F・ロイトの夢
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■ショートシナリオ
担当:言霊ワープロ
対応レベル:1〜3lv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月11日〜10月16日
リプレイ公開日:2004年10月15日
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●オープニング
「‥‥夢というと、あの寝床で寝て見る『夢』ですか?」
「さよう。別に将来の希望願望や世迷い言のことではない。‥‥寝床で寝ながら見るそれのことです」
冒険者ギルドに現れた男。彼はその名をF・ロイトという医者なのである。
彼の発言は受付嬢を困惑させた。
F・ロイトは奇妙なことに、冒険者達に見たことのある『夢』の内容を語ってほしいと依頼した。夢の収集だ。
「私の趣味とも、私が興そうとしている新たなる学問のどちらともいえますな。私は様々な者達が見る夢の内容を集めれば、そこには何か学問として成り立つケースを見出せるのではないか、と思っているのです。夢を判断することで人々の心の悩みなども解るのではないか、とも。‥‥まあ、始めたばかりのことですし、まだまだ解らないことは多いですが、私の考えでは夢というものは馬鹿に出来ない何か、こう、とてつもない可能性を秘めている気がするんですな‥‥!!」
学者の端くれらしく、自分の興味をぎらぎらとした眼で語るF・ロイトの姿勢は、受付嬢を当惑させる。
彼はそんな自分の態度に気がついたようで、コホンと空咳をすると襟を正した。なかなか高そうな上着だ。
「まあ、ともかく私はノルマンの冒険者達が見た夢の内容を語ってほしいのです。‥‥そうですな、出来れば悪夢っぽいシュールなヤツがいいですな。サイケデリックというか、冒険は爆発だー!!というか‥‥」
なんか学問に自分の好むセンスらしいものが大いに混じっているようだが、やる気は本気のようだ。
●リプレイ本文
●1
医者、F・ロイトの診療所兼自宅を訪問した冒険者は計5人。
1人ずつ診療室へと案内される。
「さあ、この椅子に座って。楽にして」
仕立てのいい服を着たF・ロイトに案内され、まずフィーナ・ロビン(ea0918)が安楽椅子に深く座った。彼女は銀髪、外見14歳程度のエルフのバードである。
「では君の見たというシュールな夢を語ってくれませんか」
そばの机に腰掛け、手記をとる用意をしたF・ロイトが言う。
フィーナは自分の見た悪夢を語り始めた。
「私、夢の中で知らない方から逃げておりましたわ。どう思い出しても会ったことのない、美しいお姉さまなんですけれど‥‥そう、黒くて長い、美しい髪と透き通るような白い肌の‥‥そういえば靴を履いていらっしゃらなかったですわね。ああ、あと、紅い唇が印象的でした。でも、何故かお顔は覚えてないんですのよ。そのお姉さまが、3体の形の異なるモンスターを連れて、私を追っているんですの‥‥私は生まれた街を必死に逃げているんですけど、周りの皆様、いつもと何も変わらない状態で‥‥私が『皆様見えないんですの、すぐにモンスターが来てますのよ』って叫ぶんですけど、皆様信じて下さらなくて‥‥あきらめて私が逃げると、後ろから悲鳴が聞こえるんですの」
フィーナはそこまでを語ると大きく息を吐いた。
「で、一生懸命逃げるんですけど、何故かいつも先回りされちゃうんですわ。私、逃げ疲れてしまって、そのお姉さまにどうして私をって聞きましたの。そしたら、彼女は言うんですの。『‥‥ごめんなさいね、どうしても貴方を始末しなくてはいけないの‥‥』」
フィーナは言葉を一旦切り、少し時間を溜めてから次の言葉を継いだ。
「『パスタだから』」
小柄なフィーラは思い出した夢の余韻を怖がるように椅子に座る自分の身をかき抱いた。
「‥‥そこで目が覚めたんですのー。こんな夢で、何かお役に立ちますかしら?』
「ふーむ、なかなか意味不明なオチがいかにも夢っぽくてよいですな。80点ってとこですかな。それにしてもパスタが出てくるのは興味深い。食欲と性欲は関係ありそうですからな。あなたには性的欲求不満の気が隠れているのではないでしょうか?」
●2
「私は人型の何かと戦っているのだ」
安楽椅子の上でルナ・シーン(ea2928)は語り始めた。彼女は齢26、黒髪の人間のナイトである。
「それは何なのかと聞かれても解らない。とにかく戦っているのだ。戦っているのだから当然打撃を受けることになるのだが、それが妙なのだ‥‥何というか装備がなくなるのだ」
「装備がなくなる?」
F・ロイトが聞いてくる。
「‥‥厳密に言えば‥‥ふ、服が脱げていくというか‥‥」
品がよく凛とした顔を恥ずかしそうに赤らめるルナ。
「さすがに動きが鈍くなってくると相手の声が聞こえてくる。『女のくせに‥‥』と。‥‥で、最後までもがいているわけだ」
「最後まで、ということは‥‥服は?」
「聞くなー!」
ルナは思わず安楽椅子から半身を起こして叫んでいる。
「‥‥‥‥と、報告だったな。‥‥武器だけ持って素っ裸だ。‥‥夢とはいえ、さすがにキツイな。以上だ。ちなみに私は普通に寝巻きで寝ているから。妙な勘ぐりはしないでほしい」
「なるほど。あなたは日頃、性的に抑圧されていそうですな。心の深いところにある葛藤やその解放を望むものが夢として顕れているんじゃないでしょうかね。夢としては70点」
●3
シアルフィ・クレス(ea5488)は物腰柔らかな18歳の神聖騎士。金髪である。
「以前、痴漢退治の冒険をした後、私の妹が冗談で私のスカートをめくったんです。それから見る夢なんですが‥‥」
安楽椅子のシアルフィは少々恥ずかしげな口調で夢を語り始めた。
「真っ暗な中で、私は意図せずに、体が動かされてしまうのです。ちょうど操り人形のように‥‥操り手を捜すと、人形操りを生業とする妹が‥‥。私、散々踊らされて、最後には操られた私の手で自分のスカートをめくってしまうのです。ああ、なんとお恥ずかしい」
「めくってしまうんですか?」
「‥‥ええ」
「下には何か?」
「‥‥いえ。そこで私は剣を持って呪縛から離れ、妹に『やめなさい!』と剣を振るったところで夢は終わるのですが‥‥」
「が?」
「この話を妹にすると『同じような夢を見た!』というのです。何かの偶然かしら。先生、どうご判断されますか?」
「ううむ。夢の同調は興味深いですが、つきつめると私のめざす学問からは外れそうですな。しかし、あなたも体験だけではなく仕事の抑圧からなるような性的欲求不満がありそうですな。夢は70点」
●4
(はー、夢や幻はジプシーやバードの範疇なのにね‥‥。まぁ、夢の恐ろしさをこのあたしが教えてあげようじゃないの)
「何か言いましたか?」
「いえ、別に」
アフィマ・クレス(ea5242)は澄まして答えた。金髪、14歳のジプシー少女で、先ほどのシアルフィの妹である。
アフィマは小柄な身を診療室の安楽椅子に横たえると話し始めた。
「あたしは真暗闇の中、金縛りで座ってるの。どうしようって思ってたら、急に片手が挙がるの。よく見るとあたしの手足や首、肩全部にこの糸が伸びていて。そう、操り人形。泣きたいんだけど、涙も出せずにあたしは操られるの」
眼をつぶったまま、そこまでを語るアフィマ。
「『あたしを操る不届きものは誰!』と思ったら、犯人はあたしの使う人形だったのよ!! 変な踊りを散々踊るんだけど、‥‥そこはそれ、やっぱり出てくるのよ。白馬の王子様♪ あたしの糸をぷちぷちーんと切って助けてくれるの」
開いた眼で天井を見つめながらアフィマは語る。
「それはぁ、高そうな上着を着ていてぇ。お医者様でぇ、開拓精神旺盛なオジサマでぇ‥‥そーぅ。後で占ったら、今日会えるって出てたわ」
人形のようにカクンと傾くアフィマの顔。その碧の眼がF・ロイトの眼と合う。
「ああ、運命の人ーっ、夢であえたが百年目! おーかーくーごーめーさーれー!」
安楽椅子から跳ね起きた勢いのまま、駆けだすアフィマ。悪夢がそのまま現実に出てきたかのような血走った眼。少女のズゥンビに追いかけられるみたいにF・ロイトは服を乱して慌てて逃げだす。
診療室の鬼ごっこは医者の息が切れるまで続き、そうなると素直にアフィマは安楽椅子に戻った。
「‥‥ってのがあたしの夢よん」
「‥‥‥‥人を、驚かすのは、いい趣味とは、思えません、な。しかし、細部は、違えど、姐と同じ、夢とは‥‥あ、あなたも、性的、欲求不満がある、んでしょう。‥‥な、70点」
●5
銀髪エルフ、アリシア・ルクレチア(ea5513)は怪しい学者である。
彼女を雇ったのは秘密結社『グランドクロス』である。
彼女は信仰による世界征服のため、日夜研究に精を出しているのだ。
「先生の研究は素晴らしいわ! 私達結社に参加しない? 資金も研究施設も提供するわ」
F・ロイトの手をしっかりと握りしめ、熱く語るアリシア。
「え、あ、ありがとう。考えさせてくれ」
F・ロイトはとまどい気味に答えると彼女を安楽椅子まで連れていった。
アリシアは椅子の中に身を落ちつける。
「‥‥あれは多分、遠い未来だわ。見たこともないお城のような建物や金属で出来たヘンな乗り物が見えたの。そして‥‥ああ、なんて恐ろしいのかしら。爆発がして悪意のある雰囲気の人達が飛び出してきたの。服装は見たこともない変な格好で、何となく未来っぽかったのだけど、その人達は体に禍々しい模様を書いていて、手には禍々しい武器を手にしているの。アレは魔の眷属だわ! その人達を追って、神聖騎士みたいな人達も現れたの。でも、彼らは皆エンジェルを連れていたわ。神に選ばれた戦士ね、きっと。で、ここからが大変よ! 悪魔の眷属たちは金属っぽい馬のような物体に乗ったかと思うと、光り輝いて鎧を着た巨人になったの! もう世界は駄目かと思ったわ。でも、遠くの方に空に浮かぶお城が見えたんだけど、そこから何か飛んできたと思ったら、それは光り輝く巨人の天使だったのよ! で、天使と悪魔は対等に戦い始めたってワケよ。私が思うに、この夢は聖書に書いてある来るべき最終戦争を予知したのよ。間違いない!」
神がかりのようにこれまでを一気に喋ったアリシアの唇。
F・ロイトはこの長口上を必死に追いすがる態で書きとめて、一息ついた。
「‥‥以上ですか?」
「以上よ」
「何というか‥‥見てきたように語りますな」
「見たんだもの。夢に」
「ある意味、あなたのが一番シュールですな。きっとあなたも性的欲求不満を抱えているんですな」
「どうしてそういう結論になるの?」
「私なりの見立てですよ。あなたの夢は90点をあげましょう」
こうして5人の冒険者から様々な夢を採取し終えたF・ロイトは、書きとめていた紙束を机の中にしまった。 最後に5人全員を診療室に呼び、挨拶をする。
「本日は私の趣味の学問のために集まっていただき、ありがとうございました。もしかしたら本日のこの夢の採取が私が興すかもしれない新しい学問の第一歩になるかもしれません。機会があったら、またお願いするかもしれませんのでよろしくお願いします」
律儀に礼をするF・ロイトを見ながら冒険者達は、
(協力するのはいいけれど、また性的欲求不満呼ばわりされるのは嫌だなあ)
と全員が思うのだった。