【聖夜祭?】激論〜世紀末?のジーザス教

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月23日〜12月28日

リプレイ公開日:2004年12月30日

●オープニング

 年も押し詰まり聖夜祭を間近に控えたある日1人の老クレリックがギルドを訪れた。
「実は今年の聖夜祭を迎えるにあたって、冒険者として様々な活動に携わっている方々に集まっていただいて、各々の信仰にかける思い入れなどを語り合って欲しいと思うのじゃが」
 応対に出たギルドの職員は困惑したようにあいまいな笑みを浮かべる。
「え〜と、あの‥‥一応お祭りなんですけどね‥‥」
「うむ。とは言えクレリックにせよ神聖騎士にせよ信仰の道を選んだ者達じゃ。世間が祭り気分だからと言って浮かれておる者ばかりでもあるまいと思ってな。ましてや間もなく年が明ければ一千年の区切りの年を迎えることになる。ジーザス教の使徒としてもいっそう心して当らねばなるまいて」
 ギルド職員の困惑など、さして気に掛ける様子もなく淡々と説明を続ける。
「はぁ‥‥まあ、ともかく募集はしてみますけど、どちらの宗派とか指定はないんですか?」
「別に白とか黒とか区別することもあるまい、夫々に取るべき方法は違っても求める真理は一つじゃろうからな。各々の思うところを率直に披露してもらえればかまわんよ」
 笑いながらそう言うと、宿泊や食事は用意することや、自分は議論には参加せず静観しているので議長のような役目を選んだ方がいいかもしれないなどと告げて帰っていった。

●今回の参加者

 ea1770 パーナ・リシア(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea4582 ヴィーヴィル・アイゼン(25歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 ea9157 ヨシュア・クルシオ(35歳・♀・クレリック・人間・イスパニア王国)
 ea9159 アリエス・アレクシウス(36歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 一行が件の老クレリックの待つ教会にたどり着いたのは、聖夜祭前日のすっかり日も暮れた頃であった。折からちらつき始めた雪に加えて、数日前から各地で時折見られるようになった雪はこのあたりでもうっすらと積っており、交通の妨げとなり始めている。
「参加する人はこれだけみたいですね」
 玄関先でマントに降り積もった雪を丁寧に払い落としながら、パーナ・リシア(ea1770)がにこにこと一同を見回した。
「どうやらそのようだな」
 特にどうと言った感慨もない様子でアリエス・アレクシウス(ea9159)が応ずる。
 ゲルマン語で交わされた会話に怪訝な面持ちを見せるヨシュア・クルシオ(ea9157)に向って、事情を察したらしいパーナがさして億劫がる様子もなく改めてクレリックにとっての公用語とも言えるラテン語で説明すた。
『しかたありませんわね。やはり聖夜祭と言ってもお祭りですから、真剣な討論よりは楽しく過ごしたいという方のほうが多いのでしょう』
 ヨシュアもやはり笑顔で答える。
 ラテン語で交わされる会話に、以前の依頼で顔を合わせていたアリエスがスペイン語で問いかける。
『こちらの言葉は学んでいないようだが、不自由ではないのか?』
『そうですわね‥‥』
 そう訊ねられたヨシュアは、やはりスペイン語での答えを曖昧な微笑に紛れさせた。
 目まぐるしく言語を変えながら交わされる会話を黙って聞いていた他の2人にもそれらの内容は全て伝わっていた。ファイターであるエルフの青年はとりあえず現代語万能であったし、幼さが残る神聖騎士の少女は7ヶ国語に加えてシフール共通語も学んでいるらしい。
 会話を交わしながら入り口を入った一行を老クレリックが出迎えた。
「寒い中遠路はるばるご苦労さんじゃったな」
 笑顔で一同をねぎらう老クレリックに向ってアリエスが改まった様子で問いかけた。
「私は洗礼を受けていないので、発言は控えた方がいいのだろうか?」
「いやいや、かまわんよ。と言うよりも始めから参加者を信徒に限ったこと自体のほうが狭量であったようじゃ。外部からの意見に耳を傾けんようでは新たな発展は望めんからな。かえっていらぬ気を使わせてしまったようで申し訳ない」
 すまなそうに頭を下げながら更に続ける。
「世間では祝い事で浮かれる中、このような堅苦しい討議によく集まってくれた。今回はみなの意見を黙って聞いているつもりじゃったが、わしも話し合いに参加させてもらうことにしよう。粗餐じゃが夕餉の用意もできておる。今宵はゆっくりと休まれよ」
 そう言いながら一同を食堂へと促すのだった。

 一夜明けると聖夜祭の当日である。討議を前に集まった冒険者達も交えて聖夜祭の祈りがささげられた。
 討議が始まると真っ先に問いかけを発したのはアリエスであった。
「老師に問いたい。こうして思い入れを語っている最中にもこの外で寒さでひもじい思いをしている者達がいる。今、この場で話すことにどれだけの意義があるのだ? そしてどれだけの人が救えるのだ?
 この千年間はジーザスがおり、その弟子がおり、人々に教えを浸透させ広めるものであった。これから千年は今までと同じようにはいかない。だからこそこの記念すべき討議は口ではなく行いから始めるべきではないか?」
 やや激しくも取れる調子で一気に意見をぶつける。
「なるほど、『口よりも手を動かせ』と言うのは一面の真理ではあるな。じゃが祈りや語らいのために割く時間と言うものも全く無駄と言うことはないとわしは思っておる。むろん現実には神に仕えるもの達はみな行動を通して信仰を高めておる」
 穏やかに応える老クレリックに和すように、パーナもにこにこと言葉をついだ。
「そうですね‥‥困っておられる方のため僅かながらでも力になれるのであれば、お手伝いすべきではないかと私は思っております。また、母や祖母からもそのように教えを受けました」
 これに対してヨシュアは少し異なった考えを示した。
『「聖なる母」は慈愛を司っておられますが、無闇な慈愛は大きなお世話、過保護につながります。相手の望みに応じて必要な救済方法を選択することが大切だと思っております。
 そうして一人一人が救われ、積み重なることにより、多くを救えると思っています。教会側では常に全体を救おうと考えていらっしゃいますが、私は「全体」という架空の人格に話をするのは難しいと思います。ジーザスもおっしゃっております。隣人を愛せよ、と。隣人は私が知っている目の前の個人ですわ。民衆でも国民でもなんでもありません。たった一人の私の隣人』
「確かにそうじゃな。『聖なる母』は広く人々を救う道を説いてはいるが、ただ1人の隣人を愛せぬものがより大きな救いを行おうとしても無理があろう」
 老クレリックがそう話を引き取ると、ヨシュアが更に続ける。
『人それぞれに神より運命を与えられています。同じ人間がいないように、答えもそれぞれ違うもの。私はそのように受け止め、日々の救済を行っています。
 ですが、相手の人格を読もうと必死になれば、心の扉を閉ざされてしまいますわ。というわけで、ちゃらんぽらんで、来る者拒まず、いつでも笑顔がウリの滑稽な僧侶を演じさせて頂いておりますの』
 言葉にたがわず満面の笑みを浮かべる。
 とは言えヨシュアの発言はとりあえず全てラテン語でなされているため、アリエス向けには全てゲルマン語に翻訳されている分、多少の時間的なギャップが生じている。
 静かに微笑をたたえながら意見を聞いていたパーナも改めて口を開く。
「私が母や祖母から常々言われてきたのは、『生きとし生けるものはその考え方こそ違えども、他者より親切にされたことを忘れはしないものなのですよ。それがまた、次へと繋がってゆくのです』とのことです。その言葉は、修行のためノルマン王国に渡り、冒険者として働くようになってから、強く実感するようになりました」
 にこにことそう言った後で慌てて付け加える。
「あっ、申し送れましたが母も祖母も代々白の教会に仕えるクレリックなんです」
 他の2人はに押し黙ったままだったが、アリエスもある程度の答えを得たのか口調を緩めた。
「多少言葉がきつかったかも知れんが‥ただのお祭りとしてこの討議を済ませたくないと思うので、決意のほどを窺うためにあえてこのような問いかけをさせてもらった。ジーザス教が今まで貢献してきたことを顧みれば言わずとも分かることは多いのだが、それを一人一人再認識してもらいたかったのでな」
 その後昼食も挟んで討議は夕方まで続けられ、参加した一同は新たな行動を起こすべく、翌朝老クレリックに別れを告げて思い思いの方角へと旅立っていった。