【ドラゴン襲来】7人の?ユトレヒト候

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 94 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月02日〜08月09日

リプレイ公開日:2005年08月10日

●オープニング

 恒例の定期市が終了した頃、城砦内の一角にある宿を兼ねた酒場跡の二階で複数の死体が発見された。
 酒場の名は『蒼月亭』。既に廃業して久しく、しばらく前にも近くで惨殺体が見つかったばかりの場所である。
 死体の素性は置くとして現場には彼らと争ったらしい者達の複数の足跡が残されていた。更に死者達の仲間と思われ、現場から逃げ去ったらしい二人連れ。
 来訪者が増える時期だけに正確に把握することは不可能だったが、定期市の間に付近で聞き込みを行っていたらしい複数の人間もいたようだ。
 報告を受けながらソルゲストルは執務卓に置かれた飾りに目を向ける。祝勝会に招待した冒険者の一人から贈られたものだ――「前言ってたおっかない冒険者の人も調査とかで来るみたいです」――その時には何を指しているか判然としなかったのだが‥‥。
 報告を聞き終えると暫く考え込んでいたが、何人かの腹心だけを集めて指示を出し始めた。 

 およそ一月後、今度はユトレヒト港で未明に一隻の船が爆発炎上するという事件が起こった。
 やはり事件に先立って、見慣れない冒険者達が周辺で問題の船について聞き込みを行っていたらしい。前回と同様ドレスタットから派遣された冒険者であろうことは容易に想像がつく。
 港で回収された遺体には焼死した者も多かったが、明らかに戦闘で死んだと思われる者も混じっていた。助かったらしい船員も全て夜が明けるころには行方をくらましている。
 どうやら船主はユトレヒトの人間ではないらしかったが、こちらの方もソルゲストルには大方の予測はついていた。どうやら自ら手にした火種が指先を焦がし始めているらしい。
 報告書から件の腹心に視線を転じる。
「例の件はどうなっている? 」
「はっ、既に‥‥」
 ソルゲストルが無言で頷くと、男も黙って一礼し足早に退出して行った。

 更に十日ほど経った夕刻、ギルドの一日が終ろうとする頃エイリークがシールケルの元を訪れた。
 珍しく手土産代りにワインを持参している。杯を手にしながら給仕の者が場を外すのを待ってシールケルが口を開く。
「で、今度はどんな厄介事だ。急に俺と呑みたくなったなんぞという与太は聞かねえぜ」
 無言のまま眺めていた液体を一気に喉に流し込むとエイリークは話を切り出した。
「‥‥ソルゲストル・ユトレヒトが死んだ‥‥」
 一瞬まじまじと旧友の顔を見つめるが、そのまま先を促す。
 そう言う噂がユトレヒト界隈に流れているらしい。噂の発端は例の爆発事件を受けて港の視察に廻っていたソルゲストルの船が何者かの襲撃を受けて炎上、沈没したことにある。
 白昼のことゆえ目撃者も多く、重症を負ったソルゲストルと思われる人物が救助に当った配下の手によって館に運び込まれたと言う。
 が、事件から一日も置かずに本人が市中に姿を現したらしい。白の教会あり、それなりに術師を抱えているであろうことを思えば回復自体さほど訝るようなことではないのだが、どうも少し様子がおかしいようなのだ。
 これまでと異なり周辺を見慣れぬ一団が取り巻いており、候と市民が直接接触するのを避けようとしている気配がある。候自身の様子も日頃の精彩を欠くように見えることから、偽者なのではないかと取沙汰する者も少なくない。何よりも、目撃情報を総合すると同時に複数の場所に姿を現しているように見えるらしいのだ。
 街中では深夜密かに館から墓地に向かう一団を見たなどと言う噂もまことしやかに囁かれ始めている。
 これに呼応するかのように、いくつかある分家などへの側近達の出入も活発化しているらしい。
「後継者探しってことか? 確かにやつはまだ独り身だったな‥‥一国の主と言う立場を考えれば、三十近くなって後継者がいないってのも多少無用心な話だが」
「まあ、やつの事情はともかく一度探りを入れてみてくれねえか。本人が何か企んでいる分には‥‥いや、それはそれで厄介なんだろうが、主がいなくなった所にロキあたりが入り込んで、裏からユトレヒト候国自体を操られでもしたらそれこそ目も当てられん」
「例によってあまり大っぴらには動けねえってことか‥‥」
「そう言うことだ」
 空になった杯をテーブルに置くとエイリークは立ち上がる。
 翌日ユトレヒトに向かう調査依頼がギルドに張り出された。

●今回の参加者

 ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea8933 フォルテ・ミルキィ(30歳・♀・陰陽師・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2355 マクダレン・アンヴァリッド(61歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

リュリス・アルフェイン(ea5640

●リプレイ本文

 出立に先立ってマクダレン・アンヴァリッド(eb2355)はユトレヒト候が港の視察に出る元になった一連の事件に通じている友人を呼んでいた。
 通じていると言うよりそもそも港で起った最初の爆発炎上事件は、リュリス達ドレスタットから調査に向った冒険者とロキ一味との戦闘の結果であるらしい。そのとき倒したロキ一味の幹部らしき連中とはそれ以前にもやはりユトレヒトの潰れた酒場で一戦交えている。
 とは言え今回のユトレヒト候が巻き込まれたらしい爆発炎上事件については全くかかわっていないようだ。
「ロキの仕業にしては派手すぎるね、この一件」
 マクダレンの言を待つまでもなく件の友人は侯爵の自演を疑っているらしい。
 友人からも調査を頼まれているというレオパルド・ブリツィ(ea7890)もその可能性は高いと見ていたが、ロキによる候国の傀儡化の可能性も捨てきってはいなかった。ユトレヒトでの祝勝会に参加したその友人は実際ににロキらしき男と侯爵との密会を一部目撃しているらしい。
 話を聞き終えたマクダレンは変装のための商人風な服装やユトレヒトの地図など調査に必要なものを借りたり、侯爵の分家などの情報を得ようとシールケルに交渉している。
 馬で追いつくと言うマクダレンを残して一行は一路ユトレヒト候国へと向う。
「再度侯国について占ってみる必要があるかもしれませんわね」
 独特の耳を隠す為のフードの陰で思案顔で呟いたのはフォルテ・ミルキィ(ea8933)だった。一行の中で唯一侯爵との面識があり、過日行われた祝勝会の折にも招待客の一人としてユトレヒトを訪れている。
「そるげ‥‥す‥‥とる・ゆとれ‥‥ひと、‥‥とても憶えにくい名前ですね。これでは対人の情報収集は難しいです」
 元々政治向きのことがらにはさほど熱心ではない白銀麗(ea8147)は、街中での情報収集を他の面々に任せて沈んだ船の残骸を調べようとしていた。侯爵の乗っていた船の特徴などだけ簡単に聞き出すと仲間と共にユトレヒトへ向かう。
 途中で追いついてきたマクダレンとも合流し、途中の街で一泊した一行はそれぞれ別行動でユトレヒトの街に足を踏み入れた。連絡だけは取れるように同じ宿を取るが、当座はそ知らぬふりを決め込むことにしている。

 翌朝、レオパルドは街中へ銀麗は港へと出かけていく。フォルテとマクダレンはそれぞれ街中で辻占いや行商ができるかを確認していたが、流通の中継地として繁栄しているだけに各ギルドに簡単な届けさえ出せばいいらしい。
 一足先に街中に入ったレオパルドはあたりの雰囲気に神経を集中する。定期市の時期の賑わいこそなかったが、通りの両側には常設で店を構えた商店のほかに簡単なテントを張っただけの行商人と思しき店も並んでいる。
 全体を見渡した限りでは取り立ててぴりぴりしているという風でもない。ナイトとは言えまだ少年の域を出ないレオパルドが立ち並ぶ商店を物色しながら歩き回ってもさほど訝る者はなかった。手にしたリュートベイルも素人目には楽器としか見えない。
 なにか掘り出し物でも探す態を装いながら、世間話のついでといった様子でユトレヒト候死亡という噂の真偽について探りを入れてみる。
 店から店へと出入する間、尾行にも十分な注意を払う。どうやら特に監視がついている様子はないようだ。
 無用の揉め事を避けるため商店街を取り仕切るギルドに挨拶を済ませたフォルテは、いくつかあると教えられた占い師の集まる場所のうち一番人通りの多そうな場所に出向いてみた。
 前回来た時には侯爵自身の案内で通過した目抜き通りを歩きながら感慨にふける。
(またこちらを訪れることになるとは思いもしませんでしたわ。それも、このような形で)
 先客たちに軽く挨拶して道具を広げると、お客様を待つ間周りに店を開いている同業者などと世間話などをしながらも街行く衛兵の数や動きにもそれとなく注意を払う。
「先日来た時と、何となく空気が違いますわね」
 地元の人間らしい客が占いに訪れると話題を振ってみるが、怪しまれないようにと思えばあまり露骨に侯爵の生死を話題にするわけにもいかなかった。
 マクダレンも一旦は行商人のギルドには顔を出したが、とりあえず市場に出向いて買い物をしながらそれとなく話を聞いてみることにする。
 噂の好きそうな婦人が店番をしている店に見当をつけると客を装って声をかける。話題はもっぱら最近侯爵が連れ歩くようになったという妙な一団のことだ。服装や外見、その中の誰かが侯爵と別行動で目撃された例がないかなどを言葉巧みに尋ねてまわる。
 事件の折に侯爵が運ばれた教会なども聞きだそうとしたのだが、どうやら運び込まれたわけではなく司祭達の方が館に呼ばれたのではないかとのことだった。いずれにしても街中の教会は白と黒各一つあるだけであり、白の教会は広場を挟んで領主館と正対する北寄りに位置している。
 懺悔の名目で訪れてはみたのだが司祭達の口は思いのほか堅かった。
 一人城砦を出て港に向かった銀麗は手近な物陰に隠れるとミミクリーを使用した。腕を伸ばして脱いだ衣服と共に纏めた荷物を見つかりにくそうな木の梢に隠す。
 顔を覚えられる危険を避けるために旅人風の人間に化けると、港のそこここで聞き込みを始める。船の沈んだ場所が分かると、再び人目を避けられる河岸に向いミミクリーでイルカに化けて水中に潜りこんだ。
 水中作業の利便性を考えれば人魚にでもなりたかったところなのだが、銀麗の持つモンスター知識ではそのような希少種を完全に模倣することは困難なようである。
 時折岸に戻って効果が切れる前にミミクリーをかけ直しながら、沈んでいる領主の船の残骸を探して爆破の状況を調べていった。

 その夜宿に戻った一行は夜分に一室へと集まってその日得た情報を交換し合う。
 やはり侯爵の乗った船が炎上、沈没したのは事実らしかった。が、襲撃らしきものがあったかどうかということになると人それぞれであり、襲撃があったという者も犯人のことを尋ねると話が怪しくなる。
 船から助け出された侯爵と思しき人物は教会ではなく館の方に運び込まれたらしい。その翌日からこれまでより街中の視察などが頻繁になっているのも事実のようだ。当日、教会と館の往来が頻繁にあったり、翌日墓地周辺が封鎖されたのも間違いない。
 銀麗が調べた船の状態からすると、やはり今回の爆発は侯爵の自演の可能性が高いようだ。そもそも船自体がそう簡単に炎上などするような代物ではない。炎上させるためには油の類を甲板にばら撒くなどそれなりの準備が必要で、それならば乗っていた者が気付かないはずがない。
 更には侯爵以外にこの件で怪我をしたなどという人物が一人もいないというのも怪しい要素である。
 マクダレンの追っていた一団が侯爵の周辺に現れたのもやはり炎上事件の後からのようだ。主にウィザードやクレリックを中心とする術師らしく、侯爵と街の人間が必要以上に接触するのを阻むような動きをしているらしい。
 
 翌日場所を変えて再び街中で占いをしていたフォルテは、侯爵が視察に出ているとの噂を聞きつけると、サンワードで位置を確認してその場へと向う。
 やってくる侯爵一行と出会うとにこやかに一礼した。
「おひさしぶりでございます、侯爵閣下」
 一瞬怪訝な表情を見せる侯爵だが、同行していた中で祝勝会で見かけたことのある部下が何か耳打ちするとようやく思い出したとでも言うように挨拶を返す。
「失われなかった光は、大きくなりましたわね」
 続いてかけた言葉は同行者達にも聞き覚えがなかったらしく、当たり障りのない返事を返すと周囲に促されてそそくさとその場を去っていく。
 同じ頃レオパルドは持参した礼服を一着に及ぶと領主の館を訪れていた。祝勝会に参加した友人に代って見舞いに赴いたというのが表向きの訪問理由である。
 時間こそ限られたが意外にもあっさりと会見は承諾された。こちらもなぜか祝勝会の招待客を知っていると言う配下が同席して侯爵よりも盛んに会話に参加している。程なくレオパルドは館を辞して宿へと戻ると、着替えを終えて再び街へと出て行く。
 一方マクダレンはこの日ソルゲストル亡き後侯爵家を継ぐ可能性のある分家などを調べまわっていた。シールケルに聞いてきたところではいずれもまだ子供である。最年長の従弟というのが10歳ほど、二人の甥にいたっては未だ幼児であるらしい。
 不穏な動きと言うほどの物は見られなかったが、いずれの家でも明らかに警戒を強めている風が見て取れた。とは言え行商を装って使用人などから話を聞く限りにおいてはにわかに後継者の話が持ち上がっているような様子は見られなかった。

 その夜再び一行は調査結果を持ち寄る。この日も港を中心に調査を進めていた銀麗は事件発生時の状況と沈んだ船の状態から炎上をほぼ自演と断定していた。
 別々の場所でそれぞれ侯爵と会見したフォルテとレオパルドはいずれも侯爵が周囲の人間に操られているような印象を受けたと言う。殊に作戦卓や祝勝会で侯爵と話しているフォルテは、外見はともかく中身は完全に別人と断言した。見た目だけであれば銀麗のような術者なら容易に真似ることができる。
 しかもどうやら二人が別々の場所で会っているにもかかわらず、会見がほとんど同時刻であったらしい。
 結論としては侯爵が何らかの理由で地下に潜ったのではないかと言ったところになる。身の危険も感じていると見え、最悪の場合の候国の存続も考えて後継者となる可能性のある者達への警護も強化しているらしい。
 侯爵周辺の一団は侯爵の偽者達がボロを出さない為と、魔術的な攻撃に対処する為に集められたいわば傭兵のようなものらしい。
 以上の結論を持って一行は帰路に着く。
 報告を出す際、マクダレンは侯爵自身の所在や備えを強化している相手などについても再度の調査が必要ではないかとの意見を添えた