〜人形遣い〜 緋色の落日B
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■ショートシナリオ
担当:呼夢
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 29 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月04日〜12月09日
リプレイ公開日:2005年12月14日
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●オープニング
全ては満月の夜に始まった。
ことの起こりは突如として月下の街に姿を現した『踊る人形』である。少女の姿をしたそれは1人の男を死へと導いた。
この奇怪な事件を調査に当った冒険者達は、街の外から去来する一団を発見する。だが動き出した殺人機械との戦闘の最中、黒幕の一団は追跡を振り切って姿を晦ましたのだった。
戦闘の末、『踊る人形』は破壊され当面の危機は回避される。と同時に、月精霊の力を借りた過去見により僅かながら黒幕の正体らしきものも掴むことができたのだった。
第二の事件は白昼に起こった。
調査に向った冒険者達は、森に隠された『道化の人形』を発見し戦闘になる。この闘いの中、念動力によって人形を操る術者の存在が感知され、強力な『地』の術を使うシフールとも対峙することになる。
戦いの末、再び『人形』は破壊され、黒幕の一味は何処かへと消えた。
だが闘いを避けて遥かな森陰に潜んでいた黒幕の一団は、戦闘に参加していなかった術者の発見するところとなる。この接触によって、一味の首魁と見られる少女や、千里眼を使う術者をはじめとする一味の素顔も詳らかにされた。
更に第三の事件。裕福な商家で起こった殺人の犯人を追い詰めた冒険者達は、『人形』を使って次々と殺人を繰り返す一団の本拠を発見することに成功している。
この事件で使われた人形だけはこれまでの等身大の自動人形ではなく、手に持って扱える程度の大きさで、持ち手が腕を動かすことによって凶器を射出する仕掛けが施されていた。
これまでは人形を動かす仕掛けに加えて、仕掛けを起動させるための術者が念動力の有効範囲内に潜んでいたのだが、この時だけはごく普通の使用人が操作を行っている。また前2回と違い凶器が使い捨てでもあった。
次いで、被害者の夫で事件当初犯人扱いされた商人の依頼もあって、謎に包まれた殺人集団の本拠地へ偵察に赴くことになる。
人里はなれた森の中に佇む館は高い塀に囲まれ、広い敷地内には館の建物の裏手に工房らしきものが並んでいた。
一方は人形に仕込まれる武器を作る為の鍛治場、他方は人形の顔や腕などを華国で知られる磁器の技術を使って製作する窯場であり、夫々にかなりの数の職人が働いていた。
闇に紛れて潜入した冒険者達は、館全体が巨大な絡繰の実験場であることを知る。
館の使用人や職人の大半は戦力として取るに足らないとは言え、館自体に仕掛けられた絡繰を起動させることくらいはできよう。加えて潜入時にたまたま館を離れていたらしい術者も危険な存在であることに変りは無い。
報告を受けた商人は、街の役人達と不毛な交渉を繰り返した挙句、再び冒険者達に危険な殺人集団である『緋色の工房』への復讐を依頼することになる。
そして‥‥天空に懸かる月は間もなく朔を迎えようとしていた。
●リプレイ本文
依頼に応じて集まったのは9名ほどであった。
内わけは近接戦闘を得意とするもの5名に、射手2名、魔法によるサポートが2名と言ったところ。戦力としてはともかく、少なくとも頭数だけは30人近いという屋敷を襲撃するにはやや心もとない感もある。
仮に一味を捕縛できた場合でも連行するだけで一苦労しそうであることは想像に難くない。いないよりはましだろうと言うことで依頼主が用意したらしい自警団も参加させることになった。
この事件に詳しいシトラスから過去の経緯について説明をうける。加えてベアータ・レジーネス(eb1422)は、前回屋敷の調査をした報告書などの必要な情報も入手してきていた。
「あれだ‥‥人形のリアリズムを探求していったら、気の迷いを起こして殺人人形作成に没頭、とか‥‥変態か」
聞いていたリュリス・アルフェイン(ea5640)があきれたように感想を漏らす。現在追い続けているロキと比べればスケールの小さい目的不明の敵ではある‥‥もっとも神に敵対しようという輩に比べれば、多少の悪党どもは見劣りするのも当然であろう。
「殺人集団‥‥きっと捕まえれば街の人たちも安心して眠れるかな? うん、がんばろう」
先日、リュリスとともに闘いに加わったレア・ベルナール(eb2818)もポツリと呟く。いつも通り、頭に巻いた布と長い髪で特徴のある耳を隠していた。
「地の魔法は風の魔法と相性が悪いんですが、なんとか頑張ります。それと‥‥」
一見女性と見紛う顔立ちのベアータも『地』の魔法を使うというシフールには警戒感を隠さない。もっとも着ているものが「まるごとクマさん」なる防寒着というあたりがなんとも言いがたいところだが。
「陽の精霊魔法を使う者もいるようだな。となるとやはり突入は夜か。屋敷の連中の目もある程度くらませるしな」
言葉を引き取ったアルバート・オズボーン(eb2284)も、遠視以外に何が使えるか不明な『陽』の術者がいることは気にかかっているようだ。ベアータも頷く。
馬で移動するつもりだったアルバートだが、騎乗すると他の面々についていけないことが判ると、ゴールドからセブンリーグブーツを借り受けることにする。
ペットを持たないリュリスとレアの2人は、他の面々より5割がた移動速度が速いことから、遠回りになる町を経由して自警団の一行を引き連れてくることになった。むろんレアの場合はブーツを借りてと言うことになるが。
簡単な地図を預かり、道順を聞くと2人は先行する。残った7名も、あるものは馬を引き、あるものは馬に乗り、鼻歌を歌いながら先頭を飛ぶシフールの案内で目的地を目指した。
現地に到着した一行はさっそく野営の準備を始める。自警団を迎えに行った2人も間もなく合流する。
迎えに行った2人は、自警団からの要求もあってか、依頼人が用意した食料や回復薬を彼らの分も含め大量に預かってきたようである。
とりあえず偵察に出たシトラスの報告で工房の様子に大きな変化がないことは確認できた。襲撃を翌日と定めた一行はシルビアの用意した夕食をすませると、最低限の警戒を残してその夜は休むことにする。
翌日、午前中のうちに間単な偵察をすませた一行は夜に備えて各々仮眠を取るなどして体を休めた。
野営地近くの立ち木には、軍馬1頭を含む6頭の馬と驢馬がつながれていたが、アルバートは愛馬アガーテの様子を確認すると屋敷に向う準備の整った一行に加わる。
陽が落ちるのを待って館に近付き、まず隠密行動を得意とする3名がある程度罠の解除するの為に館に侵入することにした。
それに先立ち、ベアータがブレスセンサーで屋敷の様子を探る。
「2階に10名、1階は5名、地下にも10名はいるな。他にも何か生き物がいるようだ‥‥かなり小さいみたいだが、数が‥‥」
およその敵の位置を伝えるとゴールド、シトラス、シルビア の3名が館へと潜入して行った。
やがてシルビアが戻ると、全員が屋敷の入口付近まで近付き、仕掛けの破壊を待つ。
轟音と共に吊天井が落下すると屋敷の中は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。天井の落ちる音を機に屋敷の入口付近まで近付いて待機していた全員が突入する。
玄関ホールに突入した一行は左右に続く前室が無人であることを確認すると、正面の大広間から主階段室に入る。事前の調査からすると、これ以外にも階段の数は屋敷の内外に大小7つほどあり、隠し階段などの可能性も含めると、全てを同時に押さえることは諦めざるを得ない。
だが階段の手前で床に仕掛けられた罠に前進を阻まれた。
「全員動き出しました。地下にいた者達も左右の前室に向ってきています」
再び屋敷内を探ったベアータの報告で、主階段からの前進を諦めた一行は二手に別れて左右の前室へと向う。先頭が開け放たれたドアの前に達するといきなり複数の矢が飛来した。
反対側の前室に向ったドアの陰から覗くと、開け放たれた反対側のドアの前に、巨大な盾に射出口と思しき幾つかの穴の開いたものが2台並んでいる。
どうやら内部に、訓練を受けていない者でも矢が打てるように仕掛がされているらしい。華国あたりの攻城兵器のミニチュア版といったところだろうか。
やや大振りの盾を持つアルバートが飛んでくる矢を防ぐ陰からベアータが呪文を唱える。
扇状に広がった暴風は正面から敵の盾にぶつかり、中の操者もろともドアの周辺に激突させた。
横倒しになった筐状の盾から這い出してきた操者2人と、ドアの陰から薙刀のような武器を持って出てきた3人ほどの敵がアルバート達に向って一斉に襲い掛かる。だがドアの影からレアやリュリスが飛び出してベアータと入れ替って剣を交えるとたちまちのうちに制圧された。
自警団員達が捕らえた敵を縛り上げる中、リュリスは捕虜に脱出用の隠し通路などの存在を問い詰める。出口の場所が判れば先回りして退路を塞ぐことができるからだ。
だが所詮下働き程度に重大な機密を漏らすほど間抜けな連中ではなかったらしい。これといった情報が得られなかったことから、リュリスは天井裏から回り込んで主人格のいる部屋を探し出すことにした。
仲間達にそのことを告げると、入口付近で捕虜の監視をさせる自警団員と共にいったん玄関ホールに引き返す。ホールに戻ると先行部隊が潜り込んだ場所から天井裏へと登っていった。
その後先に進んだ一行は、武装した使用人や職人達を率いたドワーフに行く手を阻まれた。大方は先ほどからの薙刀状の武器だが、一人だけ前後に50cmほどの剣を埋込んだ棍のような物を携えている。
できる限り相手を殺すことを避けたかったレアは、自警団を率いて雑魚の方に当った。動体視力のよさで未熟な相手の動きを見切ると、ロングソードの柄を使って急所に突きを入れて気絶させていく。
リーダーと思しきドワーフにはアルバートが対峙していた。
2本の剣の穂先を回転させながら攻撃を繰出してくるところを、盾で受けながら日本刀で切りかかる。隙を見てカウンターを交えながら反撃するが、奇妙な武器の動きに思いの他手こずらされた。
アルバートの打ち込みを頭上で受け止めた棍が、突然2つに割れると間に現れた鎖で刀を巻取りにかかる。かろうじて逃れると一方の柄を離して振回した後再び1本の槍状に戻して構えた。工房で作られた武器だけになにやら仕込んであったようだ。
後方から放たれたベアータのストームによる援護もあって、長引いた闘いも1人のドワーフの死と、多くの負傷した敵を残してどうにか勝ちを収める。
無論アルバート以下自警団の面々も回復薬の要らないものはなかった。無傷ですんだのは格下の相手を気絶させて捕らえることに専念していたレアと、離れて術を使っていたベアータだけである。
一方、天井裏から主人格のいる部屋を探していたリュリスは、区切られた壁にぶつかり上の階へと姿を現す。部屋のドアから廊下を探ると、一つの影が中央に腕を組んで立っていた。
既にこちらの気配を察している様子に、ゆっくりと進み出る。
「ようこそ『緋色の工房』へ、あたしが案内役さ。セーラってんだ。いい名前だろう」
神を冒涜する響きを楽しむかのように、くっくっと笑う。腰の後ろで交差させた鞘から細身の剣を抜き放つ。工房の製品らしく、小太刀ほどの長さの見慣れぬ剣だ。
リュリスもトデス・スクリーと小太刀を両手に構えた。
「命懸けでこいよ。じゃないと死ぬぜ?」
「アハハッ、そいつはうれしいね」
嘲るように笑い声を上げると突進してくる。受けた剣はさすがに軽いがその分動きが早い。
探りを入れるため、まずは通常攻撃で切り結ぶ。正面から受けるつもりはないと見え、体をかわしながら器用に切っ先を逸らしては反撃してくる。
一進一退の応酬を重ねながら、リュリスは相手の足を止めようと狙いを定めていた。自らも傷を負いながら打込む剣が少しずつ敵の動きから鋭さを奪っていく。
体格の差から来るリーチの違いに加えて、一方の剣の長さもあってか趨勢は次第に傾きつつあった。
機を見計らうと、双刀の重さを載せて一気に畳み掛ける。剣を交差させてかろうじて受止めたものの、少女は支えきれずに壁にしたたか叩き付けられると、ずるずると座り込んだ。
警戒しながら近付く。ふと、うつむいた少女の様子に変化が生じたことに気付いた。ざわつく髪が不吉な気配を漂わせる。哄笑と共に再び飛び掛って来た少女の瞳には流血の色だけが宿っていた。
階下の敵を征圧して2階に上がったベアータ達は壁に背中を預けて方で息をしているリュリスを発見した。そばに横たわる少女に近付いたレアは特徴のある耳の形と、切断された腕に一瞬息を呑む。
「だいぶやられたようだな」
足元に転がる空の回復薬を見てアルバートが声をかける。どうやら完全には回復しきれていないようだ。
「あぁ、片腕になっても平気で向ってきやがる」
立ち上がりながら、ついてきた自警団員から回復薬の補充を受け、更に2本ほど追加を飲み干す。
と、近くのドアに動きが見え、全員が一斉に身構える。だがドアを蹴破るように通路に飛び出してきてこちらに身構えたのは、逆周りで敵の背後をつく予定だった別働隊の面々であった。
どうやら途中の部屋や通路を作動した罠や障害物などに阻まれ、迷路のように入り組んだ経路を通らされた挙句に同じ場所に集められてしまったらしい。
そろって少女が守っていた扉を押し開ける。
数室をぶち抜いたような広間に剣や槍を構えた人形達が並び、その向うに華やかなローブを纏った黒髪の少女と、それぞれ武器を手にした老婆とドワーフが立っていた。
「よくここまで辿り着いたな。褒めて使わそう。どうやらセーラめも念願がかなったと見える」
冷ややかな笑いと共に呼びかけてくる。仲間の死にさえも少しも動じる気配はない。
「なにを余裕かましてるのかしらねぇが、もう逃げ場はねぇぜ」
「逃げる‥‥とな。死地に飛び込んで来たのはそのほうらであろうに」
手前にいた老婆が合図すると最前列の人形が一斉に動きだす。背後に潜んでいたらしい使用人達が次の列に後退する。互いに間隔を取った人形達は高速で剣を振り回しながら迫ってくる。
その中ベアータはしきりに周囲を探っていた。玄関ホールに残してきた捕虜や自警団員の一部を除けば、生き物の反応はこの部屋に集中しているようだ。
「あっ‥‥」
探していた相手に気付いて警告を発しようとした時には既に遅かった。人形の攻撃を避けようと窓際に寄った自警団員が鎧戸の破片と共に部屋の中央まで吹き飛ばされる。
ベアータが直撃を食らえば一撃で重傷を負いかねないレベルのグラビティーキャノンだが、鎧戸越しであったのと皮鎧を着用していたことで重傷は免れたらしく呻き声を上げながらも這うようにしてその場を逃れる。
専門クラスの魔法による反撃を警戒してか屋敷の外50mほどの暗闇から、明るく照らし出された室内を狙い撃ちしてくる。
窓から見えない位置まで後退した一同の中から人形目がけてストームを放つ。転倒した人形の隙を縫ってアルバートが飛び出していくが、隣の窓を吹き飛ばしながら再び重力弾が撃込まれる。
間一髪盾を構えて受け止めるが、その前方では2列目の人形が起動されていた。
が、人形を起動して後退しようとした敵に次々と矢が撃ち込まれ始める。首魁と思しき少女にも矢を射掛けるが、これは守りについた2人によって打払われてしまう。
人形を操るものがいなくなると、重力弾を撃込みながら『地』の術者が飛び込んでくる。既に動きを止めていた人形のうち破壊されていないものも含めて次々と人形を起動した。
間隙を突いて前進しようとしたリュリスやレアも人形に阻まれる。だが人形も次々と破壊されていき、警護の2人もそれぞれ矢傷を負うと術者に合図を送る。
ベアータはサイレンスで術者の詠唱を押さえ込もうとしていたのだが、いかんせん乱戦の中を通り抜けて射程距離まで近付くことができない。
呼応して天井目がけて重力波が放たれると、破れた天井から大量の油が降ってきた。部屋中に配置された燭台の火に次々と燃え移る。更に散乱した人形の衣服にも次々と引火し巨大な炎の障壁を作り出す。
炎越しにしわがれた声が響いた。
「うぬらごときに、お嬢様に手出しはさせぬわ。共に灰となるがいい」
どうやら屋敷内の溝などに予め油を流しておいたらしく、火は瞬く間に燃え広がっていく。既にもと来た通路も炎に包まれ、綱が焼ききれると共に止めておいた仕掛けが次々に作動するらしく屋敷のそこここで崩壊が始まっている。敵との間の天井も火の粉を撒き散らしながら轟音と共に崩れ落ちた。
一同は破壊された窓に駆け寄るとロープを使って次々に脱出する。地上から見上げる屋敷は全ての窓から炎を吹き上げていた。
玄関に戻ると、大方の捕虜や見張りの自警団員達も屋敷の外に逃れていた。捕虜の数がやや不足気味なのは、どさくさに紛れて逃亡した者と、重傷で逃げ出せなかった者がいるためのようである。
安全な場所まで逃げ延びようやく人心地ついたベアータが、再び屋敷の内部を探った時には既に生きているものの存在は確認できなかった。
やがて屋敷全体が崩れ落ち、近くに水場もないことから、炎は夜が明けても延々と燃え続けた。負傷者を回復させ、捕虜を自警団に預けた一行は火事が周囲の森に延焼する恐れがないことだけ確認すると報告のためギルドに戻ることにした。
アルバートは裏庭にあった工房から犯罪の証拠になりそうな品物をかき集めると、馬の後ろに曳いて帰ることにしたようであった。