遠き水面

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月04日〜08月11日

リプレイ公開日:2004年08月12日

●オープニング

「おっ、あんた新顔かい?」
 初めて訪れたギルドで職員らしい男が気さくに声をかけてきた。
「あぁ、まあな」
 答えるが早いか、手をとって近くのカウンターに連れて行く。
「いやぁ、あんた運がいいよ。ちょっと頭は使わなきゃいかんが、危険も全くなくて、待遇も良くて、報酬もそこそこと三拍子そろったいい仕事があるんだよ」
「ホントかよ‥‥」
「まあ心配するなって、本当に危険はないんだから。」
 半信半疑な様子に、なれなれしく肩など叩きながら説明を始める。
「実はここからしばらく行ったところに、大きな川を中心に広がったちょっとした街があるんだ。当然水運が盛んなところなんだが、ここで一山当てた商人が自宅の庭で自分の持舟のレプリカを作らせてね。しばらくの間は眺めて満足してたんだが、そのうちに川に浮かべたくなったらしいんだ」
「で、川の運行を管理をしてるギルドへの登録も無事に済んだんで、台車を作らせて川まで運び出そうとしたらしいんだが街中に入ったとたんに立ち往生しちまったんだよ」
「なんでまた‥‥」
「いやね、道幅自体はそこそこあるんだが、けっこうな大きさなんで辻を曲がれないんだよ。とりあえず、なんとか屋敷までは引き返したんだが、どうしても諦めきれないらしいんだ」
「一度分解したらどうなんです」
「そう薦めたものもいたようなんだが、どうやらそのまま持って行きたいらしい。というわけで輸送作業の調査・立案と実際の移動の指揮をしてくれる人間を探していると言うわけさ。むろん輸送に必要な道具は、別に大工を雇って作らせるし、忍足も用意するから力仕事なんかもしなくていい」
「往復の道中も面倒見るし、滞在中は賓客として扱うってことだから、食いっぱぐれもないしな」
「まあ、やってもいいけどな」
 男の勢いに押されるようにそう応えると、さっそく契約書を取り出す。
「おっ、やってくれるかい。じゃ、こいつにサインを」
 なにやらよく分からないうちに初めての依頼を引き受けることになってしまったらしい。
(まあ‥‥なんとかなるだろう)
 街までの面倒を見てくれると言う人物に紹介してもらうために、逗留しているという宿へと案内されながら軽く肩をすくめるのだった。

●今回の参加者

 ea1821 アレス・ギースニデル(24歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea4049 シェアラ・クレイムス(21歳・♂・レンジャー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5659 レン・スイリン(23歳・♂・バード・シフール・フランク王国)
 ea5664 キリト・フランデ(28歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea5701 サフィ・ウィンドソウル(25歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 館へ到着した一行はそのまま問題の舟が置かれている中庭へと馬車を乗りつけた。後続の馬車から真っ先に飛び降りてきたのは、シェアラ・クレイムス(ea4049)である。
「へぇー、こりゃぁなかなか立派なもんやわ」
 移動用の台車に乗せられたままの舟を見て思わず声をあげる。続いて降りてきたムーン・アロー(ea3600)も、馬車から降りるサフィ・ウィンドソウル(ea5701)に手を貸しながら舟の方に目をやった。
 先行した馬車からもアレス・ギースニデル(ea1821)とキリト・フランデ(ea5664)がゆっくりと降りてくる。仲間のシフールだけは、窓から飛び出すとそのまま舟の方へと近付いていった。
 彼らをここまで案内してきた執事が使用人の1人に館の主を呼びにやらせている間、思い思いに舟の近くによって詳しく観察する。
「見たところ、ここに来る途中くらいの道幅ならば通行は問題なく出来そうですね。長さのせいで角を曲がれなかったのだと思います」
サフィがそう口にすると、ムーンも頷いた。
「確かに正面から見れば船体そのものは幅が3mで深さが1mに過ぎませんからね‥‥上部の構造物は取り外せると言うことですし、舳と艫が1mほど突き出してはいますがたいして問題にはならないでしょう」
 しばらく考えた後で言葉を続ける。
「いっそ台車の上に高いやぐらを組んで、舟を縦に吊るすというのはどうでしょう?」
「なるほどな。俺はまた屋根よりも高いやぐらを組んで、その上に舟をおけばいいかと思ったんだが」
ムーンの案に対して、アレスも自分の考えを披露すると、サフィも笑顔で応じた。
「私も家より高く舟を持ち上げようかなとは考えたんですけど、台車のほうの接地面積が小さくて上のほうが重いとちょっと危ないかもしれませんね。ムーンさんの案のほうがバランスはよさそうです。屋根の上を通って川岸まで橋をかけてもらおうかとも思ったんですけど」
「さすがに全長2キロの橋はそうかんたんには‥‥」
 ムーンがそう応えかけた時、台車の陰からシェアラが顔を出した。
「縦ってのはいいかもしれませんね〜。おいら、斜めくらいで考えてたけど、残る問題はず〜っと縦のままで移動できるかどうかですね。途中で見た街の様子だと、道をまたいだアーチみたいなのもあったから」
 そうこうするうちに、館の主らしい人物が何人かの男たちを連れて姿を現した。
「いやあ、冒険者のみなさん遠いところをよく来てくださった。なにぶんよろしくお願いしますよ」
 一堂の前まで来てそう挨拶をすると、アレスがすかさず進み出る。
「俺はアレス・ギースニデルだ。よろしくな。今、皆とも話していたのだが、どうやらなんとかなりそうだ。まあまかせてくれ」
 そう言って手を差し出すと、館の主も上機嫌で手を握り返す。
「まずは移動ルートの確認が先決ですね」
「おいら、見てくるですぅ。あっ、それと前に失敗した時のことも教えて欲しいんですけど」
「私も行ってみます」
 ムーンたちが口々に言うと、主も彼らの方を向き直り。
「そうですな。まあ、皆さんも長旅でお疲れでしょうし、とりあえずお部屋に案内してから、軽く一休みしたらさっそく案内させることにしましょう」
 そう言うと、着いてきた男達に一行の荷物を運ぶように命じて、館の方へと歩き出す。
 それぞれの荷物を男たちに預けると、後に続く。一連の話を黙って見守っていたキリトとシフールも少し遅れて館へと向かった。

 舟をできるだけ軽くするための上部構造物の撤去などを指揮すると言うアレスを残し、サフィたちは街へと入って行った。案内の人間にいろいろと尋ねながら、いくつかのルートを手分けして絞り込む。どうやら舟を縦にしたままでも川岸までたどり着けそうな最短ルートを割り出すことが出来た。
 館へ戻ると、さっそく調べてきたことを元にして、大工たちにやぐらの構造と台車部分の大きさなどを打ち合わせる。ことにシェアラやムーンは、何人かいる外国生まれの大工たちとも、専門的なことでなければ話が通じるため、コミュニケーションには不自由しない。
 やぐらの構造が決まると、大工たちはさっそく仕事に取り掛かった。

 数日後、いよいよ高さ10mを越える巨大なやぐらに舟が引き上げられていく。前日のうちに街の役所にも道路の使用許可を出しており、シェアラはご丁寧に沿道の住人に挨拶回りまでしている。
 舟が垂直に吊り下げられると、やぐらのあちこちからロープが渡されしっかりと固定される。いよいよ移動開始だ。
 やぐらからは上段中段に別れて八方にロープが伸ばされ、それぞれに10人ほどの人足が取り付いており、さらに土台となる台車にも四方に10人ほどが配置されている。
 帆柱などの取り外された装備に続いて、巨大なやぐらがゆっくりと移動を始めた。物見高い見物人が見守る中、川に向かって行く。
 やがてやぐらは最初の辻へと差し掛かる。シェアラが旗や笛であらかじめ決めておいた合図を送る中、さしたる問題もなく無事に角を曲がりきった。
 直線にして2キロほどの道のりを数時間かけて移動した舟は、川岸に達すると静かにやぐらから下ろされる。川へと続く斜面に下ろされると、取り外されていた上部構造物が手早く組み立てられた。
 元通りの姿を取り戻した舟がすべるように川面に浮かべられると、誰からともなく拍手と歓声が沸き起こった。
「みんなで頑張れば、なんとかなるよね」
 シェアラはそう言いながら、興奮して、仲間や居合わせた大工、人足全員に握手してまわっている。
「なんとか成功したみたいですね」
 サフィが声をかけると、振り返ったムーンも疲れきった表情に笑顔を浮かべて頷く。
 アレスは館の主から依頼成功の賛辞を一身に受けており、キリトは少しはなれたところでそんな仲間たちのようすを黙って見守っていた。
 やぐらは後日その場で解体されることになり、その夜は館に帰って盛大な祝賀会が催されることになる。
 翌朝、冒険者たちは上機嫌な館の主から、謝礼とともに商売物だというワインを土産にもらって街を後にするのだった。