【ドラゴン襲来】〜北へ〜 邂逅

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月17日〜05月23日

リプレイ公開日:2005年05月25日

●オープニング

 何人かの部下と共にシフールの青年と向き合っていたエイリークは徐に口を開いた。
「要はその北の遺跡って所にドラゴン騒ぎの鍵があるって言うんだな」
 青年は無言で頷いた。冒険者達の手によって救出されて以来、この館で長旅の疲れを癒していた2人連れの一方である。
 連れの少女は与えられた居室で休んでいた。起きている時も相変らずぼんやりと微笑んだまま遠くを見ているような状態は変っていない。目の前に食べ物を置いて促せば食事もとるので餓死する心配だけは無いようなのだが、かと言って連れの青年としてはこのままにしておくわけにはいかなかった。
 彼がその場所でかろうじて聞き取ることができた言葉や、冒険者達が解釈した詞の内容からするとドラゴン達は精霊達との契約の宝――全ての精霊達に何らかの力を及ぼす角笛のようなもの――を探し回っているらしい。そしてその陰に見え隠れする紫のローブの男‥‥
「ロキ・ウートガルズか! ご大層な名前だが」
 エイリークは別の報告書を取り上げて吐き捨てるように呟く。詞の解釈通りなら、いや多少割り引いたとしても物騒な力だ。それだけのものを手に入れたのなら早々に仕掛けてきてもおかしくはない。そうできないのは向うにもそれなりの事情ってやつがあるのだろう。
「で、そのアイセル湖の中にあるって言う遺跡にもう一度行ってみれば、今回の件を解決する手掛りがつかめて、ミール嬢も元に戻せるだろうって訳か」
 再び青年が頷く。エイリークが傍らの部下に視線を向けると、1人がテーブルの上に手早く地図を広げる。
「冒険者の足ならアイセル湖までは片道4日ってえとこですが‥‥」
 地図を指し示しながら言葉を濁す。アイセル湖の周辺はエイリークの直轄ではない。辺境伯の名が示す通り、先に進めばノルマン王国の国威さえ通用しない地に踏み込むことになる。どこの国にも属さない都市国家や部族社会が点在し、ジーザス教さえ行き渡らず精霊信仰を奉じる者も少なくない。
「この上悶着の種は願い下げってところか。なら海から行くか」
 エイリークが部下の懸念を察して応じると別の部下が答える。
「船なら2日ほどでアイセル湖に到着しますわ。いずれにしても湖の中で島を探すのでしたら船なしでは話になりませんし」
「ところで道案内はできるのか?」
 部下の話に頷きながら青年に向き直る。
「大体のところは‥‥」
 硬い表情のまま説明を続ける。フィス自身には航海術の心得がないので正確に場所を示すことはできなかった。目印もない海上で行きも帰りも漂流同然の状況だったことも影響している。だが、目的の場所に近付けばミールが何らかの反応を示すはずだと言うのだ。
「なんだか頼りないわね」
 フィスの説明に懐疑的な部下を制してエイリークが指示を出す。
「ともかくこの騒ぎをほっとくわけにもいかん。冒険者の手配と船の用意だ。2隻出せ。その間冒険者が連れてきた馬なんかは館の厩で世話をしてやれ」

 こうして国外遠征のための冒険者が募集されることになった。

●今回の参加者

 ea5779 エリア・スチール(19歳・♀・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea8216 シルフィーナ・ベルンシュタイン(27歳・♀・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 eb1118 キルト・マーガッヅ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb1133 ウェンディ・ナイツ(21歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1380 ユスティーナ・シェイキィ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

タケシ・ダイワ(eb0607

●リプレイ本文

 桟橋で乗船する船の船長に紹介されると早速テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)は飼犬の同行が可能か確認を取っていた。犬の本能が探索の役に立つかもしれないという説明はすんなりと受け入れられる。
 スィエル達も現れ、先日の救助の礼を述べているところに明るい声が響く。
「ハロ〜スィエルさん。また会ったね。あたしのこと覚えてる?忘れたなんて言ったらブッ飛ばす‥ウソよ、冗談」
 ニコニコと物騒なことを口走りながら近付いてきたのはユスティーナ・シェイキィ(eb1380)だ。ドラゴンに逢うためにイギリスから渡って来て以来テスタメントとも交流が深い。スィエル達の救出の際にも同行していて共に面識があった。
「ミールさんの具合はどう?」
 心配そうに訊ねるユスティーナに最近の様子を説明する。口にこそ出さないがテスタメントもミールの様子は気に掛けているようだ。
 ミールとは初対面のレオパルド・ブリツィ(ea7890)も心配そうに様子を覗き込む。救出劇での謎解きに力のあった白銀麗(ea8147)らと共にドラゴン襲撃の周辺を調査してる少年だ。
 僚船に出航の準備が整ったことを知らせるため、伝令を頼まれたスィエルが飛び去る。僚船には戦士系の冒険者が集まり戦闘の際の盾になってくれる手筈ではあるが、こちらは弱冠15歳のレオパルドを除けば全員女性だ。テスタメントは万が一の場合は自らの身を盾にしてでもと気を引き締める。そんな様子を知ってか知らずかユスティーナが暢気に声をかける。
「犬飼ったんだね。名前は付けたの?」
「モルゲンレーテという」
「ふ〜ん、モルちゃんか〜。よろしくね〜」
 そう言いながらしゃがみこんで頭をなでる様子には緊張感は伺えなかった。

 伝令が戻ってくると間もなく2隻の船は順次桟橋を離れていく。やがて河口から北海へと乗り出していった。
「これからの為にも遺跡への道筋等の情報が得られれば良いのですが‥何か見つかるでしょうか‥?
 アイセル湖の遺跡に関するギルドの最新の報告書を見たところ、どうやら私達が向かう件の島にはジ・アースを支える世界樹があるらしいですね」
 舳に集まった冒険者達に中でそう言いだしたのはウェンディ・ナイツ(eb1133)であった。船内での無用のトラブルを避ける為ローブのフードで耳を隠している。冒険者の中ではほとんど気に掛けるものもないハーフエルフという出自も、ほかの船員達にとってはそうもいかない。テスタメントのように振舞うためにはよほど強靭な精神が必要になる。
「世界樹の葉には、どのような効能があるのでしょうかしら‥薬草師としての血が騒ぎますわ‥」
 即座にそれに応えたのはキルト・マーガッヅ(eb1118)だ。うっすらと瞳を輝かせながら言葉を続ける。
「世界中のありとあらゆる植物について、その効能や毒性等についてを調べて回るのが私の夢なのですもの。‥世界樹、何て夢のまた夢だと思っていましたのに‥もしそこへとたどり着く情報が得られたなら‥さらには、そこまで辿りつけたなら‥それ以上の幸せってないと思いますわ」
 すっかり自分の世界に浸って、ほぅ、と溜息をつく。遺跡は二の次らしい様子に戸惑いながらウェンディも応える。
「それが本当にそのような物なのかは解りませんが、かなり大きな木がある島‥ということは確かでしょう。
まずはその情報を頼りに島を捜索しましょう」
 ミールの世話を買って出ていたユスティーナがふと思いついたように問いかける。
「そう言えばスィエルさんは遺跡に入ったことあるのよね? 何で? 何しに入ったの?」
 矢継ぎ早の質問に対する答えによれば、乗っていた船が海賊に襲われた為にたまたま漂着しただけらしい。遺跡の中に入った訳でもなく、海岸沿いを調べている間にミールがいなくなり、遺跡を取り巻く城壁の門と思われる場所で今の状態になっているのを発見してそのまま脱出したということだ。
「そうですか‥なかなか難しそうですね。視力には多少自信がありますので、どこまで見つけられるかは解りませんがアイセル湖に入ったら目視でもある程度探してみましょうか」
 聞いていたウェンディがそう応ずると、やはり視力に自信があるというエリア・スチール(ea5779)や、2人ほどではないが視力に自信のある面々も協力を申し出る。
 ドラゴンによる襲撃事件にはあまり関っていないため黙って仲間達の話を聞いていたシルフィーナ・ベルンシュタイン(ea8216)もその中にいた。事件のことにあまり詳しくないシルフィーナの耳にも『契約の品』のことは届いていた。そのせいで、ドレスタッドが襲われたらしいということも。

 出航から2日目の夕刻、2隻の船はアイセル湖へと乗り入れていた。湖といっても実際には湾の入り口を塞ぐようにしていくつかの島がほぼ直線状に並んだ内海である。波はかなり穏やかだ。
 スィエルを通して僚船と打ち合わせた結果、互いが見える程度の距離を保って併走しながら湖の中心を目指すことに決った。その夜は小さな岩礁近辺の浅瀬に錨を下ろして休むことにする。
 エリアとレオパルドは遺跡に近付いたことでミールが何か反応するのではないかと期待していたが、今のところそれらしき兆候は見られなかった。

 翌朝は日の出と共に錨を上げて探索を開始したが、なかなか目印の木は見つけることができない。陽が大分西に傾き2隻が合流しようとする頃、前方から1隻の船が近付いてくるのが見えた。
 暫くすると先に接近した僚船が奇妙な動きを見せ始める。僚船に火の手が上がり、こちらに向おうとする正体不明の船に対してその進路を遮ろうとする。船長は舵を大きく切ってその場から離れ始めた。こちらには2人のシフールをを戦闘に巻き込むわけにはいかないという事情がある。
 陽の落ちるのも手伝って戦いを続ける僚船の姿は間もなく見えなくなった。

 やがて満月から3日ほどしか経っていない月は洋上を明るく照らす。船員共々僚船の安否を気遣う中、ふと月を見上げたエリアが驚きの叫びを上げた。声に応じて夜空を見上げた一行が目にしたものは月の影を横切る一頭のドラゴンである。月の光を弾くかのようにきらきらと煌きながら降りていく先にはどうやら島影らしきものが見えていた。
「ドラゴン‥‥もっとも偉大な生物にしてもっとも強き生物‥‥ですよね。あたしみたいな一介の騎士が逢えるようなものじゃないですよね‥‥本来は」
 感極まったかのように呟くシルフィーナの横で、ユスティーナも興奮を隠せないでいた。すぐに後を追って島に向うことを提案する。船員達は躊躇したが冒険者達の意向には従うことになった。
 冒険者達の中で多少なりともモンスター全般についての知識があるのは白だけであったが、さすがにドラゴンの区別は手に余るようである。それでもすでに一度ドラゴンと話したことのある白としては、この出会いが何らかの意味を持つように思えてならない。結局一人の反対もなく全員で島に上陸することに決定する。
 島に向う間バックパックの中を探っていたユスティーナががっかりしたような声を上げた。ランタンを使おうとして、火打石は見つかったのだが油を買い忘れていたらしい。船員に油を分けてもらい何とかランタンの明かりを灯す。
 程なく船は島の近くの浅瀬に錨を下ろす。ボートを漕げる者がいないため、船員達に往復してもらって全員が岸へと上がった。ミールは救出された時に使った篭に収まり、ユスティーナの腕に抱えられていたし、スィエルもそばに付き添っている。
 見たところさほど大きくないこの島には世界樹はおろかまともな木はほとんど生えていないようだった。敵や邪魔をする輩はいるとも思えなかったが、シルフィーナは丸めた鞭を右手に警戒は怠らない。しんがりを勤めるテスタメントも、耳を澄ましてで常に周囲を警戒している。
 慎重に進んでいくとやがて巨大な岩の上に羽を休めるドラゴンの姿が見えてきた。以前白達がドラゴンと話した時はテレパシーによる通訳がいたが、今回の一行の中には一人もいない。どのように接触を試みるのが最善かを考えていると、突然全員の頭の中に低い声が響き渡った。
『小さき者共よ。珍しいところで見るものだな』
 明らかにテレパシーによる会話だ。月の精霊魔法‥6mほどもある巨体を金色の鱗が覆い、月の光のように輝いている。ムーンドラゴンは静かに一行の方を見下ろしていた。
「私達は『契約の品』の手掛りを求めにやってきたのです。決して敵ではありません」
 進み出た白の言葉に対する返答は必ずしも友好的なものとはいえなかった。
『「それ」はヒトによって彼の地から持ち去られた。探しに出かけたタイニー達のうち決して少なくない者がヒトの手で命を奪われた』
「人間は一枚岩ではない。そちらの話を聞く人間も多いし、少なくとも私達冒険者は対話する気がある」
 テスタメントも説得を試みる。レオパルドも緊張した面持ちで進み出た。
「僕や、僕の友人知人は『契約の品』をあなた達に返す為の活動を続けてきました」
 そう言うとこれまでに行ってきた活動を説明する。謎の書簡の復元による宝の手掛りの調査、人自身や人に協力するドラゴンによる宝の判定の試み、宝を持ち去った元凶である紫のローブの男「ロキ・ウートガルズ」についての捜索のこと等を。
 終始無言で聞いていたドラゴンが再び沈黙を破る。
『お前達が悪意を持たぬことは解った‥‥私に何を望むのだ』
 白が進み出ると気にかかっている幾つかの疑問を投げかけた。
「いくつかお尋ねしたいことがあるのですが、契約の品の持つ力とはいったいどのようなものなのでしょう?」
『それはヒトが知るべきことではない。力の存在を知ればヒトはそれを使うことを欲する生き物だからな‥‥だが「彼等」の影響下にあるその少女が伝えたことをお前は既に理解しているのではないかな』
 反論の余地を残さない厳しい拒絶ではある。だが、後に続く言葉は冒険者達が詞から導き出した推測がそれほど的を外れていないと考えて良いのかもしれない。テレパシーであれば口にした以上の内容が伝わっていると思って間違いないだろう。考え込みながらも次の質問を口にする。
「契約の品の持つ力を発動させる方法、条件はあるのでしょうか?」
『‥‥仮に知っていたとして、ヒトに教えられると思うのか? 宝を持ち去った者が使わぬ理由はおそらく別のところにある‥おそらくはタイニー達が宝を見つけられぬ理由もな‥力の気配が薄れているのだ。力が分散していると言ってもいいのかも知れぬが‥』
 尤もな話ではあるが、実際のところ知らないというのが本当のところだろう。人里を襲ったドラゴンたちに比べて高位とはいえドラゴン達の頂点からは遠いのも事実である。
「『契約』についても教えては頂けませんか?」
『無論だ‥それは全てのドラゴンにとって重要な意味を持つ』
 どうやら『契約』や『力』に関する情報はドラゴン達にとって禁忌に属するものらしい。信用云々とは別次元のようだ。不興を買わぬように最後の質問をしてみる。
「私達は『契約の品』持ち去った男を倒し、それをあなた達に返したいと思っています。そのためには少しでも手掛りをが必要なのですがそれを見た事はありますか?」
『ない‥‥私自身わずか千年ほどの齢を経たに過ぎない。契約は更に遥かな時代のものだ』
 考えこんだ白に替ってキルトが質問する。
「ところで遺跡へとたどり着く道筋とか方法って教えてもらえるかしら?」
『なるほど。世界樹か‥‥ヒトの言伝えとは面白いものだな』
 不思議な波動が一同の中に響く。不快なものでないということはドラゴンにとって『笑い』に似た感情の波なのかもしれない。それが遺跡よりも世界樹に強い興味を示すキルトの『思い』に対する反応なのか、それとも別のことを意味するのかは判らなかった。
『難しいな。知っていることと教えることができるかどうかは別だ。お前は水の中に棲む魚に地上の町の場所を説明できるか。我々は遥かな上空から目的の場所を探し出すことができるが、それはヒトの言う本能に近いものだ。強いて言えば大きな大地から最も離れたところとでも言えばよいかな』
 実際のところ今の航海術では陸の見えない状態で船の正確な現在位置を割り出すことはできない。可能なのは北極星を頼りに船の進む方向を決めることで、船の速度にしても航跡の様子を見て推測する程度である。
 ドラゴンとのやり取りはエリアがまとめて細かく記録をとっていた。
 真剣な情報収集が行われる中、少しく別の考えに浸っているものもいる。
(銀色のドラゴン‥わ〜本物だ。触ってみたいな〜。もしかして宝の番人? ずっとここに住んでるのかな?)
 さすがに声にこそ出していなかったがドラゴンには伝わっていたらしい。
『それは遠慮して欲しいものだな‥ここにはたまたま羽を休めるために下りたに過ぎぬ』
 突然の『哄笑』と共に話題を転じられて思わずギクッとする。上位のドラゴンとの話合いに極度に気を使っていたレオパルドなどはなにか非礼でもあったのかとまじまじと見つめるが、全く悪びれる様子もなくユスティーナが口を開く。
「あたしは契約とか何とか難しい事はわかんない。でもね、竜族とヒト族が「同じ温かい夢」を見られたらいいなと思うの。同じヒトでも「違う冷たい夢」を見る連中もいる…紫のローブの男みたいにね。‥‥う〜ん、言ってる意味分かるかな?」
『我々がヒトと交わることはほとんどない。タイニーの中にはヒトに使役されるものもいるようだが「同じ温かい夢」を見ているわけでもなかろう。ヒト同士は常に交わりの中に生きているものなのだろうがな』
 やはりドラゴンは孤高の生き物なのだろうか。溜息を一つつくと話題を変えた。
「‥ところでミールさんを治す方法知ってます?」
『その少女の心は「彼等」の支配下にある。問題が片付くか「彼等」が干渉を止めれば元に戻るだろう』
 それだけ言うとドラゴンは静かに目を閉じる。
 一同も夫々の思いを胸に船へと戻っていった。

 翌朝日の出と共に島を離れた一行は僚船と合流すべく舵を取った。去り際にもう一度島を眺めたが、既に夜のうちに飛び立ってしまったのか、ドラゴンの姿を見つけることはできなかった。
 半日ほどの後無事に僚船と落ち合った一行は、揃ってドレスタットを目指すことになる。