●リプレイ本文
出航を控えた桟橋で雅上烈椎(ea3990)は領主館からの使いに馬を預けている。どうやらカヤ・ベルンシュタイン(ea8791)は馬と一緒に猫も預けて行くつもりのようだ。
同行するエルフ達とも明らかに異なる特徴を隠そうとしないカヤだが、船員達の視線はどう贔屓目に見ても好意的とはいえないものであった。
桟橋を離れて行く船の中でゼタル・マグスレード(ea1798)は遥か前方を眺めていた。
「危険な土地に調査に赴くというのに、不謹慎かもしれないが‥‥正直、心が踊るよ。未だ誰も触れ得ぬ未知の大地、謎多き遺跡。探究心と学術的興味ほど、僕を駆り立てるものはない。‥‥とはいえ、せいぜい冥界が己の墓場とならぬよう心得るとしようか」
「冥界‥‥日本の神話でいう黄泉の国みたいなものなのだろうか? 罪人を罰する地獄とは違うようだ。どちらかというと排斥された者の落ち延びの里みたいなものか? 」
冥界と言う言葉に椎も疑問を呈する。
「HAHAHA、逸る気も分かるが船旅も楽しむのだよ若者たち。我輩と一緒に、優雅な午後の茶を愉しもうではないか! むふ、英国紳士に午後の茶は欠かせん日課なのだよ〜」
異様な風体で肉体を誇示するポーズを作りながら一人盛り上がっているのはマスク・ド・フンドーシ(eb1259)だ。
「船の上で湯など沸かせんだろうが」
不本意ながら顔見知りらしいアーディル・エグザントゥス(ea6360)が突っ込みを入れる。
「にしても冥界冥府って嘯くくらいだ。なにか寒々しい感じがするような‥‥」
これまでもたびたび係ってきたドラゴン事件の手掛りを求めて、遺跡の島を探索しようと船に乗り込んだシュタール・アイゼナッハ(ea9387)はそんな様子を黙って眺めていた。遺跡の島の探索自体は友人達から頼まれたと言う事情もあるのだが。
一方カヤは知り合いの瑠璃やエルザらとこれから始まる探索の景気付と称して持参のワインを開けている。
「ニヴルヘイム、死と氷の世界ですか‥‥おとぎ話には聞いていましたが、まさか本当にあるとは‥‥はてさて、ガルムやらヘルやら‥‥何が出ますかね‥‥はぁ」
今ひとつ景気がよくないのは性格的にお化けや怪談話には滅法弱いためであるらしい。
港を出た翌日の夜、船はアイセル湖の入口に近い浅瀬で碇を下ろす。日の出と共に方位を確かめてアイセル湖の中央を目指す手はずなのだと言う。
「なるほど、目的の島はアイセル湖のほぼ中央ね‥‥じゃぁ星見で。あれが北極星だから、とすると島の方向はだいたい‥‥‥‥ゴメン良くわからんです」
途中までは威勢がよかったのだが、どうやら自他共に認める方向音痴であるらしい。
翌朝、針路を定めた船は一路目的の島を目指して航行していたが、突然前方に現れた島に激突しかけてどうにか回避に成功する。上陸地点を探す間アーディルは一人首をひねっていた。
「しかしこの島ってつい先日まで行っていた島なのか。なにやらあの時は海も陸もモンスターだらけだったような気がするが‥‥そういやあんなでかい樹あったか」
上陸地点を見つけると小舟で島に上陸する。上陸地点の直前で断崖に穿たれた洞窟の入口を発見していたことから、遥かに見える世界樹らしきものを目指す仲間と別れて、半数ほどで洞窟の内部を探索することになった。
近づいてみると洞窟の入口は海から見た時よりもかなり大きなようだ。入ってすぐのやや高くなった岩場に拠点を設けることにして船から必要な荷物を運び込む。
更に移動中でもウィザード達が魔法を使えるようにする為、カヤとゼタルの荷物の一部を体力のある椎が運ぶことになり、油壷が割れても他の荷物に被害がいかないよう注意して荷造りしなおす。
最も身軽で体力の有り余っているらしいマスクには飲水とワインの入った樽を運んでもらうことにする。
これはカルナックス・レイヴ(eb2448)が探索時に気を配ることの筆頭に上げた毒と病に対する対処でもある。怪我であればカルナックスの魔法で癒せるが、毒と病気だけはどうにもならないからだ。
人の手が及んでいないことは明らかなだけに、毒性の植物や病の原因となる動物も駆逐されずに存在している可能性がある。下手に未知のものに触らぬよう仲間達にも注意を促す。
拠点の設営が終ると空路道星(ea8265)の提案した隊列で洞窟の奥へと探索を開始した。
ランタンを掲げた道星とマスクが先頭に立ち、カヤとゼタル、カルナックスとアディール、最後をシュタールと椎が固めた。油を節約するためランタンは道星とシュタールだけが持ち他のメンバーは油のみ提供している。
危険な探索を行う隊列の殿を受け持った椎は、横や背後や死角からの襲撃に注意して刀を腰に差し、無手の状態で歩いていく。最初の一撃を真剣白刃取りで受けようとの思惑があるようだ。
またカルナックスは依頼終了後に提出するということで領主館から借り出してきた羊皮紙に、シュタールは持参した魔法スクロールを代用してそれぞれ地図を作りながら進む。途中分かれ道に出合う度に小石を並べてやって来た方向に矢印を作ったり、壁に矢印を刻んだりして道しるべを作りながら徐々に地図の記述を増やしていく。
多くの分岐はしばらく進むと行止りになっており、続いている道は徐々に地底へと下りていくようである。
それぞれが優良感覚を発揮して周囲の警戒も怠らない。加えて先の見えない場所ではゼタルのブレスセンサーやのシュタールのバイブレーションセンサーも駆使して、未知の存在からの奇襲に備えている。
前方が三つの穴に分かれた広間のようなところで壁に伝わる振動を探っていたシュタールが警告を発する。中央の穴からほぼ人間大の存在が数体接近してくると言うのだ。更にゼタルが相手は呼吸をしていないらしいことを付け加えた。
各自が荷物を下ろして身構える中、姿を現したのは数体のの骸骨の群れである。皮鎧をまとい、剣と盾を構えた者もいる。
前衛の道星とマスクの間に椎も加わってこれを迎え撃つ。
「ふんぬ〜! 」
後方から高速詠唱で放たれたカヤのオーラショットで一体の敵がよろめくと、剣を持つ手首をつかんだマスクが掛け声と共に思い切り敵を足元に叩きつける。一撃で盾を持っていた腕が砕け散り、鎧の隙間から肋骨のかけらが飛び散るところを、つかんだ手を離さずに更に続けざまに岩壁に叩きつけた。
残った体もバラバラになり、手元に残った剣を握ったままの肘から先を別の一体に投げつける。奇矯な格好や言動はともかく、周囲が硬い岩に囲まれていることもあって攻撃力は他に抜きん出ているようだ。
ゼタルのウィンドスラッシュとカヤのオーラショットの援護を受けながら道星と椎も敵に当る。
椎は抜打ちに振り抜いた日本刀を得物の重さを載せて真向から振下ろす。それでも動き続ける相手に更なる一太刀を浴びせると援護の効果もあってようやく片がついた。
一方で道星も手数の多さで善戦してはいたが、いかんせん武器の威力の点で椎の一撃と同様のダメージを叩き出すためには四倍の攻撃を命中させなければならない。
攻撃力の低い短剣を置いて水晶剣を作成したシュタールが加勢にまわる。手傷を負って一旦後退した道星にすかさずカルナックスが高速詠唱でリカバーをかけた。
再び戦いに加わり、どうにか五体ほどの骸骨を全て片付けることができた。
戦いの最中アディールが乱戦の中に飛び込んで敵に追い回されると言う一幕もあったが、実は逃げ出そうとして駆け出す方向を間違えたのだと言うことは本人以外知る由もない。
戦闘で傷を負った者達も順次カルナックスからリカバーを施してもらう。道星と椎に比べてシュタール達の扱いが多少適当なのは生来の気質のなせる業であろう。殊にマスクの場合などは接触をためらいたくなるのも判らないでもないのだが。
左右の道が行止りなのを確認すると、骸骨達の出て来た中央の穴へと探索を続けていく。
地下のこととて時間の見当はつかないのだが、そろそろ夕刻ではないかとの意見が出始める。拠点まで戻るかどうかと言うことになったが、枝道を無視できるにしてもここまでの道のりを再び往復することになれば半日は潰れよう。
先に進みながら野営のできそうな場所を探すことになる。洞窟が再び広くなっている場所に行き着くと野営の準備を始めた。
大方の者は毛布や寝袋程度しか持ってきていないのだが道星、アーディル、マスクの三人はテントを持ってきている。アーディルに至ってはテントに加えて中に敷くための毛皮の敷物や、枕代わりにどらごんのぬいぐるみまで持ち込んでいた。
保存食とワインや水だけの簡単な食事を終えると、徹夜の可能なシュタールとゼタルを核として交代で見張りを勤めることになる。尤も二人とも術師である以上最低限の睡眠は魔力を保つ為に欠かすわけには行かないのだが。
ランタンも一つだけ残して油を更に節約する。ゼタルは就寝前に通路に面した要所にライトニングトラップを仕掛けていた。
翌日も更に複雑になる地下の洞窟を地図を作成しながらじわじわと前進する。特に襲撃もなくそろそろ二日目の探索も終えようかと言う頃、再び拠点に戻ろうかと言う案も出たが、シュタールはもう少し奥まで探索することを主張した。
その夜も前の晩と同様交代に見張りを立てながら野営をする。
三日目は進み始めて間もなく二体のレイスの襲撃を受けた。青白い光が近づいてくるのを見て、カヤが高速詠唱のオーラショットを二連射する。ゼタルのウィンドスラッシュとマスクのオーラショットも少し遅れてそれに続く。
道星はロッドの先に銀のペンダントを巻きつけるとレイス達を押さえにかかった。残念ながら、これはあまり効果がなかったが。
その間にシュタールの製作した水晶剣を受け取った椎達が次々と戦列に加わる。水晶剣の数が揃うと間もなくレイス達も退けられた。
最初にレイスに接触した道星の怪我もカルナックスのリカバーで回復する。
その日の探索もそろそろ終ろうとした頃、一行はようやく人工的な構造物に到達した。巨大な石で縁取られた門が口を開いている。警戒しながら中を覗いてみるがドラゴンでも通れそうな巨大な回廊が左右に伸びて闇の中に消えているだけだ。
相談の結果、その夜は門の外で野営することにする。
その夜は夕食の後も暫く話合いは続いた。ノルマン語の解らない道星もどうにか言葉の通じるゼタルやマスクを介したり身振り手振りなどを交えて会話に加わっていた。
翌朝入口の左右に少しだけ進んで見たが、所々に交差する回廊が見られるものの取り立てて襲撃などはない。とは言え既に探索期間も半ばを過ぎており、船に戻らないわけにも行かない。
一行は門を後にすると降りてきた道を逆にたどりながら、改めてはっきり解るように目印を残していく。地図の確認と整理も平行して行わなければならない。
途中で一泊しながら今度は敵に遭遇することもなく海岸の洞窟までたどり着くことができた。
ようやく地上へ出た一行を帰りが遅いのを心配した地上探索部隊が出迎えた。既に七日目の深夜に近いらしく、地下に居た間にだいぶ時間の感覚が狂ってしまったようだ。
拠点を撤収すると迎えの小船に分乗して沖の母船に向かう。
翌朝夜明けと共に船は帰路に着く。帰りの航海の間に地上、地下及び島までの航路などのとりまとめが行われていた。
―― 帰国後、地下の探索で使用した消耗品は経費として支払われることになる‥‥尤も行きの船内で景気付けに使ったワインの分まではさすがに認められなかったようだが。――