〜人形遣い〜 死の売り手

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月25日〜06月30日

リプレイ公開日:2005年07月03日

●オープニング

 二本の刃物が鈍い光を放っていた。一本は二ヶ月ほど前に酔って夜道を歩いていた男の命を奪ったもの。やや小ぶりの方はつい先日富裕な商人の妻の胸に突き刺さっていたものである。
 大きさや根元の形状――大きな方は固定式に、他方は射出式になっていたのだが――こそ違え、同じ目的の為におそらくは同じ人物によって製作されたものだろう。
 同じ人物‥‥達、先日二度目の接触があったことでそのうちの何人かについては新たな情報が得られていた。
 主犯と見られるのは十台半ばの漆黒の髪と瞳を持つおそらくジャパン生まれの少女――どうやら二人以上の姉がいるらしく口調が独特である。
 今の所最も危険と思われるシフールの地の術者――サイコキネシスの他にグラビティーキャノンとフォレストラビリンスを使用した。危険なのは人形の重量がかなりあった(20kg以上)と言う点である。
 クレアボアシンスで戦闘を監視していたドワーフの女性――あくまでも声からの推測だが、フードを被り茶色の髭で覆われた顔からは年齢は判らなかった。
 他にもう一人の赤髭のドワーフと人間と思われる老女――髭が無かったので単に体格がドワーフに近いだけらしい――もいたが、外見と声以外のことははっきりしなかった。
 地元の役人が調べた限りでは、事件のあった周辺でこれらに似た人物を見かけたと言う者はいない。つまりはこれ以外の仲間もいると言うことなのだろう。
 回収された人形はやはりいくつかの仕掛けを組合せて構成されていた。夫々の仕掛けは、起動すると暫くの間決められた動きを続けるようになっており、術者の役割は本体の移動とこれらの仕掛けを必要に応じて起動することのようである。

 今回使用された人形はどちらかと言えば最初のものに近く、腕の動きに応じて凶器が突き出すだけか、飛び出すかの違いだったらしい。刃の中ほどまで胸に埋まった凶器はかなり正確に心臓を射抜いていたという。
 事件の起きた際の複数の目撃証言によれば、夫人は使用人の一人から夫が誕生祝に送った人形を受取ったとたんに倒れたと言うことだ。問題なのは夫人の周囲に夫君を含め殺害の動機を持つ人間が多すぎる為に、関係者の証言に食い違いが大きいと言うことらしい。
 貴族の令嬢であった夫人は成り上がりの商人である夫を毛嫌いしてそばにも寄せ付けなかったらしく、浪費を重ねるだけでなく使用人にもつらく当たっていたという。そのため古くから居た使用人の中にも暇をとるものも多く、残ったのは他に行くあてのない事情を抱えた者ばかりということになっていたらしい。
 決め手のつかめぬまま地元の役人は事件の解決を冒険者ギルドに委ね、届けられた凶器と人形から一連の事件との繋がりが浮び上ってきたのであった。

●今回の参加者

 ea8265 空路 道星(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8528 ラガーナ・クロツ(28歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb0131 アースハット・レッドペッパー(38歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb0596 シトラス・グリーン(20歳・♂・バード・シフール・イスパニア王国)
 eb1380 ユスティーナ・シェイキィ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2631 神楽 薫流(37歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2664 水無瀬 瑠璃(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 ギルドの扉が開くとユスティーナ・シェイキィ(eb1380)が姿を現した。何を思ったのか出発間際になっていきなり「ちょっと待ってて」と言い残してギルドの中に引き返して行ったのだが、片手には布に包まれた大きな荷物を車輪のついた台に載せて曳いている。
「‥‥いったいなにを? 」
 幾度か行動を共にしているテスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)が怪訝な面持ちで尋ねると、荷物の載った台車を馬に括り付けながら笑顔で応えた。
「依頼書に人形の事が書いてあったから、今何処にあるのって訊いたらこっちに残ってたみたい。ちょっと調べさせて欲しいなって言ったらあっさり貸してくれたよ」
 馬に繋ぎ終った布包みの一部を広げて顔の部分を見えるようにすると、神楽薫流(eb2631)が興味深げに覗きこむ。
「呪いのカラクリ人形? 珍しいわね〜」
「呪いってのはちょっと違うんじゃねーの。それだけに余計にたちが悪いんだけどな」
 既に同じ一味の起した事件に立会っているシトラス・グリーン(eb0596)も空中から近づいて来た。
『‥‥やはりこれも白磁のような物でできてるね。僕の国の技術だよ』
 人形の頬をなでながら空路道星(ea8265)は前回の戦いを思い出したのか悲しげに眉を顰める。一応最も通じる相手が多そうなイギリス語で話したのだが、ジャパンから来た水無瀬瑠璃(eb2664)と薫流の二人には解らないようだ。通訳を買って出たシトラスがゲルマン語に翻訳する。
「呪い‥‥ねぇ。まっ、それはともかくそろそろ出発しようぜ」
 アースハット・レッドペッパー(eb0131)が促すと一行は目的地に向って歩き始めた。彼の背には宿敵の呪いで封じ込められた勝利の女神――と本人は言っているらしい――の口をきく刺青があると専らの評判なのだが。

 日の暮れかかる頃町に着いた一行は、そのまま依頼主のいる役所を訪れここに一泊する。翌朝事件の捜査に当った面々が集められ、一通りの説明を聞き終えるとラガーナ・クロツ(ea8528)が口を開いた。
「俺はプレゼントした本人が怪しいと思うんだが。短絡的すぎるかな? 」
「おいらもまずは旦那に話を聞いてみようと思ってたんだ」
「では、私は人形を手渡したと言う使用人に当ってみよう」
「んー‥‥じゃあたしは他の使用人さん達にでも。あっ、でも人形の仕組みを少し調べるから先に行ってて」
「それじゃ俺は怪しげなやつが一人になったところを見計らってちょいとカマでもかけてみるか」
「ふむ、それで何か動きを見せる者があれば尾行は任せてもらおう」
「大勢で一度に押しかけても仕方がないしねぇ‥‥う〜んと、とりあえず私は調べることから始めようかしら」
『僕は‥‥どうしよう‥‥聞込みもできないしね‥‥水無瀬さんのお手伝いでもしようかな』
「そうすると、おいらもついてなくちゃだめかな? お二人さんだけだと話通じないじゃん」
 結局道星は薫流らと共に役所に残って、もう一人の通訳であるユスティーナの実験を手伝うことになる。他の五人は現場に戻る役人に案内されて屋敷へと向った。
 壊れたドアを借りてきて人形の射撃試験を始めた二人を外に残し薫流は借り受けた一室に籠る。
 椅子に腰を下ろすと目を閉じて精神を集中する。
「そうねぇ‥‥キーワードは‥‥『カラクリ』‥‥かしら、それとも『人形』」
 キーワードを変えながら何度か未来予知を試みるがなかなか思ったような成果は上がらない。見えるのは件の人形がギルドの倉庫で埃を被っている様な情景ばかりである。
 人形遣い達の意図に詳しい人物が居そうな場所なども調べようとするが、単語一つだけで指定できる内容には自ずと限界があるようだ。
「やっぱり駄目かしらねぇ‥‥それじゃ‥‥当たるも八卦、当たらぬも八卦‥‥何か面白いものが詠めればいいんだけど」
 今度はテーブルに布を広げると袋の中から小さな平べったい貴石を一掴み取出し、何事か念じながら布の上にばら撒く。貴石を星に見立てた占いらしい。
 商人の殺意の有無や人形の正体を知っていたのかどうかなどを次々と占っていく。
 一方仕掛けを実際に動かしてみたユスティーナ達は、人形の射程が意外なほど短いことを発見していた。
 人形を正面に構えて心臓に見立てた的に狙いをつけるコツは比較的容易につかむことができたが、それなりに精度と威力を得ようとすればかなり近い距離から打出す必要がありそうだ。
 更に、凶器の射出はやはり腕を動かすことで行われるようになっていた‥‥これらが意味するものは。
 やがて三人も役人に案内を請うと屋敷へと向う。

 先に屋敷に着いた面々は、それぞれ聞き込みを開始していた。
 アースハットは屋敷の中をうろつきながら、ときおり壁に寄りかかってはいかにも小悪党然としたニヤニヤ笑いを浮かべて仲間達の聞込みを眺めている。
 使用人達の控え室を訪れたテスタメントは問題の人形を直接手渡したと言う小間使いに話を聞いていた。
 人形をいつ主人に渡されたのか、いつ夫人に渡したのか、と時間を中心に問い質していく。
 目の前で夫人が亡くなったのを目撃しているためもあってか、どこか落着きが無い様子で証言は二転三転した。が、粘り強く聞きだした結果どうやら人形は製作者が屋敷に届けにきたもので、主人が持ち帰ったわけではないらしいことが判る。
 この点は他の使用人達からラガーナが聞いた話とも一致するようだ。どうやら発注したのは確かに主人だが、実のところ当人は人形に一度も触れていないというのが真相のようだ。
 居間の方ではちょっとした騒動が起きていた。シトラスの質問に答えていた屋敷の主人が、突然怒って当のシフールを追い回し始める。
 始めは誕生祝だと言う人形を入手した経緯などを質問していたのだが、矢継ぎ早に質問を切出して反応を見るうちに、「ずばり、犯人あんた? 」の一言で逆上してしまったらしい。
 止めに入ったラガーナに「要はあんたも有力な容疑者の一人ってことだ」と単刀直入に言われると、返す言葉も無く怒りに顔を紅潮させながら部屋を後にした。
 見送ったシトラスとラガーナは顔を見合わせると、再び使用人達への聞き込みに戻っていった。
 遅れて屋敷に入ったユスティーナも使用人達の聞き込みに加わる。持ち前の笑顔を振り撒きながら世間話や親身に愚痴を聞いてやるような様子で、殺された夫人やその亭主のこと、更に人形の出所などを訊き出していた。
 夕刻には全員が一部屋に集まって状況を纏める。
 使用人達の話を纏めるとどうやら人形自体は浪費家の夫人がねだったものであるらしい。更に、本人は否定していたが夫人に人形の製作者を引合せたのは件の小間使いだというものが多い。ことあるごとに夫人の犠牲になっていたのも同じ人物らしい。
 ドア付近の壁にもたれて調査結果を聞いていたアースハットは話を聞き終えると姿を消す。瑠璃が音も無く後に続いた。

 一人廊下に出た小間使いの前に、アースハットがニヤニヤ笑いながら姿を現す。
 軽く頭を下げて行き過ぎようとする相手の目の前に腕を伸ばすと、行く手を遮るように壁に手をついた。壁との間に挟まれて身を硬くする小間使いの耳元に顔を近づけると何気なく囁く。
「とりあえず口止め料、20Gで黙っていてやってもいいぜ? 」
「そっ、そんな大金‥‥私には‥‥」
 半ば演技ではないだけに釣込まれたのか思わずそう口走るとすかさず畳み掛けた。
「ほぅ‥‥持っていれば払ってくれるわけだ‥‥『口止め料』ってやつを」
「わっ、私は何も‥‥失礼します」
 最後の一言を強調してみせるとハッとしたように顔色を変え、腕の下をかいくぐって小走りに立ち去っていく。黙ってその後姿を見送っていたアースハットは、物陰から姿を現した瑠璃を見つけるとニヤリと笑みを浮かべながら小さく頷いた。

 その夜から屋敷の住人を見張る為に泊り込んでいた役人達には引揚げてもらい、代りに冒険者達が泊り込むことにする。住人に出されていた外出禁止も取り消された。
 翌朝早く小さな荷物を手に屋敷から出て行く一つの影があった。その姿を瑠璃が物陰から見つめていた。
「さぁて‥‥仕事、始めますか」
 隠れていた場所から音も無く滑り出すと、気配を消しながら尾行を始めた。
 やがて人影は町外れにある一軒の宿へと姿を消した。背後から離れて後を追っていた道星とシトラスが近づいてくる。それぞれ出入口の見張りと仲間への連絡を頼むと宿の裏手へと回り込んでいった。
 応援が到着すると宿の人間に訳を話し、半数ほどが部屋の前に集まる。部屋の中を探ったテスタメントが頷くと道星が扉を叩く。
 暫くの沈黙の後、扉にわずかに開く。すかさずその隙間にロッドを差込むとそれを梃にして一気に部屋の中に飛び込む。そこには件の小間使いと一人の少女が立っていた。真っ青な顔をした小間使いがナイフを構えて切りかかってくる。全くの素人が闇雲にナイフを振り回してもどうなるものでもなく、たちまちナイフを叩き落され囚われの身となる。その隙にもう一人の少女は窓の外へと身を躍らせた。
 窓から飛び出した少女は裏道を全力で走り始めたが、いくらも行かないうちに宿の外に待機していた瑠璃が立ち塞がる。
「悪いな‥‥お前を逃がすわけにはいかないんだ」
 懐から取出した短刀を構えてじりじりと後退していた少女が不意に動きを止めた。振り返ると手にしたスクロールを巻取りながらユスティーナが近づいてくる。
「影縫い‥‥か」
 苦笑と共に呟きながら瑠璃は少女の手から短刀を取り上げた。
 少女を連れて部屋に戻ると既に小間使いの姿は無かった。
「あいつはどうしたんだい」
「一足先に役所に連れて行ったわよ。あなたにはまだ聞きたいことがあるのよねぇ」
「へ〜え、条件にもよるけどね。そっちの質問に答えたら見逃してくれるってのかい」
 薫流の答に開き直ったように薄笑いを浮かべる。
「あなた、自分の扱ってる物が何に使われるか、分かってるんでしょ? それで自分だけは助かりたいなんて、虫が良すぎない? そゆことで、サクッとやっちゃいましょ」
 横合いからユスティーナが真顔でさらりと物騒なことを言い出す。
「そうねぇ‥‥別に他人の生死なんて私には関係ないわ、欲しい情報が得られればそれでいいの‥‥だから教えて頂戴。貴方達の本当の目的はなぁに? 」
 嫣然と微笑みながら薫流も更に畳み掛ける。暫く唖然としていた少女は急に笑い出した。
「アハハ‥‥あんたらいいねえ。うちのお嬢みたいなことを言うじゃないか。別にあたしは無理に助かりたいなんて思っちゃ居ないさ。サクッとやってもらえるんならそれはそれでありがたいね」
「やはりこいつは自警団の前にでもつるし上げておくほうがいいのではないか」
 瑠璃の言葉に顔色を変えて黙り込む。それまで黙っていたテスタメントが口を開いた。
「いい加減、上を押さえなくてはならんからな。この際情報を最優先にして欲しいのだが‥‥それと、できれば無抵抗の者を殺すのは避けたいが‥‥」
「おいらも隠れ家の情報さえ手に入れば見逃してもいいんじゃねーのって思うけど‥‥でもさ、逃げても追っかけられて口封じ始末される可能性大じゃん。牢の中のが安全と思わん? 」
 シトラスの言葉に笑いながら答える。
「さっきも言ったろ。殺されるのはかまわないって‥‥あんな連中の手に渡るよりよっぽどましさ。それにうちのお嬢は死にたがってる相手に手を貸してやる趣味は無いみたいだからね」
「今回人形を売っていたということに違和感を感じているのだが」
「あんた前にも絡んでるのかい‥‥別に金が目当てじゃないよ、ほんの余禄みたいなもんさ」
 結局一味の隠れ家の情報を得たいと言うことから、今回は見逃すことに決まり、伝えられた情報を確認するまで身柄を拘束すると言うことで折合いがつく。

 既に依頼期間の半ばを過ぎていることから、隠れ屋の確認にはやむをえずシトラスが単独で赴くことになった。30kmと言えば1日ではたどり着かない距離である。
 馬を使っても片道で3時間はかかってしまうし、テスタメントはともかく馬を飼い始めて間もないユスティーナが往復6時間を走り続けられる保証もない。
 アースハットのセブンリーグブーツなら二時間といったところだが、やはり街道を無視して最短距離を移動すると言うわけには行くまい。
 あくまでも確認だけで危険は冒さないよう念を押されたが、もとよりシトラス自身が命あっての物種を信条としており言われるまでもないことだ。
 夕刻になって戻ってきたシトラスの話によれば、確かに教えられた通りの場所に廃墟のような館があったと言う。煙突からは煙が上がっていたし、広い庭にはなにやら作業場のようなものも作られていた。何より庭の一角に失敗作と見られる人形の顔や手が大量に捨てられていたらしい。
 約束通り解放されることになった少女に瑠璃が声をかけた。
「お前は人を殺さないほうがよかった。そうすれば私達みたいにならずに済んだのにな‥‥」
 意味を図りかねたらしく暫く無言で瑠璃を見つめていたが、やがて宿に預けていた驢馬に乗ると町の外へと消えていった。

 役所に引返した一同は事件のあらましを報告した。始めは実行犯と共に居た少女を取逃がしたことで不満げな様子だったが、人形遣いの一味に話が及ぶと態度が一変した。
 礼金を支払い、丁重に一行を送り出そうとする。どうやら彼らの守備範囲は酒場の喧嘩程度ということらしい。
 役所や自警団が当てにならないと言うことでシトラスから、一味の後始末は騎士団にでも任せてはとの意見も出たが、さすがにそれでは冒険者ギルドの存在意義に関わるやも知れぬと言うことで却下された。
 とりあえず今回の報告をギルドに上げる為一行はドレスタットへの帰路についた。