道を指し示すもの
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■ショートシナリオ
担当:呼夢
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月25日〜04月30日
リプレイ公開日:2005年05月03日
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●オープニング
ようやく岸辺へとたどり着いたシフールの若者は連れの顔を覗き込んだ。
「ミール‥‥ミール・ミィ‥‥」
呼びかける言葉に応えはない。かつて旅の先々で楽器に合わせて歌い踊っていた快活な少女は、虚ろな瞳をまっすぐに若者に向けていた。
様子がおかしいことに気付くと同時に大急ぎで後にしてきたあの場所で何があったと言うのか。彼女が一人になったのはほんの僅かの時間だったはずだ。見つけた時にもあたりに怪しい気配は感じられなかった。感情を失ったかのような彼女と間近に向き合うまでは異変が起きたことにすら気付かずにいたというのに‥‥。
あの時、必死で呼びかける彼を虚ろな瞳で正面に見据えながら、彼女がかすかな声で途切れがちに呟いた言葉。途中で彼女が気を失ってしまったため、ほとんど聞き取ることができなかったのだが。
「‥‥達とドラゴンの‥‥契約‥‥。‥‥伝えるために‥‥この地へ‥‥」
ドラゴン‥昨年の暮れ近くに始まったドレスタットのドラゴン騒動は彼も耳にしていた。ドラゴン達が何かを探しているらしいことも。
「ドレスタット‥か」
行ってみるしかないのかもしれない。かの地を統べるのはゼーラント辺境伯で『赤毛のエイリーク』の二つ名を持つ海賊上がりの男と聞く。距離的には数日といったところなのだが途中は必ずしも安全な土地ばかりではないし、ましてや今のミールの状態を考えるとすんなり旅ができるとも思えない。それでも今の状況に対して何らかの手立てがあるとすれば彼を頼ることしかないだろう。知る限りの情報を提供し、今回のドラゴン騒動をなんとか解決してもらう。それでミールが元に戻るという保障はなかったが今は賭けてみるしかない。
もう一度顔を覗き込むと、一瞬躊躇した後彼女をその場に座らせたまま垂直に上昇する。周囲を見回して目的のもの――手近な集落――を見つけ再び彼女の隣に降り立つと手を取って立ち上がらせた。
「ともかく今夜の宿を探して少し休まないとな」
誰に語りかけるでもなくそう呟くと、疲れきった体を再び空へと運ぶ。寄り添うように飛んでいく二人の周囲には夕暮れが迫り始めていた。
二人連れのシフールがドレスタットを目指してから二週間ほどたったある日、エイリークの元に奇妙な手紙が届けられた。
口頭で伝えた内容を誰かに代筆させたと思われるその文面によれば、スィエル・フィスと名乗るこの差出人はドラゴン達の一連の襲撃に関係すると思われる情報を持っているという。さらにドレスタットを目前にして何ものかに狙われているらしく、原因は町中で披露した以下のような詞が件の連中の耳に入ったためだろうとの推測も記されてあった。
『最後の戦いが告げられる時
呼びかけに応えるもの達
大地を揺り動かし、大気を凍てつかせる
全てを灰にし、嵐を呼び寄せる
中天に係り、夜を蒼く照らして、心を惑わす
全ての力は命ずるままに』
「この判じ物みたいなのはいったいなんなんだ?」
読み終えた手紙を傍らの部下に渡しながら眉を顰める。どちらかといえば荒事の方が得意な男だけにこういう思わせぶりな内容は端から好まない。それにエイリークがドラゴン関係の情報を集めているという話が広まるにつれ、情報を売りたいといってくる者の中には少なからず金目当ての怪しげな連中が増えてきていることも事実だ。
「まあいい。とりあえずこの判じ物を調べさせた上で、結果が今まで集めた情報と食い違ってないようならそいつらを館に案内させろ」
それだけ命じるとまた別の報告に目を通し始めた。
●リプレイ本文
応対に出たエイリークの部下は困惑の表情を隠せないようだった。手紙に書かれた内容の信憑性について報告を聞こうとしたのだが、依頼したはずの冒険者のうち現れたのは白銀麗(ea8147)一人である。その白にしても手紙の現物を受け取るとそれを持って仲間の元へ向ってしまう。残ったのは報告書の作成を依頼されたライト・オレンジ(ea4023)の友人2人だけである。
(やれやれ‥親分になんて報告すりゃいいんだ‥)
溜息をつきながら報告書に目を通し始めるのであった。
話はギルドの作戦室まで遡る。問題の詞を解釈する先頭に立ったのは既にドラゴンと接触したこともある白だった。これまでの調査と150年を越す人生経験に基いた見解に異論を挟むものもなく、ライトの友人でゲルマン語に造詣の深いヴェガに報告書の作成を依頼する。
報告の内容は以下のようなものであった。
「詩は『地水火風月の精霊力に呼びかける何か』を指していると考えられます。
これは、鍾乳洞奥の祭壇に向かった依頼で発見された、剣と角笛(のような物)を持った人間が竜と精霊に対している壁画に符合します。竜も精霊も、地水火風陽月の精霊力を属性として持っていますし、竜や精霊に呼びかける手段としては角笛の音は適しているように思います。
また、最期の戦いを告げる角笛という伝説もあるらしいですから。
ドラゴンの宝とは、竜や精霊と契約を交わす力を持つ、陽の精霊力を持つ竜の角で作った角笛、などではないかと私は推測しています」
と述べた上でエイリークに対して早期に情報提供者の保護を求めていた。
報告書を纏める一方で他の面々は既に出立の仕度を始めている。
ドラゴンに会うためわざわざイギリスから渡ってきたというユスティーナ・シェイキィ(eb1380)も色々と事件のことを調べていたようだが、ようやく自分も事件に関わるという期待感にうっとりと呟く。
「ドラゴンの探している約束の物‥‥角笛のような物‥‥って、北の伝承でなんて言ったんだっけ‥‥」
「さて? でもどうせならグラムとか欲しいよな。あるなら手に入れてみたいもんだ‥強大な魔剣、力って奴を」
通りすがりに耳にしたリュリス・アルフェイン(ea5640)もニヤリと笑いながら混ぜ返す。
最近冒険者になったばかりのシンクローザ・ラディエル(eb2083)は、旅支度をしながら一人ぶつぶつとなにやら呟いている。
「せっかく馬があるのですから全財産を担いで歩かなくともいいのではないですか?」
一向に動こうとしないバックパックと格闘しているパミット・ページ(eb0167)に笑いながら手を貸したのはデルスウ・コユコン(eb1758)だった。相談中も酒を手放さずにいた為か幾分顔が赤い。
「‥陽属性のドラゴンと聞いて、昔フランクに現れたコロナドラゴンの話を思い出しました。その『何か』が、竜と言う種族全てに大切なものなら‥‥余りぐずぐずしている時間は、無いのかもしれませんね‥」
ブラン・アルドリアミ(eb1729)は不安気に呟くと自分も含め何名かで先行することを提案する。これを受けて馬を所持するテスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)、セブンリーグブーツを装備したリュリスとフォーレ・ネーヴ(eb2093) の4名が先行することが決った。
何れにせよ目的地の確認は必要なので、白だけは一旦領主館に立ち寄り、ほかの面々はそのまま北を目指しながら白の合流を待つことになったのである。
ミミクリーを使用して鷹に変化した白が一行に追い付くと、手紙を受け取った先行隊が速度を速める。
徒歩の冒険者がほぼ1日に移動する距離を2時間ほどで踏破すると、目的の町に到着した一行は直ちに手紙にあった宿へと直行した。4人が宿に入って来たのを見ると、受付にいた男が眉を顰める。多くの客を扱ってきた経験で、その内2人がハーフエルフであることを見て取ったらしい。男の表情に気付かなかったブランがスィエル達のことを尋ねると語気も荒く応える。
「なんだい、あんたらあの2人連れのシフールの知合いかい? そんならあいつらの宿代を払ってくれよ。
いきなり武器を持った男共が尋ねてきたと思ったらあの連中いつの間にか消えちまいやがって、その男達はこっちが隠し立てしてるんじゃないかと言って剣を振り回すし、いい迷惑だぜ」
相手の剣幕に押し黙ってしまったブランに代ってリュリスが進み出た。
「ほー、この宿じゃ客の部屋に追剥みてーなのを案内しといて、逃げたのが悪いと因縁をつけるのか?」
皮肉な笑いを浮かべながら他の客にも聞こえるように大声を上げると、人間相手なこともあり急に態度が変る。
「いえ旦那そういうわけじゃないんですけどね‥」
「だったらどーいうわけだ? ‥まあいい、どうやら話の様子だと捕まっちまった訳じゃねー様だな。ともかくその2人のいた部屋に案内してもらおうか」
宿の主人は襲ってきた賊の様子などを問質されながら一行を2階に連れて行くと一角にある部屋を指し示す。今の所部屋は空いたままだと告げると、部屋の中を調べ始めた一同を残して逃げるように引き上げてしまった。
「荷物なんかは残ってないみたいですね」
部屋を調べながらブランが誰にともなく呟く。テスタメントが試みにデティクトライフフォースを発動させたが、宿の中などに人間大の動きはいくつも感じられるものの、2人のシフールらしい存在は感じられなかった。
周りの様子を調べようと部屋から出たフォーレは、視界の片隅に動くものを認めて階段の方へと視線を走らせる。部屋の方を覗っていたらしい人影が慌てて駆け下りて行くのに気付くと、部屋の中に一声かけて急いで後を追う。表に飛び出したときには既に怪しい人影は姿をくらましていた。
続いて飛び出してきた仲間達に事情を説明する。
「どーやらそいつらもまだここいらを見張ってるみてーだな。どうせ後から来る連中と落ち合うんならここに腰を据えるか」
宿の中に戻ると、すっかり大人しくなってしまった宿の主人と交渉して、問題の部屋と幸いにも空いていた両隣の部屋を確保した。
その後、部屋の見張りを残しながら、唯一隠れている状態の2人を探り当てられる可能性のあるテスタメントをメインに、夕方まで宿の周辺を捜索したが成果は上げられなかった。その夜遅く後続班が宿に到着すると、手短に状況を説明した後交代の見張りを立てながら休むことにする。
翌朝から本格的な捜索が始まった。天気に恵まれたこともあって、パミットは日向に出て行くとサンワードのスクロールを広げる。運良くそれらしい情報が手に入ると場所を移動して再びそれを繰り返す。パミットから説明を聞いたライトも荷物の奥に詰め込んでおいた同じスクロールをなんとか掘り出して来て、使えるユスティーナに手渡した。
初級のサンワードで得られる情報は大まかな距離だけなのだが、場所を変えながら距離の変化を読み取っていくことで方角も距離も絞り込むことはできる。距離の情報が適当な分は数で補うしかないのが難点ではあるだが。
探すべき範囲がある程度絞り込まれると今度は、ミミクリーで変化した白が鷹になって飛び立っていく。やがて予想とさほど違わぬあたりで、教会の鐘楼に隠れているそれらしい2人連れを見ると仲間たちの元へと引き返した。一人で接触しても白に2人を守るだけの力はない。
白の報告を受け一行は再び二手に分かれてその場を目指す。先日の先行班がまず出発し、護衛班側も直ちに後を追う。
教会に到着すると、司教に訳を話して許可をもらい一番身が軽く警戒心を起こさせにくそうなフォーレが一人で鐘楼に登ることになった。はしごの上にたどり着くと開口部から広げた手紙だけを突き出して穏やかに呼びかける。
「あの〜スィエルさん達ですよね。この手紙見覚えあるでしょう?」
続いて屈託のない笑顔が開口部から現れるとようやく警戒を解いたらしく近付いて手紙を確かめる。
「確かに‥‥俺がドレスタットの領主に当てたものだが」
「私たちギルドの依頼で迎えに来たんだよ。下で仲間が待ってるんだ。一緒に来てくれるかな?」
スィエルは頷くとミールの手を取ってはしごを降りていくフォーレについて鐘楼を降り始め、やがて下に残った3人とも顔を合わせた。テスタメントは無言のまま会釈し、リュリスもにやりと笑いながら頷いてみせる。ブランも笑顔で2人を出迎えた。
「もう心配ないですよ‥‥これでも、俺も一応騎士ですからね」
スィエル達も挨拶を返す中、後続の組も追い付いてくる。揃って宿へ向かおうとしたとき頭上から甲高い鳴き声が響いた。見上げると上空から警戒していた白が何かを見つけたらしい。あたりを見回していたリュリスは、仲間の方から黒い光が発せられるのを見て問いかける。
「連中何人ぐらいいいるんだ?」
「6人‥いや7人はいるか、宿で聞いた話より多いな」
テスタメントが応えると近くの木立に向かって歩きながら声をかけた。
「おーい、隠れてたってこっちにゃ全部お見通しなんだがなー」
その声に呼応するように剣を構えた男達が木立の茂みから姿を現す。襲撃者達の前で立ち止まると、右手に日本刀左手に鞭を構えてからかうように言い放つ。
「女神の首はやんねーぜ。代わりに縄をくれてやるよ!」
気色ばむ男達を前に、襲撃者と対峙したテスタメントもローブの陰で最近手にいれたばかりの日本刀の鯉口を切ると腰溜めに構える。ブランとフォーレも夫々ライトソードとナイフを手にして2人の後方につく。
じりじりと間合いを詰めていたテスタメントは相手が一斉に切りかかったとたん、身を低くして自分に向かってきた剣をかわすと相手の足元にブラインドアタックを叩き込む。悲鳴を上げて地面に転がった男の鳩尾にブーツの先を深々とめり込ませながら新たな相手に向う。
「‥さぁ、次はどいつだ」
一方リュリスも敵の攻撃をかわすとダブルアタックを使って背後から鞭を振り下ろし、相手の足を絡め取ると同時に日本刀で足元に切りつける。立てなくなった相手は同様に気絶させておく。
2人の脇をすり抜けた男の一人が与し易しと見たのかブランに襲い掛かる。振り下ろしてくる剣をガードを使用して鎧で受け止めると、そのままカウンターアタックを見舞う。
前衛をすり抜けた男達はが護衛班に迫る。と、一人の男が悲鳴を上げた。パミットの作ったライトニングトラップに足を踏み入れたのだ。痺れた様に立ち尽くす男に追討ちをかけるようにユスティーナの放ったグラビティーキャノンが弾き飛ばす。
残った男達の前にはデルスウとライトが立塞った。
「この者達を失う訳には行かないんだよ、邪魔するなら薙ぎ払うのみ」
緋村からは無理をするなといわれてきたがそうも行くまい。
後方にはシンクローザが鞭を扱いている。反応の鈍くなっているミールは、ライトが出掛けに預かってきた篭に寝かされ、ユスティーナの左腕に抱えられている。
デルスウとライトもさして苦戦することもなく、留めはほとんど同時に放たれたスマッシュであった。戦いが終ると倒れている敵を手分けして縛り上げ、自殺されないように猿轡を嵌める。
「ここで死ぬのと領主の拷問でくびり殺されるのとどちらが良い? 助かる見込みがあるのは『今、此処でだけ』だぞ。知ってる事を話せ」
デルスウの脅しにも猿轡をされていては唯呻き声が返ってくるだけである。衣装を身につけ人の姿に戻った白が近付いてくる。リードシンキングを発動させると捕虜の尋問にかかる。
「あなた達は何者です? あなた達の組織の目的は? あなた達のリーダーは? あなた達は何を狙っているのですか?」
同じ質問を全員に聞いていく。精神から直接聞き出すので猿轡も全く障害にならない。だが、結果は思わしいものではなかった。全員がここ1〜2週間ほどの間に金で雇われただけらしいのだ。しかも雇い主に会っているのは捕まえた男達の中のリーダー格の男だけだと言う。念のため確認したところでは紫のローブは身に着けていなかったようである。
ほぼ全員が歩けない状態の捕虜達は、後から領主に引取りに来てもらうということで地元の役人に預かってもらって宿へ引き上げることにした。
宿への道、スィエルは篭の中で眠っているミールに寄り添うように飛んでいた。ライトが近付いて励ますように声をかける。
「いまは治ると信じる事だ、思いは力となる」
それはかつてライト自身がこの篭の送り主であるアルルから言われた言葉でもあった。
リュリスも近付いてきて声をかける。
「魔力が原因か‥気になるが、とりあえず赤毛館の部屋借りた方がいいな。最近の敵はしつこいし。安全な場所で旅の疲れを癒さねーとな。それにしても‥ミール・ミィ、ねえ。ミーミルだっけか女神の名前。どーにも‥」
「女神とは違うな‥mielは、蜂蜜と言う程度の意味だ」
スィエルの呟きに篭を抱えていたイギリス生まれのユスティーナがおかしそうに問い返す。
「蜂蜜‥‥それじゃミール・ミィってイギリス語にするとMy Honey なの?」
無言で頷くスィエルの頬が幾分赤くなっているのは気のせいでもないようだ。その夜は件の宿で1泊し、翌朝領主間へ向けて出発することとなった。
館に戻った一行に対して今度はエイリーク本人が会う気になったらしい。ここまでの経緯に加えて帰り道にスィエルから聞き出した内容、手紙の一部『中天』は代書人が『昼天』を聞き違えたものであることや、彼らのやってきた北の洋上に今回の一連の事件の秘密が隠されているのではないかとの推測も付け加えた。
黙って報告を聞いていたエイリークが口を開く。
「受け取った報告書の内容も今日の報告のほうも俺が今まで似うけた報告と齟齬はねぇようだな。2人の身柄は俺が預かる。まあしばらくはこの館でのんびりしな」
シフール達に向かってそう言うと、冒険者たちに向き直った。
「どうやらこっちの段取りが悪かったせいで色々と余計な手間をかけさせちまったようだな。改めて礼を言うぜ。礼金のほうにも少しばかり色をつけさせてもらうし、旅先でかかった費用もこいつに纏めて請求しといてくれ」
傍らの部下を振り向きながらそれだけ言うと椅子から立ち上がって部屋を出て行く。
「北か‥‥また忙しくなりそうだな。この間向けた連中は‥‥」
そんな呟きが聞こえてきていた。