なつかしの我が家

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月17日〜11月22日

リプレイ公開日:2004年11月20日

●オープニング

 冒険者ギルドの受付をなにやら見覚えのある少年が訪れた。暫く前にゴブリンの巣穴から出られなくなった主人一行の救出を頼みに来た少年だ。
 依頼を受けた冒険者たちの働きで、身動きの取れなくなっていた2人は無事脱出することができ、その後は収穫祭を楽しんでいたのだと言う。
 彼の主人と言うのはこの周辺の人里はなれた森の中に屋敷を持っており、中年の執事と下働きのこの少年の3人だけで暮らしていたということなのだが、各地の祭りの噂を聞いてそれを渡り歩いてきたらしい。
 供の2人を連れてジャパンからイギリス、そしてこのノルマンとおよそ3ヶ月ばかりの間転々と旅をしていて、その間屋敷のほうは一応しっかりと戸締りはしていたはずなのだが、ひさしぶりに屋敷に帰ってみるとどうやら誰かが住み着いてしまっているらしい。
 暫く様子を見張っていたのだがどうやらあまりまともな連中ではないらしく、おまけに庭に獰猛な犬を2匹ばかり放していて迂闊に近づけないと言う有様なのだ。
 全部で4人ほどいるこの連中が出入りするときの話を盗み聞きしたところでは、どうやら近隣の村を荒らしているこそ泥の一団らしい。
 なんとかこいつらを追い出して屋敷を取り戻して欲しいと言うのが今回の依頼内容だ。とは言っても屋敷の中で戦いになって血の海にでもなったのでは、とても住めたものではないのでその辺はくれぐれも慎重にお願いしたいとのこと。

●今回の参加者

 ea2850 イェレミーアス・アーヴァイン(37歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea4485 群雲 蓮花(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5101 ルーナ・フェーレース(31歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 ea7363 荒巻 源内(43歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7378 アイリス・ビントゥ(34歳・♀・ファイター・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea7819 チュリック・エアリート(35歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8558 東雲 大牙(33歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)

●リプレイ本文

「お、お久しぶりですね。また災難ですか。大変です」
 再び件の3人組と顔を合せることになったアイリス・ビントゥ(ea7378)がいかにも気の毒そうな様子で依頼人達に挨拶する。
「イェレミーアスさんと源内さんも、お、お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな‥‥しかし、前回は雨宿りに入った洞窟がゴブリンの巣穴、今度は盗賊に家を乗っ取られて入れない‥か。つくづくあんたらも居場所に恵まれないようだな‥‥」
 依頼人の連れ2人を助け出すためにゴブリンの巣穴に突入したイェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)も同情に耐えないといった様子で相槌を打つ。イェレミーアスと行動を共にした荒巻源内(ea7363)も相変らず目の周辺しか見えない忍者装束の下に笑顔を隠しながら挨拶を返した。
「いやいや‥‥盗賊とはね。魔物の襲撃だったらまだしも住居不法占拠っていうのも考え物よね」
「早く彼らのお家を取り返しましょう!」
 群雲蓮花(ea4485)も依頼人達に同情した様子で肩を竦めるが、アイリスの方はなにやら前回同様妙に張り切っているようだ。
「連中、こそ泥らしいから全員きっちり捕らえたほうがいいんだろうねぇ。必要ならあたしも覚えている魔法を駆使するよ」
「きっちりしっかり縛って役所にでも突出すのがよかろう。なに、縄はちゃんと持ってきてあるから大丈夫だ。心置きなく縛れ」
 悪戯っぽい笑いを口元に浮かべたルーナ・フェーレース(ea5101)の言葉を、物憂げな様子でキセルを弄びながらチュリック・エアリート(ea7819)が引取る。
「ロープならあたしも3本ほど用意してきたよ」
 笑いながら荷物を指し示すルーナにイェレミーアスが声をかける。
「そういや『ソルフの実』ってのがあるが魔法を使うなら渡しておこうか。魔法の回復用らしいし、俺が持っていても仕方がないからな」
「誰も使わないようで、現場で必要な様だったら使ってみたい気もするね」
「俺も一つ持ってるがな」
 ルーナがにっこりと応じるとチュリックがぼそりと呟く。結局『ソルフの実』はルーナが受取ることになった。
「こちらの方達の家を血で汚したり傷付けたりせずに取返すのでしたら、やはり犬や盗賊は家から少し離れたところまで誘い出さないといけないのでしょうね」
 依頼人達の方に目をやりながら九紋竜桃化(ea8553)がそう口にするとすかさずアイリスが言葉を挟む。
「どうしましょう‥。や、やっぱり盗賊にはお色気作戦ですか?」
「私ともうお1人くらいで迷った旅人のふりをして家を訪ね、盗賊達を皆さんの待構えている所へ誘い出すということでいかがでしょう?」
「わ、私も行きます」
 桃化が『お色気作戦』なるものを大まかにをまとめるとアイリスがさっそく名乗りを上げる。
「んー‥‥何やら今一つ作戦に不安があるんだがね。とりあえず、あたしは犬の相手をさせて貰うよ」
 ルーナがそう言うと、キセルを弄びつつ成り行きを眺めていたチュリックがまとめた。
「要するに始めに犬、次に盗賊の順で誘い出して捕らえる流れで行くってことだな。巧くいけばいいんだが。(とりあえず範囲効果魔法の位置関係だけは頭に入れておくか‥)」
 特にこれと言った反対もなくその方向で作戦を決行することになる。この間東雲大牙(ea8558)は特に意見を出すでもなく周囲の話を聞きながらも何やら物思いにふけっていたが、最初から自分の巨体を見せたのでは盗賊達が警戒するだろうと言い待伏せ役を引き受けた。

 第一陣として出発したルーナが屋敷の門を目指して歩み寄る。門を細めに開けて慎重に中の様子を窺うが、たちまち猛烈な吠声と共に2匹の大型犬が走り寄ってくるのが見えた。2匹とも立上がればルーナより大きいくらいかもしれない。
 急いで森の奥へと逃げ出しにかかるがたちまち誤算があったことに気付く。普通の人間でも走る速度で犬にかなうはずもないのに、ましてルーナはパラであり当然歩幅も小さい。そのうえ高速詠唱を身につけていないルーナは印を結んで10秒間ほどの呪文を詠唱しなければならないのだが、全速力で逃げながらではとてもそれどころではないのだ。
 森の中を走るうちに徐々に距離を詰めてくる、が突然犬達の動きが止った。犬達とルーナの間にロングソードを抜き放ったイェレミーアスが立塞がったのだ。
 一瞬怯んだかに見えた犬達は次の瞬間同時にイェレミーアスに飛掛る。フェイントアタック等を交えて応戦するが意外と犬達の動きも素早いようだ。
 ようやく一息ついたルーナはすぐにコンフュージョンの詠唱を始める。やがて銀色の光があたりを照らすと同時にイェレミーアスに向って飛びかかろうとした犬にもう1匹が猛然と襲い掛かった。暫くは組合ったままゴロゴロと転がりながら戦い続ける。続いてシャドウバインディングの詠唱に掛かるが犬達の動きが縺れ合っている為に対象を固定できない。そのうちに10秒ほどしかないコンフュージョンの効果がきれたと見えて犬達はパッと飛び離れた。いきなり攻撃されたほうはまだ怒りが収まらないようだが、魔法が解けたほうは再びイェレミーアスに向直る。身を低くして飛び掛ろうとしたところにルーナの術が発動し完全に動きを止めた。
 もう一方の犬はと見るとこちらも様子がおかしい。足元に絡み付いてくる蔦の為にパニックに陥っているようだ。見回すとかなり離れた所にチュリックがこちらを向いて立っている姿が見える。プラントコントロールを使っているようだが距離から見てどうやら初心者レベルではないらしい。
 ルーナは改めてシャドウバインディングを発動するともう1匹の犬の動きも完全に押え込む。動けなくなった犬をイェレミーアスに手伝ってもらいながら縛り上げているとチュリックもようやく近付いてきた。
「おかげで助かったけど、ずいぶんとまた遠くからの手助けだね」
 ルーナが釈然としない様子で礼を述べると、にこりともせずに応える。
「犬どもに飛びつかれてローブが破けでもすると困る‥‥一張羅なんでな」
 なにやら目が据っている所を見ると冗談を言っているという訳でもなさそうである。

 どうにか犬のほうは始末が付いたと言うことで、次はアイリスと桃化が盗賊達をおびき出す番である。2人が旅人を装って一夜の宿を頼みに訪れ、盗賊達を見て逃出す振りをする手筈になっている。
 日もだいぶ傾いた頃、2人は屋敷の玄関前に立っていた。アイリスがわざと中に聞こえるように声をあげる。
「あ、あら〜、こんなとこにお屋敷があります‥もう暗くなりますし今夜はこちらに‥‥」
 それに応じる様に桃化が玄関のノッカーを鳴らす。
「申し訳有りません、一夜の宿をお貸し下さいませんか」
 中でバタバタと音がすると人相の悪い1人の男が顔を出した。一瞬2人の背丈に驚いたような表情を見せたが、たちまちいやらしい視線を桃化達の胸元に走らせる。2人とも盗賊達を色仕掛けでおびき出すために、衣装をだいぶ着崩していた。アイリスの服装は元々ノルマンあたりの人間から見れば露出度が高めであるし、桃化もジャパンの遊女風に襟元をかなり寛げている。
「よぉ、どうしたってんだ」
 中のほうから兄貴分らしい大男が出てくるが、2人を見るとたちまち相好を崩す。最初の男が下卑た笑い声を上げながら説明する。
「へへへ‥‥このねえちゃん達が今晩泊めて欲しいんだとよ」
「失礼ながら取込み中の様ですね、急ぎ立去りますのでご容赦を」
 盗賊達を見て怯えた風を装って桃化が立去りかけると、大男のほうがいきなり腕を掴んできた。
「い〜や、別に取り込んでなんざいねぇよ。一晩と言わずいくらでも泊っていっていいんだぜ」
 ニヤニヤ笑いながら桃化を抱寄せようとする。その様子を聞きつけたのか奥に残った2人の足音も近付いて来た。もう1人の男もアイリスの後ろに回って家の中に連れ込もうとする。
「さあさあこっちのねえちゃんも遠慮しねぇで中に入んな」
 腰の辺りに手を回されたアイリスはいきなり男の顔面に向けて右のパンチを打込んだ。
「こ、これがお兄様直伝『愛のカツドンパンチ』です!!」
 鼻血を出しながら仰向けに倒れる男の頭上に頬を真っ赤にしたアイリスの声が飛ぶ。桃化も、突然のことにあっけに取られている男の手を振切るとアイリスを促して門に向けて走り出した。
 一瞬送れて怒号が巻き起こる。玄関にいた男が屋敷の中に向って何か叫ぶとやがて手に手に剣を持った男達が追いかけてきた。アイリスにぶちのめされた男も仲間に助け起こされると胸元を鼻血で真っ赤にしながら追跡に加る。
 門を出た2人は一目散に仲間達の待構えている森の中へと駆込み、決めておいた場所まで来ると立止まって盗賊達のほうを振返った。2人を追いつめたと思ったのか盗賊達は歩調を緩めるとニヤニヤ笑いながら近付いてくる。
「舐めたまねをしやがって、覚悟はできてるんだろうな」
 鼻血を流したまま険悪な表情で2人に詰め寄ろうとした男は、マントの影からアイリスが取り出したダガーと桃化が抜き放った日本刀を見て顔色を変える。
 更に2人の背後からイェレミーアスがロングソードを手に現れ、左右からはショートソードなどを手にした蓮花達が、背後も大牙に囲まれたのを見てようやく罠にかかったことを悟ったらしい。
 大牙達が包囲を縮めると観念したのか盗賊たちは背中合わせに4方向に剣を向けた。桃化達は後を任せると再び屋敷の方に向う。
 巨体ながら得物も持たず防具も身につけていない大牙を与し易しと見たのか盗賊の1人が奇声を上げながら切りかかってくる。
『‥‥‥まずは‥覚えていることを試そうか』
 本来華国の生まれにも拘らずなぜかぼそりとジャパン語で呟くと軽々と初太刀をかわし、ストライクEXで威力を高めた拳を打ち込む。
「牛角拳!!」
 力強い踏み込みとともに十二形意拳・丑の奥義を炸裂させた。盗賊は皮鎧を着用していたのだが全く用を成さずそのまま大地に倒れてピクピクと痙攣している。
「ふむ‥‥まぁ、死にはしないだろう」
 あまりにもあっけない結果に大牙は憮然として自分の拳を見つめた。確かに自分が武闘家であることは間違いないようであったが相変わらず過去の記憶は蘇ってこない。
 アイリスに詰寄ろうとしていた男は必然的にイェレミーアスの相手を務めることになる。一思いに倒そうとすればさほどの相手とも思えないのだが、殺さずに抵抗できない程度に弱らせるのが目的のイェレミーアスは出来るだけ足元を狙って攻撃を繰り出していく。
 一方蓮花に向った男は相手を女と見くびったのか余裕の笑みさえ浮かべて打ちかかって来た。蓮花は十分に相手を引き付けると新陰流の奥義バーストアタックを打込む。咄嗟に受けた男の剣は鋭い金属音を立てて根元から折れ飛ぶと近くの木の幹に突き刺さった。
 更に剣先を突きつけられた男は折れた剣を投捨てて地面に座り込む。
 イェレミーアスが相手をしていた男ともう1人もやがて、離れたところからチュリックがプラントコントロールで操る蔓に足元を掬われ、かろうじて足元を照らす残照を利用したルーナのシャドウバインディングで完全に動きを止められると、次々にロープで縛り上げられていった。

 屋敷の方に向ったアイリスと桃化は夫々得物を構えながら慎重に屋敷内を調べて回ったが。出て行った4人の他に誰かがいたらしい形跡はなかった。
 やがて他の仲間達も、縛り上げられた4人の盗賊と2匹の犬を連れて屋敷にやってきた。捜索の結果を聞くと一番体力の残っていそうな大牙が依頼人達を呼びに行く。
 その間に屋敷の中を一回り見てきたイェレミーアスが案の定といった様子で肩を竦める。
「盗賊が住着いていただけあって、碌な使い方をしていないな。元通りに住めるようにしてやらないと気の毒かも知れんな」
 やはり依頼人と顔見知りのアイリスも気の毒に思ったのか提案を投げかける。
「ま、まだ時間もあります。み、皆さんでお家も掃除しましょう」
 そういうことで盗賊達には2人ほど見張りを立てて玄関先の血痕を水で流したり、屋敷中に盗賊達が食散らかした塵や放置されたワイン樽などを片付け始めた。
 依頼人達も屋敷に帰ると礼を言いながら屋敷の掃除に加わるが、すでに夜が迫っていたためとりあえず最低限食事ができる場所と眠る場所だけ確保する。強盗達は更に厳重に縛り上げて一室に放り込んだ上で徹夜に強いイェレミーアスが見張ることにした。
 翌朝、相談の結果、強盗達をさっさと役所に突出したほうがいいという事になり、半数は一足先に街に戻ることになる。主人は感謝の印にと約束より多目の謝礼を支払って一行を送り出した。チュリックとルーナは強盗たちを縛り上げているロープを回収するためにこちらに加わる。
 街に戻る一行を見送った後も暫く屋敷の片付けは続いたが、やや片付けも終わりに近付いた頃大牙が依頼人達に質問を投げかけた。
「あんた達は色々な国を渡り歩いて来たらしいんだが。『東雲』という言葉の意味を知らないか?」
 残念ながら依頼人達は単に旅行者と言うだけで夫々の国の言葉にまで堪能と言うわけではなかったが、代わってその話を聞きつけた蓮花が答える。
「『東雲』とは東の空が明るくなってくること、要するに夜明けのことですけどそれがどうかしたのですか?」
「いや‥‥俺は昔のことが思い出せなくてな。名前は手元の武道着に書いてあった『大牙』という言葉から、苗字は一番最初に頭に浮かんだ言葉からつけた。意味を聞けば何か思い出すかと思ってな‥」
 大牙が苦笑いを浮かべながら説明する。どうやら失われた記憶を探す旅はまだ始まったばかりのようだ。
 無事に屋敷を取戻し、ついでに後片付けまで手伝った一行は、依頼人達の感謝の声に送られながら帰途に着いたのであった。