〜人形遣い〜 道化師の剣

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月25日〜05月30日

リプレイ公開日:2005年06月02日

●オープニング

 机の上に置かれた1通の報告書に何度目かの視線を送りながらギルドの担当者は眉を顰めた。出発した日付を見るとちょうど1月程経っていることが判る。

『踊る人形による殺人事件の調査結果
1.人形について
 戦闘によって破壊された人形は、胸の部分に槍の穂先のような物が仕込れており、体正面のスカートに隠された仕掛けが押されると広げていた両腕が閉じ、閉じきると同時に凶器が飛び出す仕組みになっていたと考えられる。
 人形には足がなく、スカートの内部は正面を除いて形通りの枠が組まれ数個の車輪によって自由に動かせるようになっていたらしい。但し動くための仕掛けらしきものはなく、犯人によってテレキネシスなどを使って動かされていた可能性が高い。
 焼け残った人形の部品には漢数字が記入されたものがあったことが、参加した2名の忍者によって確認されている。また、顔や腕の部分には磁器が使用されていたことなどから、製作者にはジャパンか華仙教大国の者が係っていると推測される。
2.犯人について
 パーストによって馬車から人形を降ろす前後の様子を観察した結果、リーダーと思われる女性らしき人物と御者、荷台から人形を下ろして調整していたらしい2人、更に襲撃地点の方向に飛び去ったシフールの合計5名が確認された。
 テレキネシスなどで人形を操っていたとすると、このシフールが実際のコントロールを行っていた可能性が高い。
 全員がフードを目深に被っていたため顔までは確認できなかったが、リーダーだけは月明かりで唇に紅を注しているのが見て取れた。他の部下は体格などからドワーフではないかと思われる。
 人形の運搬と逃走に使われたのは4頭立ての馬車で、人形を立ったまま収容できるよう荷台部分の背が高く作られていた。また、馬車が目撃された経緯などから、犯人達は犯行の数日前から町の様子を調べていたらしく、近隣の事情には通じていない余所者の可能性も高い。
3.標的について
 被害者に関しては特に襲われるような要因は見当たらず、見回りをしていたメンバーのうち襲撃にあったのは女性2人の組であったことなどから、たまたま襲い易そうな相手を選んだものと考えられる』

 結論としては殺人器械を使った試し切りのようなものではないかとの見解が添えられている。逃走した犯人達はその後同じ町には現れていないようだった。
 だが事件は全く別の場所で起った。以前の町とはかなり離れた場所にある森を抜ける街道で、道の真ん中に置かれていた奇妙な道化の人形に近づいた商人がいきなり切りつけられたと言うのだ。しかも今度は白昼である。
 幸い、傷を負いながらも乗っていた馬のところまでたどり着いた商人は何とか逃げ出すことができたらしい。逃げ帰った男の通報で自警団が駆けつけたが、既に現場には誰もいなかったと言う。森の中には枝道も多く、町から離れたところで当てもなく捜索を続けるわけにも行かないことからギルドへの依頼がだされることになった。
「踊る吸血少女の次は剣を振り回す道化師か‥‥」
 しかも襲われた商人はかなり混乱しているらしく、振り回していた剣が何本もあったようなことも話しているらしい。
「何本もと言ったって普通腕は2本しかないだろうに‥‥ともかく人を集めなきゃいかんな」
 こうしてまたギルドの掲示板に募集が出されたのであった。

●今回の参加者

 ea7937 ウィルテクス・ディフォルテー(33歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea8034 風見 未理亜(36歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea8265 空路 道星(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0596 シトラス・グリーン(20歳・♂・バード・シフール・イスパニア王国)
 eb1040 紫藤 要(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2083 シンクローザ・ラディエル(24歳・♀・バード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 掲示板に貼られた一枚の依頼書の前でテスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)は足を止めた。読み終えると無言のまま拳を強く握り締める。そこに貼り出されている事件は、どう考えても一月ほど前に彼らが取り逃がした一味の仕業としか思えない。表情にこそ表さなかったが、逃走を止められなかった自分への不甲斐無さから怒りが込み上げてくる。
「‥‥また、人形を遣った事件が起ったようだね‥‥」
 喧騒を縫って背後から聞き覚えのある声が耳に届く。振り返ると、前回共に一味と相対したシンクローザ・ラディエル(eb2083)が見慣れた布飾りで頭を覆って佇んでいた。特徴のある耳を隠すことが幾許かでも無用な軋轢から彼女自身を守ってくれるのだろう。自らは出自を隠すことを潔しとしないが、その心情は同族として十分理解できた。
「彼らは何のために人形を遣って、あのような事をするのだろうか‥‥‥興味深いね‥‥」
 囁くような冷たい口調からは感情は読み取れない。もとより答えなど望んではいないのだろう。『彼ら』の姿を最も克明に脳裏に刻んでいるのはシンクローザだった。


 ドレスタットを発った一行は襲われた商人が傷を癒しているという町に向う。一行の内三人は馬を連れてきていたがさすがに自分達だけ騎乗する訳にも行かず手綱を引いて歩いていた。問われるままに前回の事件について話すシンクローザの説明にテスタメントが時折補足を加える。
 以前の接敵の際、テスタメントの愛馬は敵に傷を負わされている。幸い掠り傷ではあったが、借りはきっちりと返さねば気がすまなかった。
 馬の背には体力不足から荷物を持って飛べないシトラス・グリーン(eb0596)が乗せてもらい、前回の事件の情報をあれこれと詳しく尋ねている。
「心の伴わぬ刀剣ですか‥斬られたほうはたまったものではありませんね。最も私は斬られる気は毛頭有りませんけど」
 溜息と共にそう漏らしたのは紫藤要(eb1040)だった。
「気にいらへんな。人の命を弄ぶような真似」
 非道な真似を繰り返す犯人に対してウィルテクス・ディフォルテー(ea7937)も憤りに耐えぬ様子である。
『絡繰は人の笑顔のためにあるのです。人をあやめる絡繰は‥痛々しくて見ていられません』
 事件のあらましを風見未理亜(ea8034)に通訳してもらっていた空路道星(ea8265)も表情を曇らせる。
 村に着いた一行は、依頼の主である町長宅で自警団の面々に引合わされた。既に夕刻と言うこともあり、共に食事をしながら事情を聞く。残念ながら現場に駆けつけたという自警団からの情報はほとんど役に立たなかった。彼らが駆けつけた時には既に人形は跡形もなく消えていたし、森の中の街道は行き交う馬車も多く轍の跡に至っては数え切れぬほどであるという。
 翌朝教会に付随した村の療養所で今度は件の商人からも詳しい話を聞く。商人の方の情報も芳しくなかった。傷自体は命に係るほどでもなかった様なのだが、精神的な打撃の方が大きく、満足に状況を説明できるような状態ではなかった。
 脈絡の無い話からかろうじて判ったことといえば、道化師の人形は始め円形の台座にしゃがんでいて、近づいたとたんに剣を抜いて切りかかって来たと言うこと。更には袖や胴がかなり膨らんだだぶだぶの服を着ていたこと程度であった。剣の数も初めは3本と言っていたものが話を続けるに連れて増えてくると言う始末である。
『何本もの剣というのは細い糸で操ってるのか、それとも暗器の一種である凶蜘蛛のような物なのかな』
 風見を通じて空路が自分の推測を伝えると、紫藤も考えていたことを口にする。尤も『凶蜘蛛』と言う単語はうまく翻訳できずそのまま伝えられた為、六本の刃があって云々と説明には苦労したようだ。。
「若しかしたら人形の腕が複数あり、普段は隠されている。という可能性も考えられますし‥完全な人型に拘ったものとは限りませんから」
 この日シトラスは朝から別行動を取っていた。町の酒場や市場、宿などに赴き、道中で聞いた話を元に事件以前に街道を探っていた人物や見慣れぬ馬車がいなかったかを聞いて回る。近隣の村まで足を伸ばしては農家を回り、見知らぬ人物が大量に飼葉を購入したりしてないかも尋ねたが中々これと言った手掛りを得ることはできなかった。
 昼頃に一旦町長の家に戻った一行は、自警団の一人に案内されて襲撃のあった現場へと向かう。ここでもやはりめぼしい手掛りを見つけることのできなかった一行は近くに野営しながら森の中を調査することにした。街中から通ったのでは片道でも三時間近くの無駄が出る。現場のほど近く、森の中を流れるせせらぎの畔に手頃な空き地を見つけると荷を降ろした。
 既に午後もだいぶ回っていた為、本格的な捜索は翌日としながらも、夕暮れまで現場付近を中心に調査は続けられた。
 商人から襲われた時間帯を詳しく聞いて来ていたシンクローザは現場に立つとパーストを試みた。日中だったこともありいくらか正確な時間が聞き出せたことから、何度かの失敗の後どうにか襲撃の現場を『見る』ことはできたのだが、人形を中心に周囲の森を注意深く見回しても鬱蒼とした枝に阻まれて術者と思われるシフールを発見することはできなかった。

 翌朝、紫藤が各自の保存食を集めて作った簡単な食事を済ませると、森の中で分岐する街道の一本を選び、空路はロッドを背負って囮の役を果たすべく歩きだした。10mほど離れて紫藤と風見が追いかける。人形に斬撃は通じなかったというテスタメントの情報から紫藤はフレイルを、風見はハンマーを得物に選んでいた。更にその後ろからは木立の茂みから茂みへと隠れながらテスタメントとウィルテクスが索敵を行いながら続く。森の中での土地勘に関して言えば一行の中でウィルテクスの右に出る物はいない。
 森の中に潜みながら密かに上空からリーダー格の捜索を行うことにしたシトラスと、独自で調査を進めることにしたシンクローザは別行動をとることにする。

 最初に人形を見つけたのはシトラスだった。緑の中に不似合いな原色を目にして近付いていく。ほぼ商人の話と違わないことを確認すると仲間たちの合図を送った。
 まもなく現場に着いた一行は人形を確認すると慎重に周囲を取り囲んだ。
「囮‥とはいえ、別にあの人形を壊してしまって問題ないのでしょう? でしたら壊しましょう、邪魔ですしね」
  人形を目の当たりにした紫藤が事も無げに言い放つ。
「‥あたいより、あんたの方が有効だろ。いっくぜ!! 」
 隣にいた風見が呪文を唱えながら触れると紫藤のフレイルが炎に包まれた。
「そいじゃま、いっちょやりますかね」
 空路も含めた三人がじりじりと方位を縮める中、テスタメントは生命探査を使って術者の居場所を探ろうとする。ウィルテクスも近くでシフールの動きはないかと耳を澄ませた。探査の邪魔になることを避けてシトラスも近くに降りて来る。
 変化は突然起きた。正面から近づいた風見に向って人形が突然剣を振り下ろしてきたのだ。咄嗟に盾で受けるところへ更なる斬激が繰り出される。
「空路家長女、道星参ります」
 声と共に空路の棍が人形の腕を跳ね上げる。もう一方の腕にも炎を帯びた紫藤のフレイルが炸裂する。ガシャっと言う音がして人形の手首がありえない方向に曲ったがなおも剣は手放さない。振り下すかと思えば台座は動かないまま、人形だけが独楽のように回転し周囲を薙ぎ払おうとする。
 度重なる打撃に終に腕の一本が地に落ちた。すかさず踏み込んだ紫藤が頭部を粉砕しようとした瞬間、膨らんだ肩の布を切り裂いて新たな剣が振り下ろされる。間一髪フレイルの鎖で剣を受け止め微笑を浮かべた。
「どうやら、予想通りだったようね」
 紫藤が飛び離れると同時に空路の棍が逆から打ち込み、すぐさま離脱する。更に間を置かず風見が足元に槌を打ち込む。台座の一部を粉砕されながらも、三本になった腕を振回して人形は再び回転を始めた。
「見つけたぞ! 」
 戦闘の周囲を回りながら生命探査を続けていたテスタメントが叫びながら一本の木の上方を指し示す。間髪をいれずウィルテクスは人形の足元の動きを封じようとしていた植物操作の対象を示された木立に向けた。
「森は貴様を逃がさない‥!」
 木立の間を飛び回る術者にウィルテクスの操る木の枝やツルが次々と打ちかかっていく。
「アハハ‥あんたも地の術を使うんだね。でもそう簡単には捕まらないよ! 」
 木の枝による攻撃をかわして木立の中から飛び出した術者は、枝の届かない上空に姿を現すと甲高い声で嘲笑を投げつけた。枝の攻撃が止んだ高さからこちらの力を読んだのか、重力波の射程外から悠々とこちらを見下ろしている。
 沈黙のまま一瞬睨み合ったかと思うと地上に赤い光が広がる。同時に火の鳥となった風見が上空めがけて突進していく。ほとんど同時に上空の術者も茶色の光に包まれ、火の鳥めがけて黒い帯が伸びた。重力波の帯を正面から突き破って突っ込んだ風見の攻撃をかろうじてかわした術者は再び木立の中へと逃げ込んだ。
 ウィルテクスの植物操作が届かない高さを保って逃げ回る術者を、方向を変えた風見が再び襲う。だが木々の間を縫って巧みに逃げ回る相手を捕捉する前に術の効果が切れ地上に落下する。盛大に枝を折りながら落下してきた風見が地面に激突するところをウィルテクスの操る蔦がどうにか受け止めた。
 だが空中戦によって操作が滞った人形は既に紫藤達の手によってすべての腕を破壊されてしまっている。上空の術者は再び術を詠唱し終えると上空に向けて飛び去っていった。
 すぐに追跡に移ろうとする一同をウィルテクスが呼び止めた。本人達は気付かなかったのだが各自が違った方向に走り出そうとしていたらしい。どうやら地の魔術を使うウィルテクスを除く全員が森の迷宮に囚われてしまったようだ。尤もシトラスの場合は上空に出ればどうと言う事はないのだが。

 戦いが終焉を迎えようとする頃シンクローザはそこから1キロほど離れた場所で見覚えのある馬車を発見していた。気付かれないよう細心の注意を払いながら近付いていく。
 ようやく会話がよく聞こえる距離まで接近すると茂みに身を隠した。見つかる危険を犯して覗き込む必要はない。『見る』のは後でゆっくりとやればいいのだ。
「どうやら、人形は放棄するしかなさそうですな」
 千里眼を用いて戦いの様子を見ていたらしい人物が戦況を告げると、まだ若い声が応ずる。
「‥‥して、フロイめの様子はどうなのじゃ」
「あの者であれば地上に縛られた者どもに捕えられることなど万に一つもありますまい」
 別のしわがれた声が応える。もしかするとこの一団は全員が女性であるのかもしれない。
「引上げじゃ!それにつけても忌々しいやつらじゃのう。一度ならず二度までも‥‥」
『かくも度重なる失態、姉上達に知れたら笑われてしまいましょうに』
 従者達を引き連れて馬車に乗り込みながら思わず呟いた言葉はジャパン語であった。
 遠ざかる馬車の音がすっかり消え、あたりが静寂に包まれると、隠れていた茂みから姿を現したシンクローザは静かに精神を集中し始めた。

 術者が逃亡した時点で戦いは終っていた。それ以前に人形は使える腕を全て失っていたのではあるが。
 高みに逃げた術者の追跡は不可能であったし、唯一空を飛べるシトラスも隠れる物のない上空で戦闘力と魔術で全く太刀打ちできない術者を単独で追跡するのは自殺行為以外の何者でもなかった。
 となれば術者が去り際に仕掛けていった迷宮を慌てて抜ける算段も必要ない。動かなくなった人形の周りに集まると構造を調べ始めた。
「なんだいナマクラばかりじゃないか。良さそうなのがあれば一、二本貰っちゃおうかと思ってたんだけどね」
 人形の落とした剣を物色していた紫藤が溜息をつく。人形の持っていた4本の剣は全て折れたり刃が欠けたりしている。これは必ずしも剣のせいばかりでもあるまい。達人が振るえば鉄を両断して刃毀れ一つしない日本刀も素人が振り回せば刃毀れだらけになるのと同様、使い手が魂の無い人形だったのだから。
「‥‥正直、あんたとは遣り合いたくねぇなぁ」
 あちこち擦り傷だらけになった風見が苦笑しながらに声をかける。一見するとたおやかで物腰の柔らかい紫藤だが、共に戦ってみて格の違いを思い知らされたのだろう。
「つかさ。あいつらなんでこんな人形作ってんの? 前のが試し切りならやっぱ本番があるよな? 何に使う気なんだろ?」
 人形の肩に腰掛けたシトラスが不意に口にした質問に答えられるものは一人もいなかった。

「‥なかなか大変だったようだね‥‥まあ、私がいてもたいして戦闘の役には立たないかっただろうけど‥‥」
 野営地に戻った一行が先に戻っていたシンクローザに戦闘の経緯を伝えると、いつも通り淡々とした口調で応じた。だが次に口にされた言葉に一同は騒然とする。
「‥彼らに‥遭ったよ」
 仲間達からの矢継ぎ早の質問に答える。
「つまり前回の五人のほかにその『姉上達』と言うのもいずれ相手にしなければならんと言うことか‥‥」
「‥おそらくね‥‥でも人形は破壊したんだろう‥とりあえずまた暫くは鳴りを顰めるんじゃないのかい‥‥」
 その質問に答えられる者はなかった。それは再び新たな犠牲者が出るまではと言うことになるのだろう。
 気を取り直した一行は半壊した人形を町まで運ぶと町長に預かってもらい、ギルドへの報告の為にドレスタットを目指すのだった。