【ドラゴン襲来】選択肢

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 44 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月21日〜08月24日

リプレイ公開日:2005年08月30日

●オープニング

 部屋に集まった一同の前には数日前『契約の宝』の少なくとも一部であると鑑定された例の品物が置かれていた。
「で、その後はまたダンマリかい? 」
 同席のシフールに向ってエイリークが口を開く。スィエルは申し訳なさそうに首を振った。
「あの後ももう一度こいつを見せたんですが、同じことを二度言うつもりはないらしくて‥‥でも、あれはミールじゃない」
「あぁ、たぶん『我ら』とか言う連中なんだろう‥‥『急ぎ正しき位置に戻させよ。我らの元に持て』‥‥か」
 宝に添えられた報告書を一瞥すると、再びスィエルに視線を戻す。
「おまえさんとしちゃ、すぐにもこいつを抱えて例の遺跡に行きたいところなんだろうが事はそう簡単でもねえ。
 まず一つは道中の安全だな。ユトレヒトでロキを見かけたって件の報告書からすると、向うもお宝が完全な物でないことは気付いてるらしい。こっちの手にあることまで知ってるかどうかはともかく、知れれば当然狙われることになる。
 次に無事遺跡にたどり着けたとして『正しき位置』ってのの情報がさっぱりだ。とりあえず前回の報告だと妙な街や城壁まではこっちが余計なちょっかいを出さなきゃ割とすんなり行けたらしいが、お宝を持参したとなると話が変ってくるかも知れん」
「意外と盛大に歓迎してくれるかもしれませんぜ」
 ニヤニヤしながら軽口を叩いた一人がエイリークに睨まれて頭を掻く。
「最悪の場合は遺跡の住人に宝だけ取り返されて追い払われる可能性もあるってことだ」
 実のところ本当に最悪なのは追い払われすらしないことなのだが、さすがにそこまで口にする者はいない。
「とは言っても、いずれその『我ら』って連中の所に持っていかなきゃならんのも確かなんだが‥‥前回の報告だと遺跡で襲ってきたララディもミール嬢の説得で攻撃せずに引揚げたようだし、残りの宝のこともあるから交渉の余地がないわけでもない」
 遺跡で書き取ってきたらしい古代文字の写しも提出されていたが、解読は遅々として進んでいない。
「とりあえず宝を持たずに遺跡に出かけて、片割れを持っているって言う情報だけを材料に交渉できる相手を探すなり自力で戻し先の情報を手に入れるか、それとも危険を承知で宝を持ち込むかだな」
「どちらにしても冒険者の力を借りることになるなら、いっそ彼らの意見も聞いてみたらどうだ‥‥いやどうです? 危険なりがあるとしてそれに直面しなきゃいけないのは彼らだし」
 既に領主館に逗留して長いのだがなかなか口調が改まらないらしいスィエルが提案した。
 実際のところすぐに宝を持ち出すにせよ、事前に戻し先を調べるにせよ実行は冒険者の手に委ねられることになるのも確かである。
 こうして入手した『契約の宝』の扱いについて冒険者達の意見を求めることにになった。

●今回の参加者

 ea3990 雅上烈 椎(39歳・♀・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea5640 リュリス・アルフェイン(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea9387 シュタール・アイゼナッハ(47歳・♂・ゴーレムニスト・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 領主館の一室に入ってくる冒険者達にシフールの青年が挨拶する。いずれも見知った顔だ。
 リュリス・アルフェイン(ea5640)とシュタール・アイゼナッハ(ea9387)はつい先日、今回問題になっている『契約の品』の鑑定で顔を合せたばかりだったし、リュリスらと共に二人のシフールが領主館に保護されるきっかけを作ることになった白銀麗(ea8147)の姿もある。
 前後二度のアイセル湖への探索に銀麗らと共に参加した雅上烈椎(ea3990)も、策を巡らすのは不得手だとは言いつつ顔を見せていた。二度目の航海でシュタールや椎は島の地下深くに作られた遺跡に到達している。
「片割れか‥‥ロキがユトレヒトで探していた物はまた別の物か? 」
 自身ロキの手下を追って幾度かユトレヒトを訪れているリュリスが疑問を口にする。侯爵の招待でユトレヒトを訪れた冒険者の何人かからも、館や市中でロキらしき男を見かけたとの報告が上がっていた。
 ユトレヒトで戦ったロキの手下も侯爵とロキとの繋がりを匂わせていたし、侯爵の館で宝の片割れ云々との密談を耳にしたという報告もある。
「『急ぎ正しき位置に戻させよ』とは言われたものの、今すぐ返却と云うのは不確定要素が多すぎるので反対だのぅ」
「私も当面は『契約の品』の一部を戻さずに、イグドラシルの島の調査・監視を続けるべきだと思いますね。ただ、精霊力の異常が拡大すると戻す事が難しくなる可能性はありますけど」
「そうなると向こうの精霊力の乱れが、ミールさんに悪影響を与えるかもしれんからのぅ‥‥。それを考えると急がねばなるまいが‥‥」
「確かに『彼ら』が『最後の時』と呼ぶタイムリミットは存在するでしょう。調査はできる限り急ぐ必要がありますね。
 ララディの言った『宝を島に持ってこなければその先の段階へは進めない』という言葉は、宝を持ち込む事でそこへの道が開ける、とも解釈できます。なら、ロキは私達が宝の一部を戻す瞬間をこそ狙っているのかも知れません」
 シュタールと銀麗の会話にリュリスも頷く。
「遺跡については概ね白に同意だ。先の段階へ進む、つまり遺跡の最深部へ向うには角笛が必要な可能性がある。角笛を持っていくにしてもその前に必要な事は幾つかあるがな。
 ユトレヒトの監視も重要だ。遺跡は彼等の勢力範囲、下手に動けば包囲される危険もある。連中の動きはなんとしても掴んでおきたい」
 実際のところこちらからは海路を使っても有に二日はかかる遺跡への距離なのだが、向うは一日かからずに到達できる。この距離の差は圧倒的に不利な条件だ。
「奪われたモノを手に入れたなら返すのが道理だが‥‥問題が多いな。
 果たして一部を返しに行ってそれだけを受け取ってくれるのか? 全てが揃っていないと受け取ってくれないなんてことになるととても厄介になる」
 椎も考え込みながら自らの疑問を口にする。
「できれば白達が出会った大蛇にでも事前に片割れを早急に戻す必要性があるか聞きたいところだ。地下遺跡内部の事もな」
「確かに情報が不足だのぅ。わしも友人達と手分けをして関連情報を集めておるのだが‥‥今頃わしの友人が『宝』の塔に出向いておるゆえ、その結果で何か有力な情報が手に入ればよいがのぅ。
 可能ならソラチさんを通して、ドラゴン達に渡りをつけて貰いたい所だがのぅ」
「まあな。まず下級でもいいから中級か上位のドラゴンに繋ぎをつけれるドラゴンに接触したいところだ。目撃情報でもあればいいんだが。宝を戻すにしても彼らの協力は必要だろう」
「受け取ってくれるか確めたとして、それを狙っている勢力がいるということで危険は大きいな」
「遺跡に行くにせよ宝を戻すにせよ、ロキは一度遺跡を襲ってるしな。それも精霊力が乱れていない状態で宝を持ち出すのに成功してる。油断はできねえ。
 ユトレヒトもその気になれば襲えるだけの戦力があるし地の利もある。最悪三つ巴の戦いだけは避けたいところだ」
「ロキとそのなんとか言う侯爵は手を組んでいるようでしたけど‥‥三つ巴になるのでしょうか。確かに先日の調査では館での接客も市内の視察も全て影武者を使って、本人は姿を隠しているようでしたけど」
 少し前に銀麗はユトレヒトの動向を調査に赴いていた。
「どうせ何か碌でもねえことを企んでるんだろう。どの道一枚岩って訳でもなさそうだしな」
 リュリスの答はにべもない。椎が更に問題点を挙げる。
「保管している間に大掛かりな襲撃を受けて奪取される可能性はどうなのだろう? 」
「ロキには海戦騎士団と正面切って戦うだけの戦力はないだろう。色々と小細工を仕掛けてくる可能性はあるがな」
「ユトレヒト候なら戦力はあるだろうが、先日ララディ殿も指摘しておられたようにそうなれば戦争だからのぅ」
「ああ、こっちにはノルマン王国の後ろ盾もあることだし、宝を完全に手にいれてねえ限り自分の国を質にしてそこまで賭けに出るとも思えん」
「そうするとやはり宝を遺跡に戻すときが一番危険が大きいと見ていいのか。情報収集と撹乱を担当する班、実際に輸送と護衛と交渉に当たる班に分かれて敵の目を眩ませるなどの作戦を立てた方がいいな」
「そいつは実際に宝を持ち込む時の状況次第だがな。まずはユトレヒトの調査と、島の予備調査が先決だ。
 ソルゲストルは宝にも興味がありそうだしな。島のほうももう少し詳しい情報が欲しい」
「情報の収拾は書簡関係ならわしか友人が出向くし、遺跡の調査なら今も島に行っている別の友人が行く事になるかのぅ」
「宝が精霊力の乱れを抑えていたのだとしたら、遺跡自体に『契約の品』の力をコントロールする場所・条件が隠されているかもしれませんね。
 私が最も警戒しているのは、島で起きている精霊力の異常が拡大することです。『宝を失ったことによる精霊力の乱れによって安全は保障できない』と月精霊ララディは言いました。精霊力の異常が強まれば、島はより危険になり、宝を戻す事自体も難しくなるでしょうし‥‥もし、この精霊力の乱れが島の外まで広がり、その威力が暴走と呼べるまでに成長したなら、恐るべき災害を引き起こすでしょう」
 銀麗の描く未来図に一同が沈黙する。
「幸い、『最後の時はまだ遠いはず』ですから、私達はタイムリミットをしっかり見据えながら調査を急ぐべきでしょうね」
 再び口を開くと、重くなった雰囲気を振り払うように穏やかな微笑を浮かべた。

 結論としては以下のような方針が取りまとめられた。
1.とりあえず『契約の宝』は持たずに遺跡の島に赴き、宝を戻す為の予備調査と可能であればドラゴンやララディなど遺跡について情報を与えてくれそうな存在との接触も試みる。
2.宝を持ち込む際の周辺の安全を確保する為、ユトレヒト候国の動向を調査する。
3.『契約の宝』や遺跡に係りそうな情報を収集・整理する。
4.以上の調査に基づいて宝を遺跡に持ち込む際の編成などを考える。

 集まってくれた冒険者達に礼を言いながら、エイリークの部下が報告書をしたためるのを眺めていたスィエルがふと呟く。
「しかしロキってやつはいったい何者なんだ。高位の精霊達の力とドラゴンに守られた遺跡から宝を持ち出せるなんて‥‥どんな力が?」
 冒険者達からも答は得られなかった。