海戦祭祝勝ツアー 〜F〜
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■ショートシナリオ
担当:呼夢
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 71 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月09日〜06月15日
リプレイ公開日:2005年06月17日
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●オープニング
ギルド内にある執務室でシールケルは報告にきた部下に目をやったまま暫く絶句していた。やがて気を取り直して報告の内容を確認する。
「つまりだ、恐れ多くも侯爵閣下が御自らこのドレスタットのギルドに足を運ばれて、依頼を出したいと‥そういうことか? 」
いつものシールケルとは違う丁寧すぎる言葉遣いには明らかに棘が含まれている。
ユトレヒト候国は独立した都市国家ということで、他国との緩衝地帯の内陸の都市との交易中継地点としてそれなりの繁栄をしており、ドレスタットとの関係も浅くない。代々の当主は周辺の大国――ノルマン・フランク・ロシア――を相手に、ぬかりなく振舞って独立を保ってきたという経緯がある。
現在のユトレヒト侯であるソルゲストルにしても、とかく噂の耐えない人物である。殊に最近ギルドの報告書に頻繁に登場する紫のローブの男――ロキ・ウートガルズが北に向ったとの報告も上がっており、今回の海戦祭の訪問にも毎年の儀礼だけではない要素が含まれていると専らの噂だ。
「判った。俺が直接話を聞く」
ギルド内の一室でシールケルに迎えられたソルゲストルは、いつもの謹厳な顔に似合わず至極上機嫌のようだった。
「おお、シールケル殿、忙しいところをすまんな」
向き合って椅子に腰を下ろしたソルゲストルは依頼の内容を切り出した。
「先日の海戦祭では多くの冒険者と共に勝利を目指してしのぎを削った訳だが、幸運にも勝利の栄冠を勝ち取ることができた。これもみな冒険者諸君の協力の賜物と感謝しておる。
私も数日中には国に帰らねばならぬ身なのだが、彼らに謝意を表すために帰城後に行う祝勝会に希望する者達を招待しようと思うのだ。
おりしも我が国では定期市の開かれる時節でな、見物がてら祝勝会に参加したいと思う者を募っていただきたいのだがいかがなものだろうか。
残念なことにパリやイギリスからの参加者も居ったようで、既に帰国してしまった者も少なくあるまいがな」
外国からの依頼など本来ならばギルドの範疇外なのだが、領主が招いた来賓とあってはそうそう邪険に扱えるものでもない。一応ドラゴンの襲来などでごたごたしている最中の為に外遊しようと言う冒険者は少ないかもしれないとだけ釘を刺すと、依頼を引き受ける旨を伝えた。
外に待たせておいた従者と共にギルドを出ると、ソルゲストルは外に止めてあった馬車に乗り込み去る。
「やれやれ、冒険者に仕事を依頼する代りに、海外旅行の客集めか‥‥まったく」
一緒に話を聞いていた部下に向かって後は任せると言うように目顔で合図すると、シールケルは執務室へと帰っていった。
●リプレイ本文
桟橋に立ってこれから乗り込む船を眺めながら、男装したヤト・シエラレオネ(eb1249)は微妙な表情を浮かべていた。ナルシストでもある彼女は、潮風で髪が痛む心配と船酔いしたところなどを他人に見せたくないと言うことで船室に閉籠っているつもりだったのだが、目の前の船には船室はおろか日陰すら無い。海戦祭に使われていたのと同じバイキング船なのである。
こちらは意図してと言うわけでもないのだが、中性的な風貌や体形、身につけている衣装から一見男性のように見えるのは楊朱鳳(eb2411)だ。いつもの武闘着ではなく刺繍の入った華国風の服に身を包んではいるのだが、大切な一張羅とは言えいかんせん男物である。
「師匠が持たせてくれた物だけど、これしか持っていないからなぁ」
相手の勘違いを訂正するのにも慣れてきていたが、やはり女の子に口説かれるのは閉口するらしい。
国外旅行と言うことで見送りの姿も見える。海戦祭を口実に、ユスティーナ・シェイキィ(eb1380)の様子を見に来たクーラントもその一人で、2ヶ月ぶりに再会する妹の元気そうな様子にほっとすると共に、ゲルマン語の上達振りには驚きを隠せないでいた。尤も当の妹はギルドの仕事の骨休めとばかりすっかり観光気分に浸っている。
「ジプシーの占い師、フォルテ・ミルキィと申しますわ。皆様、どうぞよろしく‥‥」
船の中では髪やフードなどで耳を隠したフォルテ・ミルキィ(ea8933)が初見の同行者達に挨拶して回っている。海戦祭ではチームの一員としてクラブチームより旗を奪っていた。
ボルト・レイヴン(ea7906)はそのクラブチームからの参加者の一人である。
「いってらっしゃ〜い。おみやげ買ってきてね〜」
一行を乗せた船が桟橋を離れると、ヤトの見送りに来ていたエイジスが景気付けに得意の演奏を披露しながら大声で叫ぶ。
船の帆が風を孕んで緩やかな流れを遡り始めると、ウェイツ・マンシズ(ea7790)はさっそく釣り糸を垂れ始めた。海戦祭の最中幾度となく顔を合わせているカラット・カーバンクル(eb2390)が声をかける。
「釣れますか? 」
「いえ、ぜんぜんですね。ですが、貴方が釣れました。‥‥今日は静かでいい日和ですね」
「あはは‥‥」
あまりに意味不明の応対にカラットも曖昧に笑う。尤もウェイツの釣り糸には鉤がついていないので端から魚など釣れるはずも無いのだが。
川を遡った船は支流等を経由してユトレヒト城砦のすぐ外にある河川貿易の港へと到着した。桟橋に近付くと供回りを従えた侯爵が出迎えている。
一行が上陸すると海戦祭で知合った面々と久闊を叙す。祭りの折には奇矯な言動もあって一風変った領主くらいに見ていたカラットもどうやら身分のある人間らしいと気付いてか多少緊張気味である。
過日戦況を占って見せたフォルテも改めて丁重な挨拶を述べる。
「失われなかった光は、いつしかチームを包み込むほどに大きくなりましたわね‥‥ソルゲストル卿。いえ、ソルゲストル・ユトレヒト侯爵閣下」
逆転勝利を得た結果としてこうして自分がここに居ることに不思議な感慨を覚えたのか、かすかな微笑を浮かべる。自らの種族ゆえ控えめに振舞っていたが、侯爵の方は彼女の出自について気に掛ける様子もなかった。
やはり作戦室で侯爵と親しかったウェイツは、最終日に獲得した海戦旗を持参していた。滞在中は侯爵に預けて祝勝会に華を添えようとの趣向らしい。侯爵に先導されて館に着くと今度は運んできた大荷物を開いて同行した一同に用意してきた礼服を配り始める。
「パーティ用に皆さんの分を用意してきましたので、よろしければお収めください。そのまま差し上げますのでじゃまになったら売り払っても結構ですよ」
中には自前の礼服を持参している者もいたが、はるばる運んできた労を多としてか、受け取りを拒む者はいなかった。
海戦祭には出られなかったリョウ・アスカ(ea6561)も、パーティを控えて与えられた居室で持参した服を身につけていた。青を基調にしたマントと前当て、紫の肩当と背中に銀のアクセサリーが添えられた自慢の礼装である。
東洋の血を継ぐ女性的な顔立ちと黒髪が華麗な礼装に映える。一応はこの地の調査も目的の一部ではあるのだが、なんと言ってもリョウのメインはこのパーティにあった。
自室で服装を整えた朱鳳はカラットの部屋を訪ねた。盛大な出迎えと、重厚な石造りの広壮な館に萎縮したのか。
「‥‥使用人さん達に紛れて手伝いしてた方が落ち着くかもですね〜‥‥あはは」
などと口走っていたのが気にかかったらしい。
「大丈夫。皆で行くから怖くはないよ‥‥」
と微笑みつつ元気付け、ウェイツに渡されたドレスに着替えるように促す。尤も朱鳳本人は着慣れないドレスよりは自前の一張羅で通すことにしたのであるが。
着替えの済んだカラットをエスコートしてパーティ会場へと向う。二人とも貴族の礼儀作法などには全くと言っていいほど疎い上、朱鳳に至っては言葉の方でもなんとか日常のやり取りができる程度でしかない。とりあえずは周囲の人間の真似をして乗切るしかなさそうである。
やがて海戦旗が据えられた会場でパーティが始まる。ユトレヒトの各界名士等も招かれており、着飾った婦人や令嬢、子息なども伴って侯爵のご機嫌を伺いに来ている。
侯爵はパーティが始まると、招待した冒険者達に挨拶して回った。
パーティに参加する令嬢達がお目当てのリョウは、挨拶への返礼もそこそこにこれはと思った娘達に声をかけお相手を探し始める。甘い風貌と鮮やかな衣装に令嬢たちの受けも上々のようだ。
チームが違うせいか面識は無かったが、凛々しく男装に身を包んだヤトへも一応は声をかける。
「お招きに与り、光栄ですわ」
彼女の方でもあまり侯爵には興味がないらしく、型通りの挨拶を返すにとどまった。一番の眼目は酒にあるらしく各種の酒を楽しむ。颯爽とした立居振舞いに招待客の令嬢の何人かからダンスの声が掛かると、礼を失しない程度には付合っている。
同じく男装の朱鳳もやはり何人かの令嬢にダンスを申し込まれていた。
「はぁ‥‥。私は女なんだけど‥‥」
その度に丁重に断りを入れる。もとよりダンスなどできよう筈もない。とりあえずカラットと共に侯爵に招待の礼を述べることにする。
侯爵は二人とも覚えていたらしく気さくに話しに応じた。ようやく緊張が解けてきたのかカラットもいくつかの質問をしてみる。
「あ〜‥‥来年も来られたりするんですかね? 」
例年のことでもあるし、招かれれば当然訪れることになるだろうとの返事に。
「また、遊びに来ると良いですよ‥‥。あと、波打ち際の貝殻をお土産代わりに。二つあるので一つ差し上げます‥‥ガラクタみたいなものかもですけど‥‥あはは‥‥」
侯爵は喜んで受取ると持ち歩いて壊さぬうちに早速召使に命じて私室の方へと運ばせる。
挨拶を済ませた朱鳳は、これ以上令嬢達に追い回されるのを避けるため、会場の隅に控えて交易でもたらされたお茶などを大人しく啜っていた。
フォルテも、侯爵と簡単な挨拶を交わした後、静かにパーティを楽しんでいる。
海戦祭の折、初日の大敗にも拘らず勝利の可能性を示唆したフォルテの占いも話題に上り、招待客の幾人かが占いを希望すると億劫がりもせずに引き受けていた。相手の話を丁寧に聞き取ると、占いを行って現れた兆しを伝える。無論彼女の持論にもあるように占いの結果は一つの指針に過ぎない。悪い兆しに対しても徒に隠すわけではなく、そのことに注意を促すことでより良き未来を導く可能性を与えるという勤めを忠実に果たしていた。
スクイッドチームの一員であったユスティーナは貰った礼服と暫く見比べた後、持参したローズピンクの礼服を着て出席していた。酒は飲めないので、専ら甘い物に手を伸ばしている。やはり交易の中継地ということで珍しい菓子も色々と並んでいる。
礼儀作法にはあまり通じていなかったが、生来明るい気性の彼女は積極的に人波に溶け込んでいる。尤も時折申し込まれるダンスの誘いだけは遠慮するしかなかったのだが。ここでもドラゴンに関する話題を尋ね回ってはいたが、自らがドラゴンに逢って話をしたことだけはなぜか話題にしないでいた。
二日目まで首位を走っていたクラブチームの一員だったボルトも侯爵と挨拶を交わす。
「負けましたけど、いい対決でした。今日は、楽しませてもらいますか‥‥」
さして勝敗にこだわる様子もなく素直にパーティを楽しんでいるようである。
日の高い頃から始った祝勝会も夜分に及んで閉会の運びとなった。尤も盛んに令嬢達に声をかけていたリョウの姿は、あたりが暗くなってきた頃から既に会場内には見当たらなかったのだが。
居室に戻って一息つくと、フォルテは一人静かに候国のことを占ってみるのだった。どのような結果が出たかは彼女のみが知る。
翌日、一同は思い思いに定期市の見物へと出かけていく。ウェイツだけは夜の酒場の賑わいも見物したいと言うことで、晩餐には参加しないことを告げている。
特別な予定のない者達は、のんびりと市の様子を見物していた。フォルテは専ら人々の活気や扱われている品物に注目して歩いている。
「定期市ですか、活気がありますね‥‥普段飲む、ハーブを購入したいんですけど‥‥」
ボルトもそんなことを呟きながら観光を楽しんでいた。お目当ての品は中々見つからないようではあったが。
一方朱鳳は城塞都市と言うことで珍しい武具がないかと探し回っていた。何処も彼処も珍しく、うっかり気を取られていると迷いそうになる。
「武道家の武具って滅多にないんだよねぇ」
武器屋の店先を覗きながらそうぼやく。確かにこの市場でも朱鳳の使うような武具は中々扱っていないようだ。
一行の中でもとりわけ賑やかなのはユスティーナだった。端から順にじっくり品物を見ながら、盛んに店の売り手に声をかける。
「おばさーん、ユトレヒトの名物って何? あたしイギリスから来たんだけど、お土産に何か買って帰りたいの。予算はどーんと奮発して5Gまで。
生の食べ物は腐っちゃうからダメね。乾物とか瓶詰なら日持するから大丈夫かも。綺麗な石とか、可愛いものが欲しいな」
立て板に水で一方的に話し続ける。可愛いものということでとりあえず「子猫のミトン」を半値ほどにまけてもらって購入する。
さらに市場を眺めながら歩いていたユスティーナは突然足を止めた。少し前方の路地から現れた男のローブの色がいやでも記憶を刺激する。
(うそっ‥‥そもそもこの期に及んでまだ紫色のローブ着てるの? もう名前もバレてるんだし、普通は着替えると思うわ)
そうは思いながらも思わず近くの路地に隠れた。ちょっと考えた末「リヴィールエネミー」の巻物を取出すと広げて精神を集中する。効果が現れると徐に近付いてみたが特に反応はない。やっぱりと思いかけてふと重大な間違いに気付く。いくらロキでも見ず知らずの少女に敵対心など抱いているはずはない。考えた末突拍子もない行動に出た。
「あなたロキ・ウートガルズさん? 」
近付いて声をかけると効果は抜群だった。ユスティーナに目を向けたロキの全身が青く輝く。だが一見その表情には動揺の色も見られず穏やかな微笑を浮かべたまま返事を返した。
「いえ、違いますが‥‥どなたかと人違いではないですか」
「そうみたいですねー。ごめんなさーい」
ドキドキしながらも笑顔でそう答えると、人違いを恥じるような素振りで慌ててその場を離れる。白髪の半ば以上はローブの中に隠れているようだが、穏やかな表情と琥珀色に近い茶色の瞳からは特に凶悪な印象も受けなかった。尤もそれだけ自分の正体を隠すのが巧みだと言うことなのであろう。ある程度離れてからそっと後ろを覗った時には既にその姿は無かった。
市場に繰出した者の中には観光など眼中にないものもいる。ヤトの目的は市場を見ることではなく、美しい自分を大勢の者に見せる事にあった。人も多いことからいらぬ揉め事を避けるため不本意ながら髪型やアクセサリーで耳は隠しているが、すれ違った少女達の視線を背中に感じる度心の中で快哉を叫んでいた。
(ククク‥‥お前たちは幸せ者よ。このあたしの美しさ、目に焼き付けなさい)
なにやら情報収集を言付かってきたらしいカラットは、町の中を一人でうろつきながら話を聞き易そうな相手を物色していた。ふと、同じ年頃の一人の少女の動きが目に止まる。目的を達したらしい少女の後について人気のない路地に入っていく。
「あ〜っと‥‥さっきの見てたんだけど‥‥」
声をかけられて振り向いた少女はそこまで聞くと顔色を変えて身構える。
「‥‥っとね、別にそれでどうこうじゃなくて‥‥一応あたしも同業者だし‥‥ちょっとお話とか聞きたいな〜って‥‥」
驚いたようにカラットの顔を眺めるが、まだ完全に警戒を解いたわけでもないらしい。
「話ってなにさ‥‥判ってると思うけど、ここらはあたし達の縄張りだからね」
「もちろんお仕事なんてしませんよ‥‥おっかないですからね〜。昼ごはんでも奢る代わりに最近の事とか‥‥あっ、もちろん安いトコで! 」
どうやら信用してもらえたらしく、行きつけだと言う屋台に案内される。そこで侯爵の最近の噂や市中での評判などを聞くことができた。
「ちょっと怖い顔してるけど気さくで優しいし紳士って感じでカッコイイですよね」
と言うカラットの言葉にはなんとも応えられないようであったが、取締まられる身であれば当然のことかもしれない。
ドラゴン関連の調査に出たウェイツは、市場に出ると盛大に豪遊していた。神聖騎士と言うことで実用性とはあまり縁のない「豪華な聖書」を買ってみたり、紫の布を扱っている店で話を聞いたりしている。噂のロキが常に纏っていると言うローブの色には何か意味でもあるのかと気になるところもあってだが。
同業者と言うことで、場外の港に揚がった魚を市場で売っている漁師などにも当ってみる。
夕方になると酒場に姿を現し、酒場全員にご馳走するなどして口の軽くなった商人達からの情報収集にあたる。酒場に立ち寄った侯爵家の使用人からは、昨夜も遅くに侯爵を訪れた紫のローブの男がここ暫くは頻繁に出入りしているとの情報も得られた。
また、紫のローブを着た男が街中や酒場などで他の男達と話している現場もいくつか目撃されていると言う。
先に館に戻ったウェイツ以外の面々は再び館での供応を受け、遅く帰ったウェイツも含めて翌朝侯爵の見送りを受けながら城外の港を後にした。