ほんとはどっち?

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月02日〜09月07日

リプレイ公開日:2004年09月10日

●オープニング

「なんかあまり危険のない依頼ってありませんかねぇ」
 カウンターの向こうの職員に問いかけると、笑顔で答えを返してきた。
「そうだねえ‥‥そう言えば確か」
言いながら手元の書類をごそごそと探ると、お目当ての依頼書を引っ張り出す。
「これなんかどうだい、同じ依頼人から2件でてるんだが‥‥え〜と、双子のおばあさんを近くの村まで送って、そこで行われる親戚の娘の結婚式後のパーティで余興をやって欲しいって言うんだけど」
「道中、危険はないんですか」
「まあ、途中の道もけっこう開けた街道だし、追剥やモンスターが出るようなところもないみたいだからだいじょうぶだろう」
「余興ってのは‥」
「式の後で、親戚やら近所の人やらが集まって宴会をするんで、まあ場を盛り上げてくれればいいらしい」
「おばあさんたちってのはどんな?」
「90をいくつか過ぎてるらしいんだが足腰もしっかりしてるし、目や耳も達者らしい。まあ、元気すぎてちょっとな‥‥」
「なにかあるんですか?」
 職員が口ごもるのを聞きとがめて問いただすと、しぶしぶ話し出した。
「いやね、歳が歳なんで今度結婚する娘さんってのが、孫だか曾孫のそのまた孫くらいになるらしいんだが‥‥2人とも自分の血筋だと言って譲らないんだよ。でまあ、依頼に来た時もここで半日近くもめてたんだ」
「で、結局どっちなんです?」
「本人たちが最後まで譲らないんで、結局分からず終いさ。とりあえずその場はどうにかごまかしたんだが、まあまたその話になったら君らでなんとか丸く治めてやってくれんかね」
 確かに危険はなさそうだが、どうやら道中何事もなくと言うわけにはいかなそうである。まあ、なんとかなるだろうと言うことでとりあえず引き受けてみることにした。

●今回の参加者

 ea1659 ハンス・ラングスドルフ(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1679 丙 鞘継(18歳・♂・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea1685 皇 荊姫(17歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea1860 ミーファ・リリム(20歳・♀・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 ea3053 ジャスパー・レニアートン(29歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea4324 ドロテー・ペロー(44歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea4335 マリオーネ・カォ(29歳・♂・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea6439 メノリ・アルトワーズ(21歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 一行は老姉妹の用意した馬車に乗り込むと猫屋敷を後にした。荷馬車に日よけをつけた程度の馬車ではあったが、荷台はシフール3人を含む9人が乗り込んでも十分な広さがあった。
 ドロテー・ペロー(ea4324)だけは、馬車を引いている馬を余興に使えるかどうか交渉するために御者の隣に乗り込んでいる。御者と背中合せに座った老姉妹の左右には、皇荊姫(ea1685)とジャスパー・レニアートン(ea3053)が向かい合って座り、荊姫の横には丙鞘継(ea1679)がハンス・ラングスドルフ(ea1659)の正面に乗り込んでいた。
 3人のシフールたち、ミーファ・リリム(ea1860)マリオーネ・カォ(ea4335)メノリ・アルトワーズ(ea6439)は思い思いに場所をとり、時折日よけの上に飛び上がっては周囲の様子を眺めたりしている。
 しばらくは天気の話など取り止めのない会話を続けていたのだが‥‥。
「わしの曾孫の娘なんじゃよ」
「わしの玄孫の娘なんじゃよ」
2人の口からほぼ同時に出た言葉に思わず全員が顔を見合わせた。
「姉さんたらまたそんなことを‥‥」
「おまえさん何を言っとるかね‥‥」
怪しげな雲行きにジャスパーがすかさず割り込む。
「ところでおばあさんたち、僕達と一緒に、くす玉を作ってみませんか?」
「くす玉だって?」
同時に答える2人に、荊姫と一緒に作っている最中のくす玉用の籠と色とりどりのハギレ類を指し示す。
「パーティの余興で使うんです。中に入れるリボンなんかもつくるんですよ。上手くいったら娘さんも喜んでくれるんじゃないかな?」
「ほう、そうかね‥‥どれどれ」
どうやらその気になってくれたらしい、籠やリボンの材料を受け取ると一緒になって作り始めた。
 とりあえずその後は特に揉め事もなく宿に着く。食事を終えた老姉妹が寝室へと引き取ると、見送っていたマリオーネは軽く肩をすくめた。
「‥‥個人的には、喧嘩するほど仲がいいっていうし、それだけ元気な訳だから、他人が入り込んで仲裁ってのもなんだかなと思っちゃうんだけどね」
「僕は、おばあさん達を仲直りさせたい。姉妹で仲違いしてるって言うのはさ‥‥ほっとけないよ。それに、おばあさん達が自分の事で口論していたらお嫁さんが悲しむよ」
ジャスパーがおだやかに異を唱えると、ハンスもそれに賛意を表す。
「せっかくの晴れ舞台だし、会場の雰囲気を台無しにしたくはないからね。はっきり言って、自分の親族を忘れることは子孫に対する冒涜だからな。勝手気ままな論争をしている事の恥を知ってもらいたいよ‥‥とりあえず、婆さんたちの自分の血筋にしかないものを探してみることにするかな。子々孫々のなんとかって、きっとどこの家にもあるはずだし」
自分の意見に特にこだわるようすもなくマリオーネも案を出す。
「それならお嫁さんから両親の方に遡って行けばいいんじゃないかな?たどり着くのは双子のおばあちゃんのどちらか、でしょ?」
「ん〜、お嫁さんにはおばあちゃんが2人いて、曾おばあちゃんが4人いて、曾曾おばあちゃんなら8人いるのらよね〜?そのまた上なら16人、そしたらその中の誰かがおばあちゃん達じゃないのらか〜〜?」
「新婦の両親がそれぞれ2人の直系ってこと‥‥ありえるわよねえ?」
ミーファの言葉にドロテーもわが意を得たりとばかりに身を乗り出す。
「確かにありえないわけではないな。親戚なら出会いの機会も多いだろうし、いとこ同士はなんとかと言うらしいしな」
「鴨の味なのら〜。おいし〜のら〜」
考え込むように口にするハンスにミーファがまぜかえす。
「明日の朝にでも一人づつのところを見計らって手分けして聞いてみましょうか」
「ミーちゃんも聞いてみるのら〜」
 静かな微笑を浮かべながら黙って話の成り行きを見守っていた荊姫と少し離れて見ていた鞘継も同意したので、翌朝2人が真相を確かめることにして一同与えられた部屋へと散っていった。

 翌朝マリオーネとミーファがそれぞれに確かめると、案の定予想した通りの結果となった。馬車で移動を始めるとすぐその話題を老姉妹に指摘すると、忘れておったの一言であっさりと認められてしまった。
ついでに姉の玄孫である母親と妹の曾孫である父親の結婚式にも呼ばれたことを思い出したらしく、ひとしきりその時の話に花が咲く。どうやら本人たちは周囲で心配するほど険悪な喧嘩をしていた自覚はないらしくあっけらかんとしたもので、一同は拍子抜けするとともにほっと胸をなでおろすのだった。
 午後を幾分かまわった頃ようやく花嫁の家にたどり着く。一同は老姉妹を家族に預けると、さっそくパーティの会場になる花婿の家へと案内してもらう。メノリ達が会場の配置やパーティの時間などを確認している間、荊姫は護衛に来ている鞘継を伴ってくす玉に入れる花を探しに出かけていった。
 ドロテーは馬車を引いてきた馬の1頭を借り受けて余興の練習を始めている。なにぶんにも初めての馬を手綱を放したまま走らせた上で的を射なくてはいけないというのは、騎乗や射撃には自身のあるドロテーにとってもそうたやすいことではなかった。

 前日、日暮れ前に宿に案内された一行は朝食を済ませるとすぐ会場へと向かった。パーティは昼少し前からと言うことで、最後の準備を行う。
 荊姫は前の日に見つけておいた花を出来上がったくす玉に入れて最後の仕上げをすると、ドロテーとジャスパーに吊り下げる場所を尋ねた。見物人と射撃位置、虹を作るための太陽との位置関係などを確認した上でシフールたちに声をかける。
「どなたかくす玉を木に吊るすのを手伝っていただけませんか」
「ミーちゃん手伝うのら〜」
ミーファが飛んで来て荊姫が手にしたくす玉を持ち上げようとするが、1人ではびくともしない。
「あら、少しお花を入れすぎましたでしょうか」
「私も手伝うよ」
「俺も手伝おうか」
荊姫が困ったように微笑むと、メノリとマリオーネも集まってきた。
 ミーファとメノリが綱を引き上げ、マリオーネが下から本体を支えてようやくくす玉が持ち上がる。そのまま目的の枝まで上昇するとしっかりと綱を結びつけた。
 その間にジャスパーは鞘継やハンスの手を借りて、この木の近くに運んでおいた大きな桶にせっせと虹を作るための水を満たしている。
 準備万端整ったころ、近くの教会で式を挙げた新郎新婦が同席した親族たちとともに会場に到着した。冒険者一向もパーティ会場で待っていた人たちとともに拍手で迎えるとパーティが始まる。
 近所から集まったメンバーにマリオーネの太鼓とメノリのオカリナも加わって賑やかな音楽を奏でる中、しばらくするとほろ酔い気分の男女が踊り始めた。
 マリオーネは楽団の周りに子供達が集まってくると、太鼓を置いてジャグリングを披露し始める。子供たちの歓声を聞きつけて次第に大人たちもステージの周りに集まりだした。
 ひとしきりマリオーネの芸がすむと、今度はドロテーが老姉妹にりんごを使った射的のアシスタントの誘いを向けたが、さすがに尻込みされたため鞘継が相手を務めることになる。
「‥‥ドロテー、ちゃんと狙ってくれよ」
 鞘継は苦笑しながらそう言うと荊姫から受け取ったりんごを持って1本の木の前に立ち、それを頭の上にのせた。楽器の演奏やダンスをしていた人たちも徐々に集まってくる。
 全員が固唾を呑んで見守る中、ドロテーはショートボウを取り出すとおもむろに矢をつがえた。狙いを定めて放たれた矢がりんごを木の幹に射止めると、一斉に拍手と歓声が沸き起こる。
 続いて馬上からの射的を行うことを告げると、客たちはそちらのほうへとぞろぞろと移動していく。
 ドロテーが馬の方に歩いていくと、ジャスパーも位置について呪文の詠唱を始めた。やがてジャスパーの体が青白い光を放ったと思うと、用意されていた水が生き物のように浮き上がり始める。あまり魔法など見たことのない客たちの間に低いどよめきが起こる中、くす玉の上空に水塊を展開し終えたジャスパーがドロテーに合図を送った。
 ドロテーは馬を走らせながら再びショートボウを引き絞る。正面を通過する一瞬、放たれた矢は狙い過たずくす玉を真っ二つにした。中に詰められた花やリボンが舞い散るのと同時に、ジャスパーは上空の水塊を四散させる。降り注ぐ水滴が納まると、くす玉の上空には見事な虹が出現した。
 見物していた客たちはしばらく息を呑んでいたが、次の瞬間にはこれまでにもまして盛大な拍手と歓声が沸き上がった。割れたくす玉からは「結婚おめでとう!」の垂れ幕がたなびいていたが、客たちの中にほとんど文字を読めるものがいなかったと言うのはちょっとしたご愛嬌である。
 興奮さめやらぬ様子で客たちは宴の席に戻っていくと、再び音楽と踊りで盛り上がる。ミーファはときおりマリオーネやメノリとともに民族舞踊などを見せる合間に、ひたすらご馳走を食べまくっていた。
 やがて陽も傾き始めた頃、新婚の2人から来客へのお礼の言葉が伝えられた。薄闇が迫る中、メノリはライトを発動させると、若い2人の姿を明るく照らすのだった。