【ドラゴン襲来】悪魔の力
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■ショートシナリオ
担当:呼夢
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 95 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月23日〜11月30日
リプレイ公開日:2005年12月01日
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●オープニング
囮集団を次々と襲ったものの結果的に『契約の宝』の片割れを奪取することに失敗したロキ一味だが、この時期杳として行方をくらませている。
既に宝の返還に成功したことが知られているかどうかも定かではない。
例のごとくシールケルの前には赤毛の盟友が黙って腕組みをしていた。
読み終えた手紙をテーブルに置くとやれやれと言った表情で口を開く。
「いつもながらマメなこったな」
「まあそう言うな。人様の好意は素直に受けるもんだぜ」
にやりとしながら手紙を巻き直す。
「好意なぁ‥‥で、どうするつもりだ? 前回の報告だとそう簡単にどうにかなる相手でもねぇようだが」
「確かにやっかいな相手だが放っておく訳にも行くまい」
北からもたらされた情報によればララディ達の部隊を襲撃した後沖へと逃げ去ったロキ一味の船が、ユトレヒト近郊の小さな漁村に潜んでいると言う。
過去二度に亘り冒険者達の襲撃によってユトレヒト港で船を失った経験から、用心のために停泊場所を移動しているようである。
放置すれば遅かれ早かれ宝の片割れが遺跡に戻されたことを知って島に向うだろう。
「騎士団は出せねえのか?」
囮の時には海戦騎士団からも人数を出していたのだが。
「国境を越えて兵を動かすとなるといろいろとそれなりの手続きってものがな‥‥」
今ひとつ歯切れの悪い口調で苦笑する。確かに近隣都市国家の勢力範囲を避けた海岸沿いのルートを慎重に選んだ上での出動ではあった。
「あまり深追いはさせられんぜ。やばくなったらすぐに退かせるのが条件だ」
「まあ、妥当なところだろうな。それと俺のところで預かってるシフールが同行したいと言ってるが」
「はぁっ! そいつ戦力になるのか?」
「少なくとも一人なら自分の身くらいは守れると本人は言ってる。なんだかんだ言っても一応飛べるしな」
「連れて行くかどうかは集まった連中の意向次第だが」
「そのあたりは任せる」
こうしてロキ一味の動向と、ロキ本人への対策を探るためユトレヒト候国へと向う冒険者達があつめられることになる。
●リプレイ本文
ロキ・ウートガルズ――神々と敵対する王、外の世界から来た者――その名は、身に纏う紫のローブと共にドレスタッドにとって『災厄』の代名詞となっていた。
ロキ本人の力を調べるという依頼に集まった一同は緊張に包まれていた。
「随分調べましたが、ロキがまともに冒険者と戦闘した記録はありませんね。今回、ロキ自身の能力を少しでも暴かないと、決戦に憂いを残しそうです」
口を開いたのはドラゴン襲来に纏わる事件を調べ続けてきた白 銀麗(ea8147)である。
(ロキ氏はデビルと繋っている故、放っておくとパリと同じ様な事が起きるかもしれぬでのぅ。‥‥だとしたら想い人であるあの方の身も危ういから‥‥)
スィエルや旧知の面々と再会の挨拶を交わした後、シュタール・アイゼナッハ(ea9387)は沈痛な面持ちで物思いに沈んでいた。
既に一月以上前、リュリス・アルフェイン(ea5640)、雅上烈 椎(ea3990)らがロキを四方から取り囲み、ブラン・アルドリアミ(eb1729)の弓がその心臓に狙いを定めたのではあるが、ロキは冒険者達をあざ笑うかのように忽然と姿を消している。
その時囲みの一角を担ったイコンも、友人レオパルド・ブリツィ(ea7890)にデビル対策の情報や武器を渡すためにこの場に赴いていた。2日後アイセル湖に出発するグループに繋ぎをとるためでもあるが。
「エボリューションにフォースコマンドですか、解呪の魔法も無いみたいですし‥‥魔術師相手は相性次第ではどの道アレですからな」
巨人族としてはやや小柄なデルスウ・コユコン(eb1758)が髭をしごきながら応じる。
椎もエボリューション対策として手持の武器の種類を増すため、ガッポとゾナハの2人を呼び寄せていた。
今回、相方を残して同行すると言うスィエルに、シュタールやレオパルドはミールの様子や領主館の動きなどを尋ねていた。
「出来れば、ロキにいくらかでも打撃を与えたい所ですが‥‥」
「以前のように部下連れの時に戦っても、転移して逃げられるかもしれませんね。
なるべくロキが一人の時に戦うため、ロキが欲しがっている『宝の片割れ』に関する情報を餌にロキを誘き出す事を考えましょう」
銀麗の策は、予め宝の情報を手に入れた人物がロキと接触を図ろうとしているような情報を流しておき、仲間の1人がその人物の役を演じて囮になるというものだった。
ロキの一味はハーフエルフが多いことから、ロキと面識のないレア・ベルナール(eb2818)に囮役を演じてもらうことにする。
「うん、がんばる。‥‥悪魔、なんだよね‥‥どんな人なのかな、変装してたりしないよね」
ロキを間近に見ているリュリスや椎が容貌や服装について説明する。この期に及んでも紫のローブを纏い続けていることから変装は考えられなかった。
「未だ変わらない特徴の紫ローブにも何か意味があるのかもしれませんし」
ブランもその件について感じているは疑問を口にする。
「逆にレアさん自身の顔を覚えられないよう、顔に染料を塗って入れ墨のようにし、髪も赤く染めて『顔に入れ墨のある赤毛のハーフエルフ』を追っている事にしましょうか。染料は私が錬金術で作成します」
国境線を越えられないとは言え、海戦騎士団にも協力してもらい、「騎士団に追われているハーフエルフが北に逃亡中」という噂を流してもらうことにする。
「私は逃げ回っているということになるから、少し怯えたフリをしながら移動していればいいかな」
逃亡するレアと平行して騎士団などに変身した銀麗が捜索側としてあちこち姿を現しながら目的地に近付く。
捜索側を演じるとき以外は鳥に化けてレアの周辺を監視し、万一見失った場合はレオパルドがオーラテレパスで銀麗の犬に指示を出すと同時に、自身もオーラセンサーも駆使して探すことにした。
このためレアの臭いを覚えさせると同時に、レオパルドも犬との交流を深めておくように勤める。
囮役の為、幾分耳が見えるよう頭の布を緩めたレアに、リュリスは魔剣トデス・スクリーを貸し出す。
「囮役が村の人にロキの仲間だと思われない様に取り計らった方がいいな」
村が海賊に事実上占領されている状態を憂慮して椎も忠告を与える。
自分達の強行偵察が原因で村に犠牲が出るのも気分が悪いのだが、逆に冒険者達が村人を嗾けたとロキ達に思わせた方が村人は助かるのかも知れないという可能性もある。
尤も何もしなかったとしても補給を終えて船が出る暁には小さな村を戯れに全滅させかねないという危険性もあるのだが。
ともあれリュリスとデルスウ、そしてシュタールの3人はセブンリーグブーツで一足先に目的の村に向うことになった。尤もシュタールだけはジャパン風の代物だったが。
空から監視する銀麗の馬をレアが借受け、他の面々が各自の馬に跨ると、やはりブーツを使って後発部隊と行動を共にするブランも歩き出す。
村の近くに到着したシュタールは、ロキに顔を知られているリュリスと目立ちやすいと言うデルスウを後続との連絡のため待機させて村へと潜入した。
慎重に村の様子を探る。さほど大きくない村。小型の漁船はそのまま浜に引き上げられており、唯一目に入る大型のものは遺跡の往復で見慣れたいわゆる『長い船』バイキング船だ。村はずれにある唯一の桟橋と思しきものを占拠している。
海賊達が集まっている桟橋付近を避け、村人と接触を試みた。『海賊』と聞いて露骨に眉を顰めるところへ素性を明かしてリュリス達の元へ導く。村に迷惑かけないのを条件に待ち伏せしやすい場所を聞きだす。
噂に聞く範囲攻撃で不利になりそうな狭い場所は問題外だが、ユトレヒトの都市部に向う街道沿いに何箇所かの候補地が見つかった。同時に紫のローブを纏った男は、何日か置きにユトレヒト市街地方面に向っており、今も不在であるらしいことも判る。
村人から聞き出したところでは、海賊と村人は緊張関係にはあるものの表立っての対立は発生していないようである。それはユトレヒト候とロキとの関係が、実態は知らず未だ完全に破綻していないことを物語っているのかもしれない。
これらのことを聞出すとひとまず後続を待つことにした。
逃亡者と捜索側の役を演じながら途中の町や村に姿を現してきた2人も合流し、日暮前には再び全員が顔を揃える。
翌日再び逃亡者役となったレアと捜索側の銀麗が時間をずらして村を訪れた。いざと言うときの用心と更なる情報収集の為に、ロキ一味と面識のないレオパルドも村の中に潜入して様子を伺う。
再び偵察に赴いたついでに海賊船が手薄な所を見計らって、船の舵あたりを石化させ航行に支障が出る様にしておこうと、物陰でバイブレーションセンサーを使い様子を伺ったシュタールだったが、さすがに度重なる失敗に用心してか周辺には少なくとも冒険者の2倍を越える海賊達が常時たむろしていた。
偵察の結果、一行は船を襲撃するのを断念する。囮の風聞が周辺に広がるにもそれなりに時間はかかるだろう。
結論として、現在ユトレヒト市街に出かけていると思われるロキの帰路を狙うことになった。
村での情報収集と上空からの偵察から割り出した場所のうち、全員でかかれて範囲攻撃を避けられ、なによりも撤退に有利な場所を探し出す。
魔法武器の乏しい椎がレオパルドから聖者の槍を借りるなどして、戦闘中各自が複数の魔法武器を使えるよう周到な準備も怠らない。
接近戦に向かないシュタールや銀麗は目的を果たした後速やかに後退する必要もある。
奇襲の体制が整うと、銀麗とスィエルが上空からユトレヒト市街の方向を交代で索敵を開始した。
ほかの面々は思い思いの場所に潜んで報告を待っている。手持ち無沙汰なのかデルスウは持参した発泡酒をチビチビと舐め始めた。
その日は何事もなく暮れる。
翌日も何事もなく過ぎるかと見えたころ、上空からスィエルが急降下してきた。焦点が戻っていないのか、かなり高いところでホバリングするとロキの接近を告げる。従うのは御者のみだ。
全員が持ち場に着く。間に合うかどうかは判らないがリュリスとレオパルドはヘキサグラムタリスマンに祈りをささげる。スィエルは再び上空に上っていく。
待つほどもなくロキを乗せた馬車は姿を現す。護符の発動を断念したリュリスが聖剣アルマスを手に街道に飛び出して行く手を塞ぐ。聖者の槍を手にした椎も並び、少し遅れて全身にオーラを纏い、更に士気を高めたブランもティールの剣を構える。
驚いて棹立ちになろうとする馬をどうにか宥めて馬車は止った。
すかさず、巨大なブレーメンソードを構えたデルスウとシュタールから水晶剣を渡されたレアが後方を遮断する。やや遅れて護符を発動させオーラにより士気を高めたレオパルドもメイスを手に戦列に加わる。
「又貴様らか」
「へっ、悪かったな。で、又逃げるつもりか?」
苦々しげなロキの言葉に皮肉で応じる。
「よほど命がいらんようだな」
言葉と同時にローブの下に隠した細身の剣を抜き放つ。御者も剣を抜くと与し易しと見たかブラン目がけて切りかかってきたが、数合ともたずに地に這うことになる。
「一つ聞きたい。あんた一体なんで宝の事を知ってる?」
「ふっ、それ聞いてどうする? 貴様も力を欲すると言うのかな」
馬車から降りて対峙するロキに問いかけるが、返ってきたのは嘲弄と漸撃であった。
予想外に早い剣をかろうじてアルマスで受けるとすかさず切返すが、横合いから突き出された槍と共にはじくと囲みを抜けて7人と正対する。
本来は戦士ではなく術者なのであろう――漸撃の威力はさしたるものでもないのだが、動きの早さは護符の抑制を受けてさえかなりのものである。
包囲を抜けたことで一度に相手をしなければならない敵が正面に限られ、こちらもあまり密集しては自由に剣が振るえないこともあって、後方で戦況を伺うシュタールを除いても1対6という数ほどの戦力差を出すことができない。
水晶剣を渡した後のシュタールは、ロキの闘い振りを目に焼付けると共に、振動探知で周囲の様子を探っていた。ロキ1人でさえ容易に対処できない以上、援軍が来れば形勢は一気に逆転する。下手をすれば全滅ということにもなりかねない。
乱戦の最中、物陰に潜んでいた銀麗の腕から黒い光が伸び、ロキの背後を直撃する。抵抗があった形跡がない所を見ればロキは間違いなく黒の教義から見た悪そのものなのであろう。
不意を撃たれて動きが止まったところへ、デルスウの切っ先がローブを裂いて腹を浅く切り裂く。レアが更なる一撃を加えようとしたところで、空いた手で印を結んだロキの口元が動くと同時に現れた炎の壁に阻まれ慌てて身を引かざるを得ない。
炎を避けて回り込んだ冒険者達の目前でロキの体が結界の泡に包まれる。表面には漆黒の炎が燃えていた。
銀麗の放った第2撃も結界に阻まれて効果を発揮しない。
体に走る激痛をこらえて結界の中に踏み込んだブランの剣を阻んだのは同時に切りかかったはずのリュリスの剣だった。
「くっ、体が‥‥」
歯噛みするリュリスの目に嘲るようなロキの表情が映る。
「なめるんじゃねぇ!」
渾身の力を込めて向きを変えた剣が自分の腹に食い込むと同時に軛が外れるのを感じると、そのままロキ目がけて剣を返す。
同じデビル魔法をレオパルドに阻まれ、デルスウの剣を素手で受け止めたロキの背をアルマスが抉る。
「貴様らぁ‥‥!」
ロキの顔から余裕の表情が消える。同時に繰り出された椎の槍とブランの剣が空を切った。剣が効かなくなったことを悟って繰り出されたデルスウの蹴りもやはり不発に終る。
「散会しろ!」
少し離れた岩場に姿を現したロキを見てリュリスが叫ぶ。ロキを囲んでいた一同が四方に散る‥‥が、ロキが放ってきたのは範囲攻撃ではなかった。
角笛と思しき物を取り出し口に当てる、足もとに現れた動物はロキの指示を受けると、散会した冒険者達に襲い掛かった。
冒険者達の間を渡る風のように、次々と攻撃を仕掛けてくる。レオパルドはオーラテレパスで語りかけようとするが、呪文の詠唱すらままならない。
そんな中、やや離れた場所から戦闘の行方を見守っていたシュタールは、ロキが回復薬を取り出すのを見て引き際を悟る。高速詠唱で水晶剣をを作り出すと上空に放り上げた。
陽を弾きながら落下する水晶剣を確認すると冒険者達は一様に撤退準備にかかる。トッドローリーと戦いながらも森側へじりじりと後ずさっていく。狼に変化した銀麗はそのまま森の中へと滑り込んだ。
傷を癒して岩場を降りかけたロキの視界に上空から影が飛び込んでくる。同時にまばゆい光が一瞬ロキの視力を奪う。獣並みの知性しか持たない風の精霊もどうしていいかわからず動きを止める。
ようやくロキが視力を取り戻した時、既に冒険者達の姿は影も形もなかった。
あるいは馬の背で、あるものはセブンリーグブーツで駆けながら回復薬を飲み干す。少し離れたところに隠しておいたペットや荷物を回収すると一行はドレスタッドへと向った。
デルスウの剣を素手で受けたことから同じ攻撃が2度通用しないことは明らかだ。オーラエリベイションの影響下にあったレオパルドには効果のない魔法でリュリスは操られたが、自身を傷つけることで呪縛から逃れることができた。そして銀麗のブラックホーリーを弾く結界。
更にウィザードとは思えない剣捌きと『火』の精霊魔法――だが船一隻を瞬時に炎上させるほど強力なものではない――噂の元になった船が可燃物を大量に積んでいた可能性もある。
ララディ達が遭遇した際使役されていた風の精は、やはり角笛の片割れによって操られているようであった。
そしてロキが転移をぎりぎりまで使わなかったこと。
ロキ戦の報告が終わった後、リュリスが改めて尋ねる。
「鍾乳洞の剣の話を聞いてないか。精霊が知らない、壁画に関係ある剣。最後の戦いの前に素性だけでも知りたいし、有効なら使うべきだよな」
暫く部下達を見回していたエイリークが何か思いついたように問いかける。
「そう言えば、最近キーラのやつの姿を見ねえな」
「近頃お頭が御見限りなんで拗ねてるんじゃねえですかい‥‥」
軽口をたたいた部下がエイリークに睨まれて頭をかく。「俺はそんな安っぽい女の相手はしてねぇ」とでも言いたげだ。
「体調を崩しているとの噂でしたけど‥‥」
別の部下が口添えする。
「解った。次に遺跡に行くまでには調べさせておく‥‥まぁ、どんな代物かはわからんがな」
後半は独り言のようでもあり、他の人間に聞こえたかどうかは定かではない。
――次に遺跡の島に向かう時、それは‥‥‥‥