〜人形遣い〜 緋色の工房
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■ショートシナリオ
担当:呼夢
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 44 C
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月21日〜07月28日
リプレイ公開日:2005年07月30日
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●オープニング
主から依頼を出すように言い付かってきたと言うその男は事務的な口調で淡々と手続きを済ませていた。
「‥‥と言う訳でよろしくお願いします」
ひととおり説明を終えるとやや多目の報酬を受付に預ける。
「え〜と‥‥ちょっと待ってくださいよ、行き先が良くわからないんですが‥‥」
受付係が依頼内容を羊皮紙に書き込みながら怪訝そうに頭をひねる。
「はぁ、実は私も良くは知らないのですが‥‥おそらくこちらに報告書があがっているのではないかと‥‥」
説明によるとどうやら半月ほど前に調査以来のあった人形による殺人事件の関係者であるらしい。
「そうしますと役所の方から? 」
「いえ、私共の主人は被害者の夫なのですが、あの小役人共と来た日には冒険者の方が犯人を引き渡したあとも暫くは私共の主が小間使いと共犯だったのではないかなどと申しまして。まぁ、居丈高に犯人扱いした手前、振り上げた拳の持って行き所がなかったのでございましょうが」
「それは災難でしたね。しかしこれによるとあまり奥さんとの仲は良くなかったとか」
「依頼に来た役人がなんと言っていたかは知りませんが、旦那様の方は一目惚れだったようでございます。まあ、商売一筋の不器用な方でしたのでご両親に金を積んで貰い受けるような形になり、奥様はそれを根に持っていたようですが」
「はぁ‥‥」
世間の噂とは得てしてそんなものかも知れない。
ともかく、その主なる人物は高価な人形を売りつけた挙句、夫人の命を奪った敵の片割れにも一矢報いたいと言うことらしい。自身が犯人扱いされたことへの恨みも幾分混じっているのかもしれない。
件の隠れ家のことは役人達の耳にも入っているようだが、どうやらまともな相手ではないらしいと聞いて逃げ腰の様子である。とりあえず実行犯の小間使いを捕まえたことで一件落着にしたいようで全く当てにならない。
そんな訳で被害者の夫である商人が自腹を切って冒険者を雇うことになった次第である。
とは言っても、隠れ家の場所はギルドでしか押えていないようだし、どの程度の相手かも今ひとつはっきりしていない。手始めに様子を探ってきて欲しいと言うことらしい。
●リプレイ本文
一行が揃うと水無瀬瑠璃(eb2664)は、前回単独で隠れ家の確認に赴いたシトラス・グリーン(eb0596)に声をかけた。
「では行こうか。隠れ家までの道案内を頼む」
「は〜い、案内料一人1G〜♪ 」
空中ではばたきながら楽しそうに応じたシトラスの頭上に瑠璃の拳が炸裂する。
「ぃてっ‥‥冗談だよ〜なにもグーで殴らなくても‥‥ちょっと場を和ませようとしただけじゃん」
「せずともよい」
瑠璃の返事はにべもない。
穏やかな笑みを浮かべながらその様を眺めている紫藤要(eb1040)も、四本の剣を振るう道化の人形との戦いの際シトラスとは同行していた。
一方ほんの数日前瑠璃と共に遺跡の島から帰国したばかりの御玲香(eb0168)は、人形遣いがらみの一連の事件の発端となった踊る人形と相対した経験を持つ。
「この地図で見ると、目的地と依頼人の住む町とは少し方向が違うようですね」
人形遣いの相手は今回が初めてになるアスター・アッカーマン(eb2560)が、ギルドで渡された地図を眺めながら誰にともなく確認する。
「そうだね〜この間の町を通ろうとすると半日以上回り道になるよ〜」
横合いから要も地図を覗き込む。
「‥‥途中の町、少し中途半端な距離のようですわね。宿に泊るより食材だけ調達して、少しでも目的地に近づいてから野営した方がよろしいのじゃないかしら? 食事でしたら私が作ろうかと思います。趣味と実益を兼ねられる機会は少ないですし、存分に振るわせて頂きますよ」
尤もな話ではある。日の高いうちから宿に入るというのも時間の無駄に違いない。要の提案どおり途中の町は買出しだけで通過することになった。
森の中で一夜を過ごし、翌日目的の隠れ家近くにたどり着いた。シトラスの説明によると正面の森を突っ切ると問題の屋敷の裏手に出るらしい。屋敷から今来た道とほぼ平行して走る別のの街道に出る道は森と反対の方向にあるとのことだ。
森の深さは1キロほどで途中やや土地が高くなっている。前回訪れたときに上空からざっと見渡しただけではあるが付近に他の人家などはなさそうとのことであった。
「それじゃ、ちょっと一回りしてもう少し細かいこと調べてくるぜ〜」
バックパックを手近の木に引掛けると、野営のためのテントを張る場所を整え始めた要や香らを残して飛び去っていく。
程なく戻ってくると木の枝を使って地面の上に大まかな屋敷の配置図を描いて説明する。
それによれば、屋敷の周囲は2mほどの塀に囲まれており、森に面する北側の出入り口は鎖を使って固く閉ざされているらしい。錆び具合などから見て長いこと出入はないようである。
母屋の北側には急ごしらえの作業小屋と思しき建物があり、かなり大きな煙突が何本か見えている。鍛冶仕事をしているらしい音も聞こえていたし、人形の顔や手足を焼き上げる為の窯などもあるようだ。
小屋のすぐ横には材料に使う為か大小の土の山ができている。それにしても少しばかり量が半端ではないようには見えるし、中には小石のようなものも混じっているように思えるのだが。
街道に向かう門の側には何台かの馬車が入りそうな小屋もあり、時折馬のいななきも聞こえてくるらしい。
これらの情報を元に野営の準備を終えた四人も屋敷の下見に向かう。
道すがら、数ある手持ちの武器からハンマーを選んで持参する要にアスターが怪訝な視線を向ける。その視線に気付いたのか自らの得物について説明した。
「人もモノも須らく壊れやすい場所というものが存在しまして‥‥例え硬度を追求しようと、無意味な場所というものがございます。生物であれば四肢の関節、物であれば成型する時に出来た継ぎ目‥‥其処は酷く脆いのですよ」
実際のところ過去の経験からしても、人形と戦うのは人を切ると言うより壷や木箱の類を壊す行為に近いのも確かである。
森の中を30分ほども歩いたろうか、問題の屋敷の裏側が木立の間から姿を現す。
「‥‥紛い物を生む屋敷ね、楽しみだ」
木の陰に隠れて屋敷の様子を伺いながら香が小さく呟く。周りの地形にも目を配り、撤退ルートの検討にも余念がない。依頼の目的と現状の戦力を考えれば、勝つ闘いではなく逃げるための戦闘を行う以外の選択肢ははそう多くない。
「情報が少しでも手に入れば儲けモンか‥‥そう考えるしかないな」
こちらもとりあえず戦闘は得意ではないようだ。
やはり日中はそれなりに屋敷と作業場の間で人の往来があるようで、夜を待って潜入することになる。一行はその場を離れると野営地へと引き返した。
日が落ちると同時に一行は再び動き出す。野営地の方向に注意を引かない為もあり、唯一の出入り口である正面の門から侵入することになった。どうやら門自体には鍵のようなものは見受けられない。
要とアスターはいざと言うときの為に門の近くで待機する手はずになっている。
「それでは皆さん、ご武運を」
それだけ告げると、要は何か物音が有れば即座に動けるように近くの木に隠れる。潜入組が万が一見つかった場合に戦闘を引き受けるつもりだ。いずれも潜入に向く技能こそ備えてはいるが、装備的に唯一近接戦闘が可能な香ですら格闘戦の能力においては遥かに及ばない。
基本は敵の足止めなのだが、人間が出てくるのであれば捕えることも考えている。無論人形であれば問答無用で壊するつもりなのだが。
潜入する二人の忍びにアスターがファイヤートラップを設置しようとする場所を説明する。逃げ出さなくてはならない状況に陥った場合、うまく罠の間を縫って逃げる事で追跡してきた敵を誘い込めればとの算段らしい。先行したシトラスの場合、はなから罠を踏む心配は無用のものだろう。
「防御的にしか使えない罠なんですよ‥‥。ま、ともかく発動するとかなり威力がありますので、くれぐれも近づき過ぎないようにしてください」
門の中に滑り込む二人を見送り、木立の中に身を潜めながらふと我が身の業に想いを致す。
「もう少しで習得できそうなフレイムエリベイションがあれば、すくなくともその効果時間だけは狂化の業から解放されるでしょうか‥‥」
先行したシトラスは手始めに庭の作業場に忍び込んでいた。日中とは打って変わって静寂があたりを包んでいる。内部には作りかけの人形の部品や、特殊な形状の刃物が並べられていた。
作業場の広さや作業台の配置からして、どちらの作業も一人や二人でやっているとも思えない。どうやらこれまで考えていたよりかなり大所帯のようである。尤も職人の数がそのまま戦力になると言うものでもないのだが。
続いて開いていた天窓から屋敷の内部に潜り込む。物陰から周囲を覗うと、念の為レジストメンタルを発動させた。周囲の様子と罠に気を配りながら忍び足で屋敷内を探索する。
うっかり羽音を立ててもまずかろうし、シフールは飛ぶものという常識の裏をかく意図もある。気をつければ避けられる程度の罠というのもそうはないので、ある程度人間基準だろうと高を括るしかない。
まずは突入する時の為に内部の構造を調べてまわる。更に話し声のする場所では可能な限り情報を聞き出そうと試みたが、核心に迫るような話を聞きだすことはできなかった。
これまでの事件に関係するような情報と言えば、人形を操作していた術師が暫く姿を見せないことと、先日人形を売っていた少女が戻っていないらしいという程度である。
玄関の鍵を盗賊道具で開けて進入した香は周りに動くものが無いことを確かめながら、玄関ホールの壁沿いに慎重に移動していた。とは言っても屋敷内のいたるところに人形が置かれて居り、どんなきっかけで動き出さないとも限らない。小さな錘をつけた糸を垂らして床付近に仕掛けられた糸関係の罠を警戒しながら最寄の扉に近づくと中の様子を伺う。
無人と思われる部屋を見つけると、入り込んで内部を調べてまわった。何度目かに潜り込んだ小部屋で人形関係の資料を見つけると持てる限りの物を漁って屋敷を後にした。
一方、屋根裏に潜り込んだ瑠璃は湖心の術を使用していた。暫くは無音で移動できる。
「忍の戦場は影‥‥さて、始めようか。私の『戦い』を」
人形やそれを操る者達の情報を見つけようと屋根裏を移動しだしたが、たちまち思わぬ物に行く手を阻まれた。がらんどうだと思っていた屋根裏が、これでもかと言うような絡繰の舞台裏と化しているのだ。
大小の滑車などを介して、幾重にもロープが張りめぐらされている。かと思えば一室丸ごとの天井裏に大量の石が詰まれていたり、びっしりと槍を埋め込まれた板がロープでつるされていたりもする。
どうやら屋敷丸ごとが巨大な絡繰の実験室のようなものになっているらしい。迂闊に襲撃をかければ、それらの仕掛けを身をもって体験することになるのだろう。
「少し頭痛がする。‥‥全く、厄介なものを作るものだな‥‥」
仕掛けを整備したり改良するための通路であろうか、屋根裏とは言え仕掛けの間を縫って屋敷中に行けるようになっているらしい。奥まった一室には階下に降りる為の梯子も備えられていた。
時間を見計らって湖心の術を掛け直しながら隈なく調べてまわったが、全ての仕掛けが見て判るわけでもないようだ。この様子では一階の床も安全ではなさそうである。庭にある土の山も、そのいくつかは地下に仕掛けを作る為に掘り出しただけと言う可能性すら出てくる。
一通り仕掛けの様子を頭に入れると入ってきた場所から屋根裏を抜け出した。
翌日日が昇ると要やアスターも加わって昨夜の情報を整理し始める。香の持ち出した図面の中にはどうやら瑠璃が見た絡繰に関するものも含まれていたようだ。
シトラスは何度か屋敷の様子を確認しに行っていたが、夕方になってようやく侵入者があったに気付いたらしく動きがあわただしくなっている様子である。
書く物が無かったため、持ち出した図面の裏を利用して調査した内容を整理し、少し時間を置いて更に可能なだけの調査を加えると一行はこの地を後にした。