰囲気を盛り上げた。
司会者に勝因を尋ねられると、大きな体を恥ずかしげに縮めて。
「唯一の女性参加者のだったので、やっぱり男性の皆さんにはやりづらい部分もあったのでしょうし、ね?」
などと顔を赤らめながら他の参加者たちへの気配りも見せていた。
こうして収穫祭の初日を飾る巨人同士による模擬戦は万事滞りなく‥いや多少ないでもなかったが、ってちょっとしつこいか‥終わりを告げたのであった。