道場破りを追い払え!

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月16日〜11月21日

リプレイ公開日:2004年11月20日

●オープニング

 とある昼下がり、冒険者ギルド依頼窓口に一人の少女が姿を現す。身なりなどからどうやらジャパンの出身と思われる少女が、多少おぼつかないゲルマン語で職員に語ったことの次第とはおおむね以下のようなものであった。
 早くに母をなくした少女は父と2人新天地を求めてこのノルマンの地へとやってきたらしい。ここからそう遠くない村の一角に『北震流』と言うちょっと怪しげな看板を掲げて、村の若い者相手にジャパン流の剣術を教え始めたのだと言う。ものめずらしさも手伝ってかそれなりに弟子も集まり、日々の暮らしもなんとか成り立つようになって来たのはいいのだが‥‥。
 ある日突然道場破りのような集団がやってきて勝負を挑まれてしまった。中にジャパンから来た浪人崩れも混じっていたらしく看板の字にもなにやら思うところがあったらしい。
 団体戦を挑まれたのだが弟子たちにはまだまだまともに立ち会えるほどの実力はないという。
 怪しげな看板の割にはそこそこの実力はあったらしく、最初に何人かの弟子との立会いを見たり師範である父親自身が立ち会ったりして、道場破りたちのある程度相手の太刀筋は読めているとのことでもある。
 とりあえずは数日後に試合で決着をつけるということでその場は引き取ってもらったのだが、どうやら助っ人を頼まないことにはどうしようもないらしい。相手のほうも余裕を見せて別にかまわないと言っていたので、急遽人を募るために来たらしいのだ。
 道場の存続がかかっているということで、うまく追い払ってくれればきちんと礼はするという。まぁ負ければそれどころではないのだが‥‥何とかお願いできないだろうか。

●今回の参加者

 ea5254 マーヤー・プラトー(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea5594 ミスリル・オリハルコン(30歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea8284 水無月 冷華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8342 ツルギ・アウローラ(39歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea8497 九重 無弦(35歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8527 フェイト・オラシオン(25歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 依頼人の娘に案内されて問題の道場へとやってきた一行だが、門柱に打付けられた看板を見てマミ・キスリング(ea7468)が小さな呟きを漏らす。
「『北震流』‥‥ち、ちょっと違うような気もしますが‥‥」
 その呟きが耳に入ったのか、同じくジャパン出身の水無月冷華(ea8284)と九重無弦(ea8497)も改めて看板の前に立つと互いに顔を見合わせた。
 その様子に気付いたらしく一度中に入りかけた娘が戻ってくる。3人の表情を見ると哀しげに目を伏せた。
「お三方はジャパンからいらしたのですね。やはりこの看板奇妙に思われますか‥‥ほとんど無名ですがこれでも昔から当家が伝えてきたものです。ただ‥‥千葉周作様の『北辰一刀流』が有名になるにつれ、やれ紛い物よ猿真似よと世間から物笑いの種にされるようになり、とうとうジャパンに居たたまれず‥‥」
 言葉に詰まると思わず涙をぬぐう。
「お気の毒に。とにかく、私の父の故郷であるジャパンから来られた方達のためにも、頑張りますわ!」
 マミが慰るように声をかけると、冷華もそれの呼応するように娘を励す。
「ギルドの話からしますと、理があるのは此方の方です。よって助太刀に参上したのです」
 無弦も得心したのか無言のまま頷いている。黙って話に聞き入っていたマーヤー・プラトー(ea5254)は娘に向ってとりあえず道場主の元へと案内するよう促した。
 一同は道場主の待つ部屋に案内される。部屋で待っていた主の姿を見てフェイト・オラシオン(ea8527)は微かに眉を顰めた。出迎えに出なかったのも道理、あちこち手傷を負っているようである。道場破りが来る前に師範と軽く手合せしてもらうつもりだったのだがこの様子では叶えられそうにない。
「かような有様でお出迎えにも上がれず誠に申し訳ござらん」
 深々と頭を下げて非礼を詫びる。
(「道場破りか‥‥、あまり感心できる事ではないな。しかしまあ、手っ取り早く名を上げるにはもってこい、という考えだな。説教してやらねば‥‥その前に、力で抑えつけねばなるまいが」)
 暫く考え込みながら主の様子を観察していた李風龍(ea5808)は神聖魔法による傷の回復を申し出た。風龍のリカバーにより主の傷が回復するとフェイトは早々に手合せを頼む。
 主は手合せのついでに道場破り達の太刀筋も一同に見ておいて貰いたいと願い出た。自流派によるフェイトとの手合せが終ると、一同に対して夫々の対戦相手の得物と太刀筋を可能な限り再現して見せる。少なくともそれなりの腕は持合せているらしく、破れた原因は頭数のようである。
「腹が減っては戦はできぬと申しマス。まずは皆さんにご飯を食べて力をつけてもらいましょう」
 手合せが終ると、「客人にそのようなことを」と遠慮する娘にもお構いなしにミスリル・オリハルコン(ea5594)が炊事場に入っていく。久しぶりに和食の腕を振るえるので腕が鳴るらしい。
 いよいよ食事が始まると仲間達からの賞賛を受けて調子付いたのか。
「よろしければ、道場破りサンにも食べていただきましょう」
 などと言い出しては一同の失笑を買い、ようやく本来の目的を思い出したようであった。
「あらあら、いけません。そういえば、ここに来たのは、ご飯を作りに来たのではなくて、道場破りサンをやっつけに来たのでした」

 いよいよ試合の当日となり、道場破り達が姿を現す。国籍も職業も様々な15人ほどの集団である。
「おいおい、なんか頭数が多くねぇか」
 誰にともなくツルギ・アウローラ(ea8342)が問掛けると、さして気にする風もなく無弦が応じる。
「まあ団体戦なら過半数が勝てばいいのが道理だ。要は全員勝てばいいのさ。出番が来ないうちに勝負が着いてはつまらんだろう」

 最初に進み出たのは冷華である。
「実力では最も弱いようなので、私が前座を務めさせていただきます」
 ぴんと背筋を伸したまま目の前の相手を冷ややかに見据るとすらりと日本刀を抜放った。相手は剣と盾を構えたファイターらしい男である。
 開始と同時に冷華の足元を狙って剣を打込む。かわしながら相手の頭上に刀を振下すが、僅かに足元に痛みが走る。飛び離れた相手は額から血を流しながらも冷華を挑発するようにニヤリと笑う。
「どうしたい。少し油断したんじゃねぇのか」
「自分が未熟と解っていますから油断などいたしません!」
 言いながら男が放ってきた強烈な胴払いをしっかと受止ると攻勢に出た。幾度となく盾に妨げられながらも確実に相手の攻撃を避けながらじりじりと追詰ていく。頭上に相手の剣を感じながらも足元に打込んだ一撃で男はバランスを崩す。すかさず頭上に振下した渾身の一撃に、剣を放り出して両手で盾を支えながら受けた男が尻餅をついたまま情けない声を上げた。
「まっ、参った!あんたの勝ちだ」
 へたり込んだままの男に冷華も刀を納めて一礼すると背を向けるが、「くそっ、女ごときに」と言う捨台詞を耳にした途端に顔色を変える。
「三途の川で頭を冷やしていなさい!」
 振り向きざまに高速詠唱を用いてアイスコフィンを叩きつけた。たちまち男は氷柱に閉じ込められる。
「私に向って女であることを揶揄するものはこうなると思うがいい!」
 抗議の声をあげる道場破り達を、有無を言わせぬ口調で一喝すると仲間達の元へと戻った。

 次に進み出たのはツルギだ。レンジャーらしい軽装にダガーとナイフを構えて間合いを取る。
 こちらも軽装に小太刀のみを手にした相手は、開始と同時にツルギの懐へ飛び込んできた。かなりの技巧派のようだが技巧勝負ということなら負けていない。
 すばやい動きで相手の攻撃を2刀の何れかで確実に裁きながら手数で相手を圧倒していく。相手の強烈な足払いを2刀を交差させて受けた直後の攻撃で脇腹に傷を負ったものの、常に先手を取り続け最後にはダガーで相手の小太刀を押え込みながら喉元にナイフを突きつける。
「さ〜て、どうする?」
 ツルギの問掛けに相手が敗北を認めるとようやく喉元に突きつけたナイフから解放してやった。

 3番手に出た無弦は相手の得物を見ると不満げな表情を見せたが、とりあえず大声で相手に呼掛ける。
「俺が勝ったらそっちの得物は置いてって貰おうか。こっちは看板賭けて試合するんだ、そっちにも相応の代価は必要ってもんだろ?」
 突然の申し出に一瞬あっけに取られた様子だったが、無弦の武器が六尺棒なのを見て取るとバカにしたように応える。
「へっ、構いやしねえがそんな棒切れでこの俺に勝てるつもりかよ」
 どうやら賭けに乗ってきた様子に心の中でほくそえむ。
(‥‥ふふふ、栄えあるコレクション第一号にしてやるぞ。どうせなら日本刀のほうが良かったんだがな)
 試合開始と同時に無弦は得物の長さを利用して足元を払いにかかる。かわした相手は無弦の胴目がけて強烈な突きを入れる。完璧に叩き落して相手の頭上にスマッシュを見舞おうとするが、払い落とされたダガーでそのまま足元を狙ってきた。咄嗟に受けて掠り傷程度で済ませるが、どうやらスマッシュの威力は減殺されたらしい。
 顔を顰めて頭を押えたまま後ずさる男に対し嵩に掛って攻めまくる。相手の鳩尾に強烈な突きを入れ、続いて頭上に渾身のスマッシュをお見舞いしようとしたのだが‥‥既に相手は腹を押えたまま地面に突っ伏していた。
「ふっ、口ほどにもない。約束通りこいつはいただくぞ」
 地面に転がったダガーを杖の先でひょいと跳ね上げて手に取ると引上げて行った。

 4番手にはマミがレザーアーマーにロングソードとライトシールドという完全装備で登場する。相手もほぼ同じ装備だが小柄なマミと比べると頭一つ分ほどの差がある。
「では、磨魅・キスリング‥‥参ります!!」
 恐れる風もなく前進するマミに対して、相手は長身を生かして上段から渾身の一撃を振下してくる。これをカールスの身上とする鉄壁の防御で受切ると攻勢に入った。単調ではあるが相手の攻撃を確実に受止めながら勢いと力に任せて次々と攻撃を決めていく。
 鎧があるとは言え立て続けに強打を打ち込まれ、相手が怯んだ所を見計って止めに全力のスマッシュを振り下ろして勝負を決めたが、さすがにこのときばかりは隙が生じたのか肩口に一撃を受けてしまう。
 鎧のおかげで怪我こそ無かったが、父親譲りの見事な黒髪の一房が地面に落ちたのを見て少し哀しげに顔を曇らせると一礼した後でそっと拾い上げて仲間の元へと戻っていった。

 5番手に名乗りを挙げたのはで風龍ある。六尺棒の他に左手に金属拳という装備だが、第3戦を見た相手は必ずしも油断はしていないようである。
 開始早々いきなり猛攻を仕掛けて受け切られた相手も、次の風龍の攻撃を完全に防いでみせる。次の一撃では双方にかなりのダメージが入ったが、風龍は怯んだ相手に畳み掛けるように攻撃を仕掛けていく。押捲られて次々とダメージを受けて戦意を喪失してきた敵の顔面を目がけて、渾身の金属拳を打込むと2mばかり飛ばされて地面に叩きつけられた相手は動かなくなった。
 拳を打込む時に相手の突き出した剣で肩先を少しばかり切られはしたが、さほど気にもせずに自陣へと戻っていく。

 6番手のフェイトは両手にダガーを携えると何の表情も見せずに戦いの場に立った。浪人崩れと思われる男は日本刀の柄に口に含んだ酒を吹き付けると、一行の中でもとりわけ小柄なフェイトをゆっくりと眺め回しながらゆがんだ笑いを向ける。
「‥‥‥あなたは何の為に剣を振るうの?」
 暫くその様子を眺めていたフェイトが不意に訊ねると、男はさもおかしそうに高笑いを響かせた。
「こいつぁおかしいや。人を切り刻むのに理由がいるとはな。楽しいからじゃいけねぇのかよ」
 見下したように言い捨てる。どうやら尋ねるほどの相手でもなかったらしい。失望を表情に現す事もなく気のない様子でダガーを構えながら名乗りを挙げる。
「‥‥ソードダンサー、フェイト・オラシオン‥‥」
 言い終えると同時に相手に向って踏込んでいく。早さと手数の多さを主眼とするノルドの使い手らしくダブルアタックを使って左右のダガーを巧みに操り攻撃を加えていく。相手の攻撃はオフシフトや交差受けで防ぎながら次々と攻撃を繰出す。
 相手の顔から笑いや余裕が消えた頃、ダブルアタックEXを使って相手に切りつけると同時に、顎に強烈な頭突きも喰らわせる。直撃を受けた相手はドゥとばかりに仰向けに倒れると動かなくなった。
 フェイトのほうも2太刀ほど浴びたらしく脇腹に血がにじんでいるが、表情にはほとんど変化が見られない。無言のまま一礼すると仲間の元へと踝を返した。

「いよいよワタクシの出番ですネ。副将戦というところでショウか。あ、そういえばワタクシ、これでも収穫祭の模擬戦の優勝者なんですヨ」
 全く緊張感のないことを口にしながらミスリルが進み出る。これには相手も一瞬気を飲まれたように唖然としていたが、改めてロングソードを構え直す。
 先日の道場主との手合せからかなりの剛の剣の使い手であることは承知している。とは言えミスリルとてコナン流の剣士である以上、相手を上回る剛の剣を以ってねじ伏せるまでのことだ。
 相手と同様に太刀を大上段に構えると、開始と共に真正面から全力で打ち込んでいく。双方ともに全力の打ち込みを2太刀ほど与えたところで互いに一旦飛び退く。互いに鎧の肩口で打撃を受け止めたのだが、スマッシュEXに太刀の重量を乗せたミスリルの方が遥かに大きなダメージを与えているらしい。
 相手の顔が苦痛にゆがんでいる。一瞬の間をおいて再び激突するが守勢に回った敵に勝目はなかった。たちまちミスリルの足元に這うことになる。
 最初の打撃でかなりのダメージを受けたにもかかわらず、にこやかに一礼するとその場を引き上げた。

 道場破りの頭が予想外の展開に苦虫を噛み潰したような顔で進み出る。頭数の差から7人分の不戦勝を得て楽勝と思っていた勝負が、蓋を開けてみれば既に立会った手下全員が倒れて5分に持ち込まれているのだから無理もない。
「勝負は、既に決している。大人しく負けを認めたらどうだね」
 浪人崩れと見受けられる頭目を前にマーヤーは余裕の笑みを浮かべて諭す。後方では立会いで傷を受けた者達もミスリルと風龍のリカバーによって既に完全に傷を癒している。
 それには答えず頭目が無言のまま日本刀を抜くと、マーヤーも同じく日本刀を抜き放って構える。開始と共に大上段に振り被って猛然と打ち込んできた一撃をマーヤーは余裕で受け止める。
「振りが大きすぎるな。何をしたいのかがよく分かる」
 逆上した相手に対して前進を続けながら次々と攻撃を加えて行く。相手に圧力を加え続けて追詰めると一旦距離をとる。相手が体制を整えようとしているところへ、チャージングとスマッシュを組み合わせた強烈な一撃を見舞う。突っ込んでいく脇腹を相手の突き出した刀が掠めて僅かな傷を与えたが、直撃を受けた頭目はマーヤーの足元で呻き声を上げるばかりで立上がることはできなかった。

 立会いが続く中ツルギは一瞬たりとも見逃さぬ態度で勝負に見入っていた。なにしろ、各国の諸流派の剣技を目前でじっくりと見聞できる機会などそうはない。我流を極めようとするツルギにとっては得るものも多いのだろう。
 結局のところ道場破りたちは最初に7人分の不戦勝を得ていたにもかかわらず、全ての立会いに敗れることとなった。勝敗は明らかである。ようやく意識を取り戻したものも含めて風龍が説教を垂れる。
「お前達に今足りないのは、正義のために力をふるうという心だ。正義の心のない力など、所詮は暴力に過ぎん。だから、俺たちのように正義の心の伴った力には敵わなかったのだ。この先も道場破りを続けるのなら、恐らく俺たちは再びお前達の前に立ちはだかり打ち倒すことになるだろう‥‥」
 風龍としては道場破り達を改心させてこの道場に入門させたい腹積もりもあったのだが、生業も持たぬ無頼の者達に大勢徒食されたのでは却って迷惑だろうと言うことで断念せざる終えなかった。
 一方で無弦やフェイトは今後このような事が無いように道場破り達から容赦無く武器や防具を取上げようとしたが、道場主の取り成しもあり戦利品の収集に拘った無弦以外は同じ程度の金子を侘び代りに支払うと言うことで放免してやることになった。
 こうして無事に道場破り達も追払われ、道場主と娘の手厚い礼に送られて一行はこの地を後にすることになる。
「国や、流派が違えど、剣の道に終りが無いのは同じだ。お互い、精進だな」
 マーヤーの言葉に一同も深く頷くと、夫々の思いを胸に秘めながら一路街へと帰途に着くのであった。