剣術トーナメント〜ちっさいひと版〜
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■ショートシナリオ
担当:呼夢
対応レベル:1〜3lv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月02日〜07月07日
リプレイ公開日:2004年07月11日
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●オープニング
何か面白い話でもないかと冒険者ギルドの中を飛び回っていたあなたは、柱の陰を回った途端に1人のジャイアントに激突しそうになり、とっさに身をひねって着地する。
うまくかわせてほっとしたのもつかの間、なにやら足元の感触がおかしい。恐る恐る足元に目をやると案の定、職員らしい男の頭の上であった。
「あ〜っ、わりぃわりぃ」
慌てて飛び立つと頭をかきながら謝るあなたに、髪を整えながらにこやかな笑顔を向ける。
「気にせんでもいいよ、なかなかいいフットワークじゃないか。そこで相談なんだがね、こいつに出てみる気はないかい」
そう言うとなにやら文字の書かれた板切れを示す。
なにやら見覚えのある職員だと思えば、この前もそんなことをやっていたような‥‥どうやら意気込みも空しく今回の籤引きも玉砕したと見える。
『剣術トーナメント大会(空中戦)参加者募集
広場の特設会場にて、試合用の模擬剣と防具を使用した剣術トーナメントを行います。我こそはと思わん方は奮ってご参加ください。
なお賞品として優勝者には10G以下、準優勝に5G以下、審査員特別賞には3G以下で街の商店で売っている数量限定でない商品1点を差し上げます。
参加資格は飛べる方』
「はぁ‥‥防具なんかつけて、まともに飛べるんかい」
「大丈夫、ごく軽い皮製の盾だけだから」
「そんなもんだけで、もし当たったらどうするんだよ」
「いやね剣の方もジャパン伝来のシナイってのがあってね、こいつなら当たっても大した事にはならんよ」
「ほんとかよ‥‥」
「いやぁ、思い切り当たればアザくらいはできるかもしれんが‥」
「‥‥」(おいおい、人事だと思ってからに)
「いや、まあ相手もシフールだし‥‥」
「‥‥‥‥」(む〜っ、そんなに力はないってか)
なにやら雲行きが怪しい、だんだんと男の汗をぬぐう回数が増えてくる。
「アハハ‥‥」
しまいには笑顔を引きつらせたまま、ひたすら汗をぬぐっている。
いい加減、おっさんをからかっているのにも飽きてきた。
「出てもいいけどさぁ‥」
そう言いかけると、いきなり両手を握って上下に振り回す。握手のつもりだろうがたまったものではない。
「こらぁ〜」
「あ〜、すまんすまん‥ついうれしかったもので‥」
慌てて手を離すと、近くの空いたテーブルに申込書を広げる。
あなたが言われたところに署名すると小さな木の札を渡す。
「この札を当日、参加受付に出してください。それでは御武運をお祈りいたしますよ」
笑顔をむけつつ、手をヒラヒラさせながら遠ざかっていった。
●リプレイ本文
剣術大会があると聞いて会場へとやってきた天薙 龍真(ea4391)は、運営側と交渉してなんとか控え室に入る許可を取り付けた。もっとも、ジャパン語しか話せない龍真が、1人で運営側と交渉できるはずもなく、たまたま会場で出会った群雲 蓮花(ea4485)に通訳を頼んだ上でのことである。
控え室に1歩足を踏み入れた2人は思わず顔を見合わせた、剣術大会の控え室とは到底思えない華やかさである。それもそのはず、出場者の大半が女性なのだ。ようやく見つけた唯一の男性はと言えば。
「ふぇぇん、来たくて来たわけじゃないんですぅ〜!お、お仕事探しに来たら‥掴まって‥‥うゎぁぁん、詐欺ですぅぅ!!‥‥勝てるわけないですぅ‥」
などと泣き付いてくる。
他の出場者が試合用の竹刀と盾の品定めをする中、華国から来た武闘家は剣なしで戦うと言う。見かねた龍真が蓮花の通訳を借りて説得し、剣による戦いについて臨時の講習をすることにした。
やがて、いよいよ剣術大会が始まる。
最初に試合場に姿を現したのは、燕 桂花(ea3501)だった。相手がまだ出てきていないのを確かめると、試合用の剣と盾を審判に預けて拳法の型を披露し始める。はるか東方のに伝わる十二形意拳である。酉の奥義『鳥爪撃』、目にも留まらぬ蹴りの連続技に、場内から一斉に拍手が沸き起こった。
型を終えると四方に向かって華国独特の礼を施しながら笑顔を振りまく。会場内に手を振りながら審判の元に戻り、剣と盾を受け取るが対戦相手はまだ姿を現さない。
ようやく拍手が収まりかけたところで、広場の近くに立つ鐘楼の上から高笑いが響いた。観客達の視線が声の方に集まる。そこには、全身を体にぴったりとした白尽くめの服装で包み、自分でデザインしたらしい奇妙な筒状の帽子を被った、ターニャ・ブローディア(ea3110)の姿があった。
全員の注目を集めたと見ると、ターニャは鐘楼から大きくジャンプ、サッと羽を広げると一直線に試合場へと舞い降りる。最後は華麗に3回転した後、羽を羽ばたかせて着地した。
「怪盗ブローディア参上! お客のハートも勝利の女神もばっちり盗んじゃうよ♪♪」
帽子を空高く放って派手に名乗りを上げると、あっけにとられていた見物人たちも我に返って喝采を送る。
開始の合図で飛び立った2人は、互いに相手の頭を押さえ込もうと剣を振るう。互いの剣が相手を捕らえると、ターニャは思い切り剣を横に払った。桂花はそれを盾で受けながら、下に回りこんで攻撃する。
再び高度をとろうとする桂花の頭上にターニャが剣を振り下ろす。桂花の剣もどうにかターニャを捕らえたがやや威力がない。続く攻撃を防御しながら、ターニャはポイントを重ねていく。
桂花が放った渾身の一撃はターニャを直撃したものの、攻撃を受けながら下方に回りこんだターニャの攻撃にとうとうポイントを削り切られてしまった。
「勝利の女神ゲットだよ」
「はぁ〜、だから剣なんて無理だって‥‥‥」
礼の後、突然竹刀を手に激しい剣舞を披露し始めたターニャを横目に、桂花は溜息をつきながらゲートへと帰って行く。
「やはり付け焼刃では無理だったようですね」
試合を見ていた龍真も、苦笑しながら蓮花に声をかける。
「そうでしょうね。剣の道はそれほど生易しいものではありません。それでもよくやった方でしょう」
経緯を知る蓮花もそう応えたが、かといって相手が特に剣術に長じていると言うわけでもないように思えた。
続いて第2戦の出場者が告げられたが、対戦者の1人がなかなか現れない。見物人がざわめきだした頃ゲートの中から1個の酒樽が転がりだしてきた。あっけにとられる対戦者の目の前を通り過ぎ、反対側のゲートまで転がっていくと、そのまま激突してバラバラになる。
ちょっとふらつきながらも、樽の残骸を跳ね除けて仁王立ちになったのは、タイム・ノワール(ea1857)だった。
「さぁ、2杯目いくわよ!」
ワインの滴でキラキラと輝く髪をかきあげながら不敵に笑うと、おぼつかない足取りで対戦者の前に進み出る。
「あの樽まだけっこう入ってましたよね」
蓮花が龍真の耳元で囁くと、龍真も頷く。
「飲み干してしまったようですね」
あっけにとられていた審判が気を取り直して試合開始を宣言すると、2人は同時に飛び立った。酔いのせいで出遅れたかと思われたタイムが、下から回り込んで機先を制する。上を取ったことで油断をした相手が、意表を衝かれて狼狽する間に一気に胴をなぎ払う。
相手も、上空に出たタイムの攻撃はなんとか防御したものの、縦横に飛び回るタイムに効果的な打撃を与えられないようだ。酔いの回ったタイムの動きが相手の予測を困難にしているらしい。得意の回避行動でどうにかしのいでいたが、下からの攻撃をなんとか受け止めた直後に、返す刀で頭上から見舞われた一撃が勝負を決めた。
タイム達が引き上げると、再びターニャが飛び出してきた。一方のゲートからは、籤引きで1回戦の不戦勝を得たルー・ノース(ea4086)がいかにも頼りなげに羽ばたいて出てくる。
ルーがようやく位置につくと試合が開始された。盾の陰に隠れながらも、とりあえず剣を振り下ろす。ターニャの剣も同時にルーの頭上に振り下ろされた。
「いった〜い!ぶった〜!」
あっけにとられているターニャに向かって、何を思ったかいきなり大上段に構えて剣を振り下ろしてくる。
「避けないでくださぁい!!」
何を勝手な、と思いつつターニャも盾を構えないまま、ルーの胴を思い切りなぎ払う。
「いやぁん、痛いですぅ〜。ブローディアさん、本気でぶちました〜」
「あなただって本気で打ち込んだじゃない!」
さすがに腹が立ってきたターニャが、続いて頭上に思い切り打ち込むと、防御しながらも打ち返してくる。
「うゎぁぁん、苛めないでくださぁいっ」
べそをかきながらも休まず打ち込んでくる剣を一旦受けると、ターニャは再び頭上に剣を振り下ろす。
どうやらようやく勝負はついたようだ。ルーは剣と盾を放り出すと、座り込んで本格的に泣き始めた。
「傷跡が残ったら‥‥お嫁にいけません〜」
観客達の爆笑の渦の中、審判に宥められて、めそめそしながらゲートへと消えていく。ターニャも勝ったとは言え、さすがに剣舞を踊る気にもならず、ゲートへと飛び去っていった。
「やれやれ‥‥ところで彼は何を言ってたんですか?」
見送っていたに尋ねるが、蓮花も答えに窮した様子で言葉を濁した。
「私の語学力ではちょっと‥‥もしかすると文化の違いなのかもしれませんが‥‥」
実はどちらでもないと言う現実には思い至らなかった。
場内のざわめきが静まると、タイムが再び登場する。どうやらワイン付けになった服は着替えてきたようだ。髪のワインもふき取ってある。次の対戦相手は、こちらも1回戦を不戦勝にしたララ・ガルボ(ea3770)である。
「ヤァヤァ、われこそはローマ人を駆逐し、ノルマンを開放せし赤盾隊の1人」
芝居掛かった口上と共に、ララが姿を現す。衣装の方も芝居っ気がたっぷりの上に、試合用の盾に真紅の布を張り付けた物を掲げている。どうやら、高名な『ブランシュ騎士団』のパロディであるらしい。
観客達からの拍手喝采を受けながら、満足そうに場内を一回りすると、衣装を脱いで軽装になる。
試合開始と同時に、ララは一気に高度を上げた。タイムが下から強烈な一撃を仕掛けてくる。なんとかしのぎきると、上空に抜けたタイムに下からの攻撃を強行する。攻撃は命中したものの頭上からの一撃を食らう。
その後もララはタイムに頭を抑えられた状態で戦うことになり、肝心なところで逆撃を許してしまった。タイムが少し降下したのを機に、上空を押さえようとするが、結局はタイムの強烈な一撃をまともに浴びて敗北を喫した。
未だにだいぶ酔いの残るタイムの動きが、ララの戦術をことごとく裏切ったとはいえ、自ら奉じる高度差を利用した戦法をすっかり相手に使われてしまった結果になる。
ガックリと肩を落としたララと、対照的に上機嫌のタイムがそれぞれのゲートへと戻っていく。
「太陽を背にすると言ってもなかなかうまくは行かないようですね」
今度は蓮花が話しかける。
「確かに作戦通りには行かないものです。ともかく空中戦では上空を押さえたほうが有利になると言う、ガルボさんの説は正しかったと言うことでしょう」
残ったのはタイムとターニャの2人だった。決勝だけあって始めから激しい応酬が続く。開始と同時に上空に出ようとした最初の激突は、ややタイムの力が勝った。飛び離れた2人は、正面からすれ違いざまに互いの胴を強烈に払う。互角と見て再び上空を伺う鍔迫り合いは、ターニャに軍配が上がった。
続く攻撃は互いに打撃を与えることが出来ない。一進一退で全く互角かと思えた勝負は、次の一撃で勝敗が決した。強引に頭上に回ったターニャの攻撃を盾で受け止めたタイムが、一瞬空いたターニャの胴をなぎ払ったのだ。
「華は散るからこそ美しい‥‥」
敗北を悟ったターニャは、そうひとこと言い残すと、ポテッと地面に落ちて動かなくなった。優勝したタイムはと言えば。
「伊達に4半世紀以上生きてないわよ!‥‥でも年齢聞いたら止めさす!」
などと物騒なことを口走るなり、表彰式も待たずにゲートへと急ぐ。静止しようとした審判に。
「‥胃薬‥」
と青い顔で告げるとゲートの中へと姿を消した。かなり飲んだ上に激しく動き回ったため、急激に酔いが回ってきたらしい。
「しかし、シフール同士の空中戦と言うのはなかなかのものですね。それほど戦闘経験のある人たちとも思えないのに‥‥」
話しかける龍真に蓮花が笑って答えた。
「確かに‥‥私たち羽根のないものには真似できるものでもないのですけどね」
やがてターニャも起き上がり、他の面々も集まってきて、満場の喝采の中表彰が行われる。