猫屋敷のお留守番

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月02日〜09月07日

リプレイ公開日:2004年09月10日

●オープニング

「なんか安全で確実な依頼ってありませんかねぇ」
 カウンターの向こうの職員に問いかけると、笑顔で答えを返してきた。
「そう言えば近頃はケガ人も出始めてるみたいだからね、まあ安全なのにこしたかとはないよな」
 言いながら手元の書類をごそごそと探ると、お目当ての依頼書を引っ張り出す。
「これなんかどうだい、同じ依頼人から2件でてるんだが‥‥こっちはしばらく家を開ける間の留守番だね」
「はあっ、るっ‥留守番‥‥」
 ここって冒険者ギルドだよな、などと自問しつつあきれかえった表情のあなたに向かって言葉を続ける。
「いやまあちょっと訳ありでね、なんでも猫をたくさん飼ってるんで、ほうったままにもしておけないということらしいんだ。猫好きでないと勤まらんだろうけどね」
「たくさんって‥‥」
「え〜とだな‥‥とりあえず定着してるのは47匹ということらしい」
「とりあえず?」
「まあ相手が猫だからね、勝手に出入りしてる連中も面倒見てるらしいよ」
 世話をする数の多さはともかく、少なくとも戦闘などとは縁のなさそうな依頼であることは確からしい。まあ仕事には違いないし、猫相手にのんびりするのもいいかもしれないと気を取り直すのであった。

●今回の参加者

 ea1585 リル・リル(17歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea1822 メリル・マーナ(30歳・♀・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 ea2229 エレア・ファレノア(31歳・♀・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5293 エリア・アークヒルツ(19歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 ea5804 ガレット・ヴィルルノワ(28歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea5894 マピロマハ・マディロマト(26歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea5947 ニュイ・ブランシュ(18歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 依頼主の老姉妹が、同行する冒険者の一団とともに遠ざかっていくのを見送っていたメリル・マーナ(ea1822)は、改めて両側に伸びる道の先を眺める。
「これはちと予想外じゃったのう」
 近くの酒場で酒でも買って近所を挨拶回りなどしようかと思っていたメリルだが、一番近い「お隣さん」でさえ軽く1キロはありそうなのだ。どうも街中とは勝手が違うらしい。
 仲間達が引っ込んでしまった家の方に向かって歩きながら思わず頬が緩んでくる。
「‥ふほほほほほ、猫じゃ、猫まみれになるのじゃ〜!」
 思わず声に出してたとたんにドアを開けて出てきたニュイ・ブランシュ(ea5947)と思い切り目が合ってしまった。呆れ顔のニュイを咳払いでごまかすと、澄ました顔で入れ違いに家の中に入っていく。
 家の中ではミカエル・テルセーロ(ea1674)がかねてからの酒場での友人リル・リル(ea1585)と共に猫達の状況や家の中の状態をチェックしていた。
「わ〜、ちびにゃんこかわいい〜♪」
 部屋の一隅に置かれた大き目の籠を覗き込んでリルが小さく歓声を上げる。籠の中には手足を投げ出すように横倒しになった母猫と、そのおなかの上に折り重なるようにして眠っている生後2〜3週間の子猫たちが入っていた。
 リルの声が聞こえたのか、隣の籠からもう少し大きくなった子猫たちがおぼつかない足取りで這い出してきた。中の一匹はぶるっと大きく頭を振ったかと思うと、その勢いでしりもちをつく。物珍しそうにリルの周りに集まってくると、おずおずと鼻先を近づけて匂いをかぎ始めた。
 一方外に出たニュイは庭や家の周辺の状況を確認して回っていた。家の中を見た限りでは、飼い猫47匹と通りすがりにしては猫の姿が少なすぎる。インフラビジョンの効果が切れないうちに急いで辺りを観察すると、周りの畑や森の中にもけっこうな数が潜り込んでいるらしいことが分かる。
「なるほどな。一応他の奴等にも伝えとくか」
 などと呟きながら、更にあちこちを調べて回っていた。
 台所ではエレア・ファレノア(ea2229)がエリア・アークヒルツ(ea5293)と一緒に、依頼主に使用許可をもらった買い置きの食料の確認に余念がない。畑のほうにもこの時期に取れる作物が幾種類かあると言うことだった。
 とりあえず一行の中では多少なりとも家事がこなせるといえるのはこの2人だけらしい。
 一方、ガレット・ヴィルルノワ(ea5804)は、持参した爪とぎと猫トイレ用の箱を抱えて、設置に最適な場所を物色していた。できるだけ部屋の隅や家具の陰などの落ち着ける場所がいい。
 パタパタと羽ばたきながらマピロマハ・マディロマト(ea5894)は天井の一番太い梁の横まで飛び上がった。メリルが老姉妹に聞いていたこの家のボス猫に挨拶でもしようかと思ったらしい。
 梁の中ほどに立派な体格をした黒寅の猫がうずくまっている。マピロマハが声をかけると、薄目を開けてチラリとこちらを見たものの、耳をふるっと一振りしただけで再び元通り目を閉じてしまった。
「あら〜、愛想のない猫さんですね‥‥」
 どうやらほとんど気にも留めていないらしい様子に、諦めて仲間の下へと舞い降りる。
 やがて家の内外を調べ終えた一同が居間へと集まってきた。最年長のエレアが仲間たちの持ち寄った情報を元に状況を説明する。
「猫さんたちの食事は基本的には朝晩だけらしいけど、授乳期のお母さん猫だけはいつでも食事が出来るようにしておいてあげないといけないみたいですね。それと元気な子たちは畑や森で狩りもしてるらしいから、少し量を加減してって言ってました」
「今日は夕方まで食事のしたくはいらないみたいですから、とりあえず少し家の中をお掃除でもしましょうか」
「あとですねぇ、やっぱりねこさんたちはお肉好きみたいですしぃ、保存食のお肉類は塩分多いですからぁ、夕方になったらぁ、私買出しに行きますぅ。いつもお買物してるお店も教えてもらいましたしぃ、お金も預かってますからぁ‥‥」
「それじゃ、僕もお供します〜。あんまり荷物は持てませんけど」
 エリアがそう付け足すとミカエルも同行を希望したが、ふとそちらを見るといつの間にかエプロンに箒、雑巾などで完全武装しており、目を輝かせながら興奮した様子で語り出す。
「血が!血がたぎります!!皆さん、さあピッカピカにしてみせましょう!」
 それに触発されたわけでもあるまいが、メリルもなぜかやけに張り切っている。
「このメリル・マーナ、全身全霊をもって掃除してみせるわっ!」
 異様にテンションの高い2人の様子に多少鼻白みながらも、一同は手分けして猫屋敷の掃除を始めるのだった。

 どうにか家の掃除も片付くと夕食まではさしたる仕事もない。一同は思い思いに猫と遊び始める。
 エレアは猫たちの首に色とりどりのリボンをつけ始めた。子猫たちはおとなしくリボンをつけさせたのだが、どうやら大人の猫たちの中にはどうもあまり気に入っていないものもいるらしく、途中で逃げ出すものも多い。外に出たままなかなか帰ってこない猫もいるようで、全ての猫にリボンをつけるのはなかなか容易ではないようだ。
 一方エリアは生まれて間もない子猫たちの籠近くに陣取っていた。床の上に頬杖をついて寝そべると、仰向けになって猫パンチや猫キックを次々と繰り出す子猫や、両前足を掌にかけて後足で立ち上がり指先をカリカリとあまがみする子猫の相手をしている。
 かと思えばメリルはバックパックから釣竿を取り出すと、針の代わりに自作した木彫りのネズミを吊り下げて猫たちの上にたらす。さっそく若い猫達が群がってくるなか、ネズミを上下させては猫たちの攻撃をかわしている。
「ほれほれ〜‥‥たまらんのう」
「わ〜、おもしろそ〜‥‥だけどそのぶら下げてるのな〜に〜」
 ガレットから分けてもらったエノコログサで猫たちと一緒に遊んでいたリルが訊ねると、メリルは一瞬答えに詰まる。
「うぅっ‥‥一応はネズミのつもりなのじゃが‥‥どうせわしの細工はへたっぴじゃ〜」
 そんな会話をよそに、マピロマハは元気のいい猫たちとじゃれながら、馬上ならぬ猫上の騎士を実現するために、なんとか自分を背中に乗せてくれる猫がいないかと悪戦苦闘していた。何度か手ごろな大きさの猫の背に乗せてはもらうのはよいのだが、なかなか歩いてくれなかったり、手綱がないために動いたとたんに滑り落ちてしまったりする。
 そんななか、ガレットは仲間と遊んでいる子猫たちを見守りながら、生後1〜2ヶ月の子猫を対象に爪とぎとトイレの躾をしようとしていた。爪とぎ動作や砂かけ動作をし始めたら、板とトイレの場所にそっと抱えて連れて行き、ちゃんとできたら褒めるという繰り返しを根気よく続けている。
 擦り寄ってきた子猫の耳の後ろをなでながら、気持ちよさそうに目を細める子猫に話しかける。
「ん〜、この子結構ガリガリなんだね‥‥これだけ数がいれば餌も充分行き渡ってないだろうし、この子達はこれで本当に幸せかなぁ?‥‥キミ達はもっと幸せになれるはずだよ」
 お婆さんたちが帰ってきたら少し猫たちを里子に出すように頼んでみようと心に決めながら、猫たちの様子をじっと見つめていた。
 賑やかな室内の様子をよそに、ミカエルとニュイの男2人は日当たりのいいテラスで昼寝をする猫たちの中に埋っていた。小柄なミカエルは比較的大きな猫たちの間にほとんど埋没しまっていたし、ニュイにしても猫たちに踏みつけられようが埋もれようが一向に目を覚ます気配はなかった。

 昼食を終えるとエリアとミカエルは近くの村まで夕食のための買出しに出かける。2人が帰ってくると、エレアとエリアが中心になって猫たちの夕食作りが始まった。ミカエルとリルも手伝って準備ができるとエリアが声をかける。
「はぁ〜い、ご飯出来ましたよぉ〜」
「おぅ、できたか。今回やたらチビっこい奴多いから、空腹の猫達にたかられたら困るだろうし。だから俺とか背の高い奴が運んで、万遍なく行き渡るように置こう」
 台所に入ってきながらニュイが言うとエリアもさっそく賛成するが、どうやら一行の中で自分が3番目に背が高いことを忘れているようである。
 結局3人で餌を配り始めたのだが。
「それにしても腹減った‥」
 と言うニュイの一言で、最後の餌配りは任せ、エレアとエリアは人間の食事を作り始めることになる。
 こうしてのんびり猫ペースな1日は暮れていくのだった。