〜人形遣い〜 緋色の落日A
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■ショートシナリオ
担当:呼夢
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 45 C
参加人数:5人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月04日〜12月09日
リプレイ公開日:2005年12月14日
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●オープニング
全ては満月の夜に始まった。
ことの起こりは突如として月下の街に姿を現した『踊る人形』である。少女の姿をしたそれは1人の男を死へと導いた。
この奇怪な事件を調査に当った冒険者達は、街の外から去来する一団を発見する。だが動き出した殺人機械との戦闘の最中、黒幕の一団は追跡を振り切って姿を晦ましたのだった。
戦闘の末、『踊る人形』は破壊され当面の危機は回避される。と同時に、月精霊の力を借りた過去見により僅かながら黒幕の正体らしきものも掴むことができたのだった。
第二の事件は白昼に起こった。
調査に向った冒険者達は、森に隠された『道化の人形』を発見し戦闘になる。この闘いの中、念動力によって人形を操る術者の存在が感知され、強力な『地』の術を使うシフールとも対峙することになる。
戦いの末、再び『人形』は破壊され、黒幕の一味は何処かへと消えた。
だが闘いを避けて遥かな森陰に潜んでいた黒幕の一団は、戦闘に参加していなかった術者の発見するところとなる。この接触によって、一味の首魁と見られる少女や、千里眼を使う術者をはじめとする一味の素顔も詳らかにされた。
更に第三の事件。裕福な商家で起こった殺人の犯人を追い詰めた冒険者達は、『人形』を使って次々と殺人を繰り返す一団の本拠を発見することに成功している。
この事件で使われた人形だけはこれまでの等身大の自動人形ではなく、手に持って扱える程度の大きさで、持ち手が腕を動かすことによって凶器を射出する仕掛けが施されていた。
これまでは人形を動かす仕掛けに加えて、仕掛けを起動させるための術者が念動力の有効範囲内に潜んでいたのだが、この時だけはごく普通の使用人が操作を行っている。また前2回と違い凶器が使い捨てでもあった。
次いで、被害者の夫で事件当初犯人扱いされた商人の依頼もあって、謎に包まれた殺人集団の本拠地へ偵察に赴くことになる。
人里はなれた森の中に佇む館は高い塀に囲まれ、広い敷地内には館の建物の裏手に工房らしきものが並んでいた。
一方は人形に仕込まれる武器を作る為の鍛治場、他方は人形の顔や腕などを華国で知られる磁器の技術を使って製作する窯場であり、夫々にかなりの数の職人が働いていた。
闇に紛れて潜入した冒険者達は、館全体が巨大な絡繰の実験場であることを知る。
館の使用人や職人の大半は戦力として取るに足らないとは言え、館自体に仕掛けられた絡繰を起動させることくらいはできよう。加えて潜入時にたまたま館を離れていたらしい術者も危険な存在であることに変りは無い。
報告を受けた商人は、街の役人達と不毛な交渉を繰り返した挙句、再び冒険者達に危険な殺人集団である『緋色の工房』への復讐を依頼することになる。
そして‥‥天空に懸かる月は間もなく朔を迎えようとしていた。
●リプレイ本文
依頼に応じて9名ほどの冒険者達が集まっている。
「ふっふっふ。ガイドは任せなさい☆」
『麗しき薔薇』を口に咥え、奇妙な、いやもとい華麗なポーズを決めながらパタパタと進み出たのは、シトラス・グリーン(eb0596)だ。一瞬、背後に薔薇の花びらが吹雪のように舞い散ったかと思うと幻のように消えていく。
いきなり頭上に拳が炸裂した。
「ぃてっ‥‥」
振り返ると、ゴールド・ストーム(ea3785)がニヤニヤ笑いながら拳に息を吹きかけている。
「どうやら、殴られたそうだったんでな」
殺伐とした依頼の中でも笑いを取りに来るあたりがシフールといわれる所以なのだろうが、やはり誰か突っ込んでくれないとシャレにならない。
バックパックを背負うと身動きが取れないゴールドは、いとこのシルバーと友人のクウェルを呼び寄せ、山のような荷物の一部と飼犬を住処に運んでもらう為の仕分けの最中である。
事のついでにシトラスが書いた屋敷の見取図の写しにバーニングマップをかけ、首魁の居所を割出そうと試みたのだが、いかんせん術者の掴んでいる情報が少なく、成果は捗々しくなかった。
自前の高速移動手段を持たない朴 光一(ea9525)ほか2名にはゴールドがセブンリーグブーツを貸出し、更に町から連れてくる自警団の分もブーツの残りに加えて韋駄天の草履まで掻き集めて迎えに行く2人に預ける。
荷物を積んだペットを連れて歩くため、セブンリーグブーツを使用しても最大速度で歩くわけにはいかない。騎乗しても馬の速度に影響のないシルビア・アークライト(eb3559)は愛馬ゼフィに乗って移動することにした。
ネフィリム・フィルス(eb3503)も軍馬を使おうとしたのだが、騎乗するとどうやらついていけないことに気付いて自前のセブンリーグブーツを使用する。
荷物をネフィリムに預かってもらい身軽になったシトラスは当然ブーツも乗り物も必要としない。
以前、屋敷に潜入したことのあるシトラスがこれまでの経緯や敵の戦力、屋敷内の状況などを説明する。話を聞きながら主要なメンバーの居そうな場所に当たりをつけていた光一は、さらに絡繰人形の構造や攻撃法、弱点などを質問した。
「戦闘が始まると、おいらちょーっと役立たずだけど、奴らの最後は見届けたいし、偵察ぐらいはできるってばさ♪」
威力はともかく、隠れている相手にも当てられるムーンアローは、この怪しさ満点の絡操屋敷ではある意味十分以上に戦力になるのだが。
説明が終ると、見送りのクウェルから移動中の弁当をうけとり、どうやらネフィリムについて行って見張りでもと考えていたらしいフィーネらも残し、一行はそれぞれの方角に出発することになる。
「何をしてるんだ?」
小さな体で愛犬のボギーを馬に乗せようとしているらしいシルビアにネフィリムが声をかける。
「うまく乗せられなくて‥‥」
「手伝わんこともないが、その犬なら乗せて歩かずとも自分でついて来れるはずだがな」
通常馬とボーダーコリーなら走る速度も耐久力も変りはない。2匹の負担も考慮してボビーを乗せるのは諦めざるを得なかった。
ペットを連れていないために他の面々より5割がた早く移動できるリュリスとレアが町を経由して自警団をつれてくることになる。
出発前の準備があったにもかかわらず、一行は日の高いうちに前回の偵察時に野営した場所へと到着した。徒歩の移動速度が基本だった前回は2日近くかかったのだが、町を経由した一行も9人ほどの自警団員を連れ、途中まで迎えに出たシトラスとともに夕刻前には到着する。
到着直後に偵察に赴いたシトラスの報告では、どうやら一味は未だ工房を引き払ってはいないようだ。とりあえず突入は翌日と言うことになった。
野営の準備を終えると、その夜は持ち込んできた材料で料理の得意なシルビアが夕食の支度をする。
翌日、午前中のうちに間単な偵察をすませた一行は夜に備えて各々仮眠を取るなどして体を休めた。
偵察を元に打ち合わせた結果、夜が更けるのを待って館に近付き、まず隠密行動を得意とするゴールド、シトラス、シルビア の3名がある程度罠の解除するの為に館に侵入することにした。
ブレスセンサーで様子を探ったベアータから屋敷内部の敵の配置などを聞き取ると3人は玄関に向う。
どうやら夜の工房は全くの無人で、職人達も使用人ともども屋敷の中で眠っているようである。
「前回の潜入で警戒してるかもしれないと思いましたけど、流石に四ヶ月何もなにも無かったら警戒が緩んでるみたいですね」
「隠密行動で国に認められた腕前見せてやるぜ」
少しほっとしたようにシルビアが言葉をかけると、深緑のマントをはためかせながらゴールドはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「カラクリ屋敷にカラクリ人形。何が起きるか分んないけど、きっちり落とし前はつけさせてもらうよ!!」
3人を見送りながらネフィリムも決意を新たにする。
「お守りだ、直接見られなければ気配を消してやり過ごせる」
盗賊用具を使って玄関の鍵をこじ開けると、同行する2人に『隠身の勾玉』を渡す。実のところ、比較的隠れやすい種族の特性を別にしても、忍び歩きの技能に関して言えばの泥棒を生業とするシトラスのほうがややうわ手ではあるのだが。シトラスは更にレジストメンタルも使用して精神系の魔法に備える
物音を立てないように屋敷内に滑り込むと、玄関ホールからそのまま屋根裏に上がる。
「カラクリなんだから、ちょっした誤作動で役立たなくなるよね〜」
とりあえず片っ端から適当に仕掛けを壊そうかと言うシトラスにゴールドが待ったをかける。
「音を立てずに解除できるものが先だな。解除できそうに無い物は他の物を粗方解除し終わった後で引っかからない様に発動させるしかないか」
「ゴールドさんの方が隠密技能には長けてますから任せて良い気もしますが、人数が多くて悪い事は無いと思いますし」
シルビアはそう言うものの、戦場での工作技能に長けたゴールドの知識でもこの屋敷の絡繰を全て理解できるものでもない。
「このてのトラップなら、こうしてしまえば大丈夫か」
構造の判ったものから順次解除していく。突入開始に合せて発動させるものにも目印をつける。
シルビアも音を立てないよう気をつけつつ仕掛けてある罠を無力化しながら、時折様子を探っては首魁一味がいる場所を探っていた。
解除できそうなものを粗方解除し終えるとシルビアは外で待機している一同の元へと一旦引き返す。
シトラスは更に2階の天井裏へと向った。突入開始に合せてムーンアローで仕掛けのロープを切って回るのだが、誤作動で仲間を罠に巻き込むわけにも行かないため、突入後暫くは仲間のこない2階の罠に重点を置く。
やがてシルビアが仲間の元に戻ると全員が玄関付近まで前進して待機。シトラスが壊し始めた2階の仕掛けで住人達が騒ぎ出すと同時に、ゴールドは吊天井などの大仕掛けを次々と作動させて回る。それを合図に待機していた全員が突入した。
玄関ホールに突入した一行は左右に続く前室の扉を開いて無人であることを確認すると、全員一団となって正面の大広間から主階段室をめざす。
シルビアが警告を発するより早く、主階段に足をかけようとした自警団の一人が悲鳴を上げる。咄嗟にネフィリムが襟首を掴んで引き戻すと足元に巨大な穴が開いていおり、底には天井に向けてびっしりと槍の穂先のようなものが植えられていた。
「足元の罠は天井裏の仕掛けとは別らしいな。こちらから上に行くのは無理か」
全ての仕掛けが見つかったり解除されたりしているわけでもない。青ざめている青年を床の上に降ろしながら呟いた時、左右の前室に複数の動きが察知された。
主階段からの前進を諦めた一行は、二手に別れて前室へと向う。先頭が開け放たれたドアの前に達するといきなり複数の矢が飛来した。
避け損ねた自警団の1人が悲鳴を上げる。見るとやはり開かれた反対側のドアの前に、巨大な盾に射出口と思しき幾つかの穴の開いたものが2台並んでいる。
光一とネフィリムが盾を構えて矢を防ぎながら前進して死角に入り込む。盾の陰から薙刀のような武器を手にした敵が現れるが、たいした戦闘の訓練は受けていないらしくネフィリムのシールドソードと、光一の威力を高めた蹴りと突きによりまもなく床の上にころがった。
「張り合いの無い相手だね」
感想を漏らすネフィリムの横では、シルビアが自警団員とともに気絶した敵を縛り上げる。傷を負った敵にも応急処置だけは施すと玄関ホールの入口付近まで連れて行く。監視をさせる自警団員に預けると一同は更に先へと進んだ。
そのころ、2階の罠を壊して回っていたシトラスは屋敷の外へと抜け出そうとしていた。上空から屋敷を逃げ出す者がいないか監視するためなのだが。
人がいないと思って入った一室で意外な相手と再会する。この屋敷の情報と交換に逃がしてやった娘だ。
「ふんっ、あんた達かい」
「なんでおまえがここにいるのさ? 裏切り者のくせに」
「他に行くところが無いからね‥‥それに前にも言ったろ、うちのお嬢は死にたがりに手を貸す趣味は無いって。もっとも、ここにゃあたしとまともにやりあえるやつなんかいやしないし‥‥あぁ、でも術者はやっかいだけどね」
「えっ? おまえって強かったの?」
「へっ、ばかにしちゃいけないよ。いきなり動きを止めて武装解除されてなきゃ、あん時のお仲間もタダじゃすまなかったさ」
以前逢った時の町娘の衣装ではなく、皮鎧の腰の後ろに50cmほどの2本の剣を交差させている。どうやら工房の特製らしく見たことのない剣だ。
「なんでこんなことやってんだよ?」
「お嬢はたぶん趣味だろうね。あたしや他の連中は多かれ少なかれ恨みだけど‥‥おや、また一段と賑やかになってきたみたいじゃないか。この前の礼に今だけ見逃してやるよ。とっとと消えな」
言うが早いか部屋を出て行く。シトラスは手近の窓を開けると外に飛び出した。一旦上空へと向うが、見下ろしてもほとんど闇一色であることに気付くと、再び玄関へと向う。
屋敷の一階は複数の部屋がドアで繋がれており、途中、武器を取って地下から上ってきた使用人や職人達は光一やネフィリム達の手で簡単に排除することができたが、別の階段室に続く部屋で再び自警団の何人かが悲鳴を上げた。
前衛にいた光一も足元に鈍い痛みを感じて立ち止まる。騒ぎの元は蝮であった。頭を叩き潰したり、切りつけたりの騒動の中、突然自警団の1人が胸から血を噴き出して倒れる。シルビアの飼犬が激しく吼える中、残った自警団員は我先にと逃げ出す。
「インビジブルか! スネークチャームも使ってるな。『陽』の術者だ」
無から繰り出される攻撃に手傷を負いながらも、後退して態勢を整える。毒消しや回復薬が次々に手渡されるが、前方の床に倒れたままの男は手の施しようもない。
「お〜い、何で止まってるの?」
玄関から回って追いついてきたらしいシトラスが声をかけた。一計を案じると、光一とネフィリムが横に並んで盾を構えながら前進する。
「いっくよ〜♪」
声と共に前進した2人が左右に分かれると、シトラスの手から放たれたムーンアローが弧を描いて中空に吸い込まれる。光の吸い込まれた場所を更にシルビアの放った2本の矢が射抜いた。
壁を離れたネフィリムも同時に同じ場所に向ってシールドソードを構えて体当たりを行う。更に光一の蹴りが足元と思しき場所を薙ぎ払う。確かな手ごたえとどさりという鈍い音と共に倒れた術者が次第に姿を現し始めた。複数の攻撃が急所を捕らえたらしく術者は間もなく息絶えた。
回復薬を持って倒れていた自警団員に駆け寄ったシルビアが仲間を振り返って哀しげに頭を振る。光一とネフィリムも顔を見合わせると、残った自警団の方を見ながら小声で呟いた。
「まいったな。こいつらのお守りまでは依頼に含まれてないんだろうが‥‥」
別班の動向は判らなかったが、とりあえず上を目指すことにする。
階上に上がるとやはりドアでつながれた部屋が続いていた。一部廊下のようなものもあったがいたるところに罠を誤動作させた後があり、部屋のいくつかは落ちた天井やせり出した壁に塞がれていた。
やむなく通れる部分を伝いながら先へと進む。
とある部屋のドアまで来ると外からの話し声に一同は歩みを止めた。
慎重にノブを回すと一気に通路に飛び出したネフィリムと光一が盾を構える。更にその後ろにシルビアも飛び出して矢をつがえたが、目の前にいたのは別ルートを進んでいた別働隊であった。
つい先ほど分かれたばかりの少女の亡骸に気付いたシトラスは最後の様子を聞いて呟いた。
「けっこう強かったんだな。だけどやっぱり命あってのものだねだけど」
少女の守っていた扉を開けると、敵の首魁とその側近、そして人形の群れが彼らを出迎えた。
いくらかのやり取りの後、背後に潜んでいたらしい使用人達に起動されて、並んでいた人形が攻撃を仕掛けてきた。
更に屋敷の外からは『地』の術者が遠距離からグラビティーキャノンを撃ち込んでくる。
窓際に近付いたシルビアが矢を射ようとしたが、室内の明るさになれた目には外は完全な闇である。加えて探査に寄ればショートボウの届く距離でもなさそうである。
突然人形を操作して後退しようとしていた敵の背中に矢が突き刺さる。
「真打登場ってとこだな」
屋敷内に潜んでいたゴールドが姿を現し、敵に向って次々と弓を引き絞る。シルビアも加わって敵を狙うが首領らしき少女を狙ったものはことごとく護衛の2人に叩き落された。
人形の戦列に穴が開くとネフィリムや光一も前進するが容易には前進できない。
人形を操っていた使用人が全滅すると、重力弾を撃込みながら『地』の術者が飛び込んで来て、既に動きを止めていた人形のうち破壊されていないものも含めて次々と人形を起動した。
戦況が不利と見たのか、老婆の指示で天井目がけて重力波が放たれる。破れた天井から大量の油が降り、部屋の中央に巨大な炎の障壁を作り出した。
炎は間もなく屋敷全体に及び、更に屋敷のあちこちで仕掛けが崩壊し始めると、一行は破壊された窓から脱出する他なかった。
「あ〜あ、おいらの獲物が‥‥」
安全なところまで逃げて残念そうに呟くシトラスにシルビアが怪訝そうな視線を向ける。
「最初に参加した時聞いた姉上達ってのが結局出てこなかったから。念の為、黒幕等の存在無いか家捜し証拠探し♪ ついでに金目の物を記念に売っぱらおうかと♪」
「‥‥捕まりますよ」
呆れたように肩をすくめるシルビアであった。
やがて『緋色の工房』の本拠である屋敷は火柱と共に崩れ落ちていった。