【収穫祭】ビバ!演芸フェスタ

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月07日〜11月12日

リプレイ公開日:2004年11月16日

●オープニング

 ノルマン各地でさまざまな催しが行われてきた秋の収穫祭もそろそろ終盤に差し掛かっている。近隣の諸国や月道を通じて交流のあるはるかな異国からも、祭りのうわさを聞きつけて多彩な顔ぶれがここノルマンの地を訪れていることだろう。
 祭りの催し物関係の募集もそろそろ終わりに近付いているかに見えるとある昼下がり、ここ冒険者ギルドの中ではまたまた一人の職員がとある催し物の募集を掲示板に貼り付けていた。

『世界の演芸フェスティバル
 収穫祭の最終日を飾るイベントとして、演芸大会を行います。
 究極まで修練を積んだ肉体のみによるパフォーマンスから、各種魔術を織り交ぜた華麗なイリュージョンまで観客を魅了する芸の数々を披露してくださる方を募集しています。
 ノルマンでは珍しい世界の民族舞踊や、演芸ではありませんが各種格闘技の華麗な演武なども含めて広く出演者を募りますので奮ってご参加ください。
 なお競技会ではないため順位などを競うものではありませんので、出演料などは一律となります』

「ふむっ‥‥、私の華麗な技を見せつけて観客どもの度肝を抜いてやるか」
 ひそかにニヤリと含み笑いを漏らすと受付へと歩み寄っていった。

●今回の参加者

 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea5242 アフィマ・クレス(25歳・♀・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 ea5488 シアルフィ・クレス(29歳・♀・神聖騎士・人間・イスパニア王国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea7968 アニマ・フロイス(22歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 ea8250 シャミー・フロイス(21歳・♀・神聖騎士・シフール・イスパニア王国)

●リプレイ本文

 盛大な賑いを見せてきた収穫祭も半ばを過ぎ、11日にはいよいよ最終日を迎ることになる。そんな中、広場の一隅に設えられた舞台に幾人かの冒険者たちが集っていた。
「ボク達の出演する芸能フェスタが収穫祭の最後を飾るのですね?」
 瞳を輝かせながら主催者にそう問いかけたのは、クリス・ラインハルト(ea2004)だった。
「まぁ、他にも幾つか当日の催し物はあるけど、最終日ですからそういうことになりますね」
「そういや飲み食いはしてたけど、祭自体の出し物には参加してなかったわね。せっかくのお祭り、なにか参加しなきゃ損よね」
 主催者の言葉を受けたのは、同じくバードで兼てからクリスとは馴染の楽士ガブリエル・プリメーラ(ea1671)である。
「もちろんです。収穫祭はボク達『吟遊お笑い芸人』の晴れ舞台。頑張りまっす」
「クリスさん、相変わらず元気いっぱいだね」
 人形の口を通じてそう言わせたのはジプシーの人形遣いアフィマ・クレス(ea5242)だ。今回の演芸大会には姉のシアルフィ・クレス(ea5488)と共に参加している。快活な妹とは違ってストイックな印象を漂せる神聖騎士は、アフィマの通訳によれば妹を助手に使って演武を披露すると言う。
「お2人もイスパニア王国の出身なのですね」
「私達も収穫祭を祝う創作舞踊と歌を披露するつもりよ」
 スペイン語でのやり取りを聞いてパタパタと近付いてきたのは、アニマ・フロイス(ea7968)とシャミー・フロイス(ea8250)の姉妹である。姉のアニマはクレリック、妹のシャミーは神聖騎士として教会に仕える身だ。
「私ね、これで大きなお魚の解体を実演するの」
 背中に斜めに掛けた日本刀を指しながらティズ・ティン(ea7694)が元気よく宣言する。メイド服を纏った身長117cmの少女と90cmもある日本刀の取合せがなんとも奇妙である。
「だからう〜んと大きな魚よろしくね。もちろん経費で」
 主催者に向き直ると、有無を言わせぬ勢いでにっこりと微笑んだ。
「ん〜、皆すごいわねぇ。私は生憎と、歌と楽器ぐらいしか能がないのよ。つまらなかったらごめんなさいね?」
 一同の話を聞いていたガブリエルが笑いながらそう言うとアフィマが一つの案を持出した。
「クリスお姉さんとガブリエルお姉さんの音楽や歌にあたしの人形操りを混ぜてもらうって言うのは大変かな‥?」
「そうね。バードとジプシーがいれば、歌と音楽、そして踊りというのは定番みたいなものだし、踊りが人形操りっていうのも面白いんじゃない」
 クリスも賛成し、ガブリエルも依存はないということで即席のトリオが誕生することになる。

 やがて始まりが告げられると操り人形を携えたアフィマを中央にして3人が並んで舞台中央に進み出る。客席からは盛大な拍手と共に嬌声が飛交う。ことに胸の大きく開いた衣装に身を包み妖艶な雰囲気を漂わせるガブリエルは若い男達の視線を集めずにはいなかった。
 3人揃って深々と礼をすると、横笛をベルトに挟み胸に竪琴を抱えたクリスが元気よく口上を述べる。
「これよりご覧に入れます演目は『豊穣の秋に捧ぐ』を主題とした歌曲と操り人形のダンスの組合せです」
「はぁい、皆さん、御笑覧あれ。傀儡師アフィマの人形繰りでござ〜いぃ」
 続いてアフィマがそう言いながら人形繰りを始める。両側の2人は少し下がるとクリスの竪琴に合わせて歌い始めた。
「実りの風よ、届けてボクの心。全ての人、全ての街、全ての山河に‥‥」
 最初のうちはメロディだけクリスの歌に合わせていたガブリエルが、やがてコーラスを装いながらイリュージョンの詠唱を調べに乗せ始めた。淡い銀色の光を明滅させながら前列に陣取った客達を次々と秋の森の風景の中に誘い込んでいく。
 アフィマが操り人形を使って歌曲に合わせて収穫のダンスを舞わせたり人形と一緒に踊ったりしている中、一渡りイリュージョンの魔法を掛け終えると今度は横笛を取出す。
 クリスが横笛と竪琴の使い分けに声色も加えて自然の恵みの豊さ、享受する者の喜びを表現し、アフィマがそれに呼応するように人形を操ると、ガブリエルもそれを更に引立てる様に包み込むような緩やかな曲調から激しい曲調まで自在に合せていく。
 これまでの冒険で訪れた街、エルフ達の住む深い森、出会った人々に対する暖かな想いが込められたクリスの奏でる演奏や歌に、観客達も引き込まれるように聞き入っている。
 一方のガブリエルは自慢の横笛を吹く合間に二人と目を合わせて楽しそうに微笑んだり、前列の席を占めた男達に向って軽く流し目でウィンクしたりと、若いクリス達とは一味違った余裕を除かせている。外見上はともかく70年を超える人生経験はそれなりに大きいようだ。
 演目が終ると余韻を惜しむようなしばらくの静寂の後、客席は大きな拍手に包まれた。ガブリエル達は優雅な動作で会場に向って一礼をすると、次の演目へと舞台を譲るのだった。

 観客達の熱狂的な拍手が静ると、替って神聖騎士の正装に身を固めたシアルフィが舞台の中央に進み出た。客席のざわめきが収まると、作法に則って観客に挨拶を行い静かにクルスソードを抜放つ。
 一呼吸置くと流れるような剣舞が始まった。それは剣技の基本的な流れを演舞の形にしたもので、彼女の信奉する黒の教えの持つ強さと、基本の大切さ重要さを観衆に理解してもらうべく作り上げたものである。
 見物人が固唾を飲む中、一連の所作を舞終えたシアルフィは再び静かに剣を収めて一礼する。一瞬の静寂の後会場が拍手に包まれると、今度はクルスソードをフランベルジュと交換した。これは元々妹の所有なのだが、次の演目にはその破壊力が必要なために借受けてきたものだ。
 舞台の袖に合図を送ると、控えていたアフィマが木片や石の塊を投げる。これを次々と貫き、叩き落していき、最後には同時に投げられた複数の塊に向けてソードボンバーを放って一気に全て粉砕して見せた。
 フランベルジュを戻して再びクルスソードを手に取り、観客に向って静かに一礼した処で妹のアフィマが人形を手に拍手をしながら舞台に姿を現す。腹話術を使って人形との掛合いをしながらにシアルフィついて色々と解説しているらしいのだが、ゲルマン語で話している為にシアルフィには見当がつかなかった。
 観客も始めは感心して聞いている風だったのだが、アフィマの様子が逆に人形に操られるようになったあたりから反応が徐々に変化を見せ始める。時折笑い声が巻起こるようになり、なにやらアフィマの操る人形の動きも怪しげになってきた。
『いくよ!』
 不意にアフィマがスペイン語で囁くと、人形のスカートをパーっとまくりあげてみせる。なにやら思い当たったシアルフィは頬に血を上らせながらクルスソードを抜打ちにアフィマに突きつけた。
 突然のことに一瞬会場に緊張が走ったが、アフィマがおどけた様子でシアルフィをからかいながら次々に繰出される切っ先をかわしていくのを見ると、安心したらしく2人に声援を送り始めた。
 とは言え大方は逃回るアフィマの方を応援しているようで、シアルフィの方でも寸止めなどをして軽業をより引き立たせるよう剣を操っている。
 それを知ってか、アフィマは余裕の回避を見せながらあることないこと派手に言いふらして挑発を続けた。内容は分からないが、客席から時折沸起る爆笑を聞けば想像もつこう。
『あなたって‥娘は‥いったい‥何を‥後で‥きっちり‥説明して‥もらいます‥からね』
 一太刀毎に短く言葉を切りながら追回すのだがアフィマの方は動ずる気配もなくますます調子に乗っている。無論見物人にはシアルフィが何を言っているのかは分かるはずもない。
 最後には舞台中央で交差しつつシアルフィの体の陰でアフィマの胴を薙払うように剣を振りぬく。
「やーらーれーたー」
 空を掴むように悶えながらバッタリと倒れる。が、次の瞬間バネ仕掛けのように起上がると辺りを見回しながら。
「はっ、私はいったい何をしていたの」
 とすっとぼけ、腹話術の人形とともに観客達に愛想を振撒きながら舞台の袖へと消えていった。
 シアルフィも先ほどまで剣を抜いて妹を追回していた時とは打って変った落着いた様子で、観客に向って深々と一礼すると盛大な喝采を浴びながら舞台を後にする。

 続いて観客に元気よく手を振りながら登場したのはティズである。メイド服姿にちょっぴり化粧なども施している。後ろからはクリスが布で覆われた大きな台車を押してくる。
 会場からの拍手が収まると、台車を覆っていた布の端を2人で持って一気に取去りながら、元気いっぱいの声で叫ぶ。
「今から、この魚をさばきまぁす!」
 少女の身長を遥かに超える巨大な魚に会場から驚きの声が上がる。
 会場の反応に気を良くしたティズは体の正面に水平に構えた日本刀を抜き放つ。鞘を受取ったクリスが舞台の袖に引込むと、大上段に振り被りいきなりスマッシュEXを魚の頭部に打ち込む。
 小さいとはいえコナン流の使い手でもあり、日本刀の重量を十分に載せた一撃は見事に巨大な頭部を両断する。本人は自信満々なのだが、ティズの持つ家事の腕程度では1匹丸ごとの魚などまともに捌ける訳もなく、ほとんど筒切りにして更に細かくしていくしかない。
 巨大魚と格闘を始めて暫くすると刀身に脂が乗ってきて当然切れ味は鈍ってくるのだが、そこは気合とスマッシュEXの威力で豪快に切り分けていく。小さな体で奮闘することしばし、さしもの巨大な魚もどうやら食べやすいほどの大きさに切り分けられたようである。
 息を切らしながらも満面の笑顔で客席に挨拶するティズにクリスが再び近付くと抜き身のままの日本刀を受け取る。さすがに刀身がこの状態ではそのまま鞘に収める訳にも行かない。
「捌いたお魚に新鮮な魚介類を追加して、スープの大鍋を作って観客の皆さんに召し上がって頂きます。ボク達の出し物を心の栄養に。美味しいスープで身体の栄養を取ってもらって、やってくる冬に備えてください。それでは〜」
 笑顔を浮かべながらも肩で息をしているティズに代ってクリスが口上を述べると、観客の拍手を浴びながら切分けた魚を回収しつつ舞台を降りて行った。

 次は舞台の中央付近に更に大きな丸テーブルのような舞台が運ばれてきた。舞台の両袖から幾重にもフリルを重ねた華やかな衣装を身に纏ったシフールがパタパタと羽ばたきながら現れ、中央まで来ると互いに手を取り合って舞台の中央に降り立つ。
 観客に向って揃って一礼すると、妹のシャミーが演目を紹介する。
「私達は故郷イスパニア王国の民族舞踊を元にして考えた、収穫の喜びを表現した歌と踊りを披露します。私が踊りを」
「あたしが歌を勤めます」
 口上を終えるとシャミーは自作のカスタネットを手に舞台の中央で始まりのポーズを取る。少し斜め後ろに下がるとアニマは収穫祭の喜びを織り込んだ歌を歌い始めた。
「田は黄金に輝き作物は今、収穫の時を迎える
  私は、称えよう、そして、喜ぼう
 この良き時に皆と収穫の喜びを祝える事を‥‥‥‥」
 アニマの曲に合わせて、シャミーは今年も無事に収穫が出来た喜びを表現した情熱的な踊りを踊る。それは後年アレグリーア(喜び)の名で呼ばれる明るく活気に満ちた曲踊りによく似ており、随所に即興の見せ場を織り込みながら観客達を魅了していった。
 あるときは情熱的にあるときは艶かしく個性的なリズムに乗って繰り広げられた舞曲は観客の喝采を浴びてフィナーレを迎えたのだった。

 観客の拍手が続く中、客席に向って一礼した2人が舞台の両翼に向って飛び去ると、小舞台は片付けられ湯気を立てた大鍋が運び込まれてきた。
 エチゴヤの福袋で当てた『駿馬の被り物』を被ったクリスや、サムライアーマーのコスプレを身に纏ったティズの他、大方の出演者が舞台に上がって観客達に出来上がったブイヤベースを振舞う。
 尤も演技を終えたばかりのシフールの姉妹は、体格的に人間向けの食器を運べないこともあり休憩していたし、言葉の通じないシアルフィもできるだけ物静かにして人々の熱狂に自分があてられないように遠くからその様子を見つめていた。
 観客に一通り行き渡ると、出演者達も思い思いに場所を占めては魚介類鍋を食べ始める。
 主催者側からは参加の記念として出演者の一人一人にワインの樽が配られたのだが、ティズの前に来るとさすがにワインを渡していいのか迷っている様子だ。
「お料理に使うから大丈夫だよ。私いい子だから自分で飲んだりしないもん」
 無邪気な笑顔を向けられて躊躇いながらもワイン樽を手渡す。
 アフィマの前でも一応躊躇ったのだがやはり同様に渡すことにする。
「そう言えば顔合わせの時にいたエルフのお兄ちゃんはどうしたのかしら。途中から姿が見えなくなったけどどんな演技をするつもりだったんだろう?」
 この時になってふと気付くものもいたのだが、誰も答えることは出来なかった。
 『駿馬の被り物』を被ったクリスはその後も「ヒヒン? ヒヒヒーン!」と声色を使いながらお子様達相手のサービスに余念がない。時折小さい子を背に乗せて走り回ったりと見事な馬っぷりである。
 観客達の給仕をしていたティズも、いつの間にやら美形の青年の横にちょこんと座って話し込んでいたが、巨大魚との格闘に体力を使い果たしたのか、いつしか件の青年に寄りかかったまま寝入ってしまっていた。
 どうやら自分の演技を見た青年に『素敵です、付合ってください』などと交際を申し込まれる甘い夢を見ながら幸せに浸っていたらしいのだが、仲間達に運ばれたベッドの上で目を覚ましてからは後悔することしきりであった。
 その後、舞台の間散々姉をからかっていたアフィマはそそくさと腹ごしらえを終えると姉に捕まらないうちにこっそりと逃げ出したらしく、シアルフィが探し始めた頃には既に会場の何処にもその姿を見つけることはできなかった。
 宴も終り観客達も帰って行った後、主催者達が舞台の片付けをするのを眺めながら。
「あー、久しぶりに思いっきり全力でやったわー」
 などと満足気に呟いていたガブリエルは、被り物を抱えてそばを通り過ぎようとしたクリスの姿を目に留めるといきなり抱きつき。
「あはははは‥‥‥やっぱクリスサイコーだわ」
 等と言いつつじたばたするクリスをしきりに撫で回すのであった。