新説? 浦島太郎

■ショートシナリオ


担当:言霊ワープロ

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月05日〜10月10日

リプレイ公開日:2004年10月09日

●オープニング

「わが『アサギリ座』の今回の演目は『浦島太郎』です。ここにいらっしゃる冒険者の方々にも、どうかご友人ご家族をお誘い合わせの上、観劇、参加のほどをお願い申し上げます」
 その呼ばわりは、冒険の依頼というよりは観劇の誘いだった。
 冒険者ギルドに宣伝にやってきた、アサギリ座の男が声高々に口上を読み上げる。
 もう3度目になる光景である。
 ノルマンに『アサギリ座』という小さな芝居小屋がある。
 その小屋は一風変わっていて、いつもジャパンに伝わる『桃太郎』や『かぐや姫』などのお伽噺の数々を演目として公演するのだ。ジャパン文化の理解を深める手助けになりたいという、そんな方針だったらしい。
 この一座は『客が参加できる演劇』というものをやっている。
 正規の役者でなくとも参加したい客は、突然の飛び入りでも、事前に打ち合わせをした上ででも舞台で好きな役を演じることが参加できるというものだ。
 宣伝の男は声を張り上げる。
「‥‥もし公演中、お客様が飛び入りの役者として突然舞台に上がって物語の登場人物になりたいと思うなら、わが一座はそれを受けとめます。桃太郎の4番目のお供として鬼退治に参加したいというならばそれも結構です。かぐや姫の求婚者として姫をさらって逃げたいというのなら、わが一座の役者達はアドリブで何とか対応いたします。今までお伽噺を聞いていて、結末が気に入らないとか、自分なら話の筋をこうするのにとか、そういう思いを抱いたことはありませんか? わが『アサギリ座』はそんなあなたの思いをかなえるお手伝いをできるかもしれませんよ」
 客が参加して自分の思うように筋を変えられる、とは幾らか魅力的な気がする言葉だが、大勢の人間がわれもわれもと参加して、めいめいに話の筋を自分の思う方へと引っ張りはじめたら劇はどうなってしまうのだろう。見るも無残に劇が破綻してしまうのではないだろうかと、ちょっと心配な思いもする。
 そうでなくてもなじみのない結末に納まってしまう御伽噺とはどのような感触なのか?
 アサギリ座は前にこの方式で『桃太郎』をやって、その桃太郎は仲間を全滅させた鬼の姫と最後に駆け落ちをし、『かぐや姫』をやって、その主役となった王子が仲間となった姫をつれ、悪者を退治しに月に帰るという、とんでもない結末を迎えたらしい。斬新でシュールな結末に大半の観客は動揺を隠せなかったという。
 続くのだからこの新機軸が不評だったというわけではないのだろう。しかし大好評というわけでもないようだ。
「勿論、舞台に上がってしまえば役者の1人。劇を盛り上げてもらうことはお忘れにならないようお願いします」
 冒険者ギルド内をぐるりと見回して、男は言う。
「座長のいうことには『ウケるが勝ち』‥‥そういうわけで」
 観劇料は1人10C。これは見るだけの客だけでも、飛び入りの役者になる客でも変わらないらしい。
 ‥‥『浦島太郎』。
 幾らかの興味が胸のうちに湧いてきた。

●今回の参加者

 ea2774 ミカロ・ウルス(28歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea5293 エリア・アークヒルツ(19歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 ea6115 雷 鱗麒(24歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea6586 瀬方 三四郎(67歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6632 シエル・サーロット(35歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea6648 キャシー・バーンスレイ(29歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7273 イザベラ・ストラーダ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●1
 幕が開き、効果音による波の音が染み渡るジャパンの浜辺。
 釣り竿を担ぎ、舞台上手から登場したジャパンの漁師姿のパラ、ミカロ・ウルス(ea2774)。かぶさるナレーションが導入を説明する。
『昔々、ジャパンに、浦島太郎という漁師がおりました。歳は17、毎日海へ出かけては釣りをして、独り細々と暮らしておりました。今日も釣り竿抱えて海へと出かけましたところ‥‥』
「はぁ‥‥今日も何とか魚釣って食いつなぐか‥‥べっぴんの嫁さん1人いれば張り切って海に出られるだろうに‥‥」
 浦島ミカロは大きな溜め息をつきながら浜辺を歩く。
 その時、舞台下手から亀をいじめながら子供達が入ってきた。
 子供達にイタズラで仰向けにされている亀は取りたてて大きな亀ではない。本物の甲羅をかぶって亀を演じているのはシフールの雷鱗麒(ea6115)だ。
「こら、子供達、罪のない亀に可哀相なことをするんではない」
 浦島ミカロは子供達を叱って、亀の雷を放させた。子供達、退場。浦島は助けた亀を元に戻すとその場を立ち去ろうとし、そこを亀が呼びとめる。
「待ってくれ。恩返しさせてくれ。竜宮には美人のお姫様がいて、地上の素敵な男性を婿にと自分を使いに出した。お前のような優しい人間こそふさわしい」
「亀さんを助けたお礼に、僕をその竜宮とやらに案内してくれるというのか。よし、なら行こう」
 浦島ミカロが甲羅の縁をしっかりとつかみ、亀の雷はパタパタと羽で飛びあがる。
 波間に潜る効果音と共に2人は舞台の浜辺から退場した。
 取り残されたようなナレーションが無人の舞台に響き渡る。
『こうして浦島太郎は助けた亀に連れられて、海の底にある竜宮城へと行きました。‥‥しかし太郎は気づいていませんが、実は子供達にいじめられていたのは亀の策略。菓子で買収した子供達にいじめられるふりをしていた亀は、自分を助けてくれるようなお人好しが現れるのを待っていたのです。‥‥亀が浦島を連れていくのは姫様の婿になどではなく、姫の暇つぶし、言わば生きた玩具にするためであり、竜宮の乙姫は『姫』というよりはむしろ『女王様』だったのです‥‥』

●2
 場面転換。
 舞台は、海底の宮殿『竜宮城』。
 観客席から舞台に上がってきたエリア・アークヒルツ(ea5293)は海底背景に立ち「ゆらゆら〜」と台詞を繰り返している。彼女は昆布を演じているのだ。
 大鏡台が舞台中央に置かれ、乙姫を演じるイザベラ・ストラーダ(ea7273)はその前で鞭をしごく。13歳の少女はその肢体を黒いハイレグの革下着に網タイツという衣装に包んでいた。
「鏡よ鏡、この世界で一番美しいのは誰じゃ?」
「それは人魚ひ‥‥」
 鏡の精の返答も中途に、乙姫イザベラの鞭の一閃が鏡面を打ち割った。
「あぁ、私より美しいなんて‥‥憎い人‥‥」
 上気した表情で人魚姫の肖像画に頬ずりする乙姫イザベラ。
『竜宮城の主、乙姫は、自分の部下で宰相である人魚姫に対する想いを打ち明けられず、日々を悶々と過ごしていました。その鬱屈たる感情のほとばしりとして、彼女は地上より連れてきた若者に鞭を向けます‥‥』
「太郎を連れてまいれ!!」
 乙姫イザベラは、今は革のベルトで縛られている浦島ミカロをピンヒールで踏みにじって虐待する。
 半裸の浦島ミカロを、何度も鞭打つ乙姫イザベラ。
「さあ、女王様とお呼び!!」
 舞台に鳴り響く鞭の音。
 劇の観客は、ほぼ全員がこの凄惨な場面に引いていた。

●3
『今日も一通りの虐待が終わって乙姫が満足すると、浦島は部屋に戻されました。やがて人魚のメイドが食事を運んできます‥‥』
「ゆらゆら〜。ゆらゆら〜」
 浦島ミカロに運ばれてきた食事は大皿の上に載った昆布エリアだった。
 食べるべきかどうか浦島が躊躇していると、皿を運んできたメイド人魚役、キャシー・バーンスレイ(ea6648)が空いていたもう1つの大皿の上に豊満な身を横たえた。
「あ‥‥あのぅ‥‥浦島太郎さんのために身体を張ってみました‥‥どうか、食べてもらえませんか?」
 2つの女体盛り(?)を前にして、更に躊躇する浦島ミカロ。
「お願いしますっ!! 食べてくれないと私‥‥私‥‥そのまま生ゴミとして捨てられてしまいますっ!!」
 人魚キャシーは泣き顔で訴える。
 仕方ないといった顔で人魚キャシーの皿に箸をつける演技をする浦島ミカロ。すると、
「引っかかりましたね。私達は毒入りです!!」
 カッと眼を見開いた人魚キャシーが叫んで笑った。何かブラックでハジケた笑いである。
 だが、浦島ミカロはその箸を口につけてはいなかった。その時、彼を興味をそらす音が部屋の外から聞こえていたのだ。
 大勢の者達が叫び、争うような騒がしさが竜宮城の中から聞こえてきている。
 突然、浦島の部屋の中に、数人の兵士が飛びこんできた。
「浦島太郎! お前の身を乙姫に対する人質として、我が宰相殿が徴用する! 部屋を出ろ!」

●4
 竜宮城の喧騒はシエル・サーロット(ea6632)が演じる宰相である人魚姫が起こしたクーデターだった。
『浦島が連れてこられたのがクーデターのチャンスだと人魚姫をそそのかしたのは亀でした。乙姫お気に入りの玩具、浦島太郎を確保して人質に使うべきだと進言したのです。かくして勃発したクーデターは乙姫を追いつめていきました‥‥』
 竜宮城の外。険しい深海の岩場へと乙姫イザベラは数人の親衛隊と共に逃れていた。
 それを半包囲しているのは、人魚姫シエルとそれに連れられた浦島ミカロ、そして人魚姫配下の兵士達。
「乙姫‥‥観念して我が縛につきなさい!」
 高笑いする人魚姫シエルに対し、歯噛みするのみの乙姫イザベラ側。
 力ずくで乙姫イザベラの身柄を手に入れるべく人魚姫シエルが命令を出そうとしたその時、
「待てぇい!」
 岩場の高みから大きな声が皆を呼びとめた。
 舞台の全員がその声の主を求める。
 高い岩場の陰から現れたのは、浦島と同じ漁師の格好をした男、瀬方三四郎(ea6586)だった。ただし腰みのは金属光沢を帯びている。
「貴様は誰だ!?」
「俺は、先代乙姫によって地上から拉致され、海底世界征服の野望のため、改造深海人間にされた男! 先代の浦島太郎だ!!」
 人魚姫シエルの誰何に、先代浦島の瀬方は答えた。
「俺は深海の自由と平和を守るため、乙姫、人魚姫、お前達の野望を打ち砕く! フンッ! ウラシマァァ!! 変身!! トオオッ!!!」
 ポーズをとった瀬方はジャンプして岩場の陰に入った。
『腰に備えた魔力変身腰みのは、水圧を受けて浦島を変身させるのだ!!』
 ナレーションに追われるように先代浦島の瀬方は急いで舞台裏に回り、用意しておいた『亀を模した仮面』『緑のプロテクター』『赤いマフラー』に着替え、舞台の袖から再登場する。そして捕まっている浦島ミカロに声をかけた。
「大丈夫か、浦島2号! 私は浦島1号、いや‥‥大自然が使わした大海原の使者! 亀を乗りこなし、悪を討つ者!! 人呼んで‥‥『亀ライダー』!!」
 叫んで大見得を切る、亀ライダー瀬方。
 客席はヒーローへの声援を爆発させる7割と、あまりの急展開に唖然とする3割に分かれる。
「ええい! 何が亀ライダーだ!」
「やっておしまい!」
 乙姫も人魚姫も突然現れた亀ライダーに兵をけしかけた。
 闘う亀ライダー瀬方は襲いかかってくる兵士達を次々蹴散らす。兵士役はここでやられて見せ場を作らなければいけないような気になり、客の声援はそれに拍車をかけていた。
 1人残さず兵士を倒した後、亀ライダーの必殺技が放たれる。
「危ない! 人魚姫!!」
 人魚姫シエルを狙ったそれを受けとめたのは、彼女を身でかばった乙姫イザベラだった。
「人魚姫‥‥いけないことと知りつつ私はずっと‥‥貴女を愛していました‥‥今度、生まれ変わったら‥‥貴方と結ばれたいの‥‥」
 そう言って息を引き取る乙姫イザベラ。
『最後にようやく自分の想いを告白して死んだ乙姫。しかし皮肉なことに人魚姫のクーデターも乙姫を愛するがゆえ、相手の身も心も手に入れたくて起こしたことなのでした。女性同士、素直になれなかった者同士の愛の顛末に、残された人魚姫はただただ打ちひしがれます‥‥』
「覚えてなさい! 乙姫の仇はいつか必ず討ってやるわ!」
 人魚姫シエルは力ない叫びでそう言い残し、舞台から退場した。
「大丈夫か、浦島2号?」
 戦いを終えた亀ライダー瀬方は、浦島ミカロの縛を切る。
「ありがとうございます。亀ライダー」
「礼には及ばん。ところでどうだ、キミも私の元で修行を積み、深海の平和を共に守るべく闘わないか?」
「‥‥考えさせてください」
 はっはっはっと豪快に笑う亀ライダー瀬方に背を叩かれ、浦島ミカロも少々むせながらも笑った。
 浦島ミカロは、彼の愛亀『さいくろん』に同乗させてもらい、地上へ帰ることになった。
 観客の拍手に送られて、2人は退場する。

●5
 海底の舞台で、岩場の陰に残った者がいる。
 亀の雷だ。
「色恋事は恐ろしいよなぁ」
 呟く亀は女2人が起こした騒動の顛末をこの岩場の陰から覗いていた。
 シフールの自分が担げる限りの大袋に、クーデターのどさくさに紛れて、ねこばばした竜宮城の財宝を入れている。人魚姫にクーデターをそそのかしたのもこの火事場泥棒のためだったのだ。
「浦島が地上に返ったら、幾らか分けてやるつもりだったが、今となってはもういいか‥‥。さて、俺も旅に出るか」
 深海の岩場を去っていく亀の雷が退場するシーンに、劇の幕が下りていく。
『アサギリ座版『浦島太郎』。本日の公演はこれで終わりです。ありがとうございました』