●リプレイ本文
広場には急ごしらえながら階段状の観客席と東西の入場ゲートが作られていた。
思い思いに席を占めた見物人たちの間を縫うように歩き回ってはなにやら話をしながら金を集めている連中は、どうやら勝負事につき物の賭けを仕切っているらしい。
試合開始の鐘が鳴らされると会場が一瞬静まる。
一方に作られたゲートから姿を現したのは、ベルナルド・シーカー(ea4297)だった。
「なんや、こないな軽い剣じゃよう戦われへんわ。もうちっとデカイんは無いんかいな?まぁええわ、ほな、さっさと終わらせましょか」
主催者が用意した中では一番大きな試合用の剣も、ベルナルドが持つとショートソードにしか見えない。
「わいはベルナルド。こう見えてもコナン流の戦士や。あんじょう、よろしゅう」
剣を軽々と振り回しながら観客たち達の声援に応えている。
反対側のゲートから現れたシルバー・ストーム(ea3651)はその様子を眺めながら、弓を引くように前にのばした左手に切っ先を添えるように構えた。
「知っていますか、剣でも射る事ができるということを‥‥」
呟くように漏らした言葉が耳に届いたのか、ベルナルドがシルバーに向き直った。
「なんや、いらいちっこい坊やの〜!負けても泣くんやないで?」
中央で向き合い礼を交すと、開始の掛け声と同時に一気に間合いを詰めたベルナルドがシルバーの頭上に剣を振り下ろす。同時にシルバーの突きがベルナルドの顎を捉えた。更に続けて頭上に振り下ろされる剣を、盾を頭上に構えて受けると、盾の下を縫うように鳩尾目がけて剣を繰り出す。
90センチ近い身長差とその流派から、あくまでも上段から剣を振り下ろすベルナルドに対して、シルバーは多彩な突きを繰り出していく。
やがて審判たちの旗が上がる。どうやらシルバーが先にポイントを削り切ったらしい。あっけにとられたようにベルナルドが大声を上げる。
「なんや、もうしまいか?ちょろちょろとしくさってからに!やっとられんわ!」
座り込んでふてくされているベルナルドや審判たちに無言のまま軽く一礼すると、シルバーは静かにゲートへと向かった。ベルナルドも審判たちに宥められてゲートに向かう。
拍手と歓声に包まれて2人がゲートに姿を消すと、再び会場に静けさが戻った。が、一瞬日が陰ったと思うと、空を見上げた見物人たちから驚きの声が上がる。マジカルミラージュによって作り出された白亜の城が、逆さになって浮かんでいたのだ。
ざわめきが広がる中、観客達の視線が上空へと集まると、一筋の光がゲートへと向かう。光を追った視線の先には、ルシエラ・ドリス(ea3270)が静かに微笑んでいた。
「全ては運命の風の赴くままに」
場内の視線を集めたルシエラが優雅に一礼すると同時に、上空の城は揺らめくように姿を消していった。
観客が未だ呆然としている中、今度は横笛の音色が響き渡る。聞きなれない旋律はどうやらジャパン伝来の曲であるらしい。横笛を奏しながらゆっくりとゲートから姿を現したのは、エリック・レニアートン(ea2059)だった。
自らアレンジしたらしい艶やかなジャパン風の着物を羽織り、顔にもやはりうっすらとジャパン風の化粧を施している。ルシエラの正面まで進み出ると、手にした横笛を帯の間に差し込み、代りに帯に挟んでいた試合用の剣を抜いた。
一礼し、開始の合図と共に羽織っていた着物を高々と脱ぎ捨てる。場内に起こったどよめきに失望の溜息が幾分混じっていたのは、エリックを女性だと思い込んでいた観客が多かったためらしい。
最初の一撃を互いに盾で受けると、すれ違いざまに相手の胴をなぎ払う。判定は互角であった。
エリックは返す剣先で更に胴を狙いに行く。ルシエラも同じく胴を狙ったのだが、防御に意を用いた分打込が甘くなってしまった。
一旦間合いをとったルシエラが渾身の一撃をエリックの頭上に振り下ろすが、常に顔を庇おうとするエリックに阻止され、逆に打ち込まれてしまう。更に足元を払おうとしてきたエリックに対して、ルシエラも同じ戦法に出たために共に転倒しかけて体勢を立て直す。
審判たちの旗が上がるのを見たルシエラが小さな叫び声を漏らす。
「そんな‥まだだよっ」
どうやらわずかの立会いであっさりポイントを削られてしまったらしい。エリックは満足げに笑みを浮かべると、剣を納めて脱ぎ捨てた着物を拾い上げる。互いに一礼すると、観衆の声を背にそれぞれのゲートに引き上げて行った。
続いて登場したのはマリウス・ゲイル(ea1553)であった。中央に進み出ると、観衆に向き直り高らかに宣言する。
「ゲイル家の名誉に懸けて、」
言葉を切ると、紋章のついた留め金を握り締めた。
「このトーナメントに勝たせてもらいます!」
言いながら一気にマントを脱ぎ捨てる。いきなりの勝利宣言による場内がどよめきが収まってくると、観衆の目はもう一つのゲートへと集まっていく。
やや間があってゲートの中にほのかな光がともると、ライトの光球を掌に乗せたハルヒ・トコシエ(ea1803)が姿を現した。どうやら呪文の詠唱に思いのほか時間をとられたらしい。片手に持っていた盾をゲートに立てかけると、その手にはホイップが握られている。
観衆に向かって笑顔を振りまいていたが、突然ジプシーの踊りを披露し始めた。光球とホイップを駆使した艶やかな創作舞踊に観衆は喝采を浴びせる。
しばらくの後、3メートルほどもあるホイップを一瞬にして巻き取ると、光球を掲げてフィニッシュを決める。
周囲に手を振りながらゲートに立てかけた盾をとってマリウスの前に戻ると、にっこり会釈した。よく見ると盾にも即席で作ったらしい飾り付けが施されている。
ようやく場内の騒ぎが収まると試合が開始された。
マリウスが低い姿勢から踏み込んで払った胴に、ハルヒも切り返す。次の瞬間、跳躍したマリウスが真っ向から剣を振り下ろすが、完全にブロックされてしまう。ハルヒは低い態勢から着地した足元を払ってくるが、予め備えていたマリウスの盾に阻まれ頭上に一撃を蒙る。頭上を防御しながら執拗に足元を攻めるが、マリウスのほうも防御を固めてなかなか攻撃を通さない。
互いに足元を払われた状態から、体制を崩しかけたハルヒの肩先に向けて突きを放ったマリウスは、一瞬ハルヒの姿を見失う。姿勢を低くし全身を盾の陰に潜り込ませたハルヒは、更に足元に攻撃を集中した。
一旦跳び下がったマリウスは防御を固めつつ再び踏み込むと、Zを描くように剣を打ち込むが、全てハルヒに受けきられてしまう。防御の傍らハルヒの繰り出す攻撃も、マリウスに打撃を与えることが出来ない。
そうした状態が続く中、やがて試合終了の鐘が鳴らされる。初の時間切れ判定はマリウスに軍配が上がった。
「いたたぁ〜、やっぱり敵いませんねえ〜」
そう言いながらあちこちさすっているハルヒに、マリウスが手を差し伸べる。
「なかなか良い勝負でした」
ハルヒも艶やかな笑顔で応じると、黙って手を握り返し、それぞれ観客に応えながらゲートに戻っていった。
エルリック・キスリング(ea2037)は、ただ一人騎乗のまま現れた。馬から飛び降りると、剣を天高く掲る。馬を帰して中央に進み出ると、胸に下げたホーリーシンボルに手を当てて祈りを捧げた。
続いて仮面を身につけたロギアス・ウォフズ(ea1868)が姿を現す。エルリックの正面まで来ると、不敵に笑って剣先を突きつける。
「さぁ、楽しもうぜ。」
エルリックは無言で仮面の奥の相手の目を見返す。
戦闘開始の合図と共に立て続けに繰り出されるロギアスの攻撃は全てエルリックの防御に阻まれてしまう。
「どうしたよ?もっと楽しませろよ、あーん?」
ロギアスの挑発に乗ったわけでもあるまいが、渾身の一撃を胴に叩きつける。
「エルリック・キスリング、参るっ!」
予測していたようにこれをしのいだロギアスが高速の刺突技を放つ。
「俺様の美技に酔いな‥‥スキアンターレ・ストッカーレッ!」
だが未だ開発中らしい技は防御され、逆に頭上に剣を見舞われる。続く攻撃に思わず防御姿勢にまわるロギアスに審判から警告が出された。
「おっと、わりぃわりぃ」
悪びれもせずに、軽く謝ると改めて互いに向き合う。その後の攻防は一進一退を重ねたが、試合時間も残り少ない頃、最初のリードを生かしたエルリックがようやく勝利をもぎ取った。
「‥フッ‥ハハハ!そうだこの敗北が次の勝利を生む!楽しかったぜ‥」
試合そのものを楽しんだものとみえて、ロギアスは負けても上機嫌で笑っている。一方、勝利を得たエルリックは、跪き、胸のホーリーシンボルに手を当てて感謝の祈りを捧げていた。
やがて立ち上がると、2人とも対戦相手や審判達に礼をして退場していった。
続く2回戦の第1試合はシルバーとエリックの間で行われた。一進一退の攻防は最終的にシルバーの勝利に落ち着いたが、不機嫌そうに試合終了の礼をしたエリックが、顔目がけて突きを繰り返したシルバーに食って掛かると言う一場面もあった。
「僕の顔に傷が残ったらどうするんだよ。お嫁に行けなくなっちゃうだろ!」
それだけ言うと、相手に反論する隙も見せずに踝を返し、後も見ずにゲートへと立ち去っていった。
「お嫁って‥‥」
1人取り残されたシルバーもそれ以上言葉がなかった。
ナイトと神聖騎士と言う組み合わせで行われた第2試合は、激しい戦いの末、徐々に差を広げていったエルリックの勝利に終った。
「さすが剣術大会。凄腕揃いですね‥‥」
マリウスはエルリックにエールを送るとゲートの中へと姿を消す。
決勝はシルバーとエルリックの間で行われた。はじめはじりじりとリードしていたエルリックだったが、終盤立て続けに放たれたシルバーの攻撃をかわしきれず、無念の敗北を喫した。思わず唇を噛み締めて大地を殴りつける。
一旦選手が控え室に戻った後、各種表彰が行われた。
「剣も悪くは無いですが、弓のほうがしっくりきますね」
優勝商品として、希望のロングボウを手に入れたシルバーは、そう言いながらロングボウをなでると観客に向かって高々と差し上げた。