【ドラゴン襲来】蜜月の終焉
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■ショートシナリオ
担当:呼夢
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 45 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:09月21日〜09月28日
リプレイ公開日:2005年09月29日
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●オープニング
ギルドの奥にある執務室で報告書に目を通していたシールケルは、ノックの音に書類から顔を上げた。
「おう、入っていいぞ」
扉を開けて入ってきた事務員になにか声をかけようとしたが、続いて招き入れられた男の顔を見たとたんに大げさに額に手を当てて見せる。
「どうした、頭痛でもするのか? 」
赤毛の領主が椅子に腰を下ろしながらニヤニヤと声をかける。
「あぁ、たった今急にな」
応じながら目を通していた書類を片付けると客の向かいに移動する。案内してきた事務員はうつむいて笑いをこらえながら部屋を出ていった。
二人だけになるとエイリークの顔から笑いが消える。シールケルが機先を制した。
「また、ユトレヒトか? 」
「まあそう言うことだ。向うに人を出すとなると政治絡みでいろいろと厄介なんでな」
頷きながら一通の書簡を差し出す。黙って受け取り、中の書面にざっと目を通すと再びエイリークに目を向ける。
「胡散臭い話だが‥‥出どころはどこなんだ? 」
「おそらく最近隠れんぼを始めた御仁だ‥‥無論、確かな証拠があるわけじゃないがな」
「どう言うことだ? あの二人は裏で繋がってるって話だったはずだが‥‥罠か? 」
「ちょっと違うな。いつになっても『契約の宝』を揃えられないロキに痺れを切らしたのかどうかは判らんが、どうやらやっこさんを厄介払いしたくなってるらしい。事のついでにロキの持ってる分の宝を手を汚さずに自分の物にできれば一石二鳥って言う寸法だ」
「ネタの出どころは詮索しねえが、そこまで解っててわざわざ手を貸そうってのはどういう了見だ? 」
「向うの腹積もりはともかく穴篭りしているロキに手を出せるかも知れねえ願ってもない機会だ。先日も冒険者からロキを逮捕しにユトレヒトに乗り込もうって提案があったのを外交上の理由で却下してるんだが、向うが見て見ぬ振りをしてくれるなら好都合だ。それに向うの思惑通り宝をくれてやる筋合いもねえしな」
「解った。とりあえずアジトに乗り込んでの海賊退治ということで人を集める。行先は適当にぼかしておいて人数が揃ってから伝えたほうが良さそうだな」
「その辺のところは任せる。それとな、もう一つ頼まれてもらいたいんだが‥‥」
まだ何かあるのかとでも言いたげな様子には一顧だにせず、更に話は(別の依頼に)続く。
こうしてごく普通の海賊退治を装ったユトレヒトへの派遣依頼が出されることになった。
●リプレイ本文
海賊退治の真の目的を明かされた一行の反応は様々だった。これまでに一再ならずロキの一味と対峙した経験のあるものも少なくはない。
リュリス・アルフェイン(ea5640)とブラン・アルドリアミ(eb1729)はユトレヒトの港と街中でロキの腹心と思しき男達と戦っていたし、雅上烈椎(ea3990)は更にアイセル湖への途上で何者かの襲撃を受けたという経緯もあった。
かつてユトレヒトでロキ本人と思しき男と言葉を交わしたことのあるユスティーナ・シェイキィ(eb1380)は、果たして本物であったのかとの疑念を交えながら仲間たちに人相を伝える。
「似顔絵も描いてみたんだけど、我ながら似てないわ。白髪で琥珀色に近い茶色の瞳か‥‥あの耳はたぶんハーフエルフだね」
イコン・シュターライゼン(ea7891)もやはり同じ依頼でロキらしき男を目撃していたが、夜だったり人混の中であったりしたために白髪以外はそれほどはっきりと確認していない。代りにロキやデビル関連で調査した情報を一行に伝える為に友人のシュタールとタケシを呼び寄せていた。
一方でユスティーナも兄のクーラントや友人のヤトからいくつかのアイテムを受け取る。下準備を終えるとユトレヒト候との交渉に向かった一団を追ってドレスタッドを後にした。
街に着いた一行は早速目的の船を捜し始める。漣渚(ea5187)は港へは行かず、港で働く者達が溜まり場にしよる酒場に足を向けた。
「ここら辺は初めてなんやけど、なんやおもろい話ある? 」
船客達に立ち混じって気さくに声をかける。お近づきのしるしと称して酒などをおごりながら世間話に紛らせて情報を集めていった。
愛犬のラーマに跨って港に赴いたヤマ・ウパチャーラ(eb0435)は、ゆっくりと港を巡りながらあたりの様子を観察する。特に騎乗が得意でもないのに手綱さえつけずに犬の背に乗っていられるというのも不思議な話だがおそらく幾分浮遊でもしているのだろう。
考古学者の卵と言う振れ込みのユスティーナは、酒場で北の遺跡に向かう船の情報を得ようとしたが成果はなく、港でのロキ探しに重点を移していた。
念のためにかけたリヴィールエネミーに反応するものこそいなかったが、目撃情報はあっけないほど簡単に集まった。侯爵の後ろ盾があると言うことでかなり大胆に行動しているらしい。
異邦人であることを利用して直接船に当って回ろうとした椎もあっさりと目的の船らしき物に辿り着くが、思わぬ相手との遭遇に急いで港から引揚げることになる。
意外な展開に早々に宿に戻った面々は一室に集まった。
「港の外れに係留されているバイキング船が怪しいようですね」
「あのあたりだけ館から派遣された警備がついてるみたいで追い返されたよ。なにか高価な物積んでるって言ってたけどね」
イコンとユスティーナの報告に椎もダメを推す。
「おそらく間違いないだろう。以前アイセル湖で襲撃してきたやつらが何人か出入しているのを見かけた。無論こちらのことは相手には気取られていないはずだ」
「少し、簡単にことが運びすぎるような気がしますが‥‥」
話を聞いていたルナ・ローレライ(ea6832)が疑問を呈する。
「おそらく、誰かがそうなるように仕組んでいると言うことでしょうね」
「あぁ、例の侯爵さんか。まったく手回しのいいことだな」
ヤマの答えにリュリスも応じる。どうやらかなり大量の荷物を積んでどこかに向かおうとしているらしいことも聞きこんできていた。
「遺跡の島かその近辺に拠点でも作ろうとしているのか? それなら荷物ごと燃やしてしまえばかなり時間も稼げるだろう。幸い他の船とはかなり離れた場所にいるようだしな」
「火付けかいな‥‥港におる他の関係ない船にも被害が出るようなら、船乗りの端くれとして味方でも許さへんところやが、まあしゃぁないか」
「港の中で船を破壊するという手は可能な限り避けたいところだがな。こちらの正体がばれるとユトレヒトの人々の印象が悪くなる」
やや難色を示しながらも渚と椎が応じると、それまで黙って話を聞いていたブランが提案する。
「襲撃のタイミングですが、引揚げ期限の最終日かロキが姿を現す出航日‥‥なるべくぎりぎりがいいのではないですか。ロキが顔を出すなら、契約の宝の片方はその日に持ち込まれる可能性が高いでしょうから」
「そう言うことなら、それまでの間にロキの船の喫水線付近の外板に何カ所かメタボリズムを掛けておきましょうか。もし取り逃がしても、腐敗が進めばそのうち浸水してくるはずです」
ヤマの提案も受け入れられ、各々ロキが現れるまでにできるだけの準備を整えることになる。
日中の強い日差しを避ける動きで、問題の船に続く道に立ったルナは息を整えると周囲に人影のないのを確認して印を結ぶ。
「刻を見守る月よ。見守りし、刻の流れを今我に示せ‥‥パースト」
問題の船の周辺での人の出入を再度チェックし、できるだけ敵の戦力が少ない時間を狙えるようにする為だ。
リュリスも港の退路確認に赴く。船員と面識のある椎と、以前にも港で聞き込みを行って顔を覚えられている可能性のあるブランは宿で待機する。
ロキが姿を見せないまま日にちが過ぎる中、夜間は領主側の見張りが引き上げ、船の周辺に残る人数が多くても10名を超えないことも判ってきた。船体の腐敗も徐々に拡大しつつある。
夜半過ぎ、桟橋で見張りに立っていた海賊の一人は不意を撃たれて昏倒する。イコンの木剣によるスタンアタックだ。
仲間の異変に気付いたもう一人の見張りが声を上げるが、こちらも椎と渚の挟撃を受けて程なく沈黙する。
一方船に駆け寄ったリュリスは桟橋と船を繋ぐ渡り板を次々と蹴落としていったが、全て始末する前に船内の敵が残った板を渡り始める。
「前回と同じ港にまた出てくるなんてな! 余裕かましすぎると後で泣くぜ! 」
魔剣と小太刀を両手に構えたリュリスは板を渡ろうとする敵の足元を狙って攻撃を仕掛ける。
オーラの力で気勢を上げた渚も新たに作り出したオーラの剣とメイスを振るって敵に当っていた。
イコンからシルバーダガーを借り受けていた椎だが、当面の相手には日本刀で対峙すると抜き打ちに相手の足元をなぎ払う。
イコンもすでに木剣を聖剣に持ち替え、3人の間を抜けてこようとする敵を牽制していた。
桟橋側で戦いが続く中、件の船に向って奇妙な箱のような物が水面を滑るように近づいてくる。程近いところで水中から顔を出したのはユスティーナだ。箱の中を探るとスクロールを取出し僅かな月明かりで意識を集中する。が、暫くたっても別段何もおこらない。
「う〜ん、やっぱりダメか〜」
どうやら木造船には使えないと言われたウォールホールを試してみたらしい。やってみないと気がすまないあたりいかにも彼女らしいのだが。
今度は油瓶を取出すと船縁越しに流し込み始める。最後に油をしみこませた布に火をつけたものを放り込むと、再び水中に身を潜め一目散に船から離れ始めた。どうやら箱の中には濡れては困る物が詰め込んであったらしい。
船尾付近に突然燃え上がった火の手に敵が動揺する中、炎に浮かび上がった敵の姿を目がけて後方に待機していたブランが矢を放つ。
船から離れたユスティーナの元にヤマが舞い降りてくると、メタボリズムで弱っている船首付近に向けて重力波を撃つように勧めた。
船尾からは炎に追い立てられ、桟橋側は冒険者達に塞がれてなんとか活路を切り開こうとする海賊達に向かって、小太刀を渡り板に付き立てたリュリスが用意しておいた油入りの皮袋を投げつける。
火の手が更に広がる中、船首付近からは鈍い衝撃音が響いてきた。何発目かの重力波で腐りかけた外販に穴でも開いたのであろう、突然船が大きく傾き積み上げられていた荷物が雪崩を打つ。既に火に包まれていた帆柱も火の粉を撒き散らしながら倒れていった。
水に飛び込んで逃げ出した者もいたようだが、どうやら遺跡に向かうはずだった船は大量の積荷もろとも始末することができたらしい。
『そちらに何人か向かいました、気をつけてください』
桟橋の入口付近で待機していたルナの警告が全員の頭の中に響く。ひづめの音とともに姿を現した3人の男達は、馬から下りると冒険者達と対峙した。
中央に立つ痩身の男は紫のローブを纏っている。
「てめぇがロキか? 」
剣を構えながら詰問するリュリスに対しても薄笑いを浮かべたまま答えようとしない。
「余裕かましてんじゃねぇ! 」
一斉に切りかかる冒険者達の前に左右に控えた部下達が剣を抜いて立ち塞がる。数では負けていないのだが先ほどまで相手をしていた海賊達とは格が違うらしい。
上空から接近したヤマのブラックホーリーが一方の男を襲う。と同時に男の動きが止まった。少し離れた所ではようやく桟橋に上がってきたユスティーナがスクロールを広げていた。
一人倒せば後はさすがに数の優位が圧倒的になる。続く一人もどうにか片付けると剣を構えた4人がロキを取り囲んだ。後方からは銀の矢をつがえたブランが弓を引き絞る。
「デビル魔法を使うかもしれません。気をつけてください」
囲まれたまま悠然と薄笑いを浮かべるロキを見てイコンが注意を促す。
「‥‥いつものことながらご苦労なことですな。しかし、これで私に勝てたとでも思っているのですか? 」
からかうような口調で平然と言い放つ。
「今日のところはここまでと言うことにしましょうか‥‥ではまたいずれ」
言い終えると同時にその姿は掻き消すように消滅した。
「やはり‥‥ロキはデビルの力を持っているのでしょうか? 」
弓を下ろし手中間達の元へと近づきながらブランは誰にともなく問いかける。おそらく何処かへ転移したのであろうロキを追う術は誰も持ち合わせていない。
乗り手を失った3頭の馬と半ば沈んだままくすぶり続ける船、そして幾人かの死体を残して一行はその場を離れる。白兵戦を行った4人は何れも少なからず手傷を負ってポーションの世話にならねばならなかった。
ロキ一味の遺跡行きは辛うじて阻止できたものの、その脅威はいまだ去っていない。