怨霊になる?

■ショートシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月18日〜09月23日

リプレイ公開日:2004年09月26日

●オープニング

 ギルドの職員が掲示板に新しい依頼を貼り付けながら溜息をついた。
「どうしたい、溜息なんぞついて。なにかろくでもない依頼でもはいったのかい?」
 通りすがりに耳に留めて問いかける。
「いやね、近くの村で若い女の子の幽霊が出るらしいんだよ。なんでもずっと寝たきりだったのが、3月ほど前に亡くなったらしいんだがね」
 そこまで話して、また溜息をつく。
「でまあ、葬儀が終わってしばらくしてから、夜中に出歩いてた若い男が朝になって墓地で見つかる事件が起こりだしたらしいんだ」
「まさか冷たくなってたとか言うんじゃないだろうな」
 そう問いただすと、頭を力なく横に振る。
「いや、そこまではいってないんだが、高熱を出して数日寝込むらしい。そのうえ元気になるとまた夜中に家を抜け出すんだそうだ。家族のものが見張ってるということなんだが、いつの間にかいなくなるらしい」
「それでまた、墓地で見つかるって訳かい?」
 今度は首を縦に振った。
「被害者の家族からのそいつを退治してくれって言う依頼なのか?」
「それが違うんだよ。亡くなった娘さんの家族のほうからでなんとか娘を昇天させてくれって言うんだ。まあ、ずっと寝たきりで窓から見える恋人たちをうらやましそうに眺めてたって言うからね。いろいろと心残りも多かったんだろう」
「なるほどな、退治するより厄介かもしれん」
 話を聞き終えると、職員同様溜息を漏らすのであった。

●今回の参加者

 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2792 サビーネ・メッテルニヒ(33歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea4049 シェアラ・クレイムス(21歳・♂・レンジャー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea4662 ティーナ・ラスティア(30歳・♀・バード・人間・フランク王国)
 ea4747 スティル・カーン(27歳・♂・ナイト・人間・イスパニア王国)
 ea5786 セルジュ・ファレス(35歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

 教会の屋根に立つ十字架を見上げてシェアラ・クレイムス(ea4049)は胸元のペンダントを両手で握りしめた。
(姉上、見守っていて下さいね)
そうやって姉の形見に祈ることで心が温かくなり勇気が出てくる。親代わりに育ててくれた姉だったが、小さい頃に病気で亡くしていた。
「死してなおまだある未練‥‥か。怨霊なんかにならないにこしたことはないですよね‥」
 そばに立って墓地のほうに視線を走らせながらそう呟いたミカエル・テルセーロ(ea1674)もまた、過去に家族をすべて亡くしている。
 教会の扉が開き、2人のクレリックと神聖騎士が姿を現した。
「あら、2人とも久しぶりね。元気だった?」
 外に佇んでいた2人に声をかけた若いほうのクレリックは、かねて冒険者酒場で顔見知りのサビーネ・メッテルニヒ(ea2792)である。
「病気で亡くなった少女か。怨霊にさせるわけに行かないな」
 長身の騎士セルジュ・ファレス(ea5786)が口を開くと、もう1人のやや年かさのクレリック、クリミナ・ロッソ(ea1999)も悲しげに言葉を継いだ。
「死してなおこの地に、そして生前の心残りに縛り付けられる少女‥‥悲しい話です。彼女が我等が母の元へ、心安らかに向かえるように‥‥」
「‥‥慈愛の神だっけか。まぁ、安心してその許へ送ってやれれば退治よかずっと良いがな‥‥」
 今しがた合流したばかりのスティル・カーン(ea4747)も相槌を打つ。
「まずは娘さんの親族の方と、墓地に行ったと言う男の人にお話を聞きましょうか?」
 全員が集まったところでティーナ・ラスティア(ea4662)がそう促すと、セルジュがギルド員から聞き出してきた情報を皆に伝えた。
「確か亡くなった少女の名前がミレーヌ、家はここからそう遠くないようだな。青年の方がフェリックスと言ったか‥方向は全く逆だ。少し遠いか‥俺はこっちに行ってみる」
「それでは‥‥僕は娘さんのほうに行ってみます」
 ミカエルがそう告げるとスティルも同行を表明する。シェアラもとりあえずこちらに行ってみることにした。
 一方青年の元へ向うセルジュにはサビーネとティーナが同行するという。
「それぞれのお宅に皆様が向われるのでしたら、あまり大勢で押しかけてもご迷惑でしょうし、わたくしは日の高いうちに墓地の清掃・美化へ参りたいと思います。一つ……気がかりがあったもので」
 クリミナはそう言って皆を送り出す。独り言のように呟いた最後の言葉は誰の耳にも届かなかった。
 墓地の中を司祭に教えられたとおりに進むと、目的の墓はほどなく見つかる。名前と生没年だけが刻まれた質素な墓だ。他の墓と比べても取り立てて変わったところは見当たらない。まだ真新しい墓には、さほど時間がたっていないと思われる花束が供えられていた。
 さほど手をかける必要があるとも思えない状態ではあったが、一通り周囲の清掃と調査をしながら少女の霊に向かって語りかける。
「あなたがこの地に縛り付けられている限り、あなたを愛する人たち全てが苦しむ事になるのですよ。皆様の苦しむ顔は‥‥見たくはないのではありませんか?」
 しばらく待ってみたが周囲には何の気配も感じられなかった。

 ほどなく目的地に着いたミカエル達は、今回の依頼人である娘の両親を訪ねた。シェアラの希望もあって亡くなった娘の部屋へと案内される。
 他の2人が両親に質問するのを聞きながら窓辺に近付いたシェアラは、少女が見ていたであろう窓越しの景色を眺めた。比較的広い通りに面した窓からは時折往来する人々の姿がよく見える。日曜の礼拝ともなれば更に人通りは多いのだろう
 ミカエルが亡くなった少女の人となりや、未練を残していそうな事柄などを訊ねると、スティルも生前の事を更に詳しく訊き出した。
 両親の話では10歳の時に酷い熱病に罹った少女は、命を取り留めたもののその後3年余りずっと寝たり起きたりの生活を続けていたという。亡くなる前にはベッドの中から通りを行過ぎる恋人たちをうらやましげに眺めては、
「私も元気になったらあんなふうに恋人が出来て、一緒に腕を組んで歩いたりできるのかな‥」
 などと漏らすこともあったらしい。
「ところで、墓地で見つかった若い男とは何か接点があったのか?」
 スティルが訊ねると両親も首をかしげる。同じ町に住んでいる以上教会などで顔を合わせる機会くらいはあったかもしれないが、家同士も特に親しい間柄という訳でもないと言う。もしかすると同じ頃に青年も許婚を亡くしているらしいことと、何か関係があるのかもしれないとのことだった。
「あの‥娘さん、日記か何かつけてませんでした?あれば見せていただきたいんですけど‥」
 黙って聞いていたシェアラがふと思いついたように訊ねると、父親が首を振る。
「あなた方冒険者はともかく、貴族や聖職者と一部の職業の人たちを除けば文字の読み書きなんかそうそうできる者はいやしませんよ。第一羊皮紙の類は結構高価で、とうてい私らが手を出せる代物じゃありませんしね」
 3人を玄関まで送りながら目頭を押さえる母親に向って、去り際にミカエルが慰めるように言葉をかけた。
「お辛い‥でしょうね‥‥二度と会えないはずの娘さんが、霊となってでも近くに現れるってのは。‥‥僕たちでなんとかして差し上げられれば‥って思いますけど」

 青年の家を訪れたサビーネ達一行も直接本人に会うことが出来た。両親は不在とのことだったが、どうやら青年も家の中を歩き回る程度には体力を取り戻しているらしい。
 家の中へと招じ入れられるとセルジュがおもむろに用件を切り出した。
「亡くなった少女のことは知っているか? よかったら彼女を昇天させるため協力をしてくれないか」
 青年が言うには、知っているとしても彼女が元気で教会に通っていた子供の頃に合ったことがある程度とのことである。
 元をただせば、少し前に亡くした許婚のことが忘れられずに毎日のように墓に通っているうちに、その想いに引き寄せられた少女の霊が取り付いてしまったものらしい。墓地にいる間も、青年の記憶している限りでは問題の少女ではなく自分の許婚と過ごしていたつもりと言うことだ。家を抜け出していったことなども本人はほとんど覚えていないと言う。
 話しているうちに青年の顔色が悪くなってきたことに気付いたティーナに促されて、一同は早々に青年の家を辞去するのだった。

 それぞれが教会へと戻ると、互いに集めてきた情報を出し合って対策を練り始める。
「おいらは、その青年を誘ってお墓に行こうかと思ってたんですが‥‥」
 シェアラの言葉をスティルが引き取る。
「確かにその男がいれば彼女も自ずと現れそうだし、同行してもらいたいところだが‥今の話だと無理はさせられないか‥?」
「とにかくその娘さんの心残りを解消してあげてちゃんと天に召されることが重要だと思いますわ」
 サビーネの言葉にミカエルも自分の案を口に出してみる。
「僕の聞いた限りでは‥娘さんは漠然とした『恋人』に憧れていただけのようですし‥‥それならメンバーの誰かを一夜限りの恋人にしてあげるというのはいかがでしょうか?」
 セルジュもすかさずその意見を後押しする。
「俺も丁度それを考えていたんだ。なんならその役は俺がやってもかまわんが‥‥」
 ティーナ達も賛意を表したことからその方向で試してみようと言うことにはなったが、何はともあれ少女の霊と接触しないことには話しにならない。
 クリミナは昼間の経験から霊が活動するのはおそらく夜だけではないかという認識を示した上で、自らは墓地での見張りを申し出る。件の青年を見張ると言うセルジュとサビーネを除いて、他のメンバーは墓地で少女の霊が現れるのを待つことになった

 夜半を過ぎた頃、最初の動きに気付いたのはサビーネだった。急いでデティクトライフフォースを発動させ青年の所在を探ると、セルジュにもその位置を伝える。月明かりの中、後を追ったセルジュは青年を誘うように漂う白い影のようなものを見つけるとその前に立ち塞がった。
 近くで見ると白い影は少女の姿をしていることが分かる。普通の言葉が通じる保証はなかったが思い切って声をかけてみる。
「もう彼を解放してくれないか?このまま生者と死者が一緒に居るのは生者の体に負担を掛けるから彼の体が持たない」
 黙ったままセルジュを見つめる少女の顔にあるかなしかの戸惑いが浮ぶ。どうやら言葉は通じているらしいと見て取ると更に言葉を励ます。
「もし、恋人が欲しいなら彼の代りに俺がなってやる。あんたの事も忘れない。命日には墓参りをする。だから天に昇ってくれないか?」
 少女は困ったように青年に目をやる。
「あんたが怨霊になるのを見たくはないんだ」
 次の瞬間青年の体が崩れ落ちる。飛び出してきたサビーネがかろうじてその体を支えた。
 駆け寄ろうとしたセルジュはいつの間にかすぐ横に立って彼を見上げている少女に気付く。腕を差し出すと、おずおずと手を差し伸べて寄り添ってくる。
 正気を取り戻した青年がサビーネに支えられて立ち上がるのを見届けると、セルジュはゆっくりと墓地のほうへと歩き出した。
 墓地で見張っていた一同は連れ立ってやってくる2人の姿を見て驚愕を隠せなかった。発案者の1人であるミカエルでさえも例外ではない。いち早く気を取り直したクリミナが教会とその周辺に人が立ち入らないように手配する。ティーナは2人のために愛用の竪琴に乗せて祝福のメロディーを奏でた。
 やがて空が白み始める頃2人は教会の礼拝堂にいた。青年を家に送り届けたサビーネも既に戻ってきており、夜の間中教会周辺を走り回っていたメンバーも礼拝堂に集まってきた。
 一同が見守る中セルジュに手を取られた少女が皆の方に向き直り、満足げな微笑を浮かべながら深々と一礼する。窓から差し込む朝日の中、そのまま少女の姿が薄れ始めると光の中に溶け込んでいく中、。クリミナが旅立ちのための聖歌を歌う声が低く響いていた。
 その後何日か交代で青年の家を見張ってみたが、再び少女が現れることはなかった。

 引き上げの当日、一同は再び少女の墓に集まっていた。一夜の恋人を務めたセルジュは花束とパリから持参した菓子を供え、スティルもその夜に2人がひと時をすごした近くのの丘で摘んで来た花を供えている。シェアラは、その様子を見ながらペンダントを握りしめて無言で微笑んでいた。