●リプレイ本文
目的の村が近付くと、一行はそれぞれの思惑を胸に思い思いの方へと散っていく。
道中対策を話し合いながら来たのだが、結局方針自体に関しては全員が納得するような案が得られなかった。ようやく合意できたのは、1〜2日の間相手の男の様子を見張ってみることと、いよいよと言う時までそれぞれが仲間同士であることを隠そうと言う点だけである。
直接その男に接触を図ってみることにしたキャル・パル(ea1560)が村に続く道をパタパタと飛んでいく。ロングソードを無造作に肩に担いだヴォルディ・ダークハウンド(ea1906)が十分に距離をとってあとを追う。さすがにキャル一人では危険過ぎると考えたらしく、用心のために着かず離れずの距離から監視するつもりのようだ。
エルド・ヴァンシュタイン(ea1583)も村人からの情報収集と、男を追い詰めるために必要な村の地理を確認しに村の中に入っていく。
予言対決をやってみるつもりのノリア・カサンドラ(ea1558)だけは、対決の当日まで村に姿を見せない方がいいということで、近くの森に隠れて他のメンバーを待つことになった。
全員がバラバラに村に入ったはずなのだが、なぜかミリア・リネス(ea2148)だけはヒール・アンドン(ea1603)のうしろからトコトコと子猫のように付いてくる。ヒールの馬はノリアに預けてきていた。
「‥‥ところで‥‥何故にミリアさんは後を付いてきてるのですか‥‥」
立ち止まったヒールが軽く振り向き少し頬を染めながら当惑気に訊ねると、ミリアはからかうようにヒールの目をじっと覗き込んだ。
「赤い目がきれいだったから」
いたずらっぽく笑うと、ヒールの脇に滑り込むようにして腕を組む。肘の当たりに押し付けられた柔らかな感触に、女性に免疫のないヒールは耳の付け根まで真っ赤になった。
すれ違う村人達の視線が集まり出したことにますます当惑するヒールだが、ミリアは一向に気にする様子もなくいかにも楽しげである。
仲間の芝居に参加しないことを決めたフランシア・ド・フルール(ea3047)は、一足先に一行から離れまっすぐに村の教会へと向かっていた。教会を訪れると、既に初老を迎えたと思われる司祭に客間へと案内される。周囲に人のいなくなるのを待って来意を告げた。
「私はフランシア・ド・フルール。『大いなる父』に仕える者です。こちらの村に主の名を騙る者がいると聞いて伺ったのですが」
「おお、するとギルドの方から?」
フランシアが頷くと、司祭は説明を始めた。
「全くあの男には困っておる。初めは村の若者達に魔法のようなものを見せていただけらしいのじゃが。そのうち、自分は来るべき滅びと救済について神から与えられた啓示を広めるために旅をしていると言い出したんじゃよ」
「世界の滅亡と再生は『大いなる父』の御業。主を騙るなど、許すことは出来ません!」
フランシアが怒りの声をあげた時、新たな来客が告げられた。フランシアが窓辺へ近付くとやや遅れて教会へとやってきたらしいシクル・ザーン(ea2350)の姿を認めた。
「一緒に来た仲間です」
司祭に向かってフランシアが告げると、まもなくシクルも部屋へと通される。フランシアの姿を認めると、軽く一礼して司祭に向かって名乗りを上げた。
「『大いなる父』に仕える騎士シクル・ザーンと申します」
「よく参られたな。お疲れじゃったろう。まあお掛けなさい」
それぞれ椅子に落ち着くと、再び話の続きを始めた。
「みなに見せたと言う魔法の類については聞いておるかね」
「確かサーチウォーターやウェザーフォーノリッヂなどだとは聞いていますが」
シクルが応えると満足そうに頷き、言葉を続ける。
「あの男がウィザードかどうかも疑わしいと言う点も聞いておるね」
「はい」
「ウィザードに神託・サーチウォーター・ウェザーフォーノリッヂを並べると不自然だとは思わないかね」
確認するように言葉を切る。
「怪しげな邪神であればともかく、ジーザス教の神託であればウィザードに下ると言うのは、ちと筋が違うのではないか‥‥少なくともワシはそう思う。それに天候をよく占うのものはジプシーじゃろうしな」
「言われてみれば‥‥使えそうな魔法はサーチウォーターくらいですね」
「さよう。じゃがどうやらそれも何か裏がありそうなのじゃよ」
「まさか!全く魔法が使えない唯の人間だとでも‥‥」
黙って聞いていたフランシアが驚きの声をあげる。
「まだなんとも言えんのじゃがね」
同じ頃、村に向かったキャルは出会った村人に預言者の居所を訪ね歩いていた。
「ねえねえ〜、この村に預言者さんが居るって聞いたんだけどどこに居るの〜?」
遠来の旅人であるキャルを笑顔で迎えた村人達も、この一言で一転して表情を強張らせる。胡散臭げな面持ちで無言で立ち去るものもおり、返ってきた返事といえばほとんど異口同音だった。
「おまえさん、あの野郎の知り合いかね」
「違うよ〜、なんかちょっと噂で聞いただけだよ〜」
笑ってごまかしながら、ほうほうの態で引き下がる。どうやらあまり評判はよくないらしい。
エルドやヒール達もまた村人達の反応が瞬く間に代わるのを目の当たりにして、情報収集は早々と断念せざるを得なかった。エルドは決戦に備えて地理の確認に専念することにした。
太陽が中天に昇るころ、散っていた仲間達が集まり始める。教会からはシクルだけが戻っており、司祭から聞かされた話と、森の中だけを通って教会の裏手に抜ける事ができることを伝えた。人数分のベッドこそないが、どうやら野宿せずにすみそうである。
情報を元に集団と接触したキャルは、大げさな感嘆の声を上げながらついて歩いていたが、日没とともに取り巻き共々追い払われてしまった。男によれば、夜は一人で森にこもって新たな神託に耳を傾けなければならないと言うのだ。
もっともそう簡単に引き下がるキャルではない。男から見えないところまで来ると、隠密行動万能を生かして薄暗がりの中、尾行を開始する。護衛役のヴォルディもキャルとの距離を縮めた。
やがて2人は森の中に設けられた男の簡易テントを発見すると、安全な距離をとって合流し見張り始めた。 やがて男は食事の支度をしながら楽器を奏で始める。男がテントの中へと姿を消すと、ヴォルディは
キャルに休むように進めた。ヴォルディ自身は徹夜も慣れている。
「そ〜なんだ。じゃ休ませてもらうね〜」
1日中飛び回っていたキャルは、手頃な枝を見つけるとマントに包まって目を閉じた。どれくらい経ったか分からないが、まだ空が暗いうちから起こされる。
「どうやらやつが動き出したみたいだぜ」
押し殺したヴォルディの声に、キャルも闇の中に目を凝らす。確かに男は村の方へと向かっているらしい。
追跡を開始したキャルは、男が一軒の家の前で立ち止まるのを見て木陰に隠れた。しばらくじっと立ち尽くしているかに見えた男の体がボウッと銀色の光に包まれる。唖然としてみていたキャルは、いきなり引き返してきた男をやり過ごすと、慎重にヴォルディのいた場所へと引き返した。
合流した2人は夜明け前に教会へと取って返すと、暗いうちに教会を出ようとしていた仲間の元に、たった今見てきたばかりの光景を伝えた。
「銀色の光ですか‥‥ということは彼の使う魔法は4大精霊のいずれにも属さない‥‥月の魔法を使っていると言うことになります」
考え込んだようなシクルの声に応えるようにキャルが聞き返す。
「そ〜だよね〜、やっぱりウィザードじゃなくてバードなんだよね〜」
「たぶん‥‥使っていたのはチャームでしょう。取り巻きの人たちとほかの村人の反応がずいぶん違うわけです。どうやらニュートラルマジックが役に立ちそうですね」
「なるほど、どうやら今日中にも片がつきそうだな。とりあえず奴が動き出すまであんたらは休んでてくれ。連中が出てきたら連絡するぜ」
エルドがそう言うと、寝不足気味の2人を残して村の中へと散っていった。
日も高くなったころ司教に頼んで集めてもらった村人達が遠巻きにする中、ノリアが偽預言者の集団と対峙していた。
「ふ〜ん、貴方が噂の似非預言者ね。あなたの正体なんかとっくにばれてるんだから」
「なんのことかな」
平然と嘯く男に、キャルがパタパタと近付く。
「あのね〜キャルけさ面白いものを見ちゃったんだ〜。このおじさんがね〜取り巻きの人の家に行って『月』の精霊魔法使ってるとこ〜」
「何をバカな」
「あれってさ〜チャームじゃないのかな〜だからみんなおじさんのこと好きなんじゃないの?」
「ワシはウィザードじゃ『月』の精霊魔法など使うわけがなかろう」
なおも平静を装って応える男にノリアがさらに畳み掛ける。
「へ〜、じゃどうして『陽』の精霊魔法は使えるわけ?ウェザーフォーノリッヂは使ってたんでしょう?」
「あれは魔法などではない、単に天候が変わるのが分かるだけじゃ」
なおも強弁を続ける男の前にフランシアが進み出る。物陰に隠れてニュートラルマジックを使い続けていたシクルから、取り巻き全員のチャームを解呪したと言う合図が入ったのだ。
「神の名を騙る愚か者、あなたにはもう味方はいません。観念なさい」
男が振り向くと、取り巻き達の表情に半ばとまどったような色が浮かんでいる。
息を整えたシクルも進み出てきた。
「あなたの魔法はすべてニュートラルマジックで解呪させて貰いましたよ」
「こいつらこそ魔法の力でお前たちを操ろうとしているのだ。騙されるな」
男が最後の抵抗を試みる。
だが次の瞬間男の目の前に轟音とともに巨大な穴が開いた。業を煮やしたヴォルディが、地面にバーストアタックを叩きつけたのだ。もうもうと上がる土煙の中、男になにやら書かれた羊皮紙をを突きつけて宣告する。
「そこまでだ。当局から頼まれて指名手配犯を探していたんだが、どうやら化けの皮ははがれたみてェだな」
そう言いながらなにやら、文字を読む暇を与えずに再び懐に突っ込む。男の抵抗もどうやらここまでのようだった。
「‥‥そもそもあなた達がもう少しちゃんとして、こんな怪しい人に騙されなければ問題にならなかったのですよ‥‥」
男がフランシアたちに引き立てられる中、呆然と見守る若者達に向かってヒールが諭すような口調で言い聞かせていた。