【ドラゴン襲来】決戦の島

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 46 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月19日〜12月26日

リプレイ公開日:2005年12月26日

●オープニング

 複数の囮を使うというやや強引な方法ではあったが、多くの冒険者達の働きにより、手に入れた『契約の宝』の片割れを遺跡の島にある『正しき位置』に無事返却することはできた。
 問題はロキの持つ残り半分の宝とロキ本人なのだが‥‥遺跡で再会したムーンドラゴンは、宝が戻されたことによって再びロキが遺跡を襲うのではないかと予測していた。そしてそのときこそが決戦の時なのだとも‥‥

 その後ユトレヒト近郊の漁村にロキを襲撃した一行は、ようやく本人と一戦交えることに成功する。やはりロキ一人に複数が当ったとしても容易に倒せる相手ではないようであった。
 殊に周囲に部下などがいて回復の間を与えてしまうと始末におえないというのが直接に剣を交えた者達の実感であったろう。
 だが、決して倒せない相手でもない。


 この夜ギルドの仕事を終えたシールケルは領主館に向っていた。
 表情がいまひとつ浮かないのは「急いで来てくれ。但し夜でいい」というなんともちぐはぐな連絡を受けていたためだ――どうせまたロクの用件じゃあるまいが。
 執務室に通されるとお歴々が顔をそろえている。隅のほうには、領主館に住み着き始めて半年ほどになるシフールの姿も見えた。
「ずいぶん仰々しいな。いったい何をおっ始めようってんだ?」
 一同と軽く挨拶を交わしながら、どうやら彼のために空けておいたらしい椅子に席を占めると単刀直入に切り出す。
「まぁ、こいつを見てくれ」
「またか‥‥」
 差し出された手紙を見て溜息をつく。差出人は見るまでもない‥‥と思ったのだがどうやら今回は匿名ではなく署名入りらしい。
「どういう風の吹き回しだ?」
「この件でドレスタッドに恩を売っておこうってことだろう」
 前回使者を送ったことで多少は表立って協力する気になっているらしい。事件収束後の外交やらなにやらの駆引きも多分に働いてはいるのだろうが。
 手紙の内容はロキが再び遺跡の島に渡ろうと準備を始めており、数日中にはユトレヒト港を出港するだろうと言ったものだった。その上でロキがデビルと結託しているため、現状のユトレヒトの戦力では阻止することは難しいとも言ってきている。
「あいかわらず食えん男だな。端から自分で手を出す気なんぞないんだろうに‥‥それに、ロキのやつはもうユトレヒト港を使ってないんじゃなかったのか?」
「港はな‥‥大方どこにいてもこっちが嗅ぎつけるんで不便なところに引籠るのはやめたんだろう。とりあえず協力には違いねえ。事が収まったあかつきには礼の一つも言ってやるのが外交ってもんさ」
「そっちは任せる。で、どっちに人を出すんだ?」
「遺跡に宝を返しに行った時の報告だと、ドラゴンが協力してくれるって話だったな。ロキの力を考えるとそっちで決まりだろう。『契約の宝』の片割れを見つけるとかいう魔法の石が出てきたって話もあるしな」
「そいつがありゃあ、ロキの居場所もつかめるってことか‥‥時に、そこの二人も行くのか?」
「ああ、戦力にはならんだろうが足手まといにならないように気をつけると言ってるしな」
 赤毛の領主の言葉にシールケルも了承したようであった。
「それとな‥‥」
 そう言って、一振りの剣を取出す。
「なんだ? ずいぶん古そうな代物だが‥‥」
「だいぶ前にキーラのやつが例の壁画のあった鍾乳洞で手に入れたやつらしい。鞘になんか書いてあるだろう」
「ああ、これか‥‥で、読めたのか?」
「ある程度はな‥‥どうやらデビル絡みの代物らしい。いわゆる『諸刃の剣』ってやつだな。相手に傷を負わせることでデビルの使う術を一部解呪できるらしい‥‥むろん、タダじゃないがな」
「どうなるんだ?」
「どの程度かはわからんが使い手の魔力を吸い取るらしい。使い続ければあっという間に昏倒する。持ち手の魔力、潜在的なのでもな、それがなくなりゃ、ただのなまくらだそうだ。まあ学者どもの解釈が間違ってなけりゃ、だがな」
「使えるのか?」
「さあな。他にもなにかヤバい影響はあるようだが、とりあえず鞘に収めときゃ最小限ですむらしい。キーラのやつは長く抱えすぎたようだがな。持って行くかどうかは当事者に決めさせるさ」

 こうして遺跡の島での決戦に向けた複数の依頼がギルドに出されることになる。

●今回の参加者

 ea5187 漣 渚(32歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea5640 リュリス・アルフェイン(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea9387 シュタール・アイゼナッハ(47歳・♂・ゴーレムニスト・人間・フランク王国)
 eb1380 ユスティーナ・シェイキィ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1758 デルスウ・コユコン(50歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2818 レア・ベルナール(25歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ラスティ・コンバラリア(eb2363

●リプレイ本文

 全ての精霊を従え、神に叛旗を翻す者――ロキ・ウートガルズ。ドレスタッドに限らず精霊力の及ぶ全ての世界にとって後の無い闘いである。
「想い人がいるノルマンの‥‥いや世界の滅びを防ぐ為に、この地の発展に尽しておられる方々の努力を無にせん為にものぅ」
「僕にも大切だと思える方が現れましたので‥‥この世界を滅ぼす訳にはいきません!」
 シュタール・アイゼナッハ(ea9387)の感慨に、若き友人であるレオパルド・ブリツィ(ea7890)が応じる。別行動する共通の友人達も想いは同じだ。
 レオパルドは、石の設置部隊に以前遭遇したジョーヌ一味の情報を伝え、遊撃部隊にも援軍を打診する。
 布と長い髪で耳を隠したレア・ベルナール(eb2818)は、聖なる釘を受取り使い方を教わる。更にデルスウ・コユコン(eb1758)からは魔法武器も借受けた。本人はそのまま譲るつもりであったが‥‥。
「あちらさんも前に進むか此処で終るか、互いに瀬戸際でしょうからな」
 デルスウの声に緊張は感じられない。
「力は欲する、か‥‥オレも一歩間違えばロキみたいなもんだな」
 先日ロキと対決した折の答えは、リュリス・アルフェイン(ea5640)にも複雑な想いを抱かせていた。戦士にして力を欲せぬ者があろうか‥‥だが。
「リュリス‥‥貴方の求める力は他にある‥‥だから‥‥」
 島の地理や敵情報などを纏める手伝いに来たラスティが気遣わしげに声を掛る。
 今回リュリスが持参する魔剣は、敵のデビル魔法を解除すると同時に使い手の魔力をも吸い取る危険な力だ。
「ロキは何を求め何故悪魔の眷属へと成果てたのか。ま、勝負がついた時にでも聞いてやるか‥‥」
 宝に反応するアルヴィースの石を守る部隊や、ロキを強襲する部隊とも打合せが行われ、一行は宝を安置した部屋に最後の防衛線を敷く。
「ロキはギャラホルンを奪う時に部屋に行ったでしょうから、直接転移してきてもおかしくないですしね」
 ドラゴン襲来以来長らく真相を追い続けてきた白 銀麗(ea8147)も穏やかに指摘する。
(悪魔と戦うなんて‥‥正直、気が進まないなぁ。恐いもん。でも、そんな事言ってる場合じゃないか。)
 そんなことを考えながらユスティーナ・シェイキィ(eb1380)は銀麗から魔法の成功率をを高めるというリュートを借受けている。尤も口から出た言葉は内心を伺せない。
「冒険者、悪魔、ドラゴン・精霊が三巴の大スペクタクル!? 足手まといにならないように頑張ろう」
 本人の言とは裏腹に、彼女の力がないと宝の部屋そのものに辿着くのも困難なのだが。
「今回は海やのぅて陸の上のお仕事やけど、ま、世界が滅びてもうたら元も子ものうなってまうさかい、気合い入れさしてもらうで!」
 一度ロキに肩透しを食った漣 渚(ea5187)も意気盛んだ。いざという場合、戦士達が魔剣を使い回す為ソルフの実を配る。
「ぶっ倒れてもうたら意味あらへんもん。ソルフの実ぃは適時使ぅてかまへんけど、使わへんかった分は依頼終了後にちゃあんと返してな☆」
 領主館の担当者は消耗品の補充を約束した。

 遺跡の島までは何事もなく到着する。
 街で石の守備隊と別れ、城壁へ。ユスティーナが入口を作ると中に入っていった。
 変化した銀麗らが渡したロープにユスティーナが蔦を操って橋を架ける。同様に魔法等で先行する三人が設置したロープを伝ってリュリスやレオパルドが垂直な壁を登り、協力して残った仲間を引き上る等、前回と同様の手段を駆使し前回より短時間で広間に辿りつく。
 広間を囲む回廊の蔦に覆われた窓から眼下に一面の雲。回廊の至る所に絡みついた蔦は天井の開口部から更に上に伸び、星が覗く。
『辿り着いたようだな』
 頭の中に響く声に顔を見合せると蔦を利用して上階へと登る。夜空に向って開かれた場所には、なじみの精霊やドラゴンが顔を揃えていた。
 レオパルドはミールの様子を気に掛けながらジニールに向って、ロキの操る精霊達を出来るだけ抑えて欲しい旨を伝えるが‥‥。
『難しいな』
 そっけない返事にムーンドラゴンが言葉を添る。
『彼らは宝によって再び操られるやもしれぬ。戦いが始まれば、精霊達は塔を離れる』
「そうなんだ‥‥操られてる精霊にはあまり攻撃したくないな。できればドラゴンの方で当って欲しいけど、どうでしょうね? ムーンドラゴンさん」
『みなに伝えよう』
 ユスティーナの問に鷹揚に答えると、レオパルドが付け加えた。
「僕達の仲間が地上にも展開しています。連絡やいざというときの援軍の輸送もお願いしたいのですが」
『解った』
「ただな、宝の位置を光で示す石を持って来てるんだが、この雲じゃ光が見えねえ」
『容易い事』
 リュリスの言葉にジニールがその場を離れる。暫くすると雲が流れ出し、やがて視界から消え去った。眼下に光の点が瞬く。
 シュタールは精霊が近くにいることでミールの様子に変化がないか気遣いながらも、呼吸感知で周囲を確認した。
「えっと、ここに打ち込めばいいのかな。」
 広間に戻り、祭壇の根元にレアが聖なる釘を打込む場所を検討する。ロキの出現と同時に打込まねば効果に限りがあるのだ。
 レオパルドは予備武器を使い易いように並べる。魔剣を使い続けられなくなった場合の対策だ。
 迎撃準備が終ると、見張りを残して休息をとる。殊に術者達は決戦に備えここに到るまでに費やした魔力の回復が必要だ。
「まぁ、焦らず他が上手くやってくれる事を願いましょうか。転移で来たならもう逃げられる事もありますまい、どちらかが果てるまで存分にやり合いましょう」
 壁にもたれかけたデルスウは、持参した酒を舐め始める。
「そやけど、普通に来て、ギャラホルン持って転移で脱出されたらかなわへんなぁ。そんときは猫を投げつけて奴の身体にしがみつかせるわ。なんか、ひとりでしか転移でけへん気ぃがするんよ。単なるカンやけどね」
 苦笑しながら渚が応じた。

 翌日光を見張っていたスィエルが変化を知らせると、レアはいつでも聖なる釘を打てるように準備した。
 釘の周囲を、銀麗、ユスティーナ、シュタールが囲み、更にレオパルドがミールらを含めた盾となる。前衛はリュリスとデルスウ、やや後方に渚、更にレアも加る手筈だ。
 やがて、外から遠くドラゴンと精霊達が闘うらしい音が響き出すと、シュタールはヘキサグラムタリスマンに向って祈りを捧げる。

 スィエルが飛込んでくると同時に渚とレオパルドは念を凝す。が、発動を待たずにロキが姿を現す。レアが釘を打込む間にリュリスとデルスウが前に出た。
「また貴様らか」
 ソルフの実を飲込むと口元に歪んだ笑いが浮ぶ。足元には風の精霊が姿を現した。
「ファイターのデルスウ。参る」
 正面から打掛ると、手にしたハンマーを横薙ぎにする。トデス・スクリーを両手で構えたリュリスも側面に回り込み、足元を払うように剣を振った。が、それぞれ僅かの所で巧妙にかわされ、掠り傷に止る。
 後方に光が生まれた。パリーイングダガーを構えて戦列に加りながら、渚は更に別の思念を凝す。結界を張ったレアもワプスレイピアを手に取ると前に進み出た。
 攻撃が始まると同時にトッドローリーは前衛の戦士達をすり抜けて祭壇の周囲を固める面々を襲う。リュートベイルを構えたレオパルドが最初の一撃を受止たが、方向を変えて横から回り込む。
 スクロールを広げたユスティーナの手元から氷の粒が噴き出す。精霊への攻撃は避けたかったが、広間でドラゴンはあてにできない上、精霊の動きは呪文を唱える余裕を与えない。
 氷の嵐に突込んで、動きが止った所へ水晶剣を手にしたシュタールが切りつける。格闘戦の不得手な一撃はかわされたが一時的にせよ攻撃を退けることができた。
 その隙にシュタールが合図するとレオパルドは待機しているはずのムーンドラゴンに語りかける。
 ロキと対峙した四人の戦いも困難を極める。リュリスとデルスウの繰出した第二撃は易々と受け止められた。胸を狙って繰出されるレアの突きも、最初の一撃を僅かに外されて傷を与えると次の攻撃からは効目がなくなる。
「ギャラルホルンに手ぇ出さすヒマは与えへんでぇっ!」
 渚が左手で操るダガーの一撃を同様にかわしたロキは、右手に突然現れたオーラソードに脇腹を抉られて思わず後退るが、畳掛けた攻撃はやはり効果を発揮しない。
 更にデルスウが叩きつけるハンマーを片腕で防ごうとしたロキだったが、銀麗の体が光を発するのを視界の隅に捉えて回避した。腕に走る痛みに予感が当ったことを悟る。
 耐性が解除されたことを知って再び切掛ろうとするリュリスをデルスウが遮った。ハンマーを手放し、懐からナイフを取出そうとする所に、気付いた銀麗が解呪を施す。
 この間ロキに迫る渚とレアの眼前で漆黒の炎を纏った球体が広がった。隙を突いて再びソルフの実を口にする。高速詠唱でデビル魔法を使い続けるのは負荷が高い。銀麗が解呪を試るが、闇の結界に阻まれた。
 ダメージを堪えながら次々と結界に飛び込んだ四人の攻撃も、一撃を与えると効果を失う。ロキの剣をトデスで受けたリュリスは、跳上げながら剣を放ると背負っていたアルマスを振下ろす。かろうじてロキが剣で受た所へ、更に腰の魔剣を引抜きざまに切りつけた。続くデルスウの一撃はロキの体を弾飛ばす。
「なっ‥‥」
 ロキは驚愕の表情を見せると、風の精霊を割込ませた。
「大丈夫ですかな?」
「ああ、まだやれそうだぜ」
 一瞬ふらついたリュリスだが、デルスウが声をかけると笑い返す。
「‥‥何を?」
 風の精が稼いだ僅かの時間に回復薬を飲んだらしいロキに狼狽の色が走る。完全に回復しない所を見ると薬も尽きたのだろう。
 既にかなりのダメージを受けていたらしい風の精も更なる攻撃を受ると逃去った。周囲を警戒しながらも包囲を狭める。闇の結界に包まれ、壁を背に身構えるロキに向ってリュリスが口を開く。
「一つ聞く。何故悪魔の眷属へと成り下がった?」
「神の摂理が我等の存在を認めぬというのなら、力で神を超える。それだけのこと」
「なによそれ。角笛の力も悪魔の力も、結局他人のモノでしょ。そういうの、他力本願て言うんじゃないの。自分の力じゃ何にも出来ないくせに、偉そうにしないで欲しいわよね」
 ユスティーナが怒りを抑えきれない様子で畳み掛ける。
 ロキが応えようとした時、間近にドラゴンの咆哮が響く。一瞬の間をおいて天井の一角が轟音と共に崩落ちた。舞上る粉塵の中に金色の鱗――その体に巻きついているもの――。
「「「ララディ!?」」」
 いくつかの声が同時に叫ぶ。が、二匹は絡合ったまま落下していく。
 瓦礫の中から二つの影がよろよろと立上がると、駆寄ったシュタールは友人の姿を認めた。
「イコン‥‥」
「すみませんシュタールさん‥‥援軍のつもりがこのざまで‥‥」
 面目無げに顔を顰めながらも、ロキに向って歩み出そうとするエイジスを推止めて、手にしたクレイモアにオーラパワーを付与すると、そのまま意識を失った。
「キミの言い分はドラゴンを通じて聞いたよ。でも、元同族の一人として絶対に認める訳にいかないんだ‥‥」
 ロキに向って語りかけながら、取囲んでいる戦士達に視線で挨拶を送り、戦列に加わる。戦闘中にも拘らず狂化の兆候はない。
 再び闇の結界を挟んでの攻防が始まった。ソルフの実で魔力を補充し銀麗も解呪で介入する。
 レアの突きを撥退け、デルスウのハンマーと渚の二刀流も耐性で受け切った所へ、波状の構えで聖剣と魔剣の重さを乗せたX字漸撃を加える。
「天餓双刃‥‥なーんてな」
 確かな手応えを感じながらリュリスが退ると、再び四人が攻撃にかかる。更に耐性がついたと見ると、ソルフの実を口に放込み、結界に踏込んでいく。
「貫けぇ!」
 仲間達の間を縫って双剣を突出す。繰出された切先は二つながらにロキの体を貫く。確実だった。膝が崩れかけるのを感じながらエイジスに視線を送る。
(‥‥止めを)
 同族の不始末は自分の手で、という強い想いは全員が感じていた。闇の結界からのダメージを堪えながらも背後からクレイモアがロキを貫く。
「‥‥こんな‥‥所で‥‥」
 前後から剣に貫かれ、ロキの体は徐々に形を失っていく。紫のローブが床に崩落ちるのと同時に二人も床に倒れこんだ。
「これで平和が来るんだよね。ドラゴンに襲われることも無いんだよね‥‥」
 かつて同族だった者の最後にレアが呟く。ロキは道を誤った‥‥だが。

 倒れた戦士達が壁際で介抱される中、床に広がった紫のローブに傍らに立ったデルスウが酒を注ぐ。
「ハーフエルフだったようだが‥‥哀れな生き方を選んだな」
 一方、二人を運ぶ際に宝の残りも拾上げたユスティーナが誰にともなく尋ねた。
「これって、どうすればいいのかな?」
「イコンから聞いた話だと、この地にはオーディン殿の霊が居るとか、直して頂き、元の場所に安置するかのぅ」
 応えたのはシュタールだった。
 ロキの消滅と共に、祭壇の結界も消えていた。宝を合せるように安置する。
 中空に光が現れ、二つの宝も光に包まれながら浮び上がると、やがて溶け込むように一つになる。光が消えても継目らしきものは認められなかった。
 中空に浮かんだ光は一瞬白いローブを纏った老人の姿をとったかと思うと四散する。角笛はゆっくりと所定の位置まで降りてくると、再び光の柱が復活した。魔剣も鞘ごと消失せている。
「相変わらず愛想のない連中だぜ」
 壁際から聞こえる声に振返るとリュリスが意識を回復したらしい。間もなく残る二人も意識を回復し薬を受取る。尤も前線で戦った他の三人も、繰返し結界から受けたダメージは軽くはない。
『終ったようだな』
 見上げると、天井の裂目からムーンドラゴンが覗き込んでいた。
「ムーンドラゴンさん、無事だったんだ。ケガはなかった?」
 心配ない、と鷹揚に応えると、笑いの波動が一同を包む。
「あれっ、スィエル? この人たちは?」
 聞覚えのない少女の声に一斉に振返る。スィエルに向って矢継早に質問を投げていた少女は、視線に気付くと、立上がり「はじめまして」と深々と頭を下げた。が、それも束の間、回廊に向って飛出していく。
「ミール、ちょっと待て、そうやって一人でうろちょろするからこんな羽目に‥‥ったく、聞いてねぇし‥‥」
 ガックリと肩を落とすスィエルをユスティーナがにやにやしながらつつく。
「スィエルさんとミールさんは、いつ結婚するの? 式には呼んでよね、絶対。約束だよ」
 耳元まで赤くなったスィエルに、「シフールにはちょっと大きいかもだけど」と言いながらラブスプーンを渡す。壁にもたれたリュリスもにやりと笑みをもらした。