●リプレイ本文
●1
まっすぐと伸びる街道。秋日和。
7歳の少女、金髪巻き毛のマリーは祖父母の住む村まで1人でお使いの予定だった。
しかし旅は道連れ、世は情け。
出立してしばらく経った頃には道行きを同じくする者達の幾人が付き添い、ちょっとしたパーティの風である。
「俺のことは『兄さん』もしくは『お兄ちゃん』って呼んでくれ」
自称『武者修行中の料理人ファイター』エグゼ・クエーサー(ea7191)はさわやかな笑顔で仲間達に語りかける。
今、同行する者達は皆、エグゼより年下だが彼が期待するように彼を呼ぼうとする者はいなかった。
「あんた、バカぁ?」
「おやっさん‥‥俺‥‥負けちまったぁ!!」
美少女マリーの辛らつな返答を聞き、怒涛の涙で泣き崩れるエグゼ。
「マリーちゃん、ホント可愛いねっ。金髪碧眼ぷにぷに薔薇色ほっぺ。お人形さんみたい!」
マリーが向かう村へ手紙を配達しに行く冒険者、ガレット・ヴィルルノワ(ea5804)は歩きながらマリーの頬をつつく仕草をする。
どうも必要以上に構われるのが嫌いな様子のマリーだが、今かじっている林檎をもらった恩からか、特にガレットに歯向かわない。
(このコって殿方を甘く見てるよねぇ。お父さんへの態度から素質アリだとは思うけど。色々処世術を教えてあげねばっ!)
妙な使命感に燃えているガレットは、この道中でマリーに『ロリ』としての手管を教えこむつもり。
「まずは銅鏡使って表情練習! 頬にさり気に拳をそえ、小首を傾げて上眼づかい。スカートをきゅ、と持ち上げ、舌足らず口調で『おにぃちゃん』。これ『おぢさま』でも応用利くよ☆」
「‥‥おにぃちゃん☆」
ガレットに言われた通りのことを早速エグゼにしてみせるマリー。
すると和やかになるエグゼの眼。彼は美少女の頭を撫でようとするがマリーがその手を素早くよけた。髪に触られるのが嫌いらしい。
その様を見て優しく笑うエリス・エリノス(ea6031)。彼女は細工用の鉱石や植物を探したり、加工品を売り歩くため、この街道を旅している。マリーと話す時は身を屈めて同じ視線だ。
そんな彼女が路傍の花を見つけて、マリーを呼びとめる。
「マリーさんのお名前の入った‥‥ローズマリー。心を元気づける香りを持つ花です」
それからもエリスは街道を歩きながら、マリーに話しかけた。植物のこと。鉱物のこと。自然が生み出す様々をまるで家庭教師が野外レクチャーをするように。
秋の雲の下、4人は街道を歩き続け、やがて辿りついた木陰で昼食をとることにした。
そこで用意してあったエグゼの弁当が振舞われる。
彼が会心の出来だというその弁当に不評をもたらす者などいるはずがなかった。
「美味しい!」
思わず声が出たマリーの感想。
それを聞いたエグゼは、
「そっか、ありがとな」
と彼女の頭を撫でようとし、またよけられる。
昼食の最中に道を訊ねに来た者がいる。気ままな旅人と自分を紹介するアミ・バ(ea5765)だった。
マリー達と道行きが同じだと解ったアミも、道中を同じにすることになる。
アミを加えた一行は世間話なども交わしながら街道を行く。
「人生は楽しいことだけでなく辛いことや悲しいこともあるが、それを乗り越えられる者は人生をさらに楽しく生きられる。だから旅をして自分を鍛えることは偉いことだね」
歩速を同じくした馬上からマリーに語るアミ。
「将来になりたい職業は?」
「奇麗なお嫁さん」
そんな馬上からの質問にもマリーは答える。
●2
マリーが目指している村に一足先に到着し、道端で鍋や鎌などの露天修理工を始めているゲイル・バンガード(ea2954)。
その彼のもとに2頭の馬に乗った2人の女性が現れた。1人はロバも連れている。
「やっとぉ、村に到着しましたわぁ」
「これならマリーも皆も無事に到着出来るだろう」
勿論マリーは知らぬことだが、馬に乗る神聖騎士エリア・スチール(ea5779)とファイターのレムリィ・リセルナート(ea6870)は街道を先行し、旅の障害となりそうなものをあらかじめ排除しておく露払いを買って出ていたのだ。
というか多少、見た目が危なそうな者がいれば喧嘩を売って排除しておくという物騒な方針のため、ややもすれば自分達がトラブルの種になりかねない道中ではあったのだけれど。
2人は村の酒場の場所をゲイルに尋ねると、一夜の宿をとるために馬首を巡らせた。
●3
やがて少女の歩速で進む一行は、さしたる障害もなく、陽も傾きかけた頃合いに目的の村へ到着した。
出迎えの祖父母に飛びこむように小走りするマリー。
彼女以外の者達は村にあった宿に泊まることにした。
●4
1日たって少しばかり曇りがかった午前の空。風は寒くはない。
一晩を村で過ごしたマリー達は、折り返しで街に帰ることになる。街道を先に進む(ということになっている)エグゼやアミやエリスとはここでお別れだ。
その穴埋めのように帰り道でマリー達に同行を申し出る者が2人いた。
「街に仕事で戻るので、帰りを同行してもよろしいかな?」
「あら! わたくしもそこに行くところなのですよぉ。一緒にお話しながら行きませんかぁ?」
共に馬を駆るゲイルとエリアの申し出を断る理由はなく、マリーとガレットは2人も供にして街まで帰ることにする。
マリー達の村からの出発は、彼女の祖父母に見送られてのこと。
帰路もまずトラブルらしいトラブルはなく、一行は街道を進む。
「家族はどうしているのだ?」
「お父さんもお母さんも元気よ。お父さんは最近、鬱陶しくて嫌だわ」
道行き、同年代の者に対するように丁寧な態度で訊くゲイルに、こましゃくれた態度で答えるマリー。
高い秋空に太陽が最も高く上った頃、トラブルがあった。
川にさしかかった一行はそのほとりにたたずむ人影を見つけた。
ファイター装備の若い女だが尋常ではない。いかにもさあ飛びこみますよという憂いを帯びた雰囲気で水面を見つめ、街道を進むにはその傍を行きすぎなければならないが、どうにも無視出来る空気ではない。
「止めなくっちゃぁ、ダメですよぉ」
「えーっと‥‥ちょっと待って!」
エリアがマリーを急かし、7歳の唇は飛びこもうとしている20歳ほどの若い女を呼びとめた。
哀しい眼差しで振りかえったのはレムリィだった。
「‥‥一体、何があったというの。哀しいことがあったというのならあたし達が相談に乗ってあげるからバカなことは考えないで」
棒読み台詞のよう、慣れない言葉を言うマリー。
するとレムリィは、自分は武器商で冒険者だと自己紹介し、失恋の痛手から川に飛び込み、命を断とうとしていたのだとマリーに説明した。
「これ、恋人の形見」
彼女は金髪を束ねたものをマリーに見せる。
「‥‥あんたにとっては大変な一大事かもしれないけれど‥‥死ぬのだけはおよしなさい。‥‥あんたの死んだ恋人も決して喜びはしないわ」
恋人に死なれた痛手で自殺というヘビーな設定を持ちかけられ、7歳の少女は考え考え、棒読み口調の月並みな言葉を言うのが精一杯。
自殺を思い直したというレムリィはマリーの一行に加わることになった。彼女は近くの木に繋ぎとめていた駿馬とロバを連れてきて、自分と共にマリーを馬に乗せた。
馬に乗せられマリーにとって楽な旅路となったものの、それから街に着くまでの間中、ずっとレムリィの恋愛相談につきあわされた。7歳の少女には初体験のとても疲れることだっただろう。
●5
午後。マリーとその一行は街に無事、到着した。
街の入り口でレムリィの馬を下りたマリーは、皆にさよならを言い、力いっぱい手を振りながら通りを走っていく。
残された冒険者達も手を振って、少女を見送り、そしてやれやれとそれなりの気負いから我が身を解放した。
「あの子は『魔性のロリ』の素質があるわ。更なる精進を重ねればアサギリ座のプリマは勿論、ノルマン王妃も思いのままよ」
もう少女の背が見えなくなった通りの向こうを見つめつつガレットは言う。
依頼、無事遂行。冒険者達は冒険者ギルドに向かい、このことを報告することにした。
「‥‥来るか?」
ゲイルはぶっきらぼうに、今も自分達から距離を置いて物陰に隠れている少女に言葉を投げた。
隠れていた少女、リリアーヌ・ボワモルティエ(ea3090)はその言葉によっても皆の面前には出ていかなかった。
10歳のリリアーヌはマリーの道中の行きも帰りも同行しながら接触せず、皆からは直接見えないように隠密でずっとついていたのだった。それは出発前に湯浴みをして体臭を落とし、服を着こんだ状態で泥水をかぶって全身に土の匂いをつけるという念のいった気配の消しようでもあった。
「勝手にするさ。どうせギルドで会うことになるんだ」
ゲイルのその言葉を置いて、冒険者達はギルドの方角へ歩いていった。
一行が去り、ようやくリリアーヌは物陰から通りへと出た。
彼女は空腹による脱力を感じながら、歩き出す。この2日、食料も持たないでの隠密行動だったのだ。
彼女がまず向かったのは食事をするための酒場だった。
街の入り口から冒険者達の姿はすべていなくなる。
美少女マリーの小さな冒険はこうして終わったのだった。